ユーフォルビア 2024-10-14 02:31:34 |
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(彼が敵を引き付けている間に急いで立ち上がり、自由がきくようになった手で首飾りに触れ念願の愛杖を手にしては、体勢を整えながら現況把握に努める。天井まで高く積み上げられた木箱や樽、窓はなく、光源といえるものは机上に置かれたランタンの中の蝋燭の灯りのみ。広さはそこそこ。薄暗く、どこか湿っぽい匂い。場所は何処かの倉庫のようだった。そして彼が相手にしているのは複数人の、見るからに品のない男達。中には彼よりもふたまわりは大きい体格の者も居て、自分を連れ去ったのは恐らくその人間だろうと推察する。刹那、『ぐふっ…』とむせ出すような声が聞こえたかと思えば、彼の剣がその巨漢を捕らえていた。刺し貫かれた腹部からは鮮血が溢れてくる。口端からも血を一筋垂らし、あまりの痛みに苦悶の表情を浮かべた相手。膝は次第にくの字に折れ曲がっていき、そのうち力無く床に膝頭をつけるとそのまま前のめりにバタリと倒れてしまった。目の前の衝撃的な出来事に思わずハッと息を飲む。しかし狼狽えている暇はない。仲間の1人が目の前で倒されたというのに、彼の挑発にまんまと煽られた輩達は白旗をあげるどころか焼けになって立ち向かってくる……やらなければやられる状況だった。判断を仰ごうとふと彼の方を見ると彼も此方を見ていたようで目が合った。あとは好きにすればいい、とでも言いたげな碧色の双眸。直後、樽の水を敵集団にぶち撒けたのを見て瞬時に対泥戦で使ったユフィの氷結魔法を意図しての行動だろうと理解した。生かすも殺すもユフィ次第、というわけである。大胆且つ手慣れた犯行の手口から、彼らはこれまでにも何人もの被害者を攫ってきたに違いなく、その下劣な行為は到底許されることではない。けれど。……意を決したユフィは杖の先で石造りの床をトンと突いた。───…水を浴びせられ怯んでいた集団の足元に紫色の魔法陣が展開される。『っ、なんだこれ!?』『くそ、なんか急に眠くなっ…て…』唐突に彼らを襲う睡魔。1人、また1人と眠気に抗えなくなりその場で崩れ落ちていく。氷結魔法は対人相手となると更に加減が難しく、命を奪ってしまう可能性があった。いくら悪党といえども命を奪うことには抵抗があったユフィは、《範囲内にいる対象を眠らせる魔法》を使うことにしたのだった。)
(全員が深い眠りについたのを確認すると、先程負傷した巨漢には少しだけ傷を癒やす魔法を施してやり。次いで鞄の中から小瓶を取り出して蓋を開け、中に入っていた種を輩の身体に振りかける。すると水分を得た種はみるみるうちに頑強な蔓へと急成長し、眠りこける犯人達の全身をきつく縛りあげた。迷いの森の中で見つけた面白植物《ネジクレヅル》の種がここに来て役立つとは。あとはこの国の法がこの不届き者達を裁くだろう。……甘い判断なのかもしれないがこれが精一杯。そうして片を付けると、ユフィなりの後始末を見守ってくれていた彼の元へと杖を握り締めたまま歩み寄り、申し訳なさそうに頭を下げて)
あの、助けに来てくださってありがとうございました。……それと、すみません。約束の時間に遅れてしまったことと、面倒事に巻き込んでしまったこと。
悪党を相手にも情けをかけるか……優しいお嬢さんだねえ
(直接被害を被った彼女が悪党どもにどのような裁きを下すのか、興味深そうに見守っていれば彼女の放った魔力は彼等をたちまち昏倒させてしまって。集団に纏めて効果を及ぼすその手腕に舌を巻きつつ、見ればどうやら命に関わる類のものではないらしい、倒れた悪漢たちは皆一様に寝息を立てているのがわかり。しかも、放っておけば間違いなくそのまま絶命してしまったであろう重傷を負った男性の治療までしてしまった。ここにいる者全員何かしらの罪を問われることにはなるだろうが、それほど重い物にはならない事が予想され、大して罰せられなければ改心もおそらくはしないだろう。暗部に触れ生きてきた自分であれば顔を一度でも見られた以上後に禍根を残す可能性のあるこんな手段はとらないが、それを甘いと評するのではなくあくまでも彼女の優しさであると肯定したことから相当自分が彼女の思考に影響されている事を自覚させられる「顔をあげたまえ。……今回はお嬢さんは何も悪くないのだろう?不運な事故に巻き込まれたようなものだ、最後はお嬢さんなりに自分で始末をつけたのだから俺からは何も言うことはないよ。さあ、少々遅くなったが飯にしよう、腹が減っているだろう?」眼前で頭を下げる彼女、剣を納めて一つ息を吐いて肩を竦めると徐に頭へと手をポンと置いて。今回の相手は卑劣な手段を講じる事で有名な人攫いの一団、自身の言いつけを守っていたとしても攫われる可能性も十分に考えられた。実際のところはどうなのか真実は自分には知るよしもないが無事に済んだのだからむしろ執拗にその事を追及することの方が面倒だと、全面的に彼女を信じることにして気にしないように伝え、こんな陰気な場所からはとっとと退散し、腹ごしらえしようと促して)
……初めてお会いしたのがレグルス様で良かったです。
(頭の上に手の重みを感じると、ゆっくり顔を上げて彼を見る。先程敵に向けていた冷酷無情な表情とは一変して穏やかな雰囲気の彼は、ユフィが大遅刻をしたことも、面倒事に巻き込んだことについても一切咎めることなく、寧ろ励ましてくれた。───生まれて初めて向けられた他者の“悪意”。レグルス様や今日訪ねた宿の主人達のように、種族の異なる自分に対して親切に接してくれる人間もいればそうでない者もいるという、この世界における当たり前の現実を思い知らされた出来事だった。だからこそ彼のような人物に出会えたのは奇跡だったのだと身に沁みて思う。悪党に対してどうケジメをつけるのが正解だったのか、外の世界をあまりにも知らなさ過ぎるユフィには未だ分からないけれど、目の前の彼は自分の浅はかな行動を信じて受け入れてくれた。だからきっと、今はこれで良かったのだと思うことにして。「はい、こんなにお腹が空いたのは初めてかもしれません。」一先ず難は過ぎたので気を取り直そうとにっこり微笑み、彼の提案に賛成する。それから杖を首飾りの形状に戻すと、眠りこける人攫い集団をその場に残して倉庫を後にした。……《ネジクレヅル》の捕縛により身動きが取れないままの悪党共が見回りに来た警備兵に発見されるのは、これから3日後のお話。)
───レグルス様のおすすめのお店に行きたいです。
(ずっと麻袋で視界を覆われていた為に気が付かなかったが、倉庫を出ると辺りは既に暗くなっていた。そして見覚えのない狭い路地を通り、漸く元来た大通りに戻ってくると、等間隔に設置されている街灯が周囲を明るく照らしているのが見えてほっと息をつく。まだ宿が見つかっていないことはさておいて先ずは腹拵えと、大通り沿いに立ち並ぶ店を隈なくチェックしつつ、シュノークを知る彼におすすめの店舗はないか尋ねてみて)
ああわかった、お嬢さんの趣味に合うかはわからんが俺のとっておきの店へと案内しよう
(薄暗い路地裏から一転、街頭に明るく照らされた大通り、暗闇に慣れた目が軽く刺激されるような感覚に目を瞬かせれば、オススメの店を尋ねてくる彼女の方へチラリ目線をやって。顎先に手を当てほんの一瞬考えるような仕草、そういうことならあそこしかないと一つ頷くと、決して万人受けするような場所ではないがと言外に匂わせつつ大通りを歩き出して。自分たちが入ってきた正面の門からは真反対の大通りの一番端、大通りからほんの少し外れて路地に入ってすぐのところにある、一見すれば民家のようにしか見えない建物の扉を開け放ち中へ。中の装飾はいずれも少しばかり古臭さを感じさせるもの、明かりは薄ぼんやり灯されているばかり。木製の丸いテーブルが三つとそれぞれに椅子が4組、それから一際目を引く長いバーカウンター、その中には青く長い髪を一つに纏めたツリ目の美女が立っており、それがここのマスターであろうことを示している『あら、いらっしゃいレグルス。あなたが女の子を連れているなんて珍しいじゃない、どこでそんないいとこのお嬢さんを捕まえてきたのよ』「やれやれ、ここでは誰もが互いに余計な詮索をしないのがマナーだろう?それとも、お前さんの過去を肴に一杯やるかね?瞬紅のロザミーネ」常連である自分へと親しげに話しかけてくる青髪の女性ロザミーネの興味はやはり傍らのユフィへ向いたようで探りを入れてくるのを軽口叩きつつ牽制すれば退屈そうにしながらも女性は引き下がり「腹が減っているんだ、お任せで何か適当に見繕ってくれ。……お嬢さん、苦手なものはあるかね?」カウンター上にあるメニューには目を通さずロザミーネへとお任せで料理のオーダーをしつつ、彼女へと一応好き嫌いがあるか確かめるよう問いかけ)
(ユフィの願いを快く聞き届けてくれた彼。果たしてどんなお店に連れて行ってくれるのだろうかと心を躍らせつつ、また“あんな目”に遭わないようにと念の為頭からすっぽりとローブのフードを被って特徴的な耳を隠すと、無意識のうちに安心感を覚えている彼との距離を詰めながら歩き出して。一連の出来事があった為か、これまで人を疑うことを知らなかったユフィにも多少危機感というものが芽生えたようだった。───人々の賑やかな笑い声が外まで漏れている大衆居酒屋、元気な看板娘目当ての客が集う定食屋など美味しそうな匂いの漂う店の前を次々と通り過ぎ、辿り着いた先は落ち着いた雰囲気の民家。…どう見ても民家。お店の看板らしきものも見当たらない。不思議に思っていると先に彼が中に入ったので、自分もフードを脱いで髪をささっと手櫛で整えてから店内?へ足を踏み入れた。)
(出迎えてくれたのは、はっきりとした顔立ちの色気溢れる綺麗な女性店主。ふと目が合ったので咄嗟に軽く会釈すると、にかっと笑って手を振ってくれた。それからレグルス様と自分とを交互に見比べたかと思えば、まるで面白いものでも見たとばかりの表情を浮かべ、興味津々といった様子で彼に話し掛けていて。互いに名前を呼び合ったり、お任せ注文をしたりと、何かと親密な雰囲気で会話をする2人の様子から、彼がわりと頻繁にこのお店に通う常連客であることが窺える。「ええと、特に苦手なものはありません。お気遣いありがとうございます。……あっ、このエルダーフラワーのハーブティーも一緒にお願いしたいのですが…。」此方の苦手なものにまで配慮してくれる紳士的な彼に好き嫌いはないことを伝えた後、ちらりと視界に入った小さなドリンクメニュー表の中にユフィの好きなハーブティーの名前が並んでいるのを見付けると、ロザミーネと呼ばれる女性店主に追加でお願いして)
さ、座るとしよう。……あんなんでも悪いやつではないし腕は確かなんだがね
(追加での注文を投げかける彼女へとロザミーネは振り返り、こちらが連れて歩くには改めて身なりが良すぎること、そして人外である事を示すような三角形の耳などの要素に興味が惹かれている様子、しかし既に釘を刺されてしまったためこれ以上の深入りを許されないことに僅かばかり名残惜しそうにしていたが、すぐに気を取り直し『わかったわ、好きな席に座って待っていてちょうだい』と片目閉じウインクしながらそう言い残しカウンターの奥にある厨房へ。ここの常連である自分はああいった対応にも慣れたものだが、初対面の人間からすれば若干馴れ馴れしくクセの強い店主、本人に悪気はなく、ああいった部分を除けば料理などの腕前においても信頼のおける人物なんだがと一応のフォローを入れるも、あの雰囲気の中で一切の物怖じすることなく咄嗟のオーダーを通した彼女の図太さというべきかマイペース具合に大物感すら感じて、自身の擁護はむしろ蛇足、その必要もなかったかもしれないなとそんなことを考えながらカウンター正面の一番端の席へと腰をおろし、彼女にはその隣への着席を促して)
お二人はとても仲がよろしいのですね。…ロザミーネ様のお話、もう少し聞きたかったです。
(厨房へと向かった彼女の背中を見届けてから、促されるまま彼の隣の席へそっと腰をおろす。人の過去を詮索するのは良くないことだと思いつつも、先程の2人の、互いを信頼しているからこそ出来る昔馴染みならではの掛け合いがあまりにも面白かったので、その様子をもう少しばかり眺めていたかったとぽつりと漏らして。女性店主の気取らない性格や、古めかしいながらも手入れの行き届いた店内に流れる穏やかな空気感…初来店のユフィでさえ心地良く感じるのだから、仕事(しかも“あの”泥関係)で常に気を張っていそうなレグルス様にとって、此処は気の許せる居心地の良い場所に違いない。そんなとっておきの場所を選んで連れてきてくれたということは、自分をお友達として認めてくれたと考えてもいいのだろうか。───厨房の方から何かを調理している音が時折聴こえてくるだけで、基本的には静かな店内。今のところ自分達以外の客も居ない。隣の彼に聞きたいことや話したいことはいろいろあるけれど、まず気になったのは彼の仕事のこと。ユフィと合流したということは当然一仕事終えた後なのだろうが、あれからどうなって、これからどうするのか、無関係な自分に教えてくれるかどうかはさておき、そこから聞いてみようと控え目な声量で話を切り出して)
ときにレグルス様、お仕事の方はどうでしたか? また次の調査に向かわれたりするのでしょうか。
はは、そりゃ物好きだねえ、そんな呑気なことはアイツの『瞬紅』の本性を知れば……
(座席に腰を落ち着け、古ぼけた木製の椅子の背もたれに身を預ければ、ギィ……と小さく軋む音、傍の彼女が真っ先に触れたのはここのマスターであるロザミーネのこと、自分と親しげに話す様子からロザミーネへの興味は俄然深まったのだろうことは容易に想像できて。人を疑うということを知らない純粋でお人好しな彼女のこと、もっと言葉を交わし自分も親睦を深めたかったといったところか、ここまでの付き合いで多少は理解したつもりの彼女の思考についてそう当りを付けては、むしろ深入りしなくて正解だと話題の中心である当の本人がこの場に居ないのをいい事に、その本性を示す通り名を意味深に口にしていよいよ核心に触れようかという瞬間『先に飲み物をどうぞ、可愛らしいお嬢さん……あなたたちの楽しそうな話し声よく聞こえてるわよ?私も後で混ぜてくれないかしら?』カウンター奥の厨房から、料理よりも先に彼女が注文したエルダーフラワーのハーブティーを運んできたロザミーネはそれを彼女の前に置き、ニコリと女性的な慈愛に満ちた表情で笑いかけ、続けてこちらへと笑顔で語りかけてきて、しかし同じ笑顔の筈なのだが彼女に向けたものとは明らかに異なっていて、具体的には顔は笑っているのに目が笑っておらず余計な事を話すなよという圧がひしひしと伝わってくればそれに完全に屈して閉口して、そうして沈黙した此方の反応を見届けたロザミーネは再び奥へと引っ込んでいって、藪を突いて蛇を出すとはまさにこのこと、触らぬ神に祟り無し……そんな言葉を改めて肝に銘じながら気を取り直し、再び彼女が振ってきた話題に乗っかり『あー……そのことなんだがねぇ、仕事はこれっきりにする事にしたんだ。まあ……方向性の違いってとこかねえ。それでだ、お嬢さんに一つ相談なんだが……』詳しい事情などは適当に濁して伏せながらも、今の稼業については足を洗うつもりであること、そしてその件に関連して彼女へと改めて相談があること伝え、真正面から向き直り)
?
(どこか含みのある彼の話しぶり。知りたがりなユフィが食い付かないわけがなく、彼女の二つ名の由来について興味深そうに耳を傾けてはその後に続く言葉を待ち。しかしタイミング良く話題に挙がっている張本人が戻ってきた途端、なんとなく気まずそうに彼が口を噤んだ。彼と彼女を交互に見遣る。ロザミーネ様の本性とは一体…。核心部分はついぞ聞きそびれたもののそれ以上追及はせず、ユフィの興味は目の前にそっと置かれたほんのり湯気のたつ白磁のティーカップへと移っていった。ハーブティーの上にはちょこんとレモンバームの葉が浮かんでいる。実家の書物庫に籠もって読書に耽る際、お供としてよく飲んでいたものと同じ香り。「! ありがとうございます。ぜひ一緒にお話したいです。」重ねた年齢だけでいえば、恐らくこの場にいる誰よりもユフィが一番年長者なのだろうが、人間は他種族と比べて短命な分成熟スピードが早い。その為ユフィには無い大人の色気が彼女にはあった。…思わず見惚れてしまうほどの美貌の持ち主。きっとロザミーネ様が現れると紅を差すが如くその場が瞬く間にぱっと華やぐ、という意味から『瞬紅』の二つ名を付けられたのだろうと一人合点しては、自分への対応とレグルス様へ向ける眼差しとの差に全く気が付かないまま、雑談に加わりたいという彼女に無邪気な返答をしたのだった。───彼女が厨房へ戻っていった後、彼から唐突に退職した旨を伝えられると驚きのあまり目をまん丸にして、「えっ」と小さく声を上げた。もしかして自分のせいで…?! と一瞬焦ったが、どうやらそうではないらしい。すると彼が改まった様子で此方の方に向き直ったので、此方もすぐさま彼の方に体を向ける。それから背筋をすっと伸ばし、両の手は重ねて膝の上へ置き、話を聞く体勢を整えて)
ご、ご相談……ですか?
ああ、と言っても別にあまり身構えないで欲しいんだが……お嬢さんはオーランツへ行く予定なのだろう?その旅路に俺を案内役兼護衛として同行させてはもらえんかね?
(真正面から向き合う形になり居住まいを正す彼女、確かに今後の旅路にも関係するそれなりに重要な相談ではあるのだが、内容自体は至ってシンプルでありそれに対する返答もあくまで彼女の自由、あまり身構えないよう前置きをし、頭をガリガリ掻くと単刀直入に自身をこの先のオーランツへの旅路に同行させて貰えないかと願い出て「知っての通り俺の仕事は色々と訳ありでね、ここには残り辛い……かと言って俺は元々他に行き場もない根無草だ、俺もその地上の楽園とやらが本当に名前に偽りの無い土地か見極めてみようかと思ってね」行き場もなく素性も定かではない自身がここに滞在を許されていたのは、所謂裏での仕事を請け負うことで、このシュノークに利するため行動をしていたからであり、そのことによる優遇が受けられなくなればここでの生活における後ろ盾はなくなり、このままでは自分の立場が悪くなるは明白、仕事を辞めると決めた以上は一刻も早くこんな場所からは離れたいところだがなんのアテもなく放浪するよりはと、彼女の目指す地上の楽園と呼ばれる土地を当面の目的地と定めることにしたと、自身がそういった思考に至った経緯を正直に話し、一通りこちらからの要望を伝え終え「どうかね?」と首を傾げその反応を窺い)
!! それは願ってもないお話です…! レグルス様が一緒に来てくださるなんて、これほど心強いことはありません。私の方からもぜひお願いします!
(実家では父親か使用人か、はたまた懐っこいモンスターくらいしか話し相手が居なかった為に、誰かから相談を受けるなんてことは初めてで少し緊張していたが、全く思いも寄らない申し出を耳にした瞬間ぱあっと瞳を輝かせると、嬉しさのあまりやや前のめりになりながら食い気味に反応を示して。…腕っぷしが強く頼りになるレグルス様が一緒に来てくれたら百人力、いや千人力だ。今日1日だけで彼の存在にどれだけ救われたことか。経験が浅く世事に疎い上、好奇心からつい寄り道ばかりしてしまうユフィが一人でオーランツを目指すとなると、この先何百年かかるか分からない。本人にも多少その自覚はあった。その為、彼のお仕事事情はどうあれこの有難すぎる申し出を断るはずもなく、道案内と護衛を買って出てくれた彼の同行を二つ返事で受け入れることにして。───「~~…あのっ、私もレグルス様にご相談したいことがあるのですが…!」一呼吸おいて、彼の目を真っ直ぐ見つめたまま此方からも話を切り出す。オーランツを目指す旅の予定を立てる前に相談しておきたいこと。…なんとなく頼みづらいけれど、今を逃すともう言い出せない気がして。)
そうか、それじゃあ今日から俺とお前さんは一連托生って訳だ、よろしく頼むよ"ユフィ"
(何となく彼女の性格上断られる事はないような気はしていたが、改めて本人の口から色良い返事得られれば満足げに口角を上げ微笑むと、これまではあくまでも行きずりの一見の相手、自身の立場上もあまり他者に必要以上の愛着を持たぬよう意識的に名前を呼ばずにいたのだが、この先共に旅をする仲間として長い付き合いになるのなら話は別で、初めて親しみを込めて彼女がそのように呼んで欲しいと名乗った愛称を呼んで。そうしてるうちに出来上がった料理を乗っけた皿を片手に2皿ずつ器用に持ってきたロザミーネがそれらをカウンターの自分たちの前に並べれば、待ってましたとばかりに早速皿の上の肉を油で揚げた料理を一つ行儀悪く指先でつまんで口へと運びハフハフと頬張っていると、話しは纏まった筈だがまだ何か言い足りないことがあったのか何やら思い詰めたようにも見える表情でこちらを見つめ、珍しく歯切れの悪い様子の彼女に、口の中のものをゴクンと飲み込めば顔を向けて「ん?どうかしたかね?金の相談ならあまりアテにはしないでくれたまえ、当面食べていく分ぐらいは捻出出来そうだが、そこまで蓄えがある訳でもないんでね」もしや路銀についての相談だろうかと勝手に予測し、確かに一人旅と違い単純にかかる費用も倍、金銭の工面にはより気をつかうことになるだろう。勿論蓄えは全て持ち出すつもりではいるが、思えば仕事の内容に対する金払いもそこまで良くなく、住居には困らなかったもののそこまで生活に余裕があった訳ではないため、その面ではあまり力にはなれなさそうだと先回りして伝え、必要であれば旅先で依頼を受けたり収入を得る算段も立てておかなければなと頭の片隅で考え)
……! はい。不束者ですがこちらこそよろしくお願い致します、レグルス様!
(!! もしかしたら名前を覚えられていないのでは…? と不安に思っていたけれど、別にそういうわけではなかったらしい。初めて名前で呼ばれると、ちょっと驚いたような顔をして。その後すぐ、にへっと表情を崩しては此方からも改めて挨拶を返す。言葉の使い時がややおかしいことには気付かずに───)
私が今相談したいのはお金のことではなくて……
(ユフィの父親は自身の愛娘が望むものならば何でも用意した。(とはいえ本しか頼んだことはなかったが)そのため生まれてこの方実際にお金を使う機会をあまり与えられてこなかったユフィには、この旅路でどれくらいの費用が必要になるのか今ひとつ想像がつかなかった。そこで家出前に忍び込んだのは実家の地下にある宝物庫。長年誰も手を付けず、放ったらかしになっていた宝石やら装飾類やらを巾着袋がいっぱいになるまで適当に詰め込んで、[ごめんなさい。ちょっと持っていきます。ユフィ]とだけ書いた羊皮紙を宝物庫に残し持ち出したのだった。これらの品物にどれ程の価値があるかは分からないが、売ればそれなりにはなるだろうし、当分の間はお金に困らないはず。しかしそれも限りがある。今後旅をする上で持ち金が少なくなってきた際にはまた彼に相談しなければならないだろうが、差し当たり特に問題視はしていないので、彼の見当をやんわり否定してから言葉を続けて。「実はレグルス様と別れた後、今晩泊まる宿を探したんですけど何処も満室らしくて…。先ほど、迷惑になるからとお断りしたばかりで本当に申し訳ないのですが、…泊めていただけないでしょうか。」魔法使いの試験だか何だかで各地から大勢が集まっている以上、恐らく他の宿も満室の可能性が高い。一度提案を断ったにも関わらず再度頼むのは忍びなく思うけれど、背に腹は代えられないと恐る恐る尋ね)
おっ!?おお……それは構わんが……
(捉えかた次第では意味深な関係を示すような少しズレた言葉のチョイス、そんなセリフを表情綻ばせながらこちらへ向けてくる彼女に思わず動揺し、彼女の性格上単に天然が炸裂しただけで特に他意はないのだろうと頭ではそれとなく理解しつつも少しばかり頓狂な声をあげてしまい。普段女っ気のない己が珍しく女性連れで訪れたと思えば見た目は年下にしか見えないたった一人の少女の言葉に翻弄され、振り回されている自身の姿が物珍しく可笑しくて仕方ないのだろう、カウンターの隅で後から入ってきた客の対応をしているロザミーネが含み笑いをチラリと送ってくるのを、少しズレた眼鏡のポジションを正して恨めしそうに見返してから、続く彼女の言葉に耳を傾けて。改まった様子での相談事が今晩の宿のこととわかれば先程のセリフのことも相まって、先に泊まりの提案したのは自分ではあるが若干の歯切れの悪さはありつつも、そういう事情であればとぎこちなく頷く。しかしそれは傍から見れば自宅に彼女を連れ込もうとしたものの一度は断られたが、改めて彼女側から『YES』と意思を明確にされた形……本当に誤解しているのか、はたまた何となくの事情を察しながら面白がっているだけなのか、判断に困るロザミーネのニヤけ顔に深いため息吐きつつ頭を抱えて)
…やっぱりレグルス様はお優しいですね。ありがとうございます。お友達の、しかも男性のお宅にお邪魔するのは生まれて初めてのことなので緊張しますが、えっと…お手柔らかにお願いします…!
(家出を決行して3日。ここまで慣れない野宿でやり過ごし、さらにやっと訪れた大都市シュノークでも今晩泊まる宿が無いというアクシデントに見舞われたものの、現れた救世主のおかげで今夜は久し振りに屋内で眠れることになり心底ホッとした様子で。この長い1日で、彼がかなり信用出来る人物であることは身を持って理解したつもりだし、それに明日一緒にシュノークを発つのなら、旅仲間になった彼の近くに居る方が寧ろ好都合かもしれない。ただ過保護な父親にこのことが知られたら、大激怒の末に彼を八つ裂きにし兼ねないけれど。…彼と店主との間で無言のやり取りが行われているとも知らず、そして次なる言動が更なる誤解を生むとも思わず、ほんのり頬を染めながら恥ずかしそうに感謝の気持ちを伝えて。───宿泊場所も決まって安心したからか、お腹が空いていたことを思い出した。気付けばロザミーネ様お手製料理がカウンター上に並べられている。冷める前に食べようと改めて姿勢を正し、両手を組んで静かに目を閉じては家の風習である祈りを暫し捧げて。それからまずはハーブティーを頂こうと、上に浮かぶレモンバームの葉をティースプーンで掬ってソーサーの上に移動させてから、カップのハンドルを指で摘むようにして持ち上げ。リラックス効果のある香りを楽しみつつそっと一口…。「…おいしい。」ぽかぽかと全身に染み渡っていくのを感じて)
レグルス様のお家に着いたら、作戦会議をしないとですね。
……!あ、ああ、そうだ、旅のプランをしっかり立てないといけないねぇ。どこか立ち寄りたい場所なんかの計画も綿密に練るとしようじゃないか
(どんどん立場が悪くなっている自身の事など当然気づいてもいないのだろう、そんな己への彼女からの殺し文句……のようなもの、実際にはそんな色っぽい要素が皆無なのはわかりきっており、そろそろそういった相手ではない事に気づいても良さそうなものだがこんな面白い状況をやすやす見逃してくれるほど生易しい相手ではなく、口笛を吹いて茶化してくるロザミーネ。もう勝手にしてくれと、軽く目眩を覚えながら目頭を指先で揉んで。しかし、実際に家に着いた後にするべきは男女のそういった営みなどではなく、今後の旅の方針について話し合うことを伝えてくる彼女に助け舟を出された形になれば、日頃計画性とは無縁ないい加減な生活を送っているというのに、ここぞとばかりにわざとらしいぐらいに旅に向けた作戦会議に乗り気な様子を見せて『あら、レグルスここを離れるの?……まあ、それが正解ね、私に言わせればロクデナシよあいつら。いいわねぇ……私ももう少し若ければご一緒させて欲しかったのだけど……』先程までのおちゃらけた雰囲気から一転、シュノークを離れ旅に出ることを匂わせるこちらの会話ににロザミーネは真顔で詰め寄り割って入ってきて、遅かれ早かれこうなるべきだったと訳知り顔で語った彼女は、熱っぽい眼差しをこちらに向けてきていて。そんな目線を受けてバツが悪そうに目を逸らすと「願い下げだよ、お前さんと一緒だと命がいくつあっても足らんのでね」気まずそうに、それでいて彼女への信頼や共に乗り越えてきた死線、そういったものを想像させる余地を残し皮肉っぽく言葉を返し手をひらひら振って)
(ハーブティーで一息ついた後、2人のやり取りに耳を傾けながらも先程彼が美味しそうに頬張っていた料理に目を留める。…食欲をそそる匂い。これは何の肉を揚げたものだろう? メニューをちらりと見ると一覧の中に、“一番人気! コケッホ(※鶏型モンスター)揚げ”と記載されているのを発見。きっとこれだ。お任せオーダーだからオススメ料理を作ってくれたに違いない。そう人知れず予想を立てながら、香ばしい匂いに誘われるままフォークとナイフを手に持つと、小さな一口サイズに切ってからゆったりとした所作で口へ運ぶ。サクサクッとした食感の後にじゅわっと広がる旨み。あまりの美味しさに思わず表情が緩んでしまう。……ロザミーネ様が一緒に来てくだされば、この美味しい料理を何時でも食べられるのでは…? という我欲に走りまくった思考が一瞬脳裏を過り、[そんなこと仰らずに一緒に行きませんか?]とつい口をついて出そうになったが、その前に彼があっさり拒否したのを見て途中まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。よくよく考えてみればシュノークで既に立派な店を構えていることもあり、彼女の気にする年齢の問題以外の都合もある以上、自分たちと旅に出るのは難しいだろう。…諦める他なく、とてつもなく残念そうに肩を落とした。───それはそうと、この2人の関係性について気になるところで。熟年夫婦のような、それでいて姉弟のような、戦友のような、不思議な雰囲気。踏み込まない方が良いだろうかと悩んだのも束の間、旺盛すぎる好奇心は此処でも遺憾なく発揮され、カウンター奥の彼女と隣の彼とを交互に見やりながら控えめに質問を投げ掛けて)
……あの、ところでお二人はどういったご関係なのでしょうか…?
腐れ縁だよ。俺がここに腰を落ち着ける前は日銭を稼ぐため色々なことをやったんだが……その先で何かと一緒になることや、やり合うことが多かったんだ。何回か命を獲られそうになったこともあったかねぇ
(自身とロザミーネの関係について問われ、意外にもその関係において表面上は浮ついた事情など一切なかったことを示すように話し。しかしその一方で二人の関係について嘘はないが、互いに明言はした事はないものの憎からず想い合っていた……そんな時期があったのも事実、ついぞお互いに決定的な一言を伝える機会がないまま今日まで来てしまったが、なにぶんなあなあで過ごしてきた時期が長過ぎた、複雑な心境が見え隠れしているが今更改めて踏み込んだ関係になる気はなく割り切った関係で、と考えているのは彼女も一緒だろう、必要以上に場の空気が重くならないように本当に命を狙われた事もあるとおどけてみせると『あら、それに関しては恨みっこ無しのはずよ?あくまでもビジネスなんだから、騙し騙され、奪い奪われは常でしょう?私だけを悪者みたいに話すのはやめて欲しいわね』此方の意図をなんとなく察したのだろう、憎まれ口を叩き言い返してきたロザミーネはユフィの方を見て、彼女に変に誤解をされたらどうするのだと言わんばかりに深いため息を吐き)
……お二人ともとてもお似合いだと思うのですが…。それにしても、あれほど腕のたつレグルス様を追い詰めるだなんて、ロザミーネ様もかなりお強いのですね。
(傍らでのんびり料理を食べつつ、冗談を言い合う2人の様子を眺める。恋愛経験のないユフィに男女の機微は分からないけれど、彼らの間になんとなくいい感じの雰囲気が漂っているのは感じていたし、傍から見ても美男美女でお似合いだと思っていた。しかし言外の意味まで汲み取ることは出来ず、2人のいう腐れ縁だったりビジネスだったりという言葉通りの意味に捉えては、彼らがそういう関係性でないことを心底勿体なく不思議に思いながら率直な感想を溢して)
───まだ話足りませんが、明日も早いのでそろそろお暇しようかと。…どのお料理もとっても美味しかったです。他にもいろいろとタメになることを教えてくださりありがとうございました…!
(そのあとも話は盛り上がり、経験豊富且つ情報通のロザミーネ様は旅支度を整えるのにおすすめのお店や魔導書店の場所を教えてくれただけでなく、美容の秘訣や駄目な男性の見抜き方?など様々な話をしてくれた。ユフィはユフィで、とりあえずの目的地としてオーランツを目指していることや父親が過保護過ぎるあまり3日前まで外出したことがなかったという話、レグルス様と何処で出会ったのかという話を包み隠さずにしたのだった。こうして美味しい食事を楽しみながら、時折接客の合間を縫って話し相手になってくれる話上手な店主とガールズトークに花を咲かせていると、あっという間に時間が過ぎていった。気付けばユフィ達の後に入店したはずの客数名も食事を終えたようで帰り支度を始めている。居心地が良くてつい長居してしまったが、自分達もぼちぼち引き上げないと。名残惜しく思いながらも席を立つと、改めて彼女にお礼を伝えて。「それから、お代はいくらでしょうか。」続けて食事代を支払おうと鞄の中の革財布(これまで使う機会がなかったお小遣いが多少入っている)を探りつつ店主に金額の確認をして)
(軽く食事を済ませて立ち去るつもりが旅立ち前の軽い送別会のような形となり、盛り上がりをみせるが宴もたけなわ、そろそろお開きにしなければ明日に支障が出ると考え席を立てば、代金を支払おうと彼女の鞄から取り出された上等そうな革財布を見やり、育ちの良さそうなのは見てくれだけでなくやはりどこかのお偉いさんのところの娘か……そんなことを考えつつも支払いをしてくれるというなら好都合と顛末を見守ることにしたのだが『あら、いけないわ。こういう時、女性の方から財布を出させる男なんてロクな男じゃないんだから。レグルス……貴方まだ、支払い終えてないツケがあったわよね?それ全部と今日の飲食代、合わせてちゃんと支払いなさい。……もっとも、貴方のことだから纏まったお金の持ち合わせなんてないんでしょうから旅が終わってからでもいいわ、だから……必ずまた生きて顔を出しなさい、いいわね?』どうやら甘えは許されないらしい、確かにここを拠点として当面過ごす予定だった自分には、そのうちそのうちと考えながら溜めに溜め込んだツケがあり、その弱みを突かれると弱い。しかしながら、ツケの支払いそのものは口実に過ぎず二人の旅の無事を祈るロザミーネなりの餞別の言葉であることは考えるまでもなく理解できて、最後まで彼女には頭が上がらないなと顔を伏せて「くく……」と苦笑浮かべ「やれやれ…俺とて男の端くれ、そこまで言われちゃ仕方がないねえ。必ずまた『二人で』来るよ、その時は今日よりもっと盛大に宴でもしようじゃないか、勿論俺の支払いでね」ゆっくり顔をあげて隣のユフィを一瞥、無事再会を願う意図を読み切って二人でという部分を強調し、別れを惜しみつつも男気を見せて返答して退店し。「さて、戻るとするかね。俺の拠点は路地裏にある、はぐれずついてきたまえ」店を出てから自分の自宅がわりとして与えられた拠点を目指し歩き出す、危険があるから足を踏み入れぬようにと彼女に忠告した路地裏へと躊躇いもなく足を踏み入れると、離れずついてくるようにその姿を視界の端に捉えつつ改めて言い聞かせて)
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