女子生徒 2024-04-30 23:32:52 |
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……悪かったな仕事人間で。
( 自分は別にしても確かに彼女はただの店員。ましてや話に出てくる生徒その人とは知られてる訳でも無いのでここに居ても何ら変ではないため隠れる必要は無かったかもしれない。しかしコンパクトに隠れようとするのは此方も同じく無意識下の行動で、くっつく彼女が見えてしまわないようにその背に手を回して軽く引き寄せてはより密着度合いは高くなり。御手洗に入っても尚きゃいきゃいと高い声での意見交換は続き、その内容が所々漏れ聞こえてくるのだがどうやらほぼ勝ちを確信している様子。残念ながら此方としてはナシなのでその自信も計画もこの後崩れることになるのだが、そうとも知らない彼女たちは気合いを入れ直すために化粧直しやら何やらを行っているらしくすぐには出てこないだろう。その会話内容に苦笑しながらぽつりと素直な感想を零せば、キラキラとした視線の圧を感じてこちらを見つめる夕陽色に気付き。"名指しをしている訳でも無い生徒の話"に何かを察したらしい彼女に対して「…………なに。」と一言。さすがに少し気恥ずかしいようですぐさま視線を逸らすも、だから言っただろというような雰囲気は滲み出ており。 )
……ふふっ
ううん、仕事人間のせんせーがずっと話してる手のかかる生徒は誰のことかなーと思って。
( 先程まであんなに耳にキンキンと響く嫌な声だと思っていたお姉さんたちの声は今や甘言ばかりをこぼしてくれる天使の囁きにすら聞こえてしまい、そんなあまりに単純な自分の頭もそれから照れくさそうに視線を逸らしてしまう可愛らしい彼も相まってみきの表情はあっという間にゆるゆると幸せそうに緩んでいき。かわいい、だいすき。と今までに何度思ったか分からない彼への愛情を改めて更新しながらもただでさえ密着度の高い今の状態ですり、と彼に擦り寄るように甘えながらからかい混じりに言葉を零して。彼の態度を見れば誰のことかだなんて一目瞭然なのだけれど、それでも第三者から伝えられるよりも好きな人から直接聞きたいと思ってしまうのは乙女の些細な我儘。おしえて、と強請るようにくいくいといつものように彼の服の裾を緩く引っ張ってはきらきらにこにこと花がほころぶような笑顔で彼の回答を待って。だって今なら他の誰も聞いていないし、誰かがこっちに来ることもないから。ちょっとだけなら良いよね、と心の中で言い訳を並べながら。 )
……、そうだなぁ。
佐々木に高橋、加藤…あー挙げ出したらキリがねーな。
( 柔らかく緩んだような彼女の笑顔は少しだけこちらを揶揄うような声音と共に。先ほどまでのしおらしさは既になりを潜めてしまい、擦り寄りながらも裾を引っ張って教えてとアピールしてくる彼女の強かさにはある意味脱帽だ。うーん、と考える素振りを見せれば、続けて出た名前は1人どころか数名。更に言えば名前の挙がった生徒たちは皆ちゃんと(?)テストの点数であったり課題の提出であったりに一癖二癖ある子たち。指折り数えながら、"いちばん手の掛かる生徒"の名前だけは敢えて挙げずにちらりと視線だけ向けてはにやりと意地悪い笑みを。彼女が求めている回答を渡さないのは変な誤解で仮にも教師に失礼な態度を取ったお返しだと心の中で呟けば、べ、と楽しげに舌を出して。「──…さ、いつまでも仕事サボってないでそろそろ戻れよ店員さん。」と、未だ御手洗の中で話と化粧直しに勤しんでいる彼女たちが出てくる前にこの場を離れて席に戻ろうと。 )
!!!
( わくわく、そわそわ。そんな期待に満ちた瞳で彼の唇から自分の名前が紡がれるのを待っていたのに残念ながら一向に御影のみの字も出てくることはなく、次々に生徒たち(補習でよく見るので本当にちゃんと手のかかる生徒なのだろう)の名前が出てくる度にみきの頬はぷく、と膨らんでいき。きっとわざとそうしているのであろう、彼の意地悪な笑顔とべ、と出された舌に“弄ばれた!”と心外そうに夕陽色の瞳をまん丸にしては先程まで泣いたり笑ったりところころ変わる表情を今度は不満げに唇を尖らせて「 いいもん友也さんに聞くから!いじわるするせんせーにはもう消毒もしてあげないんだからね! 」と言葉では言いつつもやっぱり今の状況はみきにとっては役得なので最後にぎゅ!と彼に抱きついたあとにぱたぱたと忙しなく厨房の方へと戻っていき。─── けれどやっぱり泣いたあとと言えば泣いたあとなので末っ子の恋愛模様を見守っていたお姉様たち(with店長)には怒られるどころかたくさん心配されたし、彼の代わりに女性二人の対応を一手に担っていた友也さんにはバイトのお姉様たちがとってもサービスをしておいたらしく。 )
はいはい、
…まあ今回の消毒は助かったよ。
( ぷくぷくと段々膨らんでいく頬が可愛らしく、ついには爆発したように不満を漏らしながらも言葉とは裏腹に最後まで念入りに"消毒"をされた模様。彼女が離れる際にありがとな、と改めて礼を告げれば厨房へ戻っていくその背中を見送り、少ししてから自分も席へと戻り。───『お、戻ってきた。…だいぶやられてたもんな~司。もういいのか?』と、ひとり残されて手持ち無沙汰にスマホを弄っていた友人から心配のお言葉を頂戴すれば、「ん。悪かったな、しっかり消毒できたから大丈夫。」と返答。消毒ってお前!と笑い飛ばしてくれるのは有難いのだが、よくもまあこいつはあの強い香りに負けず飲み食いできるなとその図太さがちょっぴり羨ましくもあり。それにしても彼女も同時に長く自分と共にいたせいで怒られたりはしていないだろうかと気になり、ちらりと厨房の方へ目をやれば他の従業員たちに囲まれながらも特に説教されている訳ではなさそうな雰囲気に内心ホッとして。 )
『 あー、戻ってきてるぅ 』
『 もう~、どこ行ってたんですかぁ?さみしかった~。 』
( 彼が席に戻ってきて暫く。メイク直しと作戦会議のしっかり終わった女性たちがようやく帰ってくればほろ酔いを演出した淡いピンク色のチークののったお顔でへらへらと笑い。そうしてそれぞれ目当ての男性の横に座ってはそのまま酔っちゃったぁとしなだれかかるつもりなのだろうちょっぴり膝先をくっつけたりして本日の勝ちを確信している女性たちは胸中でにやりと微笑んで。もう少しでそのまま彼の肩に女性の頭がこてりと乗る─── と思われた瞬間にぬっと現れたのは強面の店長。しかも先程までの人の良さそうな笑顔ではない無視くらいなら視線で殺せそうな静かな表情。『 失礼致します、お客様。恐れ入りますがそちらの席の空調不備が見つかりまして……宜しければお席のご移動をお願い致します。 』と、既に2人分のテーブルセットがされたカウンター席を指して。勿論空調不備なんてない真っ赤な嘘なのだけれど、やはり当店の可愛い末娘の精神衛生上宜しくないのでというちょっとした手心なのだろう。『 申し訳ございませんがお席が二人分しかご用意できず … お連れ様ではございません、よね?如何なさいますか? 』とそのまま一見恐ろしい瞳をちらりと女性たちに向けては女性たちも『 あ、はは。か、帰ろうかな~。 』『 っね、あの、酔っちゃったし! 』とやはり事前情報なしの大男が恐ろしかったのか、今夜の獲物に手をつけることなく蜘蛛を散らすようにそそくさと会計をしてからお店を出ていき。 )
あー……まあちょっと。
( つい先程まで女子トイレから漏れ聞こえていた声はどちらかと言えばハキハキとしていたような……と、あからさまにくねくねとした喋り方の女性2人を前にしては営業スマイルで誤魔化しながら対応するしか無く。せっかく気分もマシになっていた所だったのだが、振り直してきたであろう香水は更にねっとりとした甘ったるさをパワーアップさせており。さすがの友人も少しばかり面食らっているようで、ちらりと目配せしてはどうしたものかと考えていると、その図体の大きさからは想像がつかないほど静かに現れた店主に4人とも固まり。彼の視線の刃物その物のように鋭く、向けられている対象が途中から相席をしてきた女性組の方とはいえ此方まで射抜かれているような気がして。もちろんこの席にずっと座っている自分たちは空調の不備など感じるはずも無く、自分はその理由が何となく分かるものの何も知らない友人の頭には疑問符が浮かんでいるようにも見える。とはいえ圧の強すぎる店主に対して大丈夫ですよ~なんて言えるはずも無く、遂には耐えられなくなったのか逃げるように帰る女性たちを見送り(さすがに後を引く事が無いように口実にされた焼酎代はこちらが払うように提案した)、先に残る香水の残り香が薄まった頃ようやくちびちびと2人飲みを再開して。 )
─── せんせー、友也さん、だいじょぶだった?
( 女性たちが逃げるように帰ってから少し。心配そうな声色とともにひょっこりと顔を出したみきはもう上がりの時間なのかお団子にしていた髪を下ろしてショートパンツの私服姿で。折角の楽しいお酒の席、彼は女性の香水の香りに酔ってしまったようだったので店長にお願いして至極丁寧にお帰り頂いたのだけれど肝心の彼の友人はもしかしたらお姉さんと飲みたかったかも、と自分のお節介だったらどうしようと言わんばかりにみきは不安そうに眉を下げて。「 みきが店長にお願いしたんだけど、……お姉さんたちとまだお話したかったです…? 」と彼がそれを願っていないのは知っているので隣の友也さんに申し訳なさそうに問いかけては、先ず行動に移す前に彼らに確認をとるべきだったかもしないと自分の軽率な行動にちょっぴり反省しているようで。 )
お、仕事終わり?
お疲れ。
( 店員らしさがすっかり消えていつもの見慣れた彼女(といっても私服なので充分珍しいのだが)が現れれば、飲み直して酔いも気分も良くなったおかげで緩んだ頬のまま労いの言葉をまず掛けて。絶妙なタイミングで登場した店主は彼女の計らいだったようで、しかし勝手な判断だったのではと不安そうにするその様子にふるふると首を横に振り。目の前の友人も同じ意見のようで、『いやいや大丈夫大丈夫!あの子たち可愛かったけどさすがに香水がちょっとキツくてさぁ、しかも司なんか途中で逃げたんだぜ?』と"消毒"の詳細を知らない友人はとっておきのネタだと言わんばかりに話し始めて。『…それにしても声掛けられるのなんか久しぶりだったよなー。俺らもまだ捨てたもんじゃねーってことか!』と酔いもあってか終始楽しげに話す友人はそのままの勢いで、御影ちゃん一緒に飲まない?と冗談混じりに声を掛け。さすがに酒を飲ませようとしている訳では無いのは分かってはいるが「誰の目の前で口説いてんだお前。教師がいんだぞここに。」と、ツッコまざるを得ず。 )
えへ。そうなの、あと賄い食べて帰るだけ。
─── わぁ。せんせー途中で逃げちゃったんですか。たいへんだあ。
( たかがバイトと言えどやはり労働のあとはお腹が空くもの。みきはへにゃりと微笑めば今日も頑張りました!と自慢げにこくこく頷いてはあとはこの空腹を満たすだけだと答えて。それから、恐らくきっとなんにも知らないのであろう彼の友人からのタレコミにぱち!と瞳を丸めた後にちょっと演技力には問題があるけれどなんにも知らないふりをして困ったように笑い。途中で逃げてそれから消毒してました!だなんて口が裂けても言えるはずがないので、ちょっぴりそわそわとした擽ったさを胸に抱えながらもふと体に残る彼に強く引き寄せられた感覚が脳裏に蘇っては少しだけ耳を赤くして。声をかけられるのが久しぶり、ということはやはり前はよくあったのかな。なんて邪推をしてしまうけれどそりゃあこんなにかっこいい人達が男二人で飲んでいたら女の人達は黙っていないんだろうなと納得もしてしまうので顔を出しかけた嫉妬の芽はかろうじて咲くことがなく。願ってもいないお誘いに嬉しそうにぱぁ、と表情を明るくさせては「 んふふ、みき口説かれちゃった。じゃあここで賄い食べちゃおうかなぁ。 」だなんてにこにこふわふわ微笑んで、友人の教え子という妙な立ち位置である自分とも仲良くしてくれる優しさにノっていき。ついでに酔った勢いで高校生時代の彼のお話とか聞けないかな、と企んでいるのは内緒なのだけれど。 )
……、
( 自分も若い頃はもちろんバイト経験があるわけで、仕事の合間や終わった後の賄いタイムが待ち遠しかったことを思い出しては懐かしさに微笑み。だがその後に続く、どこか棒読み感の滲む気がする彼女の演技には触れない方が吉だと判断すればハイボールの入ったグラスに口を付けて無言を貫き。薄く赤みを帯びる彼女の耳は、すでに出来上がっている友人には気付かれる事はないだろう。彼からのお誘いに乗り気な彼女はどうやら居座る気満々な様子。もはや身内のような仲だという店主も、客とはいえ知り合いの席ならば咎めることは無さそうで。やれやれと小さく溜息を吐けば「…はぁ、席用意しとくから賄い貰ってきな。ちゃんと店長さんに許可取ってからだけど。」とテーブルの上の物を自分たちの方へ寄せるようにしてスペースを空けては、友人の隣の席ももちろん空いているのだが無自覚に自分の隣を用意して。 )
!!!
ほんとにいいの!?
( てっきりバイトが終わったのならば夜も更ける前に帰りなさいと言われるとばかり思っていたので、まさか本当に許可されると思わず嬉しさと驚きの入り交じった表情を浮かべれば“賄いもらってくる!” と彼の気が変わる前にとパタパタと厨房の方へと駆けていき。嬉しい、一緒にご飯食べれるんだ。と普段滅多に共に食事をとることがない─── と思ったけれど案外一緒にご飯を食べている回数は比較的多い気がする ─── 彼と共に食事をできることが嬉しくて、あと彼の昔の話が聞けそうなことも嬉しくてにこにこるんるんと軽い足取りで賄いを持ってくれば「 店長いいって!…えへへ、お邪魔します! 」と第三者から見ても嬉しいです幸せですと言ったような満面の笑顔でしっかりと自分のスペースを開けてくれた彼の隣にすとん、と腰を下ろして。口に出したらきっと照れちゃうので(そんなところも可愛い)言わないけれど、隣の席開けてくれるんだなぁとちらりと隣の彼を見てはへにゃへにゃと頬が緩んでしまう。きっと無意識下なんだろうな、ということまで彼限定のエスパーにはお見通しで。ちなみに本日の賄いは海鮮ユッケ丼。21時も過ぎたこの時間に丼というのも乙女としてはなかなかチャレンジャーなのだけれど夕方からご飯を何も食べず働いていたのでもうお腹がすっかりぺこぺこ、好きな人の前で可愛子ぶって少食です!だなんて考えすらもみきには浮かんでおらず。 )
え、だってどっちにしても仕事終わって賄いは食うんだろ?
店長さんがいいなら俺らは別にいいよ。
( なあ。と友人に声を掛ければ彼も笑顔で頷いてくれて。それに彼女の帰宅が遅くなればきっと店主が気にかけるだろうし、もしもの際には自分が送って行ってもいいわけで。少しして上機嫌に賄いを持って戻ってきた彼女を加えれば『御影ちゃん仕事お疲れー!』と乾杯を求めるように友人がグラスを掲げ、自分もそれにカチンとグラスを合わせては改めて「お疲れー。」と一言。従業員の賄いとは不思議と美味しそうに見えるもので、ユッケダレできらきらと輝く海鮮丼はなおさら食欲を唆る見た目をしていて。…とはいえ既に散々飲み食いをしているのでさすがに胃は膨れているのだが。少食アピールをする女子はごまんといるが、やはり好きな物や美味しい物はしっかり食べて欲しいし見ているこちらも気分が良い。つまり個人的な好みではあるが、今の彼女のように気にする事なく食事をする姿は存外惹かれるものがありにこにこと隣を見つめて。 )
わーい!お疲れ様です!
( カチン、とグラスを合わせて乾杯 ─── とは言ってもみきはノンアルコールなのだけれど ─── をすれば、ちょっぴり大人の仲間入りをした気分になる。いつかこれが本物のお酒でも許される年齢になる頃までこうして彼の隣にいられたらいいな、なんて思いながらもいただきます、と手を合わせて早速1口。やっぱりさすがプロの料理は全ての味が繊細で更には深みがある。普通の醤油だけなら少し飽きてきてしまうたっぷりの海鮮が乗った海鮮丼も口当たりの滑らかさとユッケダレの深みでいくらでも食べられそうだともぐもぐと大きなお口で箸を進めていき。おいしい、とにこにこ満面の笑顔で食事を進めていたのだけれどふと隣からの優しい視線にぴたりと橋が止まれば「 ……な、なあに…? 」と恥ずかしそうに頬を淡く染めながらも、きっと程よく酔ってきているのであろうにこにことした柔らかい笑顔の彼に問いかけて。 )
『御影ちゃんめっちゃ働くね!他の店員さんやお客さん達ともよく話してるの見てたよー。』
( 言わずもがな彼女はノンアルコールとはいえ、こうして教え子とグラスを突き合わせる日が来るとは…と、余りにも早すぎる居酒屋での乾杯に何だかむずむずとするものがあり。自分の友人と生徒が話しているのは何だか少し不思議な光景な気もするが、酒の肴には悪くないと楽しげにグラスを傾けて。あの大柄で強面な店主がこんなに綺麗な海鮮丼を作ったと考えると頭が混乱しそうだが見た目通り味も抜群らしい。──そもそも頼んだ料理も総じて美味しいので流石というよりプロなのだから当たり前なのだが──。彼女の食事シーンを見つめていれば視線に気付かれ、途端に恥ずかしそうにするその様もまた可愛らしくて。「いや、よく食うなって。」と微笑んだまま言葉を返すも『お前言い方!…もー、御影ちゃんまじでごめんね。こいつ昔っからこんなんだから。』と、けらけらと笑いながらデリカシーの無さにツッコミを入れてくる友人は彼女にもその人懐っこい笑顔を向けながら片手で謝罪のポーズを。 )
ほんとですか?
お客さんとおしゃべりするの楽しいのでこのお仕事好きです!
( 人生初のアルバイト、ほぼ身内が経営する店とは言えどやはり緊張や不安はたくさんあるものでこうして褒めてもらえるのは純粋に嬉しく。確かに酒の席なので今日のように大学生やもっと年配の人に絡まれることもあるけれど、その時は周りの人が助けてくれるので一安心なのである。将来の夢はせんせーのお嫁さん、次点で学校の先生が来るのだけれどその次は接客業を目指してみても良いかもしれない。人見知りせず人懐っこいコミュニケーションの高さが幸をなしているのかにこにこと嬉しそうにこのバイトが楽しいことを返せばうんうんと頷き。視線はとても甘くて優しいもの、だけれど帰ってきた言葉は甘いどころかちょっぴりどきどきそわそわしたみきの心臓はスン。と落ち着いて。分かりやすくむす!と唇を尖らせては「 だって夕方からなんにも食べてないんだもん! 」と普段からこんなに食べる訳では無いんですよとアピール。とは言っても甘いものは別腹なのでそれに関しては彼がびっくりするくらい食べられるのだけれどそれはまた別の話。きっと高校時代から2人の関係はこんな感じなのだろう、彼の代わりにフランクな謝罪を送ってくれる友也さんにへにゃり眉を下げて笑っては「 せんせーってば昔からこうなんですか? 」と想い人の高校時代を聞くチャンスだとここぞとばかりに問いかけて。 )
『あはは!めっちゃ良い子!……あ。そうだ聞こうと思ってたんだけど、もしかしなくても司の言ってた"めっちゃ懐いてくる子"って御影ちゃんのことだよな?』
( 見ている限り彼女の性格や振る舞いから天職なのではと思えるほど、更には彼女本人も楽しげに仕事出来ているのが何よりで。社会に揉まれて早数年の大人組はそんな彼女に少しだけ眩しさを感じながらも微笑ましそうに彼女の言葉に頷いて。そこで友也が思い出したような一言は、初めて彼女と顔を合わせた時に言い切るに至らなかった『御影ちゃんってさー、』の続きの台詞。その疑問符は友人にも教え子にもどちらにも向けているように聞こえて。もじもじそわそわとしていた彼女が分かりやすく無になったと思えばすぐさまぷんすこと反論を受けて。「はは、悪い悪い。別に揶揄ってるとかじゃなくて、むしろ美味そうに食べてんの俺は好きだなって話。」と、言葉足らずな自らのフォローを。しかし彼女と友人の話題はすでに自分の高校時代へと移るところで、『そうそう。夏休み前に司が女子に声かけられて明らかに今から告白しますーって流れだったんだけど、その子がなかなか言い出せなくってさ。そしたらこいつ、喉乾いたからまた今度にしてって普通に帰ったんだよ……さすがに俺の方が焦ったわ。』と友人の教え子に聞かれるがまま過去のノンデリエピソードを溜息混じりに語り。…といっても当の本人は首を傾げているのだが。 )
、確かにいちばんせんせーに懐いてる自身はありますけど…。
ふふ。そんなこと言ってたんですか?
( ぱちり。と大きな夕陽色をまんまるにしては漸く聞けた『御影ちゃんってさー』の先の問いにぽかんと答えては、まさか彼が自ら自分のことをそんな風に言っていただなんてと思わず緩んでしまう頬をそのままに隣の彼へとににこにこ問いかけて。懐かれてる自覚を持ってくれてるのは非常に望ましいことだし、大切な友人にそう自分のことを伝えてくれたのはとても幸せなことだとその瞳は嬉しそうな色を隠すことなく滲ませており。よく食うな、の一言ではあまりに言葉足らずだった本来のその言葉の意味を聞けば恋する乙女は怒るに怒れなくなってしまい、ぱっとほおに朱をちらしたと思えば「 ……せんせーわかりにくい、! 」と拗ねた口調でもそもそ文句を。でもやっぱり自分だけへ向けた言葉ではなくあくまでタイプ、というような趣旨の好きでも好きは好き。想い人からそんなことを言われて嬉しくない女はいないので纏う雰囲気はぽやぽや嬉しそうなのは本人は無意識で。だがしかしそんなぽやぽやもいなくなる彼の学生時代のエピソードを聞けばウワァ……と分かりやすくその瞳は冷めていき。自分ももし彼にそんなふうに扱われたらと考えると背筋に霜が降りる心地がするけれど、大人になった今はそんな事ないんじゃないかなと一旦考え直し。「 さすがにその子が可哀想だよ…… 」と自分にとっては恋のライバルになるべきその女の子へ思わず同情してはふるふると首を振って静かに諭して。 )
あー…………、
…まあ、それまでの俺の教師生活の中でお前みたいな奴いなかったからな。
珍しかったんじゃね?
( 彼女と出会って数ヶ月ほど経った辺り、確かに友人との話題に出したような気もするが…まさかそれを本人にバラされてしまうとは何とも気恥ずかしいものがあって。照れ隠しに冷静を装ってはいるが、ついついグラスに口を付ける回数が増えてしまっていることできっと隠せてはいないだろう。『お前が個人のこと話題に出す方が俺からしたら珍しかったんだよなー。…つーか仕事の事とかそもそもあんまり話さねーじゃん。ね、御影ちゃん。逆に先生やってるこいつってどんな感じ?』片手で頬杖つきながら不満げに唇を尖らせて態とらしくむすっとしてます感を演出する友人。それに何処か既視感を覚える気がするなんてぼんやり考えていれば、その友人の興味の矛先は隣にいる教え子から存分に聞き出せそうだとにこにこ問い掛け始めるのを止められずに。ただでさえ普段から言葉足らずな時もあるのだが酒が入れば一層のことのようで。しかしきちんと意味が伝わったようで再びほんのり染まった頬に薄く微笑んで…いれば、ぺらぺらと友人の口から紡がれる過去の自分の失敗談(?)に彼女からも冷ややかな視線を頂くことになり。「……お、覚えてない…。」と苦々しそうに呟けば、『な!御影ちゃん聞いた!?司こーいうところあるからまじで!なのに何でモテるかなー、このデリカシー無さ男!』と楽しそうに笑う友人には放っとけとツッコむことしかできず。 )
普段のせんせー、…。
…………うーん…あっ!この間スポーツ大会頑張ってました!野球とバスケ!
( 自分が学校にいる彼しか知らないのと同じように、友人としての彼の面しか知らない友也さんに最もな質問を投げかけられてはウーン…と考え込むような仕草の後で最近で最も印象に強かったスポーツ大会を例に挙げて。だって格好良かったし、頑張ってたし、普段の彼とはちょっぴり違うかもしれないけれどそれでもみきとしてはとても印象深かったので。ご褒美のために頑張ってました、とはさすがに言えないのでそこは黙っているけれど。どうやら恋する乙女の一世一代を喉の渇きで一蹴したことすら彼は覚えていないらしく、今回に至っては残念ながら味方は出来ないと言わんばかりに友也さんの言葉にこくこく力強く頷いて。 「 そうだよ!告白ってすっごく勇気いるんだからね!もっと優しくだよ! 」と、実際のところ彼にそんな厳しく対応されたことは無いのだけれど─── ムード無い!と怒ったことは多々あるけれど ─── 親友である友也さんが言うのならばそうなのだろうと完全に今は友也さんサイドに着いてしまい。 )
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