検索 2022-07-09 20:46:55 |
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フィリップのいれるコーヒーは私も自信を持ってオススメさせていただいております。こちらのコーヒーに合わせるならミルフィーユかチーズケーキがオススメですがお嬢様のお好きなものを選ぶのが一番です
(心強い援軍を得たならばやることは変わらない、オーダーにコーヒーが含まれていればまた二人で一人の執事の出番だ。相手が裏へ行っている間に二人が今日だけの特別な出勤であくまでも執事らしく接客するスタンスであるのを説明すればお嬢様方からの反応はなかなか好感触なものだった。別のテーブルからは時折黄色い声が相変わらず上がるがそちらのテーブルとはまた一線を画す優雅な雰囲気をこちらは保っている。お嬢様方が努めて上品さを保ってくれているおかげだろう、こちらもやりやすい限りだ。相手がコーヒーのセットを持ってくれば役割分担が決められてコーヒーを相手に任せてこちらはお嬢様と会話しながらケーキを給仕していく。その間にもさりげなく道具を片付けたりコーヒーがいれ終わりそうなタイミングとカップを用意したりと二人で流れるように阿吽の呼吸でコーヒーセットの準備を進めていく。すると相手が最初についていた新規のお嬢様達のテーブルの二人がまたじっとこちらを見ていたようで『私やっぱりツーショット欲しいから薔薇渡す!』と宣言するのが聞こえた。それを聞きつけた接客中のお嬢様方も『ツーショットなんて珍しいものがあるの?』とこちらへ目を向ける。コーヒーを入れられたカップをお嬢様の元に置きながら「私達はひとりでは未熟の臨時執事ですので、本日は二人で一人の執事としてお仕えさせていただいております」と相手の言葉を借りて返事をすれば『確かにこれを見せられたらツーショットが欲しくなるわね』とお嬢様方は頷きあって、給仕が終わったタイミングで先程の注文分の薔薇全て、相手とこちらにそれぞれ二本ずつが一気に差し出されて)
お嬢様の為に特別なコーヒーをご用意致しました、是非お召し上がりください。 …良いのですか?
(相手の説明のおかげでテーブルには優雅で温かな空気が満ちていて早速役割分担で給仕を始める。相手がお嬢様の希望を聞いてケーキを皿に乗せていくがその間もコーヒーが淹れやすいように道具の位置を変えてくれたり用意してくれるおかげで集中が出来る。丁寧に抽出している間ツーショットの話題がお嬢様の間で広がり、相手が二人で一人の執事だと口にすれば口角が上がった。自分がカップに綺麗な色に仕上がったコーヒーを注ぎ、相手がお嬢様の前に運ぶと簡単に道具を纏めてからその横に並ぶ。すっかり普段は撮られないツーショットがブロマイドの当たりのような役割になっていることに照れ臭さを覚えるが二人のコンビを認めてくれてると思えば悪くない。柔らかな笑みと共にコーヒーを勧めるとお嬢様からはそれぞれ二本ずつ薔薇が差し出されて目を瞬かせる。思わず薔薇とお嬢様を交互に見るが『良いのよ、とても良い物を見せてくれた気持ちだから』と言われると相手の方をちらり顔を合わせてから「ありがとうございます、とても嬉しいです。」と言って薔薇を受け取った。お返しにブロマイドをそれぞれ渡せばツーショットが入っていて喜ぶお嬢様や自分と相手の物が一枚ずつあって満足するお嬢様も居てその様子を少し照れくさい気持ちもありながら見守っていた。その反応やブロマイドの内容がきっかけになったのか給仕が終われば直ぐに違うところからベルが鳴るようになり、オーダーされた物を運ぶと薔薇を送られる事が続いて)
(/お話の途中失礼します。執事を堪能しているところですがこちらはある程度やりたい事が出来ましたので探偵様の方もやり残しが無ければ営業終了近くに飛ばしそうかと思うのですがいかがでしょうか。勿論他にやりたい事があればそちらを行ってからで全然構いませんのでお好きに進めて貰えたらと思います…!)
ありがとうございます、お嬢様。お嬢様の想いが籠ったこの一輪、大切にさせていただきます
(一気に二人で四本の薔薇を差し出されれば互いに目を合わせて薔薇を受け取る、先程荒木が大量に薔薇を貰っていたが自分達もそれに匹敵するほどの量を貰えている。薔薇は随時回収されていくため総合数は分からないがおそらく薔薇の数は僅差のはずだ。相手に続いて礼を言って開封されていくブロマイドにはやはり気恥しい思いをしながら見守った後、またそれぞれ別のテーブルへと呼ばれて執事としてご主人様に仕えていく。最初の目論見通り夏目派と新規層を上手く取り込めていてホールで薔薇が飛び交う頻度は高くなっていったが二人できっちり数を稼いでいた。またベルが鳴って顔をあげれば一番奥のテーブルのご主人様が呼んでいてそちらへ対応へ向かう。その間も荒木は相変わらず固定客にベタベタと触っては薔薇を貰っていたが、次にターゲットに定めたのは先程相手の手を握ってきたお嬢様だった。空になった彼女のグラスにワインを注いだあとテーブルの上に置かれた手を握る、そして相手が近くに来たタイミングを見計らって『私は先程の無礼な執事と違ってこの手を決して離しません。お嬢様のお望みを叶えるのが我々執事の役目ですから』と言えばお嬢様はチラリと相手の方を見つつ『そうねぇ…やっぱり私の願いを叶えてくれるのが一番よね』と戸惑いながらも荒木を肯定する。荒木は勝ち誇ったように笑えば『なんなら先程彼に渡した薔薇を私に渡していただいてもいいんですよ?』と薔薇を奪おうとお嬢様を唆し始めて)
(/お世話になっております!荒木との直接対決的なものをやりたいなと思っておりましてもうひとくだりだけお付き合いいただければ幸いです。これが終わればこちらもやりたいことは全部ですので営業終了間近まで飛ばしてしまいましょう!よろしくお願いします/こちら蹴りで大丈夫です!)
……お話の途中に失礼いたします。これは私の意見ではありますが、お嬢様のお願いの全てを叶えることが執事の正しい在り方とは思いません。執事はご主人様にお仕えし、大切だからこそ時には厳しく接しながらこの家の主として誠心誠意支えるのが仕事であり、お嬢様への愛情だと思っております。
(確実に薔薇の本数が増えていくのを感じながらまた別のテーブルに分かれて仕事をこなす。先程声を上げてくれた新規のお嬢様方からも薔薇を頂き初めての紅茶が美味しかったと聞けば口元は緩む。二人の初めてが彩れたのなら何よりだ。有難いことにベルで呼ばれる頻度が多くなり忙しくしていがおおよその給仕の波が収まり、一旦裏に水分補給しに行こうかと考えたタイミングで先程手を掴んでいたお嬢様に荒木がついていることに気付く。勿論執事はどのご主人様にご給仕しても良いことになっている。気にかかるもののそのまま通り過ぎようとしたタイミングであからさまに無礼な執事だと指名されお嬢様の手を握るのを見れば足が止まる。お嬢様からもちらりと視線を向けられ、肯定を示すと好機とばかりに勝ち誇った顔をして新しい薔薇ばかりか先程頂いた薔薇まで奪おうとお嬢様を唆す。これまで睨み合いはあれどお互い不干渉でやってきたが流石にこの執事喫茶のコンセプトから外れた理屈をかざす荒木を見過ごせずに二人の横にやってくれば話に割り込む。そして姿勢を正してお嬢様の方を向けばこの短い間での執事の経験とこれまでからのことを思い出しながら執事の在り方を説く。全てを許し甘やかすことが真にその人を大切に思うことでは無い、相手が当初から口うるさく風呂上がりは髪を拭くことやちゃんとご飯を食べること、夜は基本的には寝ることを注意していたのは自分を嫌っていた訳ではなく大切に思ってのことであることを知っている。その事を語れば荒木は眉を寄せ『仰々しく語っているみたいですがこの程度のお願いを叶えられないなどやはりお嬢様への気持ちが足りないのでは?』と煽ってくる。その言葉に今まで蓄積した物が爆発し、普段止めてくれる相手も傍に居なければあくまで静かな笑みを保ちながら「私と左はこの姿勢でお嬢様方から沢山の薔薇を頂きました。それとも荒木様は普段のご給仕ではお嬢様を満足させられないような腕なのでしょうか?」と真っ向から喧嘩を売り、二人の間だけでなくホール内にピリついて)
……お嬢様、砂糖はお幾つお入れしますか?
(奥のテーブルへとつけば紅茶とケーキの注文を一気に四人分受けて一旦裏へ行き四人分の用意をワゴンに乗せてテーブルへと戻る。サーブを始めたところで荒木が先程相手の手を取っていたお嬢様のそばにいて、さらに近くにいる相手に話しかけているのが見えた。ここからでは遠くその会話の内容は聞こえてこない。さすがにサーブ中に離れるわけにはいかず相手の方を時折確認しながらお嬢様一人ずつにケーキを用意しお茶を注いだカップを配置しながら言葉を交わす時間が続いた。その間に荒木はお嬢様との会話に入ってきた相手を嘲笑するように薄く笑っていたが、相手の煽る言葉にまんまと乗せられると額に青筋が走る。なんとか表情を保ったまま『貴方達二人が執事の何たるかを語るのは勝手ですがそれでお嬢様の願いを潰すなんて言語道断でしょう。それにお言葉ですが私は貴方達以上に薔薇を貰っている。十分お嬢様に満足いただけている証です』と真っ向から相手を睨んで互いの間に火花を散らす。最初こそ荒木に言いくるめられそうになっていたお嬢様だったが相手の言葉にも『そうかもねぇ』なんて呑気に頷いている。その頬は既に赤く染まっていて傍らには二本目のワインボトルが置いてあるあたり相当飲んでいるのだろう、相変わらずワインは高級帯のものだ。荒木と相手が睨み合っているのを交互にみたお嬢様は『そうだわ』と両手をパンと合わせて近くを通っていた執事にグラスをさらに2つ持ってこさせる。そして自らボトルを持つと自分の分と2つ分のグラスにワインを注ぎテーブルの端に置いて『どちらの接し方も好きだけれど、貴方達のどちらが私を満足させられる執事かちゃんと決めましょう。私と一緒にワインを飲んで語らってくれるかしら?私を満足させられたら、そうね…薔薇20本を渡すわ』と条件が提示された。薔薇20本を購入するとなればそれなりの額だがお嬢様にとってはなんて事のないものらしい、さらに薔薇の本数が拮抗している今20本の数は重くこれを手に入れた方が本日のナンバーワンになる。荒木は相手をまた嘲笑ってからグラスに手をかけると『お嬢様が注いでくださったワインを飲まないとは、それこそ不敬ですね』とグラスを持ち上げ一口飲む。頬を赤くさせたままのお嬢様は『ほら貴方も』と急かすような視線を相手に向けて)
20本、…分かりました、誠心誠意お相手させていただきます。
(荒木の給仕の腕を煽れば青筋を立てて苛立ちを顕にする。辛うじて表情は保っているが真っ向からこちらを睨んできて、こちらからも鋭い視線を返す。二人の煽り合いを聞いていたお嬢様は両手を叩くと近くの執事に何かを注文する。運ばれてきたのは二つのワイングラスで、お嬢様自らワインを注ぐ。そしてワインを飲みながらどちらがお嬢様を満足させられるかの勝負を提案され目を瞬かせる。だがそれ以上に満足させられた方には薔薇が20本送られると聞けば今までとは桁違いの本数に思わず声に出てしまった。恐らく今の状況を見るにこの薔薇を頂けた物が一位となるだろう。目の前に置かれたワインはれっきとしたアルコールでこれを飲めば相手に怒られてしまうだろうが依頼の為にも引く訳にはいかない。先に荒木がグラスを持ち煽り言葉とともに一口飲むのを見れば小さく息を吐いてからこの件を受ける意志を示してからグラスを手に取る。そのまま「頂きます」と断ってから一口飲んでみれば口の中に飲み慣れないアルコールの味が広がった。二人が付き合ってくれることになればお嬢様は見るからにご機嫌になって『私、お酒に付き合ってくれる人が好きなの』とワイングラスを傾けている。お嬢様に「お酒が好きなんですか?」と話題を振って会話をするが荒木がワインを飲んでお嬢様が嬉しそうにするのを見ると対抗するように自分もワイングラスを傾け、あっという間に半分ほど無くなるとほんのりアルコールの回りを自覚して)
ッ!!___馬鹿野郎!飲むなって言ってただろ!早く水飲め!
(早く相手の様子を探りたい気持ちと目の前のお嬢様の給仕を疎かにしたくない気持ちとで葛藤しながらサーブを終えればお礼と共に薔薇が差し出される、それを有難く受け取ろうとしたところで相手の姿が視界に入り息を飲んだ。相手はあろうことかワイングラスに口を付けている、どういう経緯であの状況になったかは分からないがあのお嬢様と荒木が共にいるということは勝負事が起こっているのだろう。だがそんな理屈は抜きにして相手が本来口にすべきでないアルコールを飲まされていることに一気に頭に血が上ると薔薇を受け取る前に相手の方へと早足で駆け寄り、途中ご主人様用に用意された水の入ったコップを引っつかむと相手の元へと急ぐ。相手の元にようやくたどり着けばいの一番にグラスを取り上げて怒鳴りながら相手の手に水を押し付ける。執事が怒鳴り声をあげてホール全体が騒然とするがそれよりも相手が酒を飲んでしまった事の方が心配だった。グラスの中身は半分程になっていて戯れでは済まないレベルの量を相手は摂取したことだろう。お嬢様は『あら、お酒とお喋りを楽しんでいたのに』と頬を赤くしながら言う、アルコールで正常な判断が鈍っていたのかもしれないがこんな勝負を用意したことに少々怒りを覚えた。問題は荒木の方だ、『おや、やはりお嬢様が用意したワインが飲めないのですか?』とすました顔で言うが荒木は相手が未成年であるのを知っていたはずだ。荒木は相手が飲めないことを考慮してこの流れを作ったに違いない、怒りを顔に滲ませるとグラスを口につけ思いっきり傾け残っていたワインを一気に飲み干しグラスをテーブルへと置く。相手には絶対に酒を飲ませてはいけない、そんな状態で酒勝負を挑まれているのならば自分が受けるべきだろう。すぐにアルコールが頭に回る心地がするが今はアドレナリンの方が上回っていて視界も思考もはっきりとしている。お嬢様に目を向ければ「申し訳ございませんお嬢様、フィリップは酒を飲めない身でして…よければお酒のお供は私がいたします」と仕切り直す。酒と話ができればいいのかお嬢様は上機嫌なまま空になったグラスにまたワインを注ぐ、にこやかな笑みを向けた後に相手の背中に腕を添えながら「大丈夫か、フィリップ?」と相手の様子を伺って)
あっ!…なんで来たんだい。 っ、翔太郎! …これくらい平気です、左は少々心配性でして、お騒がせして申し訳ございません。お嬢様さえ良ければ左も交えた4人でお話宜しいでしょうか。
(荒木と争うような形でグラスを傾けていれば急に背後から怒鳴り声が聞こえてくる。相手にバレるのは時間の問題だったがあろう事か給仕しているお嬢様を突っ切ってやってきてグラスが奪われると思わず声を上げて手を伸ばしそれを奪い返そうとする。こうなるから黙っていたと言うのに。だがアルコールで妙に乾いた喉は水分を欲していて押し付けられた水を飲むとホールが騒然としていることを含め文句を口にする。心配しなくて良いからと伝える前に相手がグラスのワインを飲んでしまえば執事であることを忘れてその腕を掴んで名前を呼ぶ。相手がお酒に弱いことは十分に知っている。だからこそ最悪自分が潰れても相手が他の給仕を続ければ依頼は達成出来ると思ったのに相手も飲酒してしまったら意味が無い。この後のことを考えてもやはりこのまま相手に勝負の担当を譲る訳にはいかない。そんな抗議の視線も無視され相手はお嬢様に仕切り直しを持ち掛ける。お嬢様は変わらずご機嫌でまたグラスにワインを注ぐのを見れば背中に手を添え様子を伺ってくる相手に問題無いとその目を見ながら返し、姿勢を正すとお嬢様に先程の騒ぎを詫びる。相手の発言を心配性ということにすると改めて四人で酒と話を共にすることを申し出て「荒木様も左様も宜しいですか」とこの場を降りるつもりが無い頑固な意志覗かせて)
こんな状況でお前をほっとけるわけねぇだろ!……それで構いません。我々は二人で一人の執事です。お嬢様がお酒とお喋りをご所望ならば私達二人でお嬢様のお望みを叶えましょう。ご存知の通りフィリップはお嬢様が満足できるお話ができますし、私はフィリップよりもアルコールには耐性がありますので
(相手の元に駆け寄りグラスを奪うと相手は声をあげてそれを奪い返そうとする。だがこれだけは絶対に譲れない、相手は酒を飲んではいけない歳なのだ。ディナータイムになり酔ってしまう客が出るのは想定していたがまさか執事に、よりにもよってまだ成人していない相手に飲ませるなんて。抗議する声を無視してグラスを一気に煽ると腕を掴まれるが今はアルコールに負けている場合ではない、それよりも相手に勝負と称してアルコールを飲ませたこの状況が許せなかった。だがこの場で殴り合いをするのは流石に店に迷惑をかけてしまう、それならばこの勝負を真正面から受けて立つしかない。相手の様子を窺うがそれよりもこの場を離れないことを宣言する様に軽く呆れのため息をつく、だがワインを飲み続けなければならないこの状況で自分がどうなるか分からない以上相棒が隣にいる方が心強いのが本音だ。こちらも一言詫びをいれてから執事の口調へと戻ると相手がこの場に残れるように言うもワインは全て自分が担当するように誘導する。アルコール耐性に関しては相手が『飲んではいけない』なのだからそれよりも飲めるのというのは嘘ではないだろう。荒木も『私も構いませんよ?私はひとりでお嬢様を満足させることが出来ますから』と余裕の表情だ。周囲に3人の執事を侍らせてお嬢様は満足そうに『じゃあ続きを始めましょう』とグラスを差し出してくる、そのグラスにこちらと荒木のグラスが合わさり小気味よい音を立てるとまたグラスの中身を口にする。アルコールがまた体に巡るのを感じながら相手の方に顔を近づけると「お嬢様を満足させるお喋りは任せたぜ、フィリップ」と耳打ちしてまた一口ワインを飲み下して)
……、少しでも異常をきたしたら絶対に止めるし、代わるからね。 それではお嬢様、最近何処かお出かけされましたか?
(こうなった以上相手はテコを使おうとも意志を変えるつもりは無いだろう。ならばこちらは二人でお嬢様の相手をすることをすればそれぞれが同意が得られる。荒木は変わらず余裕そうな顔で煽り言葉を添えるのを忘れない態度に苛立つがその鼻を明かすためにもこの場は勝たなくてはならない。三人でグラスを合わせて相手がワインを口にする為に胸がざわめいて不安と焦りが募る。耳打ちしてきた相手の案が今の状況では最適解であるのは分かるが未だ納得はしてなくてこちらも顔を寄せると真剣な声で顔で釘を刺した。こうなれば出来るだけ最短かつあまりお酒を勧めない形でお嬢様に満足してもらわないとならない。自分だけグラスがないというのも不自然だろうと近くの執事にノンアルコールのドリンクとチェイサーの用意を頼んでからお嬢様に話題を振る。お嬢様はご機嫌なまま『最近は美術館にお人形の展覧会に言ったわ』と返事がされる。思わず先日のメモリの件を思い出して変な反応をしそうになったが堪えて該当する美術館の名前を上げると『そう、そこよ。よく知ってるわね』と褒められる。だが荒木もナンバーワン執事をしているだけあってすぐに『あの美術館は展示スペースが広く見応えがあって私も好きです。どんな人形をご覧になったのですか?』とスムーズに話を繋げている。オーダーしたドリンクとチェイサーがやってきて自分の手元と相手の前を初めとするそれぞれの元に置く。それにお嬢様は礼を言いながら『色々あったわよ、可愛い女の子とか?外の伝統的な人形を模した物とあと風.都.のなんだったかしら、あの店とコラボした人形もあって…』とその店の名前が出てこないのか悩んでいて、風.都のことなら相手が知ってるのではないかと視線向け)
分かってるって。___それでしたらウ,ィ.ン.ド.ス.ケ.ー,ル.ですね。確かあの店がデザインした服と風.都.出身のアーティストが手がけたブローチを着けた特別な一体だったとか
(相手に喋りの方を任せるよう耳打ちすると相手からは真剣な顔で釘を刺されてしまう、了承の返事をするものの相手にこれ以上酒を飲ませることは絶対にさせられない。意地でも最後まで自分がワインを飲まなければと強い決意が漲る。場は仕切り直されて相手から話題か振られるとお嬢様の口から出てきたのは先日の事件にも絡んでいた人形の展覧会で思わず反応しそうになるのをグッと抑えた。お嬢様が飲むスピードにそれとなく合わせてワインを口にしていると展覧会とコラボしていた店名を思い出せない様子で相手から目配せを受けた。愛用のブランドの事ならば知らないわけがない、相手の話を引き継ぐ形で答えると『そうそう、そうだったわ!この街のお店だったわよね』とお嬢様は嬉しそうな笑みを浮かべる。それにこちらも通常時と同じ笑みを浮かべながら「えぇ。ウ.ィ,ン,ド,ス,ケ,ー,ル,はこの街を代表する店です。それにブローチを作ったというアーティストもこの街の出身者でして、かつて彼女がデザインした食器を買ったことがあります。あの人形はいわば風.都.を愛する人間の気持ちが形になったもの、といったところですね」と解説をすれば『左さんは物知りなのねぇ』と好感触な返事が返ってきた。しかしそれに荒木も黙っていない、こちら二人で軽快に話を進めているのが気に食わないのかお嬢様の首元に手をそっと添えると不必要に近づいて『グラスが空になっていますね』と吐息を耳へかけながら囁く。それにお嬢様は顔を赤くして笑みを見せているがまだこっちとの会話の途中だ、邪魔されてはたまらない。きっと荒木は今の話題に一切ついて来られなかったのだろう、荒木に向いた注目を逸らすためお嬢様のグラスにこちらのグラスをまた合わせて高い音を響かせグラスに残っていたワインを一気に飲む、するとお嬢様の目は再びこちらへと向いて「私にもおかわりと…あと先程お話した風.都.出身のアーティストにご興味はありませんか?最近全国的にも注目度があがっていてお嬢様がお気に召す作品もあるはずです」と声をかける。しかし立て続けにワインを一気に煽ったせいか思考が揺らぎ始め耳の端は真っ赤に染まっている。小難しい話となれば上手く話せる自信もなくて今度はこちらから相手へと目配せを送ると話のバトンを渡して)
っ! 生活に根ざした作品をされている方で、丁度荒木様が今付けていらっしゃるラペルピンもその方の作品です。…、凄く精巧かつ温かみのある作品を作るのでお嬢様の雰囲気にもピッタリかと。
(この街のことで相手が知らないことはあまりない。より話題を広げられるであろう相手に目配せすれば思った通りスラスラと答えが告げられる。思い出せない物が分かった事と相手の説明に嬉しそうな笑みを浮かべるお嬢様を見ながらドリンクを口にする。ウ.ィ,ン,ド,ス,ケ,ー,ルの件は知っていたがブローチの件は初耳だ、そのアーティストが誰か分からなかったが食器というワードでピンと来た。和やかな会話を二人がしていると荒木は不自然にお嬢様に近付き、首元に触れて囁く。一旦は荒木に向いた関心を戻すためかグラスを合わせまたその中身を一気に煽る相手を見ればまた言葉にならない声を出て相手を凝視してしまう。明らかに相手のキャパではこの時間で摂取してはいけない量のアルコールだ。相手は話を続けるも既に耳の端が真っ赤になっていてアルコールが回っているのが見て取れる。焦りを覚えながらも目配せを受けると話を引き継いで丁度以前見かけた良い例を見つければ荒木の胸元に輝く華やかなラベルピンがそれであると説明する。本人も知らなかったのか荒木は自らの胸元を見て、お嬢様の視線もそちらに行って興味深く観察している。その間に相手からグラスを強引に取ってしまうと自分のドリンクと入れ替える。液体の色合いは似ている為、お嬢様達を話に集中させていれば直ぐには気付かれないはずだ。入れ替えたワインに口をつけずに酔っているであろう相手を支えるように軽く腰辺りに腕を添えて様子を見つつお嬢様が気に入りそうだと話を続ける。先週辺りに相手が言っていたのを思い出して「来月の初めあたりに開催される展示会にも切子作品の展示と販売をされるようなので興味があれば是非」と情報を補足すれば分かりやすくお嬢様の興味を引いたようで『是非行ってみたいわ。詳しいこと教えてくれる?』と聞かれその展示会の日時や場所、その他の手掛けている作品などで話が弾んで)
っ、……展示会は先程話題に出た人形の展示会が行われた所からすぐそこです。もし休憩を挟まれるならそこから少し南にいったフルーツパーラーが私のオススメですよ
(アルコールと同じくらいにアドレナリンが脳内を回っているおかげでいつもより意識はハッキリとしていて呂律も回っている、しかし先程一気に飲んだ分が回ってきたせいかボロが出てしまう前に相手へと話を振れば荒木がつけているネクタイピンこそがあのアーティストの作品だったようで小さく口角をあげる、さすがの知識と観察眼だ。だがその隙に手元のグラスがすり替えられてしまって思わず相手の方をみた。文句を言いたいところだったがその前に支えるように腰に手が回されてしまえば文句も引っ込んでしまって相手と目を合わせる、短い間だか『絶対に飲むな』と強く視線を送っておいた。その後も風.都.出身アーティストの話は続いて相手に話の主軸を任せながら時折自分の知識で補足を加えて二人とお嬢様で話を続ける、相手が渡してくれたドリンクを飲めばいくらかアルコールの回りも抑えられて相手が支えてくれてるおかげもありふらつかずに話を続けられた。アーティストの話に花を咲かせていたがその間荒木は全く話に入って来れないようでこちらを時折睨んでいた、いよいよ我慢が効かなくなったのか再びお嬢様の頬に手を添えて無理やり視線を奪うと『そろそろ新しいワインが必要ですか?こちらも、』と会話を遮って話しかけ、そのまま顔を近づけて頬へと口付けを落とそうとした。しかしその前にお嬢様が『ちょっと!今二人と話をしているでしょう?!』と声をあげて荒木の手を払う。その瞬間に周囲の時間が止まる、お嬢様は明確に荒木を拒絶して思わず目を瞬かせた。お嬢様自身も自分の言ったことに驚いたようで目を瞬かせたあとクスクスと楽しげに笑い始めると『これじゃあ答えは出たようなものね』と相手と自分とへ目を向ける。荒木は追いすがるようにまたお嬢様に触れようとするがその前に手首を捕まえると「お嬢様の望みと幸せを叶えるのが執事の役目です、お忘れですか?」とすました顔で笑みを浮かべ)
今の時期なら洋梨やミカンが旬でしょうか。…いえ、大したことはしてませんよ。お嬢様に楽しんで頂けることが執事にとって何よりも嬉しいことですから。
(相手を軽く支えたままアーティストの話題で会話を続ける。相手の補足も交えてお嬢様の興味を引ける会話を続けていれば先程から荒木が黙り込んでいることに気付く。目を向けるとこちらをジロっと睨んできて不服そうだ。業を煮やした荒木は頬に手を添えスキンシップとともに強引に話に割り込んで中断させようとするがその直後お嬢様の声と手を払った際の音が響いた。お嬢様自身も驚いたようだがご機嫌に笑ってこちらを向く。関心が向かないどころか拒絶されたことに焦って荒木がお嬢様にすがろうとするが相手が手首を掴んで止め、先程言っていたことと同じ言葉を返せば荒木の顔は絶句して羞恥や怒りなどで真っ赤になっていく。裏返りかけた声で『他のお嬢様にご給仕しなければならないので失礼します』と言って荒木は逃げるように去っていく。その荒木推しのお嬢様も今までのやり取りを見て端の方で少し冷めた目を向けているのだが、どちらにしろ負けを認めたということだろう。その背を見ていればお嬢様が『今まで執事は言うことを聞いて貰う人と思っていたけど、こんなに色々なことを知っていて楽しい会話が出来るなんて思わなかったわ。流石ね』とご機嫌に感想を告げる。謙遜しながら改めて執事の心持ちを伝えると『貴方達のような執事に仕えて貰って良かった』と嬉しい事を言ってくれた。そしてお嬢様が近くの執事を呼び寄せオーダーをし、少し待てば約束通り薔薇の大輪が運ばれてくる。『約束のお礼よ、これでツーショットが当たるかしら』なんて言いながら二人の目の前に差し出され、相手と目を合わせると「ありがとうございます!」と言いながら二人でそれを受け取って)
フィリップの言う通りです、お嬢様がそうやって笑っているなら何よりですよ。____ありがとうございます。きっとお嬢様の望むものがその中にありますよ
(荒木がさらにお嬢様に触れようとしたのを阻止すれば何やら言い訳めいたことを言いながらその場を去っていく、あれは敗走とみていいだろう。先程のお嬢様の声も相まってホール全体の注目がこちらに向いていて新人二人が荒木に勝ったという事実はこの場にいる全員に知れ渡った。勝ち誇った笑みを浮かべているとお嬢様から嬉しい感想が告げられて相手と共に返事をする、やがてお嬢様のもとに約束通り大量の薔薇がやってくると相手と目を合わせた。これも二人がそれぞれの得意分野で力を発揮し連携した結果だろう。まさに二人で一人で勝ち取った薔薇だ。相手と共に礼をいいながら薔薇を受け取るとブロマイドを同じ数だけ渡す、ツーショットが出るのは2分の1の確率だがこのお嬢様なら自分の欲しいものを引き寄せられそうだ。薔薇とブロマイドの交換が終わったところで執事長がホールへと出てきて高らかに手を叩き『ご主人様にお知らせいたします。本日のディナータイムも残り5分となりした。渡し忘れの薔薇は今のうちに執事へとお預け下さいますようお願い申し上げます。』と終了間近のアナウンスがなされた。目の前のお嬢様に礼を言ったあとその場を離れると他のテーブルから相手と自分とに声がかかる。先程のやり取りをみて誰に渡そうかと迷っていた薔薇が次々に二人へと渡されて最後の5分だというのに呼ぶ声が止まらなかった。そうして全ての薔薇がテーブルから無くなると再び執事長が出てきて『今をもちましてディナータイムを終了させていただきます。それでは今宵、ご主人様からいただいた薔薇を誠意を持ってお受け取りすることにいたしましょう』と号令がかかるとホールの前方に執事が集められてずらりと並ぶ形になり)
…すごい数だ。 …皆様ご存知の通り、今日だけのお手伝いでしたがこれだけの気持ちをご主人様から頂き本当に嬉しいです。ご無礼をおかけしたこともあったと思いますがご主人様と素敵な時間を過ごすことが出来、少しでもこのお屋敷で寛いで癒される時間をご提供出来たのなら本望でございます。ありがとうございました。
(お嬢様に感謝を伝えていれば執事長がやってきてディナータイムの終了が近いことを告げる。一礼してからお嬢様の元を去ると他のテーブルから立て続けに声がかかる。今日しか居ない執事に薔薇を送りブロマイドを貰うラストチャンスだということもあって多くのご主人様から薔薇を受け取った。そうして多くのテーブルを回って花瓶から薔薇が無くなったところで再び執事長の号令があって前方に執事達が並び、後方で席に座りながらご主人様がそれを見守る形となる。一人ずつ名前を呼ばれ一歩前に出て綺麗にまとめられた花束を受け取り、ご主人様に感謝を述べるという流れのようだ。そして呼ばれていく度にその花束の薔薇の本数は増えていく。写真を撮ってくれた彼や荒木の取り巻き達も名前を呼ばれ始め、いよいよ自分達と荒木の三人が残る。『次に薔薇を頂いたのは…荒木様』と発表があり大きな花束が運ばれてくる。荒木はそれを礼儀正しい礼とともに受け取っているがその顔には明らかな悔しさが浮かんでいて表情を繕いきれていない。煽ってきた時とは大違いの態度に溜飲が下がるのを感じながら執事長が一呼吸置くと『では今宵最もご主人様から薔薇を頂いた者を紹介させて頂きます。左様、フィリップ様こちらへ』と前に出るように促され相手と目を合わせてから中央に出てくる。運ばれてきたのは綺麗にラッピングされた大輪の薔薇の花束二つで今日集めたその量が可視化されて思わず目を瞬かせて呟きを零した。あの本数だけ自分達の給仕が良かったと思って貰った証拠だと思えば自然と口角が上がって無意識に姿勢を正す。一つでも立派な花束を相手と一緒にそれぞれ受け取るとご主人様達に笑みを浮かべながら改めてお礼を伝える。相手からの言葉も待つと執事長の方から『せっかくですのでご主人様から頂いた薔薇と一緒に記念写真を撮りましょうか』と提案がされてカメラが向けられると花束を持ったまま相手と並んで)
おぉ……。フィリップも言いましたが私達は今夜だけの執事です。この短い時間の間にこんなにもたくさんお嬢様の笑顔を作ることが出来て光栄に思います。至らぬ所もあったかと思いますが皆様が暖かく見守っていただいたおかげで良い時間を過ごすことができました。ありがとうございました
(相手と共に並んで薔薇の花束の授与が始まる、薔薇の数に従って順番に名前が呼ばれていくが自分達よりも先に荒木の名前が呼ばれ悔しさを滲ませて花束を受け取る荒木に小さく笑みを浮かべていた。そしていよいよ自分達が呼ばれると誇らしげな気持ちと共に相手と目を合わせてから前へとでる、それぞれに貰った薔薇が綺麗にラッピングされて手渡されたがなかなかの多さで思わず素で言葉を漏らしてしまった。荒木と自分達二人分での勝負だったはずだが蓋を開けてみれば三人とも薔薇の数はさほど変わらず、二人分となれば荒木に倍近い数薔薇をいただけたことになる。いつもなら探偵としてこの街に笑顔でいて欲しいと願っているが、今日は執事としてこの街の人を笑顔にすることが出来たらしい。それが花束として可視化されるとなんとも気恥ずかしいがそれ以上に嬉しくもあって一本ごとに想いの乗った薔薇を暫し見つめていた。相手が先にお礼の言葉を言い終えるとこちらも執事として最後のお礼を伝えて深々と頭を下げる、二人には派閥関係なくホール全体から拍手が送られてまた相手と共にひとつのことをやり遂げられたのだと実感がわいた。執事長に言われて撮影タイムとなり相手と共に並んで大切に花束を抱えながらレンズの方を見る、カメラを構えるのはもちろんブロマイドを撮ってくれた執事で満面の笑みでシャッターを切ってくれた。彼の依頼も無事達成することができた、これで少しはこの執事喫茶の在り方も変わるだろう。再び執事長から『それでは最後にご主人様のお見送りを』と号令がかかって執事が順にご主人様を引き連れ出口へと移動していく。ホールの方を見れば相手が最初に接客した二人が相手のことをじっと見つめていて「呼ばれてんぞ」と声をかける。彼女らは相手に任せるとして一旦相手から離れると自分は一直線に夏目を推すお嬢様、清美さんのところへと向かう。傍へとやってくればお嬢様は『よくやったわ左』と笑顔で迎えてくれて「お嬢様にあそこまでお膳立てしていただいた以上、勝つ以外選択肢はありませんからね」と気取って答えればお嬢様を出口までエスコートして)
ああ、行ってくる。 お嬢様達の世界が広がる初めの一歩を見守ることが出来て光栄でございます。紅茶もコーヒー同様奥が深い飲み物ですので是非他の紅茶も試してみてください
(見たこともないくらいの大輪の薔薇を抱えながらこれを捧げてくれたご主人様に礼を伝えると続いて相手も感謝を述べる。慣れない事も多かったが荒木のように過剰のサービスをせずとも真摯に執事としてご主人様に向き合うことで満足して貰う事が出来たと少しは証明出来ただろう。相手と共に揃って一礼をすれば拍手を送られて照れ臭くも笑みを零した。相手と並んで今日という日の記念写真を彼に撮って貰い『お二人ともとてもかっこよかったです』と満面の笑みで感想を受けるとこちらも笑みを返した。執事長の号令でご主人様をお見送りの時間となる。相手に促されて視線を向けると紅茶について勧めた二人組のお嬢様がこちらを見ていて頷くとそちらに向かう。『フィリップさんのお勧めしてくれた紅茶美味しかったです』『今日初めて執事喫茶に来ることが出来てラッキーでした』とそれぞれにお褒めの言葉を頂けると姿勢を正してからこちらからも礼を伝える。初めての執事喫茶と紅茶をそれぞれ楽しんでくれたのなら執事をやった甲斐があったというものだろう。その他の紅茶も勧めながら入り口までエスコートすると『またの御帰宅をお待ちしております』と言ってお嬢様達を見送った。他のお嬢様もお出掛けしていく中でホールに目をやろうとすればやけにご機嫌な執事長と目が合ってこちらに近づいてくる。思えば確かに夏目派の執事は休みではあったが人数で言えばこなせないほど人が少なかった訳ではない。執事長は荒木のやり方を黙認しているとのことだったがわざとそのような空気にしたうえで新たな対抗勢力を加えて争わせ、売上を伸ばすと共に執事喫茶の空気感を変えるためにわざわざ部外者である自分達に依頼したのではないかと思えてきた。素に戻した口調で「…何処まで想定していたんだい?」と聞けば『何のことでしょう』と弾んだ口調で返されてこういった人物の方が底が読めないと認識を新たにしていた。だがそれだけ役に立っていたならと始める前に伝えていた通りブロマイド一式と先ほどの記念写真のデータをリクエストすると『勿論お礼は弾ませて頂きます』と快諾がされる。その返事に一安心すれば相手の元に向かって「お疲れ様」と声を掛けて)
……侮れねぇな、あの人
(新規のお嬢様二人から相手に視線が注がれているのをみて相手に声をかけ一旦別れる、相変わらず見慣れない格好で誰かに好意的な目を向けられているのは気持ちが落ち着かないが相手が褒められている声が聞こえてくるとそれはそれで嬉しくてなんとも複雑な感情だ。相手より一足遅れて清美さんを出口まで送り「またのご帰宅をお待ちしております」と定番のセリフでお見送りする。その後数人のお嬢様をお見送りしたが中には荒木達に反対している方もいたようで『執事喫茶って貴方達みたいな執事がいるとこよねって改めて思ったわ』とお褒めの言葉もいただき「恐縮です、お嬢様」と礼を伝えながらまたお出かけを見送った。お嬢様が大方はけたところで相手の方をみれば執事長が相手へと近づいていく、執事長はこの件を黙認してっきり店の雰囲気の流れを変えたことに怒っているのかと思っていたがその顔はにこやかで目を瞬かせる。まるでこうなるのを望んでいたような態度に相手が探りをいれるが答えは返ってこず、引き攣った顔で小さく笑うしかなかった。だがどういう経緯にしろ執事長が満足いく結果を自分達が引き寄せられたのならこの店にとっても良い日になったはずだ。相手が何やら執事長とやり取りするのを横目に片付けを済ませると相手がやって来て声を掛けられる。こちらからも「お疲れ、フィリップ。なかなか長い戦いだったな」と労をねぎらった。ホールの片付けなどまだ済んでいないが執事長から『お二人は先にあがってください。後のことはやっておきますので』と声がかかる。片付けなどは勝手が分からないこともありここはお言葉に甘えて先に着替えさせて貰うことにした。ホールを出て最初に通された控え室へと引き上げてくると既に着替えが用意されている、執事でいるのもこれで終わりのようだ。ジャケットを脱ぎループタイを外してシャツの第一ボタンを外すと一気に呼吸がしやすくなる、その瞬間にプツリと緊張の糸が途切れて「…フィリップ」と覚束無い声で名前を呼ぶとふらりと力無く相手の方へと体が傾いて)
やっと執事の役も終わり、っ!やっぱり無理していただろう
(真意は読めないものの結果的には全て良い方向にまとまったならよしとするべきだろう。片づけをしていた相手に声を掛けると執事長から先に上がっても良いと言われ素直に甘える事とする。単にお手伝いのはずが執事喫茶全体の争いのようなものに巻き込まれて長丁場かつ緊張の抜けない時間だった。控室に戻ってくると着替えなどが一式用意されていて下ろしていた髪を雑に崩して横髪をクリップで簡単に纏めるとジャケットなどの服や装飾を外していく。無意識に姿勢も常に正していたのも崩すとどっと疲れがやってきたがふと左側にいた相手が覚束ない小さな声でこちらの名前を呼んだかと思えば力なく倒れてきて慌ててそれを受け止めて支える。触れる体温は普段より少し高く感じられて緊張が解けたのと同時に疲れとアルコールが一気に来たのだろう。勝負を仕掛けた時に無茶をするなと釘を刺したはずなのに、と小さく息を吐くが相手のおかげでこの結果を得られたのを事実だ。こちらに体重を預けさせるような形で相手を抱き直して楽な体制を取らせながら顔を覗き込むと「お疲れ様。今気分が悪いとかこれが欲しいとかあるかい?」と相手に様子を伺い、その背中を優しく撫でて)
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