ビギナーさん 2024-02-05 22:29:16 |
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安酒で悪いな。
(相手の分を開けて手渡した後、自分も同じ酒のプルタブを起こし1口啜り。人の騒々しさも皆無、厄介な連絡を寄越してくる携帯の電波も殆ど入らないこの静けさは、朽ちかけているとはいえ神の社だから為せる厳かさ故なのだろうか、その場所で、安い酒と外国産のナッツで酒盛りをするのは些か背徳的な。鼻をつくアルコールのツンとした刺激に、“大吟醸を?”?と言っていた相手の言葉を思い出し言い訳のように呟いて
…うん?ああ、別に構わないよ。
(手渡された酒を受け取り、物珍しそうにじっと眺めて─口を付ける。喉を焼くアルコールの風味を目を細め、縁側に一旦その容器を置いた。戯れ混じりに告げた言葉への謝罪を述べる樒に軽く手を振り─中身が気になるらしく、近付いて来た眷属の頭を撫でながら、指先で掬い上げた酒を彼の舌先へと持っていく。眷属は軽く舐めて味を確かめた途端、怯むように身を引き)
本当の神様相手ならもっと良い酒にしてたけど、
(ただの皮肉で返し酒を呷る、元々そう強くない癖にがぶがぶと酒豪のように杯を干して、それでいて嫌そうな顔のままでいるのはただの癖。「お前はこれにしな。」と首を引っ込めた蛇にピンク色の魚肉ソーセージを取り出し、小さめに折った分を近くに置いてやり。残りは自分の口元に運びながら、蛇とそれの化物と特売品の肴で酒盛りをするなんて数日前の自分が聞けば空想が過ぎてお笑い種であると半笑いを誰に向けるでもなく
…おや、気遣ってくれたんだね…有り難う。
(樒の皮肉など何処吹く風と言った風体で、酒に怯んで身を引いた眷属に、優しく微笑み掛けながら頭を撫でてやっていると─眷属の近くへ、何やら薄い桃色の肉片らしき物体が置かれる。彼は顔を近付け、様子を伺うように舌先を揺らした後、その肉片を丸呑みし─自身の肩へ這い上がってきたかと思えば、樒の方へ視線を向けながら語ってくれた。どうやら口に合ったらしく、擡げた鎌首をゆっくりと下げ、人間の"礼"じみた行動を取る。自身も彼の後に続き、穏やかに微笑みながら軽く会釈をして)
ツマミ買うついでだ。
(ゆっくりと頭を下げる蛇と榊にちらと一瞥をくれると、ソーセージを包んでいるフィルムを横着にも口でついと引っ張り下ろして。昼と夜の間を彩る空は曖昧な薄紫色、夏の青空の下の彼らも白くきらめいて見えたけれど薄暗くなるとその白がはっきりと際立って見える、咥えたフィルムがぷちりと千切れ、口の中に残ったビニル片に不愉快そうに顔を歪めて小さくそれが乗ったままの舌を出す、不本意ながらその様は蛇の真似事のようで
…うん…?何か付いているよ。
(僅かに瞳を伏せた後、再び酒を呷っていたが─ふと樒の方へ視線を向けると、何やら不快そうな表情で舌を突き出しているのが見えた。何をしているのか、と覗き込めば、自身のものよりも数段短いその舌には─良く分からぬ欠片が乗せられている。手を伸ばしてそれを摘み、しげしげと眺めた後、雑草の生えた地面へと乱雑に放って)
…行儀が悪い、
(フィルムの欠片を取ろうとしていた所に榊の透けるような赤の瞳がすっとこちらに近付いて、その赤を視認するのは初めてではないのに毎度一瞬思考が止まるのは何かの幻術か、指先の冷たい熱が舌に少し触れたかと思えば相手はそのままゴミをついと落としていて。眷属の蛇を世話してやる時のような距離感の近さは、人と触れ合わない毎日を送っている自分には少々刺激が強い、オマケにぞっとする程の美人であるし、と殆ど中身が無くなっているカップを傾けて
…後で小生が片付けるから、別に構わないよ。
(行儀が悪い、と評されても特に気にすることは無く、今しがた欠片を捨てた辺りの地面に目線を落とす。生い茂る雑草で隠れ、正確な位置は把握できないが─大方の目星を付け、再び視線を樒の方へと戻した。酒を呷る姿を横目に、自身の酒を一気に飲み干す。空になった容器を側に置き、薄暗くなってきた空を見上げ)
お前らの飼い主は屁理屈ばっかりだなあ。
(最後の一口分を、傍を這っていた蛇の近くにぽんと置いてやればそんな事を語りかけ、レジ袋の中身を全て出してしまうと手元のゴミをその中に突っ込んで。出てきたのは甘い酎ハイ缶2つとシェア用の小さいシュークリーム、べたべたに甘ったるい組み合わせのそれらは所謂最近を知らない榊が珍しがるだろうという考えと、甘党の自分の欲、二つの企みが半々
…おや、それは…?
(樒の言葉など相変わらずの何処吹く風、肉片を口にする眷属を眺めた後、樒の手元へ視線を投げた。其処には今しがた自身が口を付けたものと同じ形だが、少し小さな容器と─これまた奇妙な形をした菓子らしきものが放り出されている。眷属が不思議そうに首を傾げ、じっとそれを眺めるのに釣られたかのように問い掛けつつ、首を傾げて)
あー、外国のお菓子?
(買ったのは異国ではなく駅前のコンビニで、オマケに割引シールが貼られていた物であったがずっと昔の人間である相手には舶来菓子も同然であろうと適当な返事を。興味深そうに眺める彼らを意にも介せず乱雑に開封したそれを口に放り込む、香りの薄いカスタードクリームはじりじりと脳を焦がす程甘い、眉を顰める、それが好きでも嫌いでもすぐその表情を見せてしまう無自覚の悪い癖
…へえ、南蛮菓子なのかい。
(随分と小さなそれをまじまじと眺め、ひょいと指先で摘んでは─様々な角度から見分した後、樒の食べる仕草を真似るようにして、シュークリームを口の中へと放り投げた。薄い生地に歯を突き立てれば、途端に何やら甘ったるい匂いと味が、口の中に充満する。経験したことの無い甘さに少々目を見開きつつ、眉を顰める樒に向けて、緩やかに微笑み)
…ふむ、随分と甘いね。
食べたことないだろうと思ってな。
(南蛮菓子、と相手が使用した言葉に彼が人として暮らしていた時代は大体いつ頃以降か、と思慮を巡らせるも酒に浮ついた頭がそれを許す訳もなく、そんな事はどうでもいいかと、甘い味、色の酎ハイでその思考ごと流し込んで。現代に生きていると飽和する甘味に忘れそうになるが甘さは贅沢な毒だ、榊から漂う香りはこの卵色のクリームとどこか似ている、そんな彼が随分と甘い、と微笑むのでその皮肉につられて少し笑った
…まあ、甘味は久方振りだね。
(唇の端に付いたカスタードを親指で拭い、樒の笑みに釣られて更に表情を緩める。クリームが気になるらしい眷属に親指を向けてやれば、彼はそれを舐めた後─人間が眉を顰めるような仕草で身を引き、蜷局を巻いて膝の上に乗ってしまった。気に食わなかったかい、と笑えば彼は小さく首を縦に振って)
なら良かった、
(人に飼われている猫か何かのように膝で丸くなる蛇、遠くに聞こえる鳥の声、人間には持ち得ない神秘的な空気感を持つ男、それこそ神が住む世界に取り込まれたかのようで、手元の菓子の変わらぬ味だけが反対に違和感を発する異物のようだとも。酒は元々そんなに強くない、纏まらない思考がふわふわと頭を飛び回るのもそのせいだ、と柱に頭を凭せかけて
…おや、眠いのかい?布団を持ってこさせようか。
(柱に凭れ掛かった樒の姿にちらりと目線を投げ、眠そうな様子に気付いたらしい。膝の上で蜷局を巻いていた眷属に呼び掛ければ、眷属はずるずると膝から降りて童子の姿を取る。本殿の奥へと引っ込んでいくその背中を見送り、もう一つシュークリームを手に取って)
いや、流石に…
(空には薄いベール越しに頼りなく輝く月、雲が風に揺れる度に影が2人の元にさす、眠ってしまえばいい、と誘う相手の言葉に釣られたのかふわりと欠伸を見せて。夜の山道を降りて帰らないといけないというのに、ひとたびこのまま微睡んでしまえばずるずると朝まで寝入ってしまいそう、中身が残った酒の方ではなくリュックの中のぬるい水のペットボトルにぼんやりと口をつけて
…そうかい?…戻っておいで、
(シュークリームを口に含みつつ、樒の言葉を聞いて眷属を呼び戻す。軽い足音を立てて戻ってくる幼子─眷属を再び膝の上に乗せてやり、薄雲越しに輝く月を真っ直ぐに見つめた。月など既に見飽きた筈なのに、今宵の月は妙に美しく見えて)
…なんだよ、
(榊の膝に座り、じ、と大きな眼で此方を見つめてくる子どもの視線に、決して教育に良いとは言えないような鋭い目つきを送る、悪意はないのだけれど。ポケットから出した煙草をくわえてもその瞳は変わらず自分を捉えていたのでふっと煙を顔に吹きかければ、童のきっちり切り揃えられたような前髪がふわりと揺れて
…なんだよ、
(榊の膝に座り、じ、と大きな眼で此方を見つめてくる子どもの視線に、決して教育に良いとは言えないような鋭い目つきを送る、悪意はないのだけれど。ポケットから出した煙草をくわえてもその瞳は変わらず自分を捉えていたのでふっと煙を顔に吹きかければ、童のきっちり切り揃えられたような前髪がふわりと揺れて
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