女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
通報 |
え、お前のあれってコンセプトあったんだ?
あんまり見ないような変わったもんばっかり付けてるなーとは思ってたけど。
( 頬を膨らませる彼女もその口から紡がれた言葉も、決して本気で不満を露わにしているわけではないのが分かるのはどこか楽しげにも聞こえる声色のおかげだろう。だからこそ自分もこうして軽く流すことができるし、「言ってろ。」なんて小憎らしく舌を出すことも出来てしまうわけで。ただ単に可愛い!面白い!で付けられていたわけでは無いと初めて知ったことにきょとんと目を丸くさせてはくすくすと可笑しそうに笑い。季節を考えているにしては少しばかり食べ物系を見る頻度が高い気がしなくもないのだが、それを指摘するときっと『食いしん坊だと思ってる!?』なんて怒られそうなのでそこは黙っておこう。キラキラと瞳を輝かせて悩ましげにヘアピンを眺める彼女に「……どれか気に入ったやつがあんの?買ってやろうか。」と声を掛け、その目線の先にあるヘアピンを探そうと。 )
あるよーう!
冬はね、牡蠣とかミカンとかサンタさんとかにしてるの!それで、春になったら桜とかお団子とかランドセルになる!
( どうやら己のこだわりは彼には伝わっていなかったらしい。みきはふふん!と自慢げに胸を張っては季節ごと変わるヘアピンたち ─── 日替わりの時もある ─── の細やかな分類について語り始めて。ちなみにおにぎりはいつだって食べても美味しいので春夏秋冬関係なく付けているお気に入りである。稀になんのコンセプトもない星だったり可愛らしいヘアピンを付けることはあるけれど、やっぱりクラスメイトたちと会話のきっかけになるのは何かしらのコンセプトのあるものたちばかりなので結果的にそれらの割合が多く。どうしようかなぁ、買おうかなぁ、とヘアピンを眺めていてはふと背後から掛けられたなんとも魅力的な声掛けにきょとん、と瞳を丸くしたけれどすぐにふるふると首を振って「 んーん、だいじょぶ!……ふふ、司くんったら親戚のお兄さんみたい。 」と、以前店長が言っていた通りやはり自分から欲しいものを強請ったりはせず断った後に彼のセリフがなにだかとても親戚めいていて思わずくすくすと笑ってしまい。たまにあう親戚のお兄さんって何かしらすぐ買おうとしてくれるよなぁ、なんて一足先にお正月の気分になってはヘアピンから彼へと視線を移してヘラリと笑い。 )
へえ、ちゃんと拘りが………え、牡蠣?ミカンとかサンタはまだ分かる気がするけど牡蠣??
( 自慢げに自分のヘアピンコレクションを語る彼女の話を聞いていれば、可愛いとか面白いの枠の中でもきっと異質な方であるモチーフにはどうにもツッコミを入れざるを得なくて。とはいえそこまできちんとコンセプトがあったと知れば、次から制服の胸ポケットでその存在感を主張するヘアピンを楽しみにしそうな自分がいる気がする。暑すぎるやら寒すぎるやらでしかほぼ季節を感じようとしていないインドアな自分にとって、準備室にやってくる彼女のヘアピンはある意味で季節の移り変わりを楽しめる重要な指標になるのではと薄く笑みを浮かべて。こんなにも瞳を輝かせてヘアピンを眺めている彼女が可愛くてついぽろりと出た言葉だったのだが、やはり彼女はこういった場合に遠慮する癖がついてしまっているらしい。「何だそれ。……──じゃあ俺が選ぶ。」と、親戚のお兄さん扱いには苦笑が零れたもののその後は彼女に何かを言わせる隙もなく、様々な装飾のヘアピンの中から冬らしいものとして小さな雪の結晶がモチーフの物を選んでは再びその場を離れ。きっときょとんとしているであろう彼女を置き去りにレジへと赴けば、ラッピングはそこそこにすぐさま足早に戻ってきた後「残念ながら俺はお前の親戚のお兄さんじゃないからお年玉は渡せないんだけど、その代わり。」と、シンプルな小袋に入ったヘアピンを差し出して。 )
うん、牡蠣!
─── あ、ほらこれ。可愛いでしょ!
( 彼の言葉にこくん、と何も不思議でないような顔で頷けばすらすらと自分のスマホを弄っては友人との自撮り(2人でお互いの頬をむにゅ、と摘んでタコさん口になっている画像)を表示しその中にちらりと写っているやけにリアル寄りな牡蠣のヘアピンを指さして。雑貨屋さんで見つけた時にコレだ!と衝撃を受けて買った冬が旬の牡蠣は友人たちからもなかなか好評なのでみきのお気に入りのヘアピンのひとつらしくその表情はふふん、と自慢げで。案の定親戚のお兄さんという表現に苦笑いを浮かべる彼にこちらもくすくすと楽しそうに笑っていたのも束の間、続けられた彼の言葉に何かを言う隙も理解する隙もないあっという間に彼は雪の結晶がモチーフのヘアピンを選べばそのままレジへ颯爽と歩いていってしまい。今何が起こったのか全く分からないまま満月のようにまん丸にした夕陽色の瞳をただ瞬きさせることしかできないみきは、レジを早々に済ませた彼からシンプルな小袋に入れられたヘアピンを差し出されたことで漸く理解をしたのかパッと頬を赤く染めながら「 わ、いいの…!?じゃ、なくて!ご、ごめんねみきそんなつもりで見てた訳じゃ…! 」と気を遣わせちゃった!とあわあわ慌てながら首を横に振って遠慮をしてしまいなかなかそれを受け取ることは出来ずに。本音を言えば凄く凄く嬉しいし飛び跳ねてしまうほどに心は浮き足立っているのだけれど、それ以上にやっぱりお昼ご飯も食べさせてもらった上にプレゼントまで!と言ったことで実に長女らしく遠慮してしまっているようで。 )
……ん、…んー?
…か、かわいい…のか?これ……。女子高生の感性難しすぎんだろ…。
( 彼女に見せられたスマホの画面の中には楽しそうな女子が2人、そしてその姿はとても可愛らしいのだが。件のヘアピンは想像以上にリアルさを追求された牡蠣。可愛くデフォルメされたものとかキャラになった物ではなくまさにリアル牡蠣。何度考えても可愛いという感想よりも、やけに生々しいだとかちょっと美味そうだとかの感想が出てきてしまう辺りは性差なのか年齢差なのかと首を傾げて。牡蠣のヘアピンの話が先に出ずに『これ見て!』と見せられていたならば、口が突き出た彼女を見て素直に『可愛いな。』と口に出せてはいたのだろうが。基本的に生きることに省エネな自分がこんなにも機敏に動けたことに自分自身驚きなのだが、それ以上に目を丸くさせる彼女はよほどびっくりしたのだろう。しかし長女ゆえなのか遠慮が体に染み付いてしまっている彼女は差し出してもなかなか受け取ろうとしてくれなくて。「──これは御影が強請ったんじゃなくて、俺が御影に似合うだろうなって思って勝手に買っただけだよ。……いらないならいいけど。」決して気を遣ったわけではなく、ただ単に自分が選んで買っただけだとはっきり主張を。もちろんそんなのは建前でしかないのだが、そうでもしないと目の前の相手は受け取る手を出してこないだろう。一拍置いてから、夕陽色の瞳を覗き込むように小首を傾げながらダメ押しの一言を付け加えて。 )
えー、可愛いし美味しそうなのに…。
( なんとも絶妙な表情で首を傾げる彼に対しもう一度己で画像を見てもやっぱりヘアピンは可愛いので、みきは不思議そうにぱちぱちと瞬きを繰り返しては彼に倣うように同じ方向に首を傾げて。でもやっぱり以前☆先生にも見せた時満面の笑顔で『美味しそうだね!』と言っていたしもしかしたら大人の男の人的には可愛くないのかなぁ、と今どきの女子高生は不満そうに唇を尖らせて。きっとこちらが遠慮してしまわない為に言ってくれているのであろう彼の言葉と自分を見つめる優しいダークブラウンに痛いほどに心臓がときめき遠慮ばかりしようとしていた心がホロホロと溶けていけば、彼が差し出してくれた小袋をそろそろとゆっくり受け取ったあとにそのまま大切そうにぎゅ。と胸元で抱き締めて「 ……ふふ、えへへ。ありがとう、司くん。大切にするね。 」と嬉しそうにふにゃふにゃ柔らかく笑って。今日彼と共にこうして出かけられただけでも最高のプレゼントなのに、更にこうして“彼がみきのために選んでくれた”プレゼントを貰えるなんて。幸せすぎて死んじゃいそう、だなんてぽやぽや暖かな気持ちで彼のダークブラウンと自身の夕陽を絡めてはにこ!と嬉しそうに微笑んで。 )
お前らの中で美味しそうと可愛いってイコールなの…?
( 普段自分のことをやれおっさんだ三十路だと揶揄していても本音を言うとまだまだ若いとは思っていた…のだが、こうも今時の子と感性が違ってくるとやはり少しだけジェネレーションギャップなるものを感じてしまうのも悲しい現実で。ただそれをマイナスな方に捉えているわけでは無く、むしろ生徒に対する理解が深まると考えているのはもちろんだが彼女の好みや趣味嗜好が分かるのも個人的にとても楽しいのも本音ではあって。漸く受け取ってくれた彼女が柔らかく温かい笑みを浮かべてくれたことにこちらも安堵すれば、「ん。まあ牡蠣よりは面白くないけど、可愛いとは思うからそれ。」とにやりとした笑みを浮かべ。しかし用事が済んでしまえば、いつまでもこうして店内にいるわけにもいかない。暖かい室内が少しだけ名残惜しいが「じゃあ買う物買ったしそろそろ行くか。…他に見たい物が無ければだけど。」と声を掛ければ出口の方をちらりと見て。 )
うーん……でも確かに言わてみればそうかも…?
オムライスとかも美味しいしまんまるで可愛いよね!
司くんはどういうのがかわいい?
( 彼の言葉にふむ。と両腕を組んで改めて考えてみると確かに美味しいものは可愛いものが多い気がする…と静かに頷いて。だがしかし○○だから可愛い!と言うよりも女子高生の言う可愛いはほぼそういう鳴き声のようなものなので特に理由等がない場合が殆どなのだけれど。こうしたジェネレーションギャップ…というよりも男女の差が判明すればするほど彼の事をまたひとつ知れたし自分のことを知って貰えたなとみきはなんだか嬉しくて、無意識ににこにこと緩んでしまう頬をそのままに彼の思う可愛いは一体どんなものかと無邪気に問いかけて。受け取った小さな小袋の中にあるのは、可愛らしい雪の結晶がモチーフのヘアピン。彼がこれを“みきに似合う”と思って選んでくれたのがとても嬉しくて、彼の言葉にこくん!と深く頷けば「 すっごく可愛い!毎日付ける!……あ、でも自慢みたいになっちゃうから内側の方につけるね! 」と彼から貰ったヘアピンは無事にレギュラーメンバー入り。胸ポケットだと色んな人から見えてしまうので、自分だけが見える制服の内ポケットに付けるんだと楽しそうに零して。無事にプレゼントも買い終わり、きっとこれからまた店内は混んでくるのだろうと彼の言葉にはーい!と元気に返事を返せば店員さんに軽く頭を下げながら店を出て。暖かな店内から一転外の空気はいくら午後過ぎとはいえ冷たく、少し歩いて人通りの少ない広場のベンチあたりまで来てはくるりと振り返って彼に先程買ったばかりの紙袋を差し出し。「 はい、司くん!メリークリスマス! 」とにこにこ笑顔で差し出したそれは、本当は帰り際に渡そうと思ったのだけれどもし彼が今寒かったらすぐに使えるようにとみきなりの気遣い。寒いのが苦手なのにこうして自分のご褒美に付き合ってくれた彼のお礼でもあるので、遠慮せず受け取って欲しいときらきらした夕陽で彼を見上げて。 )
お、オムライスも…?……やっぱり俺には難しい感性だな…。
可愛いもの?……んー………、…何でもいいなら、今日の御影の服とか。
( 見た目に全振りしたような食べ物ならまだしも、本日食べたオムライスだって美味しそうではあるが可愛いとは思わなかったなとやはり首を捻り。女子の言う"可愛い"に言葉通りの意味が込められているのかどうかなんて下手なテストよりも難しいのではないだろうか。彼女からの問いかけにうーんと口元に手を当てて考えること暫く。自分が可愛いと思うもの、思ったものを頭に浮かべようとしても、笑っている御影に頬を膨らませて拗ねる御影。真っ赤な顔で慌てる御影…と、何だか気付けば彼女の百面相しか浮かばなくて。さらには今目の前でにこにこと微笑む彼女にすべてを持っていかれているのが現状で、自分の思う"可愛い"を答えるならばどうしても御影みき関連になってしまう。…とはいえ『御影。』と彼女本人を指すのは当の本人を目の前にして何だか恥ずかしい気がしなくもないので少しだけ誤魔化しも(と言ってもそちらも本音だが)混ぜてみたりして。楽しそうにヘアピンの処遇を語る様子に「自慢って誰にだよ。気に入ってもらえたなら良かったけどさ。」と釣られるように笑みを浮かべて。しかし冬のモチーフの物をひとつ贈ったとなれば、残りの春夏秋も何かしら探してみたくなったりもしたのだがそれはまた別の話。───外はやはり冷たくて、キリッとした澄んだ空気がまさに冬といった感じ。店内との寒暖差にぶるりと身震いをひとつした後、彼女に続いて少し歩いた先で渡されたクリスマスプレゼント。中身はもちろん知っているので、ぺこりと頭を下げて受け取れば「ご丁寧にどーも。……早速だけど開けて使ってもいいか?」と開封の許可を伺って。せっかく綺麗にラッピングしてくれた物をこんなにすぐに開けるというのはどうかとは思うのだが、中身がマフラーだと分かっているからこそ今すぐにでも着けたくて。 )
、!!!
─── ……ふ、服、だけ…?
( 男の人って何が可愛いと思うんだろう、猫ちゃんとかかな。それとも何か別のもの?何にしても彼が可愛いと思うものを知れる大チャンスにみきはわくわくそわそわと輝く夕陽を彼に向けていたものの、彼から返ってきたのはなんとも予想外の答え。先程まで楽しそうににこにこしていた表情から一転、瞳をまん丸にして頬を真っ赤に染める驚きの表情に変われば少しの沈黙のあとにどこかそわそわと不安そうに眉を下げながら小さく問いかけたのは服以外は彼の“可愛い”に該当しないのかという乙女の小さなやきもち。もちろん彼に可愛いと思われたくて服を選んできたので可愛いと思って貰えているならすごく嬉しいし計画通りなのだけれど、いちばんはやっぱり自分自身を可愛いと思っていて欲しいだなんて思ってしまうのもまた事実で。ぺこりと律儀に頭を下げてくれる彼にくすくすとおかしそうに笑ってしまえば、想像通りの彼の言葉に「 もちろん!マフラー巻く前に風邪ひいたら困っちゃうもん。 」と当然のように頷いて。自分がプレゼントしたマフラーを巻いた彼をいちばんに見られるだなんて贅沢、他の女の子たちは味わえないんだろうなぁと思えばゆるゆると頬が勝手に緩んでしまい。 )
っ、…………欲張り。
( 予想通り赤く染まった顔に可笑しそうに笑いを零していれば、続く言葉は少し予想からは外れたもの。てっきりいつものように口をぱくぱくさせる真っ赤な金魚になるのかと思いきや、それ以上を強請るような言葉と表情にどくんと胸が鳴ってしまう。彼女自身を可愛いと思っているなんてもはや日常的に当たり前。しかしこういう時に女性はきちんと言葉として欲しいらしいというのは分かってはいるが、どうしてもちょっとした悪戯心が出てきてしまうのは相手が彼女だからだろう。好きな子ほどいじめたくなるというのはどの年代にも共通なのかもしれないと、声色にはちゃんとした答えを気持ちとして乗せはしたものの意地悪く口角を上げてはわざと彼女の求めている言葉を使わずに。無事に開封の許可が貰えればどこかホッとしたように、そしていそいそとラッピングの袋を開けては買いたてほやほやの濃紺のマフラーを取り出し自身の首に巻き付けて。首元がこうして防寒されるだけで体感がまったく変わってくると、ほっこりとした暖かさに顔を緩ませながらラッピングの袋は丁寧に折り畳んでとりあえずマグカップが入っている紙袋の中にイン。「はー………あったけー……。…ありがとな御影、おかげで冬越せそう。」と、マフラー1本でここまで心強くなれたことに素直に感謝を述べて。 )
だ、だって…
……司くんに可愛いって思ってもらえなきゃ、意味ないもん。
( 自分が今できる、精一杯の我儘でありおねだり。好きな人に可愛いと言って欲しい、だなんてある意味いつも言う“だいすき” よりもよほどハードルが高い気すらしてしまう。いつもの意地悪な笑顔と、それから欲しかった“可愛い”では無い言葉。けれどその言葉の雰囲気から彼がどう思ってくれているかなんて彼限定のエスパーには足し算よりも簡単。みきは頬を真っ赤に染めたままきゅ…と眉を下げては恥ずかしそうに視線を逸らしながら小さな声で素直な気持ちをぽそぽそと呟いて。もちろん他の人に褒めてもらえるのもとっても嬉しいけれど、やっぱり大好きな彼にそう思われていなければなんにも意味がなくなってしまう。そのために今日だって前日から準備やらスキンケアやらを頑張ったのだから。たったマフラーひとつ、されどマフラーひとつでこんなにも喜んだ表情が見れるのならばプレゼントしがいがあるというもの。その様子に安心したようにふわりと微笑んでは「 ふふ、良かったあ。やっぱりすっごく似合ってる! 」と愛おしそうにその夕陽に彼をまっすぐ映して。 )
そんなの…、思ってないわけ無いだろ。
──いつも可愛いとは思ってるけど今日はなおさら。
それだけ気合い入った格好してんのはたぶん今日出かけるの楽しみにしてくれてたんだろうなーとか思うと可愛くて仕方ねーよ。
( 彼女の貴重な我儘はだいたいこういうおねだりが多く、普段は遠慮がちだということを知っているからこそ叶えられるものならなるべく叶えてやりたいという気持ちが強くあって。更にはいつものように恥ずかしげも無く気持ちをストレートに伝えてくるのとは違い、どこか不安そうにも見える表情で小さく言葉を漏らす今の彼女は庇護欲を刺激してくる。その様子に口が動いてしまえばあとは堰を切ったようにすらすらと、止まらない言葉に小さく溜息を吐きつつも真っ直ぐ彼女の夕陽色を見据えては思っていることを伝えて。マフラーひとつで心まで温かくなるのはきっと彼女が自分のことを考えながら真剣に選んでくれたのを目の前で見ているから。その暖かさに絆されるようにふにゃりと柔らかく微笑めば「大事に使うよ。つーか冬は毎日着けるなこれ、まじで暖かい。」と、マフラーに顔を埋めるようにその肌触りと暖かさを堪能して。 )
─── …ふふ、えへへ。
そう。司くんとデートできるのが楽しみで、可愛いなって思ってもらいたくて、今日いっぱい可愛くしてきたの。
( 真っ直ぐ彼のダークブラウンが此方を見つめてくれて、そんな彼の瞳の中の自分は真っ赤な顔で大きく目を真ん丸にしてるちょっぴり間抜けな表情で。彼の言葉がじんわりと胸の中に広がってはゆっくり優しく溶けていき、それと同じようにみきの表情も薄紅色はそのままだけれどゆるゆると溶けていくように綻んでは最後は幸せそうなふわふわした笑顔が完成。自分がこうして今日のデートを楽しみにしていたのも、可愛くしてきたのもぜんぶぜんぶ彼は分かってくれていて、みきはそれがとても嬉しくて愛おしくて優しく蕩けた夕陽色で彼を見つめてはぎゅっと抱きつく代わりに彼の袖を指先で掴んでにこにこ微笑み。マフラーに顔を埋めるようにする彼は何だか少し幼く見えてとっても可愛くて、みきはまたきゅん!とひとつ胸を高鳴らせては「 ほんとう?マフラーつけてくれてるの見たらみきもぽかぽかになるから2人であったかいね。 」となんの恥ずかしげもなく“自分があげたマフラーを使ってくれてるのを見ると胸が暖かくなります”と真っ直ぐに返してはこれで無事にこの冬は2人とも越せそうだと満足気に笑って。 )
知ってる。
だから会った時から思ってたよ、可愛いって。
そのふわふわした服も髪も、オムライス食べてた時もずっと。
( 言葉とは不思議なもので、一度口にしてしまえばもう何の引っかかりも無く次から次へと溢れてしまう。今日一日中隣にいたのはとにかく可愛くおめかしをしてくれた彼女で、口にこそしていなくても最初からずっとそう思っていたことを改めて告げれば朗らかに笑う彼女に釣られるように優しく微笑んで。あくまで名目上は買い物に付き合わせたことになっているが、彼女がデートだと言うのならば別にそれを否定するほど野暮ではないし自分も少しだけそう思って楽しんでいた節もあったりなかったり。もちろん口には出せないが。マフラーを着けている自分よりも何故だか贈った側である彼女の方が満足そうに、暖かくなるなんて笑っているのを見ればこちらも可笑しそうに笑い。「はは、お前はほんっと恥ずかしげもなくそういう事を言うよなぁ…。でもこれで冬の寒い準備室でも何とか大丈夫そうだな、このマフラーと子ども体温の御影が来てくれれば。」とにやり。いつだかに話した彼女との会話の一幕ではあるが、夏の暑さと冬の寒さは自分の生命に関わる(大袈裟)ことなので、それを乗り越えるのに必要なことは決して忘れていないぞと友人のカイロ役を担っているらしい彼女に期待を寄せて。 )
っ、……
…あ、あの、…も、いっぱい伝わった、…から。ありがと、…。
( 普段なら“ハイハイ可愛い可愛い”と流されてしまうところを真っ直ぐに褒めて貰えただけでも嬉しいのに、次から次へと紡がれる彼の言葉にみきの表情はふわふわした幸せそうな笑顔からだんだんとオーバーヒートしているようにぷるぷると羞恥の限界を迎えていき。じわりと潤んだ瞳は優しく此方に微笑む彼から不思議とそらすことが出来なくて、甘々を強請っておきながらいざ彼からそれを供給されてしまうとあっという間にキャパオーバーになってしまうのもいつもの事だけれど、みきはくい。と指先で掴んだ彼の袖をもう一度軽く引っ張っては弱々しくストップを希望して。嬉しいなぁ、毎日着けてくれるんだなぁ、なんて勝手に緩んでしまう頬はそのままに、彼がおかしそうに笑う顔すらみきにとっては嬉しくなってしまう理由のひとつ。だがしかしそんな彼から零れた言葉にぱち。と大きな夕陽と口を真ん丸にしては一気に顔に熱が昇ってくる感覚を無視してそのままこくこくと頷いて「 み、みきもいつでもあっためる! 」と女の子たち限定のみきカイロは彼だったらいつでも使い放題だと言わんばかりに─── 決して今とは言われていないのだけれど ─── 彼の方へと両手を広げていつでもウェルカムな体制を。 )
……もういいの?
言ってほしかったんだろ?
( 自分でも驚くほど今日は彼女に甘くなってしまっている気がするが、このクリスマスの雰囲気が漂う街にいつもと違う装いで紛れてしまえば周りからは教師と生徒になんて見えないだろうという余裕があるからかもしれない。嬉しい、幸せ、と顔にそのまんま出ているような笑顔から段々と恥ずかしさが勝ってきてしまったのだろう彼女の様子に可笑しそうに笑いながら、引っ張られた袖に誘われるように彼女の潤んだ夕陽色を覗き込む形で顔を近付けて。思ったことがそのまま顔や行動に出てしまいがちな彼女の体は、やはり今回も素直に動いてしまったようで。両手を広げられてもさすがに人目のある外で抱き締められには行けなくて、広がった腕に手を添えては「はいはい、それはまた今度お願いするから。」とくすくす笑いながらその手を下げさせようと。 )
いっ、…言って欲しかったけど…。
あんまり言われたら、心臓ぎゅってなっちゃうから……。
( ストップの意で軽く引っ張った彼の服の裾は逆に彼を誘うようにしてその意地悪なダークブラウンがいつもよりもずうっと近い距離に近付かれてしまい、けれど恋する乙女が好きな人に近付かれて嫌がるはずもなくみきは羞恥で潤んだ瞳で彼を見つめてはふるふると首を振ってギブアップを宣言。男からしたらそれが誘っているように見えるだなんて恋愛経験の浅いみきに分かるはずもなく、こうなってしまった原因である彼に助けを求めるようにただただこてりと首を傾げて蕩けた夕陽に彼を映すことしかできず。自信満々に広げた両手は残念ながら今ではなかったようで、くすくす笑う彼に優しく手を下ろされつつも彼の“今度”という単語には耳ざとくきらきらと瞳を輝かせて反応を表して。「 今度!?今度っていつ?今週!? 」と、“彼を温めるため”とは言えど体勢で言えばハグなのでみきがしてほしかったやつ!と言わんばかりに彼に顔を近付けては彼の言う今度を詳しく聞こうと嬉しそうに問いかけて。最も、何かの間違いで『じゃあこの日』と言われてしまったら言われてしまったでどきどきして当日はそれどころではなくなってしまいそうなのだけれど。 )
塩梅が難しいな、
もっと心臓鍛えといてくれ。
( ほんのりと赤く染まる頬に潤んだ瞳。恋愛に長けた者であればきっと計算されてそういった仕草を取れるのだろうが、彼女の場合は決して狙ったものでなく天然なので無自覚に周りの男を恋に落としてしまうのはある意味では尚更タチが悪いともいえるだろう。例に漏れず自分もそんな小悪魔に誘われるがまま──、というわけにはさすがにいかないので。甘く蕩けた夕陽色から逃れるように、そしてそんな気持ちを誤魔化すように冗談を零しながら近すぎた距離を再び広げて。会話の中のほんの一言を的確に拾う彼女の勢いは凄まじく、こういう時ばかりはぐいぐいと距離を詰めてくるのも困りものだ。「残念だけど今週はもう期末テストの週間に入るから準備室はまた立ち入り禁止だよ。冬休みに補習したけりゃ別だけどな。」と、彼女には酷だがクリスマスが近いという事はそういう現実もセットでくるものだと苦笑に近い笑みを浮かべながら告げて。もっとも夏休みと違って冬休みに補習なんてそもそも無いのだが。 )
う゛…。
鍛えても司くんが想像超えてくるくらいかっこいいのがいけない…。
( 迫られるといっぱいいっぱいになってしまうのに、いざ彼に引かれてしまうと後を追いたくなってしまう。乙女心とはなんとも複雑なもので、広げられた距離に“やだ”というようにみきの手は無意識に袖を掴む指先に少しだけ力が入って。けれどやっぱり言葉と表情はよわよわと彼には叶わないことをなんとも分かりやすく表現しており、一応は頑張ろう我慢しようという努力はしているのだけれど彼の前ではそんな努力は一気に水の泡と消えてしまうのだと本人も困ったように眉を下げて。だって本当は彼がくれる甘い幸せをぜんぶぜんぶ余すことなく享受したいのに、今は自らでそれをストップさせてしまっているのだからみき自身も困っているのだ。彼の言葉になんとタイミングの悪いテストだ…と不満げに唇をとがらせたものの、やっぱり乙女の器用な耳は好きな人の言葉を余すことなく拾うため「 、……冬休み補習する! 」と先程の拗ねた表情から一転、きらきらとした瞳で冬休みの補習に参加したいと他の生徒では考えられないような補習への積極参加姿勢を見せて。だってそうしたら冬休みにも彼に会えるってことだし、テストはすっっっっごく嫌だけどそういったイベントが発生するのなら悪くない!とみきの瞳は嬉しそうにきらきらと輝いて。 )
トピック検索 |