通りすがりさん 2023-12-27 11:12:37 |
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【薫・クリフォード】
…ふう…お疲れ様。ありがとう、良い勝負だったよ。
(早朝。フェンシング部の朝練習を終えて防具を外し、対戦相手を務めた1年生の女生徒に爽やかな笑みを向けた。途端にはにかむ女生徒へ礼儀正しく頭を下げ、そのまま部室を後にする。─と、ふと部室の外から見える花壇の花に元気がないことに気が付いた。古い園芸倉庫から緑の如雨露を持ち出し、水を汲んできて─「おはよう、お嬢さん方」と声を掛けながら花壇に水を遣る。朝日に照らされた金糸のブロンドヘアが輝き、朝の冷えた空気も相俟ってか、どこか現実感のない─絵画のような光景が広がっていて)
【葵依】
……ようやっと出られた。
(朱の剥げて傾いた鳥居の奥の奥─扉部分に数え切れない程の札が貼られた、一際酷く朽ち果てた本殿が、その中からガタガタと微かな音を立てる。少しの間その音が鳴り響き、やがてぴたりと収まった後─然程大きくは無いが、良く通るその声が境内中に響いた。破壊された本殿の中からぬう、と姿を見せたのは─顔に薄布を張った、半ば引き摺る程長い黒髪で、赤黒く変色した包帯が幾重にも巻かれた右腕を持つ─異型の大柄な男。彼は着物に付いた埃を払うような所作を見せた後、ゆっくりと足を踏み出し、鳥居の方へと向かって歩き出し)
【 妃 硝華 】
─── 薫 ?
( さて学校について園芸倉庫に入れば、1つ如雨露が見つからない。誰かが使っているのだろうか、なんて首を捻りながら1つ如雨露を手に取り水を組めば何の気なしに花壇へと歩を進め。─── ふと視線をあげれば、そこには朝の光にキラキラと光る美しい金の絹糸の髪と彫刻のような横顔の美男…否、幼なじみの彼女が花壇に水をやっており。ぱち、と長いまつ毛に囲われたエメラルドを丸くしてはぽろりと彼女の名前を零し。「 お早う、水をあげてくれてたのね。有難う。 」ふわり、と花がほころぶように微笑めば如雨露を両手で丁寧に持ちつつ彼女の元へ歩み寄り。 )
【 椿 】
……どうして私はこう、思っていることと全く違うことを言ってしまうのかしら。
( 椿は鳥居の下にすとん、と腰を下ろしては体育座りをし、いつもの凛と咲く花のような様子とは一転、小さくか細い声で言葉を零してはまた1つ花のため息を吐いて。?──── と、その瞬間。社…本殿の方から何かもの音が聞こえたような気がしてふと顔を上げるもやはりこの神社には自分以外の人間がいるわけでもなく、椿は何だったのかしらと首を捻りながらまた膝に顎をとん、と乗せながら悩ましげに眉をひそめて。「 ……もっと素直になれたらいいのに、 」小さく小さく呟いた言葉は誰に届くわけでもなく、美しく磨かれたローファーの上にぽとりと落ちて。 )
【薫・クリフォード】
やあ、硝華。今日も相変わらず美しいね。キミが来ると、彼女たちの美しさが霞んでしまうよ。
(花壇に水を遣っていると、背中から鈴を鳴らしたような柔らかい声が聞こえた。声の方を振り向けば、そこには─エメラルドの瞳に柔らかな髪をハーフアップにまとめた幼馴染が立っている。空になった如雨露を持ち上げ、後ろで水を滴らせて輝く花々に勝るとも劣らない爽やかな笑みを浮かべ、彼女の方へ歩み寄った。その白魚のような手を取り、歯の浮くような台詞を吐いてから─手の甲へと軽く口付けを落として)
【葵依】
……おや、ひとの子…珍しいな。
(彼が歩く度に長く伸ばされた黒髪が地面に擦れ、まばらに敷き詰められた玉砂利をざり、と鳴らす。─永久を生きる彼にとっては刹那の間であるが─数百年の封印を経て、漸く彼を封印していた一族は子々孫々に至るまで死に絶えた。久方振りに見る鳥居の下には見慣れない服装の少女─彼を封印していた一族ではない、正真正銘の「ひとの子」が何やら座り込んでいる。小さく呟いた後、薄布の下で楽しげに微笑んだ彼は音も無く彼女の背後へ歩み寄り、その肩にぽん、と手を置いて─「…こんにちは、お嬢さん。こんな寂れた神社に、何かご用かな?」と柔らかく声を掛け)
【 妃 硝華 】
まあ。うふふ、有難う。
( するり、と彼女のしなやかな手にそっと手を取られてはそのまま手の甲に薄く美しい形の唇が落とされる。此方を見つめる彼女のヘーゼル色の瞳は爽やかな朝の陽にきらりと光っており、背後の花壇の花々たちよりも華々しい笑顔はそれだけで女子生徒たちが卒倒してしまうほどだろう。だが幼馴染である硝華は慣れたように、まるでドレスを着た淑女のように軽く膝を曲げてそのキスを受け入れて。彼女の影響で自分も自己流ながらイギリス流の淑女のマナーを頭に叩き込んでいた幼少期が懐かしい。硝華はふわ、と柔らかく微笑めば「 貴方もとっても素敵。朝露に光る薔薇みたいだわ。 」と自分よりも幾分か背の高い彼女を見つめながら甘ったるい砂糖がたっぷり入ったはちみつの紅茶のような声でそっと囁くように言葉を交わして。 )
【 椿 】
っひゃあ、!
( そろそろ家に帰った方が良いかもしれない、否でも、なんて自分の中で毒にも薬にもならない自問自答を繰り返していればふと肩に乗せられた手の感覚と鼓膜を震わす不思議な音の柔らかいテノールに思わず可愛らしい悲鳴をひとつ漏らして。パッ、と名前と同じ椿色の唇をちいちゃな両手で隠しながら立ち上がりつつ後ろを振り向けば、そこには人ならざる神秘な雰囲気を持つ、顔を黒の薄布で隠した男性の姿。ばくばくと五月蝿い心臓の音をBGMに「 あ、あなたは誰。突然女性に触れるなんて失礼だわ。 」と不安ではち切れそうな心を隠すためか無意識に何時ものように強がって突っぱねるような言葉を。だがしかしその瞬間〝若しかしたらこの神社の人かも〟とふと考えれば「 ぁ、……いいえ、ごめんなさい、ええと…参拝、に来たの。 」と先程の強気な蘇芳はしゅ、と身を潜め不安げに眉を寄せながら小さな声で答えて。 )
【薫・クリフォード】
ははっ、やっぱりキミには敵わないね。…でも、そんなところも素敵だよ。
(自身を讃える甘い囁きにも爽やかに微笑み返し、尚も歯の浮くような台詞を─形が良く、肉の薄いその唇から吐き出す。ふと鳴り響く涼やかな─始業間近を知らせるベルの音に顔を上げ、如雨露を置いた片手を自身の胸に当て─まるで紳士のように軽く一礼した後、「それじゃあ…行こうか、僕のお姫様。」と取ったままだった手を優しく引き、エスコートするように歩き出した。登校してきた生徒たちは二人の姿を見て黄色い声を上げ、燥ぐような声で挨拶をし)
【葵依】
…おや、参拝…。─主も居ない、此処にかい?
(肩に手を置くと仔猫のように可愛らしい悲鳴を上げて驚き、慣れぬ威嚇のように突っぱねる言葉を吐く様子が─酷く愛おしくて、堪らない。矢張り、幾年経っても「ひと」と云うのは愛おしいものだ─何故か不安げに縮こまってしまった彼女の言葉に彼は首を傾げ、薄布に包まれた顔を近付けながら─柔らかな声でそう問うた。事実、この神社には主たる神など居ない。此処は彼を封じる為、神封じの一族が作り上げた"牢獄"だ。彼の力を封じる為本殿には札が貼られ、鳥居にも封印の文言が刻まれた注連縄が張り巡らされている。ふと、彼は布の下で少し自虐めいた笑みを浮かべて)
【 妃 硝華 】
─── えぇ、私の王子様。
( 恭しく此方に一礼をする姿はまるで物語に出てくる王子様そのもの。ブラウンダイヤモンドのように輝くその両の瞳に自分だけが写っている事がなにだかとても嬉しくて胸がそわそわとざわめく感覚がするが、そんな女々しい感情に蓋をして綺麗にラッピングをすれば王子様の横に立つに相応しいお姫様の姿になる。彼女のエスコートに身を委ねながら歩けば周りの生徒たちからは黄色い声や草花がざわめくような羨望の眼差しが向けられる。…男女関係なく、だ。最も女子生徒たちの視線は自身をエスコートしている麗人に向けられているものがほとんどなのだが。硝華は其方へにこ、と微笑んで軽く手を振れば隣の王子様にそっと唇を寄せて「 …妬いちゃうわ。 」なんて小さな声で囁いてはむ、とさくらんぼ色の唇を軽く尖らせて。 )
【 椿 】
っ、…いいの。ここが好きなの、私。
( ふ、と薄布に包まれた顔を近づけられればそれとおんなじ距離だけ彼から距離を取りながら椿は上記を答え。薄布の向こうから紡がれる言葉は何処までも柔らかく、そうして人ではないような不思議で神秘的な音でするりと椿の胸の中に入ってくる感覚にふい、とそっぽを向けば高い位置で結ばれたポニーテールがサラリと揺れて、音もなく肩に落ちる。「 どんな神様がいてもいいの、……静かで、私以外誰も居ないから。 」幾ら古き良き伝統のある家の者だからと言っても椿は古い文字が読めないが、それでも此処があまり〝良いモノが祀られている〟とは言えないのは何となくわかっていた。だがそれでも誰も居ない空間というのはつまり誰にも悪態をつかなくて良いということである為、1人になりたい時は必ずここを訪れていたのだ。だが。「 そもそも!貴方だって参拝じゃなければどうしてここにいるの?神主さん…は今まで見た事ないし、主がいないだなんてわからないじゃない。 」 む、と椿色の唇をツンととがらせながら蘇芳の瞳を薄布の向こうの瞳に向けてはまるで自分の家かのように此方へ問いかけた彼の素性が知れずに警戒を隠すことなく眉をひそめて。 )
【薫・クリフォード】
拗ねないでくれ、僕のお姫様。…今の僕には、キミしか見えていないから。…ね?
(他の生徒たちからの波がさざめくような挨拶に爽やかな微笑みを向ければ、途端に顔を赤らめた女生徒達が黄色い悲鳴を上げる。何やら唇を尖らせ、少し拗ねてしまった様子の"お姫様"の腰を抱いて自身の方へぐいと引き寄せ、耳元で優しくそう囁いた。言葉通り「彼」の瞳は真っ直ぐに彼女だけを見据え、優しい光を宿していて)
【葵依】
…俺かい?…俺はね、長い間─ずうっと此処に閉じ込められていたのさ。だから、主が居ない事は知っているんだ。
(彼は薄布越しに金色の瞳をきゅうと細め、少女の蘇芳色をした瞳をじっと見つめ返す。─赤黒い包帯が幾重にも巻き付けられた異型の腕が、ズキリと鈍く疼いた。吹き抜ける生温い風に彼の黒髪がさらりと揺れ、明らかに「ひと」のモノでは無い─尖った耳と、その輪郭を這い回るように浮かび上がる、赤い呪術的な文様が微かに見える。彼は自身より小柄な少女と目線を合わせる為に少し膝を屈め、じい、とその顔を更に覗き込んで)
…時に、お嬢さん。名前は何と言うのかな?
【 妃 硝華 】
、……ふふ。許すわ。
( 決して強い力ではないのに、不思議と体は〝彼〟 の手に寄って引き寄せられふと先程よりもずっと距離が近くなる。ぱち、と硝華はエメラルドを1度だけ大きく丸くした後に彼女にしか見せないようなふにゃりとした花が綻ぶ微笑みを浮かべれば、目の前の琥珀の瞳がよく見えるようにするりと白く美しい頬に両手を添えながら愛おしく大切なものを見るとろりと蕩けた瞳で目線を絡めて上記をそっと囁いて。そうすれば周りの女子生徒からきゃあ、とさらに黄色い声が上がり男子生徒からは羨望の視線が強くなるが硝華はそれを気にすることなく自分だけを映している美しいふたつの宝石を見て満足気に目を細めればそっと頬に触れていた手を離しつつ「 愛しの王子様の瞳には確かに私しか映ってなかったもの。 」と口元に手を添えて笑い。 )
【 椿 】
─── 閉じ込め、られていた……?それって、
( どういう意味、そう口を開こうとした椿の瞳に入ってきたのは二人の間を駆け抜けた生ぬるい風に吹かれた際にふと顕になった彼の人ならざる耳と、それからその輪郭を蛇のように這ったナニかの呪言の書かれた紋様。ぞわり、と粟肌の経つ感覚がして、先程までは全く感じなかった空気すらもどこかひんやりと冷えたような気すらする。だがしかしふしぎと目の前の彼から厭な気配がすることはなく、嗚呼人では無いのかもしれない、だなんてどこか冷静に自分の中で考えがすとんと落ち着いたのか此方を恐らく見つめているのであろう薄布にぱちぱちと瞬きを繰り返せば「 ……つ、つばき、椿よ。 」と驚きゆえに舌っ足らずの子どものようにたどたどしく答えて。 )
【薫・クリフォード】
…だろう?
(「彼」は美しい微笑みと共に"お姫様"から頬に手を添えられても柔らかく微笑み返すだけで、宝石のような双眸を愛おしそうにきゅう、と細めた。─そうこうしている内にエスコートは終わり、"お姫様"と「彼」の教室へと到着する。お互いの座る席へお互いを案内し、腰へ回していた手がふと離れた。「さて…キミと離れるのは名残惜しいけれど、少しお別れだ。…授業の時間さ。」手を離した後に軽く一礼し、「彼」は自身の座る席へと腰を下ろして)
【葵依】
…椿か…とても美しい名だね。お嬢さんに良く似合っているよ。
(彼は風に揺れた黒髪に気付けば優雅な所作で元の位置へ戻し、眼の前の少女─"椿"と言うらしい─名を聞くとゆっくりと顔を上げ、薄布越しに微笑んだ。それから少し後、少女に名を聞いておいて自身は名乗っていないことに気付いたらしく、少し考え込むような素振りを見せる。はて、自身の名は一体何だったか─浅緋…と言っただろうか。違う、それは友人の名だ。長らく封印されていた所為か、記憶が曖昧だ─首を捻って考え込んだ後漸く自身の名を思い出したらしく、少女を真っ直ぐに見据えて口を開き)
─俺は、葵依と云う。ただ随分長い間、そう呼ぶ「ひと」の子は居なかったものでね─危うく忘れるところだった。
【 妃 硝華 】
ふふ。えぇ、エスコート有難う。また後でね。
( エスコートの最後まで紳士然とした丁寧さで王子様の優しい手から離れて自分の席へと落ち着けては、息をするように自然な動作で頭を下げる〝彼〟へとふわりと微笑んで手を振って。相も変わらず、1秒たりとて王子では無い瞬間が存在しない我が幼馴染にいつものことながら本当に尊敬してしまう。…否、存在しないと言うよりは、〝彼〟自身の本質が其れなのだろう。顔には出ないようになったけれど内心はいつもどきどきときめいて止まないのだ、硝華は嬉しさ半分困った半分の笑みをこっそりと零せば授業の準備をしつつ早く放課後にならないかしら、なんて我儘なお姫様のようにこっそり思案して。─── 無事に全ての授業が終わり、授業の途中に返された小テストは無論満点だったし体力測定の結果も上々、いつものように完璧な淑女で居られたはずだと安堵の息を吐いてはサテ帰ろうとふと外を見れば雲行きが怪しく、暗雲が広がり始めている空を見ては不安げに眉を下げて。 )
【 椿 】
なっ、……からかわないで!
( ふわりと風で拡がった鴉の濡れ羽色の髪は、絹糸のように繊細で、美しい。思わず其れに目線を奪われた後にするりと耳に届いた彼の言葉にぱっと頬に朱を散らしては照れ隠しなのだろう言葉を一言。きゃんきゃんと鳴く姿は警戒心の強い小動物のようだが、椿はつん!とそっぽを向いた後に心の奥底では〝また…!〟と自身の行いに頭を抱えて。すると、暫く沈黙していた彼から告げられた名前に大きな蘇芳を丸くしては「 ─── 葵依。…勿体ないわ、素敵な名前なのに忘れるだなんて。 」とその鈴のような声でころころと笑って彼の名前を繰り返し。名前を忘れるだなんて、彼はどれほどの長い年月ここに一人ぼっちだったのだろうか。反対を返せば、彼の名前を呼ぶヒトの子は〝以前はいた〟ということだ。だがしかしヒトとそうでないモノの寿命の差を考えれば─── …椿はそこまで考えて、屹度此方を見つめているであろう黒布の向こうの彼と目線を絡めては「 じゃあその分、私が葵依を呼んであげるわ。忘れないように。 」と椿の花のようにぱっと美しく微笑んでみせて。 )
【薫・クリフォード】
キミの気持ちは嬉しいよ、でも…ごめんね?でも、安心して。キミはこんなに美しいんだ、きっと僕より良いお相手が見つかるさ。
(授業終わりの放課後、さて"お姫様"を迎えに行こう─としたところで、顔を赤らめた女生徒に階段の踊り場へ呼び出されてしまう。嫌な顔一つせずその女生徒に着いていけば、どうやら彼女は「彼」のことが好きなようで─私じゃ妃先輩には敵いませんが、と前置きをしてからお願いします、と頭を下げた。「彼」はその辿々しい告白を静かに聞いた後、困ったような笑顔で首を横に振る。ですよね、分かってましたと強がって立ち去ろうとする女生徒を呼び止め─長い黒髪にキスをした。再び顔を赤くしたその女生徒を門の前まで送り、自身は"お姫様"を迎えに戻って)
すまない、待たせたかな?
【葵依】
それはそれは…嬉しいことだ。─有り難う。
(彼は椿、と名乗った少女の言葉に目を丸くし、何度かぱちぱちと目を瞬く。彼の名を呼んでいた「ひと」の子など、神封じの一族程度─それも、儀式の上での形式上のもの。眼の前の少女のように柔らかな声で呼ぶ者など居なかった。少しの間を置いて酷く愛おしげな笑みを口元に湛え、深々と頭を下げた。ふと彼が顔を上げると、空は半ば夕闇に染まり始めている。彼の髪と同じ色をした烏が鳴きながらぐるぐると神社の上空を回り、木々とは異なる「ひと」ならざるモノ達のざわめき声が彼の耳に届いた。彼は長い間の幽閉で痩せ細った生白い手を伸ばし、少女を呼んで首を傾げ)
…もう夕暮れだ、お嬢さん。一人で帰るのは心細いだろう─俺が麓まで送っていくよ。
【 妃 硝華 】
─── 、いいえ。少し考え事をしていたから、待ってないわ。
( そういえば、高校に上がってから視線や思いを伝える手紙こそ下駄箱に入っていたりすることはあれど告白される機会がめっきりと減った。男性が怖い硝華にとっては願ってもいないことだが、中学生の時にあんなに毎日のように呼び出されていたのに一体どういう変化なのだろう。そんなことをぼんやり考えていれば、ふと自身にかけられた優しい王子の声で思考の海から意識を上げて。にこ、と穏やかな笑顔を返しながらふるりと首を横に振れば「 もう用事は良かったの? 」と、先程まで暗雲の広がる空に不安だった気持ちもすっかり忘れて立ち上がれば、まぁ恐らく用事というのは告白だろうということは前提として〝彼〟に問い掛けて。 )
【 椿 】
、…………あ、有難う……?
( 彼の視線 ─── その瞳は黒布に覆われて見られないけれど ─── を追ってふと空を見上げると、空はもうすっかり夕闇のカーテンを閉めようとしている頃。烏たちはもう帰れと言わんばかりに鳴きつつ頭上を舞い、風がざあざあと木々たちを謳わせる。もうこんな時間、なんて目を丸くしていれば、こちらに伸ばされた彼の今にも折れてしまいそうな白い手に戸惑いながらもちいちゃな手を重ねては、キュ、と困惑したように眉を寄せて。手首などは女の人みたいに細いのに、やはり触ると自分の手なんてすっぽりと覆われてしまうような大きな男の人の掌はヒトじゃないということを差し引いても椿があまり触れたことの無い感触で。「 ……でも私、もう18歳よ。一人で帰るのに寂しいなんて歳じゃないわ。 」なんてつん、と椿色の唇を尖らせてはまるで幼子のように自分を扱う彼に不満げに言葉を零して。 )
【薫・クリフォード】
そうかい?なら良かった。…レディを待たせてしまうなんて、紳士失格だね。
(穏やかな笑顔で待っていないと首を振る"お姫様"に眉を下げ、少しばかり申し訳無さそうな表情を浮かべる。彼女の手を引いて歩き出す直前─用事は終わったのか、と尋ねられれば爽やかな笑顔に戻って頷き、再び腰に手を回して優雅に"お姫様"のエスコートを始めた。あらゆる生徒の羨望の眼差しを一身に浴びながら校門を出─とうとう降り出した、ポツポツと髪を濡らす雨にも動揺すること無く折り畳み傘を取り出し、"お姫様"が濡れないよう彼女の方へと傘を傾けて)
【葵依】
…すまないね、お嬢さんが可愛らしいもので…つい子供扱いをしてしまったよ。
(笑い声を上げながら少女の華奢な手を軽く握り、彼は古びた石段を一段一段確かめるようにして降りていく。絶えずざわめく「ひと」ならざるモノは少女を先導する彼の気配に怯え、そのざわめきは次第に遠ざかっていった。麓まで降りる時には耳が痛いほどの静寂が辺りを包み、烏の鳴き声もぴたりと聞こえなくなる。彼は麓で少女の手を離し、柔らかな声で別れを告げ)
…久方振りに「ひと」と話せて楽しかったよ、お嬢さん。嫌で無かったなら─またおいで。
【 妃 硝華 】
─── まぁ。だめよ、薫。風邪を引いちゃうわ。
( 今にも雷鳴が轟きそうな曇り空。硝華の苦手なものの一つである其れがいつ鳴るのかと不安げに一瞬眉を下げたものの、此処は外だと思い出せばその表情はすぐに淑女の面に変わる。だが、とうとう涙を流し始めた空に慌てることなく颯爽と傘を取りだしてくれた〝彼〟に有難う、とお礼を言いながら其方へ顔を向けては雨に濡れないように傘をこちらに傾けていることに気付く。いくら紳士然とした王子様だからといっても雨に濡れたら屹度風邪をひいてしまう、と硝華はぱちり、と大きな瞳をまんまるにしたあとにそっと傘の柄を持つ手に自身の手を添えて傘を真っ直ぐに直して。「 雷よりも、貴方に風邪をひかせてしまう方が怖いの。 」と〝彼〟の手を包み込むように両の手でそっと握っては、鳴り出しそうな雷に不安な気持ちを滲ませたエメラルドでじっと見つめて。 )
【 椿 】
─── ね、葵依。貴方、花は好き?
( 今日は金曜日。明日は奇遇にも華道の用事はないから、またこの社に来ることが出来るだろう。まだまだ彼のことは分からないことばかり、今までこんなふうに誰かを深く知りたいと思った事がない為か少々不思議な気持ちになりつつもするりと離された手はなぜだか繋いでいた時よりもひんやりと冷たく寂しく感じ、椿はその手持ち無沙汰を誤魔化すようにぎゅ、と拳を握る。椿は数歩だけ彼から離れれば彼と同じくさらりとした黒髪を揺らしながら振り向いてはふとそんな質問を。「 …深い意味は無いけれど!なんとなくよ! 」とまた可愛くない一言を付け足せば、どうなの、と言いたげな強請るような瞳で彼の黒布をじっと見つめて。 )
【薫・クリフォード】
…おや、そうかい?ならば…お言葉に甘えるとしようか。
(不安げに自身を見上げるエメラルドを安心させるように微笑み、戻された傘を持ち直す。空いた片手で─鉛色の空からいつ降りてくるとも知れない雷鳴に怯える"お姫様"の頭を自身の胸辺りへ抱き寄せ、「僕に凭れていると良い。少しはマシだろう?」と優しく囁き)
【葵依】
─花、かい?そうだな…好きだよ。美しいものは特にね。
(そのまま帰るか─と思っていれば、唐突に振り返った少女から投げられた問い。それに少しばかり面食らいつつも、彼は顎に手を当てて考え込み─微笑んだ後、眼の前の少女への愛おしさを含んだ柔らかい声で答えた。答えた後は踵を返し、彼の封印されていた場所─山奥の社へと帰っていく。─数百年の間封印されていた彼には、忌まわしい場所とは言え─此処しか、帰る場所は無い。怪異のざわめきを退けるようにして、朽ち果てた本殿の中へと姿を消し)
【 妃 硝華 】
!……。
( 何時から分かっていたのだろう。〝彼〟の優しい手にふと引き寄せられれば、そのままぽすりとその胸元に収まって。ぱちぱち、と瞬きを繰り返した後にそれに甘えるようにそっと彼の服を軽く指先で掴めば「 ……バレちゃってたの、? 」と普段のふわふわとしたお姫様然とした喋り方ではない、不安にまみれた幼い女の子のようなころりとした小さな声でそっと問いかけて。〝彼〟の香りいっぱいに包まれた途端、遠くに聞こえたゴロゴロという小さな雷鳴は気にならなくなったのは、きっと彼しか使えない魔法なのだろう。王子だけでなく魔法まで使えるとは、一体どれだけ自分の─── お姫様の心を掴めば気が済むのだろう。 )
【 椿 】
─── お邪魔します。
( 翌日。いつも通りのお気に入りの和服に身を包み、髪もまとめて、それから両手いっぱいの花を抱えて。鈴の転がるような声でそう零しながら鳥居をくぐれば朽ちかけている本殿の方へちらりと目線をやり、今日はいるかしらなんて首を傾げる。ダリアを基調とした赤色の多い花束。これらは満開すぎて華道では使えなかったものたちなので、花束としては今が見頃なものだ。これならば寂しいこの本殿も少しは明るくなるだろう、と花に目線を落としては「 …葵依? 」と奥の方へと声をかけて。 )
【薫・クリフォード】
キミのことなら何でも分かるさ、僕の…"お姫様"だからね。
(幼く小さな声に優しく微笑み、彼女の耳元に掛かった後れ毛をしなやかな指先で払う。"お姫様"の不安を掻き消すように彼女の前髪を掻き上げ、その陶器のような額に軽くキスを落とした。ゴロゴロと響く雷鳴の中、「彼」は"お姫様"を抱き寄せたまま─彼女を自宅までエスコートして)
【葵依】
─やあ。どうかしたのかな、お嬢さん。
(彼を彼たらしめる、紅く染まった異型の腕を眺めていると─入口から昨日の少女の声が聞こえてくる。彼は赤黒い包帯を幾重にも巻き直し、本殿へと足を踏み出した。薄布の下には柔らかな笑みを浮かべ、ゆったりとした足取りで少女に近付く。と、少女の手に花束が握られていることに気が付いたらしく─不思議そうに首を傾げて)
…綺麗な花だね。くれるのかい?
【 妃 硝華 】
─── …貴方が私の王子様でしあわせだわ。
( 額に柔らかな唇の感触が落ちて、それから何時もならば不安で仕方のない不機嫌な雷様の声をBGMに自宅へとエスコートされる。先程までの不安でいっぱいな心はいつのまにか柔らかく暖かな気持ちに変わり、いつこちらに大きな雷鳴を轟かすか分からない状況なのに不思議と恐怖心はない。あっという間に家に着いてしまったものの、残念なことに両親は不在。わふ!と自身の〝彼〟の帰宅を喜ぶ愛犬の頭をわしゃりと撫でては、大好きな愛犬と大好きな幼馴染がいる家に帰ってきたことにほっと息をつき「 送ってくれてありがとう、薫。……寒くない?濡れてない? 」と不安げにエメラルドグリーンの瞳を揺らしては〝彼〟が濡れていないか確かめるようにそっと頬に手を当てて。 )
【 椿 】
ええ、そうよ。
だって此処に独りだなんてあまりにも……寂しい。
( 昨日と同じように自分の前に姿を現してくれた彼にぱ、と一瞬表情を明るくさせたあとにいつもの凛とした表情に戻り。それから自身の手に持った花束に視線を落とせばゆっくりと彼に近付いてヒトならざるその手にそっと其れを握らせればぽつりぽつりと言葉を落として。「 これはね、ダリア。花言葉は華麗、栄華。それからこれは─── …。 」と花たちの花言葉や名前を説明していけば、ふと花束から視線を上げてはぱっと花に負けない笑顔を浮かべて「 素敵でしょう? 」と黒布の向こうの彼の瞳に微笑みかけ。 )
【薫・クリフォード】
ああ、大丈夫さ。それじゃ、風邪を引かないように─暖かくして過ごすんだよ。
(心配する瞳に微笑んで答え、ひらりと手を振って踵を返す。そのまま帰路に着き、両親の待つ自宅へと到着した。「只今帰りました」と爽やかに微笑めば、リビングで寛ぐ両親も優しい笑顔で「彼」を出迎える。荷物を自室へ置き、両親の間へと腰を下ろして)
【葵依】
…ああ、とても素敵だ。有り難う。
(されるがままに花束を握らされ、ふんふん、と少女の語る花言葉を興味深そうに頷きながら聞いていたが、微笑む少女に釣られたかのように─彼の表情も薄布越しに緩んだ。一陣の風が二人の隙間を吹き抜け、彼の顔を覆う薄布を少しばかり捲り上げる。形の良い唇がしなやかな弧を描いているのが見て取れ、その横にも耳と同じ赤い文様が浮かび上がっていた。風が止まった後は─再び布は彼の顔を覆い隠しており)
【 妃 硝華 】
─── っ、きゃ、
( 〝彼〟に家まで送って貰って暫く。段々と近く大きくなる雷鳴に小さく悲鳴をあげれば愛犬であるこたろうをぎゅっと抱きしめてそれらに耐える。先程はやはり〝彼〟が近くにいたから不安の花が咲かなかっただけで、近くに彼がいないだけで魔法が切れてしまったかのように花たちは硝華の心に咲き溢れてしまう。ここにほかの第三者がいるのであれば硝華もいつものようににこにこと穏やかなお姫様の仮面を被っていられたのに、誰も見ていないこの部屋では去勢を貼ることすらままならない。「 …薫、 」と小さく呟いた王子様の名前はひとりと1匹だけの部屋に混じっては消えて。 )
【 椿 】
─── 、。
( 吹き抜けた一陣の風に、今まで自分と彼の目の前にあった黒布が揺れる。ひらりとめくれ上がった黒布の先には優しげに口角の上がった薄い唇と自分と何ら変わりのない色の肌。てっきりお顔が無いんだとか、真っ黒なんだとか、怖い話でよく見るそれらを想像していた椿はきょとん、と思わず瞳を丸くして風がやんだ今いつものように彼の顔を覆う黒布をじっと見つめて。「 …ねぇ、どうしていつも顔を隠しているの?…なにか怖いことでもあるの?目を見たら何かある、とか。 」とこてりと首を傾げればそれと一緒に自身の黒髪を彩る簪がしゃらりと音を立てて揺れて。 )
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