名無しさん 2024-06-23 15:07:43 |
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( 膝の上に雪崩込んで来たかと思えば、こちらの顔を見上げて合掌するものだから思わず吹き出したように笑ってしまう。しかし、再度その優しい声と手に触れられると、言われた通りに視線を預けて動けなくなる。少し笑って過度な緊張が緩まってくれたらしく、先程より落ち着いて小気味よく流れる鼓動の音に耳をすませながら、真っ直ぐ、目の前にある綺麗な顔を見つめることが出来た。ゆっくりと近付いてくる様を見蕩れたように眺めていると、いよいよ自分も瞼を閉じる。唇に触れていた彼の指に口内を暴かれると、吐息混じりに小さく声がもれる。ぬるりとした温かな感触は初めてのもので、彼が優しく優しく触れるものだから、此方もそれに応えようと一生懸命に追いかけては絡ませる。
唇が離れるのと同時にゆっくり目を開けると、此方を見下ろす彼と再度目が合う。いつ押し倒されたのかなんて定かではなくて、それほどまでに夢中になっていのかと思うとそんな自分が恥ずかしい。しかし、唇が離れてしまうのが寂しいと感じてしまったのも事実で、首を傾げてねだるかわいい恋人の首元にぎゅうと両腕を回すと、返事の代わりにちゅ、と小さく音を鳴らして唇を重ねる。)
──下手くそやけど、文句言わんでな…?
( 何度も可愛らしい音を立てながら口付けを交わしあと、先程彼がしてくれたように小さく口を開けて深く深く口付けていく。もっとしてほしくなる、なんて食事の準備をしている時にも言ったけれど、あれは紛れもない本心で、その証拠に今だってもっと、もっとと欲しがっている。他の誰でもない彼のことがもっとほしい。そんなことを回らない頭の中で考えながら、混じり合う吐息の中に溺れていく。首に巻きついていた腕を少し動かして、彼の後頭部にそっと手を添え、柔らかい髪の毛を撫でてから首筋へと這わせていく。これは、酒に酔うよりも非常にタチが悪いし、一度はまったら抜け出せなくなる。自分は案外、快楽にめっぽう弱いのかもしれない。途絶え途絶えに息を吐きながら、「大好きやで、」と蕩けたような声を絞り出した。)
(/ イチャイチャタイムが楽しすぎるのですが…!これ以上いくと規約に違反してしまうことになりそうなので…(クッッッ)
良きところでぜひぜひ事後へ飛ばしちゃってくださいな…!)
( 吹っ切れて積極的になった陽斗さんは罪深い。少し距離を縮めただけで真っ赤になっていた彼が、自ら顔を寄せて深く口づけてくれる。凄まじいギャップにくらくらしそうだ。互いの唾液で濡れてしまった彼の口元を指で拭うと「ベッド行きましょうか」なんて決まり文句を。心臓は今にも爆発しそうなほど高鳴っているが、ちゃんと格好つけられているだろうか。年下だからって舐められたくない。しっかりと彼をリードしたい。その一心で、彼の手を引いて寝室へと連れ込む。彼をベッドに押し倒してからの記憶は曖昧だ。格好悪い部分も見せたかもしれないし、がっつきすぎて引かれたかもしれない。それでも不器用ながら、精一杯の愛情を分かち合った。 )
───陽斗さん、おはようございます…。起きてますか……?
( 翌朝。男2人で寝転んでもさほど窮屈ではないベッドの上で目覚める。眼前には愛しい彼の後頭部が見えて、寝ぼけたまま抱きついては頸にキスを落とす。職業柄、痕を残すのは絶対に許されないので軽く触れるだけ。昨晩から唇を酷使しすぎて少しひりひりと痛む気がするが、それは幸せの証拠でもあった。本当、夢のようだ。一目惚れした瞬間の僕には想像もつかないような未来を、今生きている。しっかりと、彼はここにいる。それを強く確かめるようにぎゅうと彼の体を包み込む。未だ夢見心地で、口をついて出た言葉は天然混じりのうわ言だった )
……ぼく、ちゃんと生きてますよね。幸せすぎて天国にいるんじゃないかって…思って……
( / 陽斗さん可愛すぎます最高です泣きそうです(限界オタク)イチャイチャタイム止まらなくなりそうだったので一旦暗転して朝チュンの形にさせていただきました!大好きなお泊まりシチュを思う存分堪能させていただいて本当にありがとうございます(泣)
このあと朝ごはんを食べたりしてお泊まり編は〆になると思いますが、今後の展開について少し相談させてください!
雪山の賞レース出場と、美風と女性モデルの熱愛報道によるすれ違いを同時期の出来事として進めようかと思ったのですが、それだと陽斗さんのメンタルがぐちゃぐちゃになるのでは…?と懸念がありまして……。しかし仮に優勝した後に報道を知ったらそれこそ落差がすごくてさらに可哀想な感じに……といろいろ悩んでいまして、ぜひご意見を聞かせていただければと思います!
…んー……。生きとってもらわんと困るんやけど…。
( だんだんとはっきりしてきた意識の中で声が聞こえてくると、
ぎゅう、と抱きつかれたままゆっくりと相手の方へ体を向けて、その背に自分の腕をそっと添える。力を込めて抱きつき返したい気持ちはあるのだが、なんて言ったって全身の力が入らない。
我ながら情けない話なのだが、ベッドへと向かうところから気持ちがふわふわとしすぎてハッキリと覚えていない。…というのも、雰囲気に酔ったまま欲に順従に求めまくっていたのは何となく覚えているもので、今すぐにでも頭が沸騰しそうなぐらい恥ずかしい。事の激しさがどれほどのものだったのかなんて自身の腰の痛みが全てを物語っており、疲労も相まって身体はダルいが、この幸福感は何者にも変えがいものだ。
天然すぎるうわ言を言っていた恋人の顔をちらりと見上げると、昨夜の熱視線を思い出してすぐさま目を逸らし、その胸元に頭をぐりぐりと擦り付ける。)
…なんか、こんなゆっくり寝たんも久しぶりかもしれへん…
って、めっちゃ声ガサガサなっとるやんー…!
今日、仕事休みやなかったら大惨事やで。
( 昨夜の事を思い出してしまったことがバレたくなくて、照れ隠しの意味も込めて欠伸を1つ、伸びを1つすると上記を述べる。今日は1日オフを貰えたのでお泊まりを実行したのだが、心の底から休みで良かったと思う。)
(/いえいえ!こちらこそ、美風くんがイケメンすぎて…最高でした……。ありがとうございます!!
暗転&朝チュンも感謝致します!満身創痍になっている陽斗ですが、まぁ、自業自得ですね(?)
こちらとしては同時進行で問題は無いです!確かに、メンタルに来る回になりそうですが…、おそらく、熱愛報道に静かに怒り悲しむ陽斗が同等に美風くんのメンタルも喰ってしまうことになるのではと思うので、お互い様かな…と(汗)
その分、仲直りする際はたくさんラブラブしましょう!()
ちなみに、雪山が優勝するかどうかは私もまだ決めかねていて、展開を見ながら上位止まりか優勝か決めようと思います!
頑張れっ…雪山……!)
わ、大丈夫ですか…?なにか喉に良いもの持ってきますよ。陽斗さんは動けそうだったら起きてきてくださいね、絶対無理はせずに!
( ふと耳に入る声が随分と掠れていることに気付き、心配になり頭を撫でて。彼もまだ20代とはいえ、年下の僕に付き合わされてへとへとになってしまったようだ。無理をさせて申し訳ない気持ちもありつつ、よく眠れたようだし結果的には良かったのかなと納得して。とはいえ、喋りを生業とする彼の喉を潰してしまうなどもってのほか。ケアを施すのも僕の役目だと思い、なくなくベッドから起き上がると無理はせずにと念を押してから寝室を出て。洗顔と歯磨きを済ませ、昨晩のまま放置していたテーブルの上を片付けては、キッチンにて蜂蜜入りの白湯を作る。元より寝起きが悪いわけではないが、朝からここまでてきぱきと動けるのはきっと彼の前だからだろう。格好つけたがりは尚も健在だ。家に帰すまでがお泊まり、故にまだまだ甘やかしは続行中である。出来上がったものをマグカップに淹れて、両手に二つ持ったまま再び寝室に戻って )
体の方は大丈夫ですか?その、腰とか……湿布が欲しかったら言ってくださいね
( / 了解いたしました!では心苦しくもありますが同時進行でいきましょう…!甘々お泊まりからのシリアス展開、ギャップがすごくて今から少しわくわくしてきました(?)これを乗り越えたらさらに仲を深められそうですね。雪山、そして陽斗さんもがんばってー!!
( 自分のことを心配してかベッドから起き上がり部屋を後にする相手の背を見送ってから、暫くはそのまま横になっていたが、自分だけずっとベッドに転がっているのも申し訳がないので、ゆっくりゆっくりと身体を起こすとベッドの淵に腰掛けた。
マグカップを持って戻ってきた彼から其れを1つ受け取ると、「ありがとう」と礼を述べながら早速一口飲んで。優しい蜂蜜の甘さと共に喉の痛みも和らいでいきそうで、ほっと一息つくと相手も腰掛けるように隣をポンポンと叩いて促した。
どこまでも自分のことを気遣ってくれる彼は本当に自分に甘いなーなんて心の中で思いながらくすりと笑うと、少しづつではあるが甘やかされるのにも慣れてきたらしく、隣に座った彼の片手を引っ張ると、自身の腰に当てて身をぴたりと寄せ合った。)
湿布は大丈夫なんやけど、その代わり代わりにこうしといてや。みっちゃんの手暖かいから気持ちええねん。
( そうは言ってみるものの、やはり甘える度にどこか恥ずかしさはあって、耳が赤くなってしまいながらもう一度マグカップに口を付ける。
そうしていると、ふと、枕元に転がっていた自分の携帯から通知音がなり、手を伸ばして内容を確認してみる。どうやら明日の集合場所が変更になったとかでマネージャーからメッセージが来ていたらしい。仕事関連のメッセージをみると現実に引き戻されたような感覚になりながら、「あんな」と隣の彼へと優しく語りかけた。)
俺な、仕事はもちろん好きやけど、ずっと兄貴とか親を見返したいって気持ちが大きかったんよ。そやから、変に力が入ってたところもあったというか…。
でも、なんかな、今回の賞レースは家族のこととか関係なく純粋に頑張りたいって思うねん。そう思えんのもみっちゃんのおかげやな。
…暫くは一緒にゆっくりできへんかもやけど、俺もみっちゃんのこと応援してるからな。
( そう言うと、相手の方を見ながら少し照れたように笑いかける。真っ直ぐな好きをたくさん伝えてくれる相手に報いるように、自分は自分らしく、楽しみながら好きなお笑いを全うして挑みたいと改めて思った。自分のお笑いで彼が笑ってくれるなら、優勝して、彼が喜んでくれるなら、そう思うと心の底から頑張ろうと思えるし、そんな自分はなんて単純な奴なんだとも思う。
明日からはまた忙しい日常が戻ってくるが、落ち着いた頃にまた2人でのんびりできる日が今からでも待ち遠しい。)
( 誘導されて彼の隣に座ると、カップを持たない方の片手が彼の腰へと引っ張られるのをされるがまま目で追う。起き抜けにしては破壊力の高すぎる発言だな…と驚きながらも、こちらも寝起きがゆえに深く考えず彼の腰を労るように優しくさすって )
勝負事なので、楽しんでほしいっていうのは変かもしれませんけど……あんまり緊張する必要もないですよ。僕はユキさんのお笑いが大好きだから、勝っても負けても僕の中では雪山が1番です。
( 至極当然、という表情で得意げに、腰から背中に手を動かしてぽんぽんと叩く。みっちゃんのおかげなんて言われてしまえば、彼の力になれていると自信がついて。会えない期間も、より一層仕事を頑張ろうと意気込むことができる。充電を溜めるためにも、今はゆっくりと彼を独占できる時間を楽しんでいこう。彼にそっと寄りかかりながら、幸せなひとときを噛み締めた )
『───ねえ、あのウワサ聞いた?住岡美風が熱愛だって』
『え、相手は?』
『モデルのアリサらしいよ』
『へー、なんかお似合いだね』
( 通行人の話声を横目にタクシーへ乗り込む。キャップを目深に被り、震える手を組みながら重く溜息を吐いた。何かに怯えるように、身を縮めて自宅までの時間をやり過ごす。不意に恋人の顔を思い出しては、どうしようもない罪悪感に苛まれた。頭を悩ますのは、昨日発行された週刊誌のとある記事。先日雑誌の仕事で共演した"アリサ"という女性モデルとの熱愛報道が出てしまった。仕事を終え、スタジオを出たところを呼び止められてしつこく言い寄られるまではまだよかった、はっきりと断ればいいだけだったから。しかし影に隠れていたカメラには気付かず、角度が悪く上手い具合に密着しているふうに見える写真を激写されてしまった。グループの人気が上昇している大事な時期に、熱愛報道が出回るなんて最悪だ。責任は重い。どんな処分も甘んじて受け止める覚悟で、メンバーとマネージャーの前で頭を下げた。それでも彼らは、こんな事実無根の記事を信じるわけがないと暖かな視線を送ってくれた。しかし記事を目にしたファンに不安を与えたことに変わりはなく、しばらく世間は猜疑心を捨ててはくれないだろうと忠告を受けた。その証拠に、テレビ局ですれ違うスタッフさんや他の芸能人からも『あの件はどうなんだ』と興味深そうな視線を向けられる。SNSでも賛否両論の声が多く寄せられ、有る事無い事を好き勝手に書き込まれている。そして何より心に突き刺さるのは、恋人である彼への罪悪感。ついこの間泊まりに来た時、これから賞レースに向けて頑張るんだと言っていたばかりだ。それなのに僕がこんなことになって、きっと彼は心配するだろうし、誤解もあるだろう。彼の邪魔だけはしたくなかったのに。ひとり寂しい部屋に帰ると、ジャケットすらも脱がずにベッドにダイブした。ふと彼の匂いがした気がして、思わず涙がこぼれた )
( / キリが良さそうなので、熱愛報道が出回った直後に場面転換してみました!長くなってしまいすみません…。女性モデルもこちらで勝手に名付けてしまいましたが、お互い自由に動かせる舞台装置としてその他の設定を盛り込んでいただいてもかまいません!
( ──予選まであと数日。舞台の仕事をしながらも合間にテレビ撮影をこなしつつ順調に賞レースへの準備も進めていた時。ヤマちゃんが何だか複雑そうな顔をしながら週刊誌を渡してきた。世に出回っている情報はネタになる時もあるし、逆に偶然ネタと情報が類似すると炎上する場合もあるしでニュースや週刊誌の情報はたまにチェックしている。
変な顔をしている相方になんやねん、なんて言いながらページをめくっていると、よく知る人物が目に映りぴたりと動きをとめた。大々的に書かれた『 大人気アイドル、モデルと熱愛か』の文字をゆっくり読むと、ショック、というより心配が勝った。写真に映る彼の表情は角度的によく見えないが女性と密着しているように見える。だが、自分だってこの業界で生きている人間だ、週刊誌の記事を鵜呑みにするほど馬鹿ではない。
それに、人気絶頂のアイドルは週刊誌が張っている事も多いだろうし、彼がモデルとお付き合いしているなんて有り得ない。だって、彼は自分と付き合っているのだから。…彼は、こんなことをする人ではないはずだ。きっと、記事がでて不安で大変な想いをしているに違いない。
相方には彼と付き合っていることは言っていないが、多分、長年一緒にいる勘ってやつもあり、薄々気付いている。だからそんなに心配そうな顔をしているんだろう。「…大丈夫やから」なんて、小さく言えば、次の収録の時間となり週刊誌を閉じる。鼓動が嫌に速くなるのを感じたまま、それを無視するように楽屋を後にした。)
「 ──あ、ユキさんですよね?初めましてー!
あの、美風くんがとっても面白いって言ってたので、舞台の映像見ました!すごい笑っちゃって!私もファンになりそうですー! 」
( 仕事の合間に彼へ連絡を取ろうかと思っていたのに、スケジュールが詰め詰めなのもあり全く連絡する時間はなく、なんだか焦った気持ちのまま、相方より一足先に次の撮影に向けてテレビ局内を歩いていた。すると、ふいに背後から声を掛けられ振り向くと、そこに居たのは彼と週刊誌に載っていたモデルで、ズキリと胸が痛む。
廊下の真ん中で可愛らしい笑顔で話しかけて来る彼女になんとか平然とした態度を保ちながら礼を言うが、彼の事を親しそうに下の名前で呼ぶ彼女は、なんだか此方の様子を伺っているようにも見えて…胸の中のざわめきがどんどんどんどん大きくなっていく。
思わず苦笑いをしてしまった自分をみて、彼女は何かに気付いたように手を口元に添えるとなんだか恥ずかしそうに言葉を続けた。)
「 …あ、もしかして、週刊誌見ちゃいました?
まさか撮られちゃうなんて思ってなくて…あの時は、ただ食事に行こうって話をしてただけなんです。局ではプライベートの事をあんまり話さないでって彼はいつも注意してくれてたのに、私がつい……」
(/ 場面転換ありがとうございます!!
早速、此方も勝手にモデルを動かして2人を対面させましたが、ロル回しにくかったらすみません…;
熱愛編もまたよろしくお願いします!!)
( 単独での仕事を終え、テレビ局の廊下を歩く。メンバーがいない現場では孤立感が強まり、精神をすり減らしながらもなんとか取り繕って精一杯仕事に集中していた。しかし、そろそろ限界を迎えそうだ。視線の先に陽斗さんらしき背中が見えた時、いよいよ幻覚を見たのかと自分を疑った。目を凝らして、しっかり実在していると確かめた直後、彼の近くにもう1人の人影を見つける。それは自分自身と熱愛報道が出ているモデルで、どうして陽斗さんと話しているのか、理解が追いつかない。ただ分かるのは、他に誰が見ているかも分からない状況で、このまま割って入るのは賢明ではないということ。物陰に隠れて、冷や汗で湿った額を拭う。陽斗さんには合わせる顔がないし、彼女とのエンカウントは避けたい。それでも、何故潔白な自分がこそこそと気を回さなければいけないのかと、次第に腹が立ってきて。勢いのまま、彼らの前に飛び出して )
……あっ!こ、こんにちはー。お久しぶりです、は…ユキさん。それと…アリサさんも。
( ぎこちなく偶然を装い、視線は床を向いたまま声をかけた。まずい、何を話すか決めていなかった。何を話しても間違う気がした。気まずいまま次の言葉を言い淀んでいると、アリサさんが先陣を切って「美風くん!週刊誌の件はご迷惑をかけて本当にごめんなさい…」とやや大袈裟に表情を歪めて頭を下げた。何も言えず立ちすくむ。続けて「私、すごく責任を感じてたの…しばらく会えなくて寂しかったし、美風くんに嫌われるんじゃないかと思って……」と、悲痛な声をあげながらすり寄るようにそっとボディタッチをしてきた。謝りたいのか近づきたいのか、ちぐはぐな言動に困惑する。人に対して真っ向から嫌いだなんて言えない弱みにつけ込まれているような気がした )
……あの、僕、このままほとぼりが冷めるのを待つだけで本当にいいのかなって思うんです。ちゃんと否定しないと、アリサさんだってご迷惑じゃ───
「ううん、私はいいんだよ。むしろ無理して否定した方が怪しまれるんじゃない?ね、ユキさん」
( 肩に置かれた手を避けさせると、彼女の眉間にシワが寄ったように見えて背筋が凍る。しかし一瞬のうちに不自然なほどパッと表情が晴れて、あろうことか陽斗さんに話を振りだした。彼女からすれば、今回の件に陽斗さんは無関係のはず。ちょうどこの場に居合わせたから、という理由なのかもしれないが、隠し続けていた僕らの関係を衝かれたような感覚がして、密かに恐怖を感じた )
( / なかなか良い性格()してる悪役を動かすのってちょっと楽しいですよね。アリサさんには存分に場を掻き乱してもらいましょう…(苦笑)熱愛編、波乱の予感ですがこちらこそよろしくお願いします!
( 流石はモデルとでも言うべきか、自分と同じぐらいの高身長にスラットした体型、その綺麗な顔つきは人気なのが頷けるほど。…しかし、こうして話してみるとなんだか圧を感じて非常に居心地が悪い。テレビの画面越しに観た時はこんなこと感じなかったのに。
対応に困っていると、聞き馴染んだ声が背後から聞こえてきて思わず握っていた拳に力が入る。ぎこちない挨拶には「久しぶりやな」なんて他愛もなく返すが、此方も目を合わせることは出来ず、へらりと笑顔を作るだけで精一杯だった。彼を前にして分かりやすく声音を変える彼女の様子に呆然としながら、くっ付き合う両者を前に乾いた愛想笑いしかできず。そして、突然会話の矛先を向けられたかと思えば、うーん、と腕を組み考えるフリをする。“コイツは俺のなんでさっさと否定してもらっていいですか”なんて、私欲を丸出しにするほど子供でもないし、かといって優しくアドバイスできるほど大人でもない。結局のところ、「
…いやぁ、僕がとやかく言えることではないんちゃいますー?」なんて、当たり障りのない事を言いながら目を逸らすことしかできなかった。2人が並んでいる前で上手く笑うことかできなくて、多分、凄く、情けない顔をしていたかもしれない。)
『あれ、ユキー!何してんねん!スタッフさんが探してるらしいで!はよ行くぞ!』
…お、おぅ。
すんません、アリサさんに、…住岡くん、次の収録があるんで先に失礼します!それじゃ。
( この場から逃げてやろうかと思ったその時、2人の後ろから駆け足で相方がやってきて此方の腕をぐいと引いた。相方はすれ違いざまにちらりと2人に目をやって「あ、こんにちはー!」なんていつも通りのんびりと挨拶をしていたが、恐らくこの状況がよろしくないと概ね自分を引き剥がしに来てくれたのだろう。
相方の言葉に慌てて頷きながら申し訳なさそうに2人に言葉をかけたが、結局、大好きなはずの恋人とは一度も目を合わせることが出来ず、久しぶりによそよそしい呼び方をしてしまった。
1番辛いの他でもない彼なのに…最悪な態度をとってしまった自分が情けなくて、ぎゅうと痛む胸を抑えながら、相方に続いて足早に廊下を去っていった。)
( かつて、彼にならどう呼ばれても嬉しいなんて考えていた自分がひどく健気に思えた。今の僕は、下の名前だったり、似つかわしくない愛称で呼ばれることに慣れすぎていた。名字で呼ばれただけ、それだけで疎外感を覚えてしまう。ヤマさんに連れられて行った姿を見つめながら、心がぼろぼろに荒んでいくのを実感した。彼との心の距離が開いていく。どうにかしたいと思うのに、隣でほくそ笑む彼女を跳ね除けることもできず、ただ顔に影を落とした )
……僕も、失礼します
( 「あ、ちょっと!」と呼び止める声が聞こえたが、無視して踵を返す。事務所同士の兼ね合いもあって、きっと記事について言及するのは難しいんだろう。最近では歌やダンス、MCも上達してきて、所詮は顔だけと叩かれることも減ってきた。努力が認められてきたのだろう。熱愛報道が出たとしても、僕を信じて応援してくれる人達はたくさんいる。世間の興味は移ろっていくもので、このまま自然鎮火するのを待つしかない。彼女は、その間に僕との距離を縮めようと企んでいるようだ。身に覚えがない言動を捏造して、ありもしない関係を匂わせてマウントを取る厄介な人。好きでもなんでもない人間からの好意でも受け入れていた過去の自分はもういない。今の僕の人生には陽斗さんという軸があって、彼に見放されることだけが何よりも耐え難い。いっそのこと、僕の恋人は陽斗さんだって言ってしまえば……そんなこと出来るはずがないのに、今は非現実的な思考に溺れるしかなかった。───雪山の賞レース出場を賭けた予選当日。お互い煮え切らないまま大事な局面を迎えることになり、心配する資格もないくせに彼のことばかり考えていた。自分なんかが連絡してもいいのか、迷いはあった。しかし、どうしても言葉を届けたくて、一言だけメッセージを送った )
『頑張って。応援してます。』
(──予選当日。派手なスーツに身を包み、緊張して冷えきった指先でスマホ画面に表示されたメッセージを開いた。あの日から、彼に会うどころかこうしたメッセージすら途絶えてしまって、ひたすら忙しさに身を任せて己の感情に背を向けていた。
世間では彼の熱愛に関しての話題が薄れていく一方だが、ファンの一部の間ではまだ様々な意見が飛び交っていた。ショックが癒えない人が大勢いる中で、肯定的な意見を述べているものも少なくなくて、あの2人がお似合いだと賞賛する声も知っている。そりゃ、自分の推しの隣にあんな綺麗な人がいたら認めざるおえないし、どうせ付き合うなら同じようなキラキラとした人であって欲しいと思うのは自然なことだろう。─並びあったあの2人がとてもお似合いだと思ったのは、自分も同じだったから。
“ ありがとう ”と一度打った文字を静かに消去して、全身鏡に目をやる。柔らかな曲線も、長く艶やかな髪も、可憐で可愛らしい顔も、何も持ち合わせていない自分が映っている。)
……ヤマちゃん、いこか。
( 視線をずらし、軽くストレッチをしていた相方に向けて小さく声をかける。「よし!ぶちかましたろ!」と明るくいつもの調子を崩さない相方にほっと安堵したように笑いかけると、肩を組み合い、余計なことは考えないように深く息を吸って予選の会場へと向かって行った。)
──
「 美風ー!雪山さん、予選通過したって!さっき結果でてた!ヤマさんにお祝いメッセージ送ったら“決勝も楽しみにしときー!”だって。予選のネタも見たかったなー!…」
( 予選が終わって数日後、メンバーがいる楽屋に入るやいなや、黄色担当─竹内は熱愛が出てすっかり元気を無くしていたリーダーの横に座りニコニコと話し掛けた。彼の大好きなお笑いコンビの話題だったし、自分も実は趣味が合ってヤマさんと仲良くさせてもらっており伝えてみたが、彼の反応を見るに「……ユキさんからは、連絡来てないの?」と心配そうに優しい声音で尋ねてみる。ユキさんと仲良くなってからそれはそれは嬉しそうで仕事も頑張っていた彼だが、熱愛が出た時期と雪山さんの賞レースが重なってしまい、あまり連絡が取れていないようだった。楽屋にいる他のメンバーも此方の様子を伺いつつ、それぞれ、大丈夫かな、という目線でアイコンタクトを取る。リーダーの事が心配なのは全員同じのようだ。)
……え、そっか、よかった…。
…うん。連絡はないけど、忙しいだろうし仕方ないよ。
( あの後、数日経っても彼からの返信はなく、やはり愛想を尽かされたのだろうかと気が滅入るばかりの毎日を送っていた。楽屋で出演者アンケートに向き合おうにも、身が入らず片手でペンを回しながら放心していた。すると、メンバーの1人であるタケくんが隣に座るや否やにっこりと笑って。彼から朗報を聞けば、顔を上げて一瞬明るい表情を見せたものの、ユキさんの話題になればまた俯いて。既読はついたが以降返信はなく、口では仕方ないと言うものの、無視されている現状には相当心を挫かれている。ふとメンバー達の視線が気になって、力なく笑いかけて。「みんな、なんでそんなに心配そうな顔してんの…僕なんてユキさんからすればただのファンでしかないんだから、わざわざ連絡なんてするわけないって」自分に言い聞かせるように、そっと呟く。まるでユキさんと共演する前、芸人とファンでしかなかった関係に戻ったみたいだ。メンバーにまで余計な気を遣わせて、まったく情けないリーダーだ。これ以上心配をかける訳にはいかない。勢いをつけて立ち上がると、重い空気を断ち切るように快活な調子で声をあげて。空元気かもしれないが、これが僕にできる精一杯だった )
……いろいろ心配かけてごめんね。仕事は絶対手を抜かないから、裏でちょっと暗い顔してても見逃してほしい!全然、僕は大丈夫だから。
( ただのファンだと言うけれど、ヤマさんから聞いた限り、2人は大分仲良くしていたみたいだったのに…、そうは思うものの、大丈夫だと言い張るリーダーにこれ以上余計なことは言えず、彼の言葉に 分かったよ、とまた優しく微笑んで頷けば、背中をぽんぽんと叩いてやった。)
────
──
「じゃあ、今日のとこ修正頼んだで!俺もあの間んとこ考えとくわ!」
…ん、また明日合わせよなー。
( マネージャーの車に乗ったまま窓から顔を出し言葉をかける相方へ、はいはい、と手を振りながらその姿を見送った。先程仕事が終わりすっかり日も落ちた時間になり、コンビ揃ってマネージャーに途中まで送って貰っていたものの、買い物しなければ行けないことを思い出し、気分転換に散歩がてらブラブラしようと適当な所へ降ろして貰うことにしたのだ。
予選を無事通過し、喜ぶ暇もなく本戦の準備に勤しんであっという間に日数が経った。あくまで目標は優勝、ゆえに日に日にネタ合わせの時間は長くなり、緊張感も増してくる。今日話し合った修正箇所について頭の中でぐるぐると考えながら、流石に疲れが溜まってきているのか無意識に溜息がこぼれる。
…彼とも随分連絡を取っていない。何度もメッセージを送ろうとしたのだが、その度にあらぬ事を考えてしまい作成したメッセージを消去しての繰り返し。彼女と並んでいる姿を見てから、日に日に募る劣等感や罪悪感に苛まれていた。あれからもあのモデルと現場で鉢合わせることが数回あったが、その度、俺は芸人で、男で、そんな俺が彼を独占していいはずがない、と考えてしまう。そして、そんな事を考える自分が更に嫌になって、また堂々巡り。
彼のことを思う度にぎゅうと痛くなる胸を無視しながら、携帯を取り出そうとカバンの中に手を入れ、ふと、カバンに入っていたカード状のものへと手が触れ取り出した。
それは賞レース当日の関係者席への招待状だった。日付と賞レースの名前が書いてあり、『雪山 関係者 』と無駄にオシャレに印字されている。これを持っていけば関係者席へ案内されるというもので、誰か招待したい人がいるなら、とマネージャーからそれぞれ渡されていたのだが…、 絶対に当日は見に行く、と眩しい笑顔を向けてくれていた彼を自分は今無視し続け傷つけている、それなのに、そんな自分が一体どの面を提げてこれを渡せば良いというのか…。)
……あ、…。
( そんな事を考えながら歩いていると、見覚えのある建物が目に入り、立ち止まる。そういえば、家、ここら辺やったな、とぼんやり見つめる先には彼のマンション。
──勝手に郵便ポストに入れとこかな、あ、でもポストもオートロックの向こう側か。そもそも忙しいし来れるわけないやん。俺なんかの為に…。
またも薄暗い感情が心の中に雪崩込んできて、被っていた帽子を目深に被り直すと、熱くなっていく目頭を拭って踵を返そうとしていた。)
( グループでの仕事が終わり、単独の仕事に向かうというメンバーを見送った後、予定がない数人で揃って食事をした。別れ際『俺らも週刊誌に撮られないように気をつけて帰ろうぜー』などと冗談半分で言い出すやつもいて、恥ずかしくって慌てて止めたが、早くもネタに昇華されているのはありがたくもあった。彼らなりに重く考える必要はないと教えてくれているんだろう。仲間達に支えられて、幾分か楽観的になれた。陽斗さんのことを考えれば、またちくりと胸を刺す痛みがあるものの、今は一生懸命仕事に向き合うしかない。その為にも休める時にしっかり休まなくては。解散して足早に帰路につくと、暗がりの中にぽつんと立つ人の姿を見つけて。その背格好と酷似している人物が頭に浮かんで、いやまさか、と疑いながら距離を縮める。帽子のせいで見えづらいが、ちらりと顔を覗くと、確かにその人はずっと会いたかった彼だった )
陽斗さん?陽斗さんだ…!どうしてここに……あっ、あの!予選通過おめでとうございます!
( 久しぶりに対面して舞い上がってしまい、気まずいまま別れたことも忘れて話しかける。そしてお互い変装しているとはいえ、また良からぬ写真を撮られたら大変だと思い「とりあえず、あっちで話しましょう」とマンションのエントランスへ手を引いていく。さすがに家の中まで連れて行く考えには至らなかった。まだ彼の本意を掴めていないから。外では暗くて気が付かなかったが、彼の瞳が少し潤んでいるように見えて、パッと手を離す。やっぱり、僕と話すのは嫌だったかな。できるだけ普段通りでいるつもりが、なんだかこちらも泣きそうになって視線を逸らしながら )
本戦の日も近いですよね。ちょうど休みがもらえそうなので見に行きたいなー、なんて…。……あはは、ごめんなさい、僕が言っていいことじゃなかったですね。
……ぁ、いや、近くのスーパー寄ろかな思ってて。ついでに散歩してただけや。
( 背後から声がするとぴくりと肩を揺らし、久しぶりに見る彼の姿に一層瞳が潤んだ気がしたが、バレたくなくて直ぐに顔を逸らしてしまった。彼は明るく楽しそうに言葉をくれるのに、目も合わせられない自分がとても恥ずかしい。予選通過の祝福をしてもらえば「ありがとう」と返すものの、どこか気まずさは払拭できず。そのままエントランスまで手を引かれると、伝わってくる彼の体温に甘えたくなって仕方がないのに、上記以上は言葉が出なくて、よそよそしい自分の態度に相手の優しい温もりもすぐに離れていってしまった。ちらりと彼の表情を見ると、自分と同じように目を逸らし、悲しげな表情を押し潰しているように見えた。
そんなことをさせたい訳じゃないのに…自分のせいで…と、手にしていた招待状を渡すよりも先に、「ごめん…」と小さく呟いた。)
──…ちゃうねん。1番大変やったのはお前で、こんなん、俺がお前に当たる事やないって分かってんねん。分かってるけど、どうしようもないねん。
言いたいことは沢山ある。けど、今言ってしまったらアカン。今の俺はめちゃくちゃ稚拙で、このままやったら、お前の隣に立ってられへん。
( 俺は、1人の人間として、立派な芸人として、堂々と隣に居れるようになりたい。そう消え入りそうな声で伝えながら、我慢していた涙がポロポロと溢れ出す。彼自身にぶつけたい感情は色々ある。胸の中で疼いている悲しさや、嫉妬心を全部ぶつけてしまいたい。しかし、まだその時ではないと思う。これは単に自分で課した言い訳でしかなくて、こんな事に付き合わせるのも申し訳ないとは思うけど、まだ予選しか通過していない半端者が全力も出し切っていないうちに彼に縋るのは、誰よりも自分自身が許せなかった。優勝して、自分もキラキラと輝く彼の隣にふさわしいのだと思いたい。
エントランスの中心で静かに涙を拭いながら、ずっと手にしていたカードを差し出した。)
……絶対、優勝したるから。それまで、もう誰にも触られんといて。
……陽斗さん…。
( 何に対しての謝罪なのか、理解する前に弱々しく涙を溢し始めた彼を見て、反射的に手を伸ばしかけた。しかし、彼を苦しめているのは僕なのに、その涙を拭う資格はあるのだろうか。そんな考えが過っては、宙に浮かせた手をゆっくりと下ろして握り込む。"お前の隣に立てない"って、どういうことだ。僕はどんな陽斗さんでも受け入れたいのに。格好悪くてもいい、情けなくてもいい、傷つけられてもいい。どんな彼でも隣にいてほしいのに。最初は芸人として生きる彼に惚れた。でも今は、なによりも陽斗さん自身を好きでいるんだ。たとえいつかお笑いをやめてしまっても、芸能界を引退する時が来たとしても、彼が彼のまま、隣にいてくれるなら僕には勿体無いくらい幸せなのに。ただ名前を呼ぶしかできない自分が憎い。…ああ、僕らこのまま終わってしまうのかな。最悪な結末を覚悟したその瞬間、何かを差し出された。戸惑いながら受け取ると、それが招待状だと気づいて )
これ、……いいんですか?
……え、どうして…てっきり、陽斗さんは僕のこと、もう好きじゃないんだと思って……
( 自分自身の手で涙を拭う彼を見れば、僕の存在は必要ないと暗示されているようで心の距離を感じた。それでも招待状を手渡してくれたのは、彼の勇姿を見届ける権利を与えてくれたということ。別れ話をされてもおかしくないような流れで突然のことに拍子抜けして、瞳が揺らぐ。触れられないで、なんて独占欲すらも匂わせてきて、まだ、彼の恋人でいていいんだとひどく安心した。優勝宣言には意志の強さを感じて、彼の中で何か決意したことがあって、それは僕に関係あることだというのも察しがついた。隣に立てない云々の話だとすれば、僕がどんなに説得しても彼は納得しなさそうで。複雑ではあるが、戦うことで彼の気が晴れるなら、僕は応援するのみだ。そして彼が勝負に挑むなら、僕だって。今すぐにでも抱きしめたい衝動を抑えながら、そっと服の裾を掴み )
ねえ陽斗さん、僕もちゃんと戦います。あの人とちゃんと話をして、諦めてもらいます。僕は、陽斗さんの隣じゃなきゃ嫌だから…。
…正直、まだ怒ってるし、悲しい気持ちはあるよ。
でも、ちゃんと、お前に見てて欲しいと思うから。
( 好きじゃないんだと思った、との言葉には否定を示すように首を横に振って。しかし、はっきりとは言葉にせず目を逸らしたまま複雑な心境を少しばかり吐き出した。それでも、見ていて欲しいと思うのは紛れもない本心で。
残った涙の跡を指で拭っていると、不意に裾を引かれゆっくりと視線を動かした。─…自分たちは同性で、アイドルとお笑い芸人という世間的には対にも取れるような立場でいて。きっと、自分たちがプライベートで撮られたとして、週刊誌は大事になんてしなくて、ただ仲の良い友人か何かだとしか思わないだろう。芸能生活を考えればそれぐらいで収まるのが何よりだが、彼の熱愛記事を見て、それに対する世間の反応を見て、やっぱりアレが正解なのかな、なんて思ってしまって。…でも、それがとてつもなく悔しくて。彼に触れていいのは自分だけだと信じたくて、優勝するまで誰にも触られるな、なんて稚拙な独占欲をチラつかせてしまった。もし、本当に優勝できたとして、その瞬間、一番に、他でもない彼に抱き締めてほしいとさえ思う。生放送だし(そもそも優勝しなきゃいけないし)出来るわけがないと分かっているけど、もしそれが現実になったら、この世で1番幸せだと言っても過言では無い。
彼の決意に満ちたかっこいい顔を見つめながらそんなことを考えていると、自分の隣じゃなきゃ嫌だという言葉に、裾を引く手を控えめに握り返しながら、「…ちゃんと勝つんやで」なんて、力が抜けたように小さく笑ってみせた。)
───
─
「 あ、美風くん!偶然だね!今日はこっちでお仕事?」
( 2人が名残惜しそうにしながらも控えめに結んだ指を離した夜から暫く。テレビ局の廊下で知っている背中を見つけるや否や、アリサはパタパタと小走りをしてその背中を軽くタッチする。覗き込むようにして相手の顔を見ると、嬉しそうに笑顔を向けて上記を述べ、わざと小声で囁くようにして「 アレから結構経つのに、やっぱり記事にされちゃうと共演のお仕事減っちゃうね。残念。」とクスクス笑いながら続ける。)
「でも、結構肯定的な意見も多かったというか…応援、してくれてる子たちもいるみたいでびっくりしちゃった!
美風くんとってもかっこいいし、お似合いなんて言われて、私ちょっと照れちゃった。」
……あ、はい…アリサさん、そのことなんですけど、今お時間大丈夫ですか。
( あれから話し合いの機会を窺っていたが、ちょうど彼女の方から声を掛けてきた。人好きのする仕草には一切靡くことなく、淡々とその目を見据える。彼女を悪者だと思いたくないが、知らずうちに敵意が滲み睨んでしまったかもしれない。意図せずとも僕らの関係を引き裂こうとした彼女には、もう二度と笑顔を向けられそうになかった。それでも同業者として、穏便に、後腐れなく話を終わらせたい。彼からの応援の言葉を胸に、そっと息を吸うと話し始めて )
今後もし例の記事について聞かれても、はっきりと否定するって約束してくれませんか。……なにも困ることはありませんよね、僕達に特別な関係なんてないんですから。
( 思ったよりずっと低い声が出てしまって、自分のことなのに驚いて。冷たく遇らうことは避けたかった。逆上されて良からぬことを言いふらされる可能性だって捨てきれない。彼女への信頼はそれほど薄い。恋人の存在を伝えなかったのもそれが理由だ。もしも陽斗さんとの関係がバレたら、怒りの矛先が彼に向かうかもしれない。慌てて「すみません、事務所の人に話つけてこいって言われて」と事務所を盾に嘘をついて。相手の顔が見れずに俯く。今は彼女が認めてくれるよう、祈るしかなかった )
( 時間があるかと問われればにこやかに頷くが、その内容が自分の望むようなものではないとすぐに分かった。言葉選びこそ慎重だが、向けられた視線は鋭く、秘められた怒りが静かに滲んでいるような気がした。本当なら猫撫で声で擦り寄って様子を伺いたいところだが、どうにもこの手は通じなさそうだ。
そうなれば「ごめんなさい」とここは素直に謝罪の言葉を口にし、うるうると揺れる瞳を相手に向けて申し訳なさそうに言葉を続けた。)
「……迷惑をかけちゃったのは悪かったわ。
でも、私は美風くんが好きなの。美風くんだって分かってるでしょ?これから特別な関係になれないの…?」
(反省しているのかと思いきや、謝罪の言葉に続けて出たのは告白まがいな言葉。記事について否定して欲しいと望む相手に向かって、この場に及んでも自分の都合を無理やりにでも叶えようとしているらしかった。
あんな大々的に週刊誌に記載されたのは予想外だったが、きっかけは何であれ彼とお近づきになりたいという思いがあった。しかし、それは純粋な恋心ではなく、“人気急上昇中のイケメンアイドルが彼氏”という箔がつくからに過ぎないだろう。)
ごめんなさい。気持ちには応えられません。
( 「好き」という言葉。ファンから貰う「好き」も、恋人の彼から貰う「好き」も、全部愛おしくて胸の中に大事にしまっている宝物のような言葉。それが彼女の口から発された今、これほど薄っぺらい「好き」があったのかと冷めた目で彼女を見下ろす。以前までは曖昧な好意だけ匂わされてはっきり切り捨てることもできずに困っていたが、直接的な言葉をかけられたのなら返事は一つしかなかった。潤んだ瞳を向けられ、罪悪感がないわけではない。アイドルが女性を泣かせるなんて酷いなと自分でも思う。それでも僕にはそれ以上に泣かせたくない人がいる。僕の隣は、すでにその人で埋まっている。泣き落とそうとしても無駄だと、未だ食い下がろうとする彼女に続けて言葉をかけて )
……僕は、相手を尊重して大事にしてくれる人が好きです。本当はつらいはずなのに、自分の気持ちを無視してまで僕を心配してくれるような、不器用で優しい人がいい。…申し訳ないですけど、あなたが当てはまるとは思えません。
( 恋人を思い浮かべて並べた言葉は、暗に自己中心的な彼女を批判しているように聞こえただろうか。しかし心に鬼を宿して言い切らないと諦めてもらえそうになかった。彼女は確かに端整な顔立ちで、華やかな職業で活躍している自信家だ。それを考慮すれば、アイドルの僕にはお似合いなのかもしれない。実際、そんな世間の声も少なくなかった。それでも、駄目なんだ。僕の隣はあの人しかいない。アイドルの僕も、格好悪い僕も、すべてを愛してくれるのは彼しかいない。そして、彼のすべてを愛せるのも僕しかいない。…これはなるべく出したくない最終手段だったが、拒絶の意図を分からせるには一番効く。最後のひと押しだと釘を刺して )
あ、あと、仕事以外でこれ以上関わろうとしたら、共演NG出しますから。…というか、今すぐにでも出したいくらいなんですけどね。アリサさんの事務所にはお世話になってるんで、難しくて。
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