ネガティブ 2024-08-12 19:24:43 |
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だ、大丈夫…?
(気持ち悪さを我慢する彼を見ていると胸がいたんだ。思わず彼の手を握ってしまう。彼の容態を見ていると視界がぼやけてきた。ああ、また涙が──ダメだダメだ。ちゃんと聞きたいことを聞かなければ。彼の手を離すと医者の方に向き直って、その目を見つめる)
あの…彼は本当に大丈夫なんでしょうか…?最近では体調が良くなることも無く、悪化するばかりで…。"戦局必ずしも好転せず"と言った具合です。
あ、あの先生…。彼はなにか危険な状態なんでしょうか。お願いです。できることは全部やってあげてください…検査でも手術でも何でも…。費用は何とかしますから…
(最近の自分は自身の言葉で興奮するタチのようだ。彼の容態を問い質し陳情をしている間、目に涙が浮かんでくる。医師の白衣をやや強めに掴んで目を見ながら訴えかける。自分の言葉に嘘はない。彼に検査や手術に費用が必要なら自分のポケットマネーはもちろん、例え借金をしてでも資金をかき集めてやる。自分の生活を投げ打ってでも全てを彼の救命に捧げてやる。自分にできることは"その程度"のことしかない。何も彼にしてあげられない分、自分はたとえ苦境に陥ってでも彼を助けてやらねばならない。それが自分の義務だと信じている)
だいじょーぶ…んっ…ほら、タオルも敷いて貰ったし…?はぁ、…っう…だいじょーぶ、だから…
(本当は十分に吐けない所為で気を失いそうなくらいしんどいし、先程からは熱が出そうな気配も感じていたが、目の前で涙ぐむ彼を見ていてはそんな事は口に出せなかった。胃から上がって来た胃液は口元や喉元でストップする事なく『うぇ』と短いえづきと共にタオルに吐き出されていき、それによって徐々にタオルが汚れていく感覚にまた気持ち悪さを誘発され、生理的な涙が幾つも枕に溢れていく)
…ぅえ…けほ…っ…また、そんな事を…
(彼の医者に対する必死な訴えには、呆れた様に呟き眉間に更に皺を寄せる。恐らく上記の自分の呟きは彼には聞こえていないだろうが、彼は数年前自分に怒られた事を忘れてしまったのだろうか。『水月が苦しくなるくらいなら、自分がこの世からいなくなって構わない』そう過去に彼は言ったが、それはただの狂言だ。自分はそんな自己犠牲的な彼の考え方が何より気に入らなかった。勿論自分は周りの助けなしに生きられない身体で、時には心身ともに弱り立ち直れなくなってしまう事もあり、彼にも何度か助けて貰った。でもそんな彼の助けだって、自分がやり過ぎだと思ったらちゃんと断ってきたのに。悶々とそんな事を考えていると、とても興奮している彼に医者が話している事として、病院側も出来る事は全て施していて今後もサポートの内容は変わらないという事、後は自分の回復力に賭けるしか無いという事が解った。それは誰よりも自分が解っているので数回頷きながら聞いていて、これで少しでも彼が落ち着いてくれれば、と淡い期待も抱いていて)
で、では…回復力を高める為には何をすればいいのですか…?なにか解決策があるはずですよね…? あなたなら知ってるはずでしょう?
(医師の説明を聞いても尚食い下がる。彼の咎めるような視線が痛かったが、やめるつもりは無い。彼にとって有益な情報が聞き出せるまで何度だって何時間だって医師を問い質す。焦りからかいつもより言葉の言い方に棘があることは自覚しているが、そんなこと構っていられなかった。医師にしつこく質問をしながらふと以前の大喧嘩の時のことを思い出した。『水月が苦しくなるくらいなら、自分がこの世からいなくなって構わない』と自分は言った。するとそれまで温和に話を聞いていた筈の彼が激昂したのだ。どうしてそんなことを言うのか。どうして自分を否定するのか。今まで見たことがないくらいに怒った彼に自分も意地になって食い下がったが結局は謝罪をして宥め、何とかその場は収まった。あの時から時は経つが、自分は未だに彼があんなに怒った理由が分からない。どう考えても自分の方が彼よりも価値がない。健康しか取り柄がないような人間なのだから。でもきっと彼はそう思っていないのだろう。先の自分の発言にもきっと良い気はしなかっただろうが、自分の中での事実を言っただけだ。もしまた怒られるのなら、今度こそ彼に如何に彼の方が皆から好かれて価値がある人間なのかを納得してもらうだけのことだ)
(医者に諭されても尚勢いが無くならない彼を虚な目で見ていると、猛烈な吐気と共に今まで息を潜めていたものが一気に自分の口から吐き出された。容器を取る間もなくぶち撒けられた吐物はタオルから大半が零れ、床に跳ねた。医者がすぐさまそれに気が付き自分の身体を少し起こすと、背中を摩りながらナースコールを押した。あぁ、またか。また自分は、大事な時に彼に言葉をかけられない。こんなにも彼は不安で、自分の為に怒るぐらい心配してくれているのに。そうして不安の影が大きな黒い渦となって自分の中に生まれ始めた頃、大量のタオルと、自分の着替え、消毒薬と吐物処理セットを持って使い捨てのエプロン等に身を包み病室に入って来た看護師2人が、『苦しかったですね、大丈夫ですよ』等と口々に自分に声をかけ、嫌な顔一つせず片付けをしてくれる。涙、吐物、汗で顔がぐちゃぐちゃになり、かつて無いくらい自分が弱っているのを見て彼は一体何を思うのだろうか。きっとまた、彼より自分の方が価値のある人間だとか好かれているだとか考えているのだろう。例えそれで自分が誰かより好かれていても、価値があると認められても自分は嬉しくない。そんな事より自分の治療の為に彼が割こうとしている時間やお金をもっと別の事に費やせば、それこそこの世界の、少なくとも彼の為になる。どうしてそんな簡単な事に気が付かないのだろうか?答えは決まっている。彼はきっと、自分の事しか見えていないのだ。俺の事大好きかよ!と心の中でセルフ突っ込みを入れると、十分吐いたのもあってか少し気持ちと身体が楽になった。処理が終わり部屋を出ていく看護師達を見送り、今度は少しはっきりとした目で彼を見て)
れい?見て、俺は大丈夫だから、少し落ち着きな?
み、水月…!
(医師の応答を待っていると堰を切ったように彼が嘔吐した。自分に相対していた筈の医師はすぐに彼を介助した。自分も彼の傍に駆け付けようとしたが、すぐに看護師たちが病室に入ってきたため、遠巻きに眺めるしかなかった。また、これだ。別に自分は医師免許を持っている訳でも、看護の資格を持っている訳でも、体系的な医学知識がある訳でもない。だからこういう場面でできることは何も無いことはよく分かっている。だが、やはり彼の危機には自分がいなければならないからという使命感が、それを許さない。故に無力感を感じる。思えば、自分が過剰に犠牲を払わなくてはと思うのはその反動なのだろうか。彼は大丈夫なのだろうか。気が気でなかったがしばらくしたら看護師たちは退出し、そして彼は先程までの不調が幾分かマシになったのか、明瞭な声と目で自分を見据え注意をする)
で、でも…。……変なことを聞いてすみませんでした。お仕事に戻ってください…。
(他でもない彼に宥められては自分も引き下がるより他ない。医師に謝罪をして深々と頭を下げると、医師を病室から退出させる。病室に再び二人きりになると、ため息をついて椅子に腰掛ける。彼に注意されたのが気まずくて、しばらく沈黙していたがまるで母親に言い訳をする子供のようにぽつりと呟く)
俺は自分のしてることが間違ってると思ったことはないから…水月の為になることなら、何でも正しいはずだから…。
(自分がひと言伝えるとまた少し冷静になったらしい彼は、静かに椅子に座り直した。やっぱり彼の事を止められるのは自分しかいない、そう思う反面その原因を作っているのは紛れも無く自分だと毎回嫌でも自覚させられる。しかし自分が誰にも何もして貰わなくても生きられる位丈夫な身体だったのなら、あの時彼には出会わずに一生他人のままだっただろう。そう考えるとぞっとする。こんなにも自分を思ってくれて、ある意味ぞっこん?な相手など今となっては家族以外にやっぱり思い付かない。そんな関係を彼との間に作ってくれた神には感謝すべきだとスケールのでかい話にひとり笑いそうになっていると彼の呟きが聞こえた。『自分のしてることが間違ってると思ったことはない』、『水月の為になることなら、何でも正しいはず』?それは少し、お門違いな考えでは無いのだろうか。確かに彼の行動自体は正しくて、実際自分も過去に何度も救われた。だがそれには程度というものが存在不可欠で、どんなに良いものだと謳われた代物でも程度を守れなければそれはいずれ自分に害を為すものへと様変わりしていくのだ。そう、正に病院で処方された薬の過剰摂取が身体に悪影響を及ぼす様に。きっと彼には、その辺りを考える力に欠けている。その事をどうにか伝えたいがどうすれば棘のない言い方になるかを考え、ひとつ呼吸をおいて口を開いた)
…確かに、俺もそう思う時はあるわ。でも、正しいからって、自分は間違っていないからって突き進んだら、その内に他の事が悪くなっている事には気づき辛くなるんだ…そう考えたら、怖くはないか?…大丈夫、俺は今ちゃんと零のお陰で生きてるし、助けられてるから…
そ、そうだけど…。で、でも…水月が居なくなっちゃうことより悪いことなんて起こらないよ。俺は水月が死ななかったら後はどうでもいい。
(彼の言葉を聴きながら察した。この幼馴染は程度を間違えるなと言いたいのだ。要は自分がしていることが過剰だと。自分のしていることが彼にとって過剰だなんて思いもしなかったので、少なからず動揺する。だがそれがどうしたとも思う。確かに自分は極度のネガティヴ思考
??自分としては至って普通の思考なのだが??で何かというと過剰に反応してしまうきらいはある。だが今までは全てそれで事が回ってきた。自分の中での最悪の結果は免れているし、好転こそしないが暗転もしてしない。暗転しなければそれは正しいということなのではないだろうか。そういう考えだから彼の言っていることは理解はできるが共感はできない。それでも彼の言葉に応えるように自分の私見を上記のように述べ、こう続ける)
俺は水月の害になるようなものは無くしたい。そうすればストレスもなくなって体調が好転するかもしれないでしょう? その為には他のものが悪くなったとしても良い。全部、どうでもいいし無くなっても構わないものだろうから。
…うーん…そうだよな…零は、そう言うよなぁ…
(彼の言葉を聞いて察した。自分は、彼を止められる存在なんかじゃ無い。先程の自分の思考を撤回する様に溜息を付くと、上記を呟き。少しだけ胸の辺りに苦しさを感じたのでゆっくりと摩りながら、目を閉じる。もうどうしたら彼を説得出来るかという事よりも、どうしたら彼の思考に順応できるかと考えている自分がいる事にはポジティブ思考の流石な部分を感じてしまう。その後に続けられた彼の言葉には『水月の害になるようなものは無くしたい』と聞かれて、自分は彼にとんでもない重荷を背負わせているのではと考え始める。彼は自分以外、見えていない。その事に対する恐怖感がじわじわと自分の胸を締め付けていく。違う。彼のせいじゃ無い。彼は悪くないんだ。その言葉は発せられないまま、呼吸が荒くなり咳が止まらなくなっていく。これまでなら発作は昼頃が1番起きにくかったのだが、今の自分の呼吸器官は時間軸を失ってしまった様で、どんどん苦しくなり手の震えも止まらなくなっていった。どうせ体調を崩すなら彼の前で、とも思ったがこういう事を望んでいるのではない。このままではまた喀血してしまう。そうなる前に、と助けを求める一心で、彼を見た)
っ、ヒュー、ヒュー、ケホケホッ!ッ、ハァ、ハァ…、れい、…ッ…
(/すみません伏字になっている部分があるのですが、良ければ次のお返事で訂正して頂けないでしょうか?どうしても内容が気になってしまいまして…結局解らずに上記一先ず返信させて貰いましたが、不備等あればお伝え下さい!)
確かに自分は極度のネガティヴ思考
──自分としては至って普通の思考なのだが──で何かというと過剰に反応してしまうきらいはある。
(/ 伏字、気付きませんでした!ごめんなさい! 気になっているところ恐縮ですが、実はただの記号でして…いつもと違うものを入力してしまったので伏字になってしまったようです。伏字だった部分だけ抜粋しておきます。以後気をつけます!)
み、水月? どうしたの…?!
(続けて彼に納得してもらうための言葉を紡ごうと口を開いた時、違和感を覚えた。彼の呼吸が俄に荒くなったかと思いきや、すぐに咳が出始めたのだ。最初はただの咳だろうと思ったが止まることなく出続ける咳に流石におかしいと気付く。だがすぐには反応出来なかった。なぜ唐突にこんなことになったのか。胃痛や嘔吐ならば先程と同じ症状なので納得できるが、原因不明のしかも休むことなく出続ける咳に頭が真っ白になったからだった。いつもなら昼間は発作が起きにくいはずだったのだが。まさか自分のせいなのか。自分は何か彼の体調がおかしくなるようなことを言ってしまったのか。手の震えと咳とどんどん体調が悪くなる彼を見て足が竦む。実際は一瞬の間だったのだろうが自分にとってはとても長い時間に感じられた。やがてこちらに助けを求めるように絞り出された声と目を見て、金縛りが解けたように動き出す)
…ごめんね水月…。俺が変なこと言ったからだよね…もうあんなこと言わないから…落ち着いて……
(すぐにコールボタンを押して看護師が来るまでの間、彼の身体を抱いて背中を擦る。擦りながら自分でも無意識のうちに言葉が出ていた。なぜこんな言葉選びをしたのか分からなかったが、彼に落ち着いて欲しい一心だったことは間違いない。どうかこのまま何事もなく彼が落ち着いてくれますように。背を摩っている間ずっとそう祈り続けていた)
(/そうでしたか!全然大丈夫です!寧ろ訂正文の掲載までありがとうございます…こちらが色々と深く考え過ぎてしまった様で、逆にごめんなさい。余りお気になさらず!改めてよろしくお願い致します!)
っ、ゲホゲホ、ゲホぅえ、っ、吐きそ…
(声をかけられ、背中を摩られていると止まらない咳に誘発されて吐き気がしてきた。気持ち悪く胃液が上がってきているが、彼に前から抱き抱えられているので今吐いてしまえば彼にかかってしまう為何とか離れて貰おうと試みて。だが咳に体力を奪われていく一方で、一向に彼に自分の力は伝わらなかった。もう限界だ、と思った時に看護師が病室に入って来て自分と彼の身体をそっと離してくれた。そこで気が抜けて口を押さえていた手の隙間からえづきと共に胃液が吐き出される。そこからの展開は割と円滑で、先ずは吸入、それから汚れた箇所の掃除、着替えと順を追って進められていく作業を客観的に見ていると咳は少しずつ治り、喘鳴も小さくなっていった。だから恐らくとても心配しているであろう彼に、『ごめんなぁ、びっくりさせたな』といつも通り笑いかけたい。『零にかけなくて良かった』と冗談ぽく言ってやりたい。そうでもしないとまた、空気が重くなる。ーー自分はいかんせん、子供の頃から周りの空気に敏感だった。いつも自分の事で心配をかけてしまう両親が少しでも笑ってくれればと色々な事に気を遣いだしたのは小2の頃、丁度記録ノートを始めた時期だ。敢えて誰かの前では心配をかけさせまいと明るく振舞い、例え容体が悪化してもその後のフォローを怠ることは無かった。ーーそれなのに。今の自分には、その言葉を彼にかけてあげることすら叶わない。そうして気にかかるのは彼の言葉。『俺が変なことを言ったから』、と彼は確かにそう言った。どういう意図が真意は不確かだが、やはり彼には確実に“自分のした事で水月に傷ついて欲しくない”という考え方はある様で。その意図に応える様にまた、そっと口を開いて)
零が謝る必要はないって。零は、悪くなんてないだろ…?
(いつの間にか来ていた看護師に引き離される。すると彼が胃液を吐き出した。今日だけで何回嘔吐したのだろうか。苦しそうな彼とは裏腹に手際よく処置を進める看護師たちには尊敬しかないが、同時にまた自己嫌悪が広がっていた。きっと彼は嘔吐する前に何かしらのサインをしていたはずなのだ。看護師はそれに気が付いて、自分は気付くことが出来なかった。何年一緒にいるのだろう。別にエスパーになりたいとか読心術を身に付けたいとか、そんな大それた願望を持っている訳では無い。ただ、最低限彼のことを理解していたい。その中の一つが病状を理解することだった。自分は彼のことを知っているようでいて、全く知らないのかもしれない。もっと早く気付いていたら何かできたかもしれない。そんな後悔と自己嫌悪を抱きながら聴いた彼の慰めの言葉に、ゆるゆると首を振る)
悪いよ。これだけ長く一緒にいて何もできないんだから…。悪いに決まってる。
…水月。俺はね知ってるよ。水月の体調が悪くなるのは俺のせいだって。だってお前が体調を崩すのはいつも俺がお前を困らせた時だもん…。
(途中で自分の中の理性が忠告をしたようだったがもう遅かった。思っていることを言ってしまった。彼は自分のこういう発言にいつもいい顔をしない。だから今回も不機嫌にしてしまうかもしれない。蚊の鳴くような声のくせには言いたいことをはっきりと言ってしまった気持ち悪さと、彼に嫌味のようなことを言ってしまった後悔とで胸の中がぐちゃぐちゃになる。今日は厄日か何かなのだろうか)
(自分が発した言葉に対して、彼は首を横に振って『違う』という意思表示をした。そうして続けて、『自分の体調が悪くなるのは、彼が自分を困らせた時だ』と言った。咄嗟に、そうかも知れない、と言いかけて口を噤む。確かに自分は彼といる時に至極体調が崩れる事が多い。けれどそれは自分が気を許している相手の前だからで、気を遣わなくても良いと心から思っている証拠だ。どうせ苦しい思いをするのなら彼の前でが良いという思いも勿論あるが、それは誤解を招きそうで口にするのは憚られた。生活の中で他の誰に色々な事を言われてもほぼ影響は無いが、彼から言われるとずっと響く。それは知り合った頃から変わらなかった。自分の事を思って発してくれる言葉の数々に何度も考えさせられ、そして何度も救われた。だからやっぱり、彼には感謝しかない。悪いところがあるとするならば、やはり自分なのだ。何でもかんでも“上手い方向”に転換させて、良い事柄に捉えられる。自分の長所であり反面短所でもあるそれが、彼に為す影響が悪いもので、自分のせいで彼の他の事が疎かになってはいけないのだ。あくまで彼は幼馴染であっても所詮は他人。自分の都合に人様を巻き込むなと教え込まれた過去がまた、黒い影となって自分に襲いかかる。次第にそれは涙となって、自分の頬をいくつも、つたっていった)
…俺は、困ってない。いつもそうなのは、零…お前に助けて貰えると思ってるからだよ。…傍に居て欲しいと、思ってるからなんだよ…
水月…泣かないで。お前の気持ちはよく分かったから…
(やはり今日は厄日だ。自分の不用意な発言のせいで、彼を泣かせてしまった。彼が涙を見せるのはいつぶりだろうか。彼が泣いたところなど、これまで片手で数えられる程度しか見たことがない。自分はこれまで彼の様々な表情を見てきたが、怒りと悲しみの表情は滅多に見せなかった。その彼が今では自分の前で、自分がした発言のせいで、泣いている。そうだ。彼が自分を信頼してくれているのだ。だからこそ自分の前でだけ体調が悪くなるのだ。考えてみれば彼が他人の前で弱みを見せない。自分も前では何もかもをさらけ出すのに。それはやはり自分に全幅の信頼を置いてくれているのだ。そんなことにまで考えが至らなかった自分の思慮の浅さと彼に対する申し訳なさで、この期に及んでネガティブな言葉が出そうになるが、グッと堪えて彼の肩に手を置いて、努めて優しく言葉をかける)
俺のことを信じてくれてるんだもんね。お前は優しいね…ずっと傍にいるから。
ぅう~…っ、ぐす、っうぇ…
(慰められると余計に、涙が止まらなくなった。落ち着かなきゃ、と思えば思うほど雫の頬を伝う量は多くなり呼吸は激しくなっていった。次第にそれは咽せ返る様になり、また嗚咽が混じってきた。流石にこれ以上嘔吐するのはまずいので、鎮まれと願いながら何度も何度も胸を摩ってみる。他の人の前では気丈に振る舞おうとしている分、こういう場面での彼に対する甘え方には相当なものがあると自負していた。それはたとえ、あれから大人になっていたとしても変わらない。家族以外に外での依代を見つける事の出来なかった幼少期とは違い、彼という存在を完全に自分の一部として感じている今の自分はある意味人生の中で1番安定しているとも言えるし、反対に一つものものを支えとして生きている非常に不安定な状態とも言える。そしてそれを自覚してしまえば、一層自分は彼から離れられなくなっていくのだ。そうして優しく発せられた彼の言葉を聞けば、それに応える様に肩に置かれた手に自分の手を添え、泣き顔のまま笑顔を作り)
ん…そうだよ…俺も、ずっと傍に居たい…
(/すみません、背後です。募集要項に1週間お返事無しでリセットとあったので暫く待っていたのですが、流石に少し寂しくなってきたので上げさせて貰いました。今後もお返事待っていますので、是非またよろしくお願い致します!)
……ねえ。もし仮に。お前が俺の前からいなくなるとしたらどういう時?
(暫時は彼の泣きつつも尊い笑顔に心癒されていたが、ふと何も考えずに好奇心が口をついて質問をしてしまう。こんな質問はどうかと思った。だが折角だ。彼の本音を聞いておきたい。そう思って踏み込んだ質問をする。開き直って彼の本音を引き出そうとする。彼は自分を信じ全幅の信頼を置いてくれている。自分に何かしらの不満がありつつも、きっと傍に居続けてくれるだろう。だが物事に永遠はない。必ず制約がある。不老不死はありえない。人はいつか必ず命尽きるから。永遠の平和はありえない。人はいつか必ず争うから。永遠の繁栄はありえない。人はいつか必ず衰えるから。そういう永遠がこの世に存在しない以上、自分と彼の関係もまた終わる時がくる。それが寿命や想定外の訃報以外でないとしたら、自分たちの終わりとは一体どのような時なのだろう。自分から問うても彼は答えにくいかもしれない。だからまず先に自分の考えを述べる)
俺は…お前が拒否すればお前の前から姿を消す。有り得ないと思うかもしれないけど…。じゃあ水月はどう? どういう時に、俺がどういう事をしたら、お前は俺から離れる?
(/ 上げありがとうございます! ごめんなさい!言い訳にもなりませんが、最近多忙につき定期的なお返事が難しいです。もしその点にご不安や懸念がなければ今後も続けさせてください!)
え…?
(泣き声に嗚咽が混じり暫くして、唐突に投げられた彼からの言葉には間の抜けた反応をしてしまう。そんな事、正直言って考えた事すら無かった。自分の方から彼の傍を離れるなんてあり得ないと思っていた。でも改めて少し考えて、もしその可能性が有るならばと思い立った事がある。それは、自分に対して彼がどうと言うより、『自分が彼の行動をありがたいと思わなくなった時』だ、と。これまで子どもの頃からずっとーー勿論少しばかり嫌悪感を抱いてしまう事が無い訳では無かったがーー彼の行動にはいつも感謝がついて回っていた。自分の体調が悪くなれば、どんなに忙しくても予定が詰まっていても自分に会いに来てくれて世話をしてくれる事。自分の事を犠牲にしてまで傍に居ようとしてくれる事。その全てがありがたく、不謹慎だが彼が傍に居てくれるのなら自分の体がこのまま治らなければ良いのにと一時は真剣に考えていた。そうして続けられた彼の言葉の中には『お前が拒否すればお前の前から姿を消す』とあり、そこで自分は正気に戻った。ここははっきり自分の気持ちを伝えなければ。すっ、と息を吸い込んで口を開いた)
俺が零から離れる時は、零がどうこうより、自分が零の行動をありがたいと思わなくなった時だと思ってる。しんどい時に助けてくれるのを当たり前と思っちゃ、人はおしまい、だろ?
(/大丈夫です!お待ちしてましたぁ!こちらこそ待ちきれず上げてしまい厚かましくなかったかな、と不安でしたのでお返事くださってとても嬉しいです。今後も不定期になるかと思いますが、寂しくなったら背後から上げさせて貰おうと思いますので、その辺りご了承頂ければ、お相手様の来られる時に来て下さい。待っています!)
ありがたいと思わなくなった時…?でも…水月。俺は好きでやってるだけだよ。初めて会った時から…。
…でも感謝してくれているのなら嬉しい
(確かに彼の言うことは尤もだった。だが言われてみるまで気付かなかった。助けてもらうのが当たり前では無いと。自分はこれまでの人生で人に世話になったことはあまりない。彼とは違って健康そのものだから滅多に風邪だって引かないし、成績だってほとんど平均点周辺を取ってているから勉強で困ったこともない。変に覚えがいいから忘れ物だってしない。人に言われた前向きな言葉などはすぐに忘れてしまうが。だから彼の言っていることがあまりピンと来なかった。自分は初めて彼に会った時から何か運命的なものを感じていたし、自然と自分が彼の健康を案じてあの手この手を講じることは義務だと思っていたから。だが彼にとっては助けてもらうのは当たり前ではなかったのだ。彼はずっと自分に感謝してくれていたのだ。いままでそれをすっかり失念していた。別に彼が自分に感謝していないとは思っていなかったが、自分のネガティブ思考は視野狭窄を招くきらいがある。本当に久しぶりに、心の底から嬉しいという感情が浮き上がってきた。ふっと頬を緩めると、微笑みを浮かべたまま素直な気持ちを伝える)
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