狐の面 2022-06-16 12:41:30 |
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────、菫よ。あの生娘にはまだ“儀”は早いと思うがね?いい加減その考えを改めよと以前も言ったはずだが…?『妖狐の力を使役してこそ一人前の嫁』、『日本の表の政ではなく、裏の政を支配するのが役目』……なんぞ、現代に合わないだろうに。
(サラサラと鼓膜へと届いてくる音は竹林の笹が風に揺れる音、鼻に擽る香りは庭に咲き誇る花の香。無駄に広い邸の廊下を足袋の音を響かせながら歩いて数歩後ろを歩く数人の使用人は無駄口はたたかない。布の擦れ切れる音だけが無駄に届いていてどこか冷たさも感じる程。自室へ戻り使用人に取り囲まれながら冬の花、椿のそれを思わせる季節の狩衣へと着替えてはずしりと重さを感じるようなその重ねに些かうんざりとするが、結っていた紙紐を解きそのまま自室を後にすると謁見の間へと赴いて。少し高くなった上座、御簾で区切られた境は絶対的なもの、許された者しか此方の顔を伺うことも出来なければ顔をあげることさえ許されない。ドサッと荒々しく用意された座布団へ腰を下ろし片膝を立てては左側にある肘置きに肘をついて緩く姿勢を崩しては隅に控えていた使用人に右手に持っていた扇子で合図を出せば、仕切られた向こう側で人の呼吸を聴いて。スーツに身を包んだ男から紡がれる言葉は所詮上辺のものばかりで毎度毎度同じもので聞き飽きて欠伸が思わず零れてしまうが、いつの間にか隅に居た現当主の女に気が付けば眉間へ皺を寄せその刺すような視線に困ったように吐息を吐き出しつつ一度開いた扇子をパチンッと音を立てて閉じると客は帰っていき。やっと終わったと大した話でもないのに所詮用があるのは当主と『嫁』だけだろうに、こうしてご機嫌取りをするのは人間の悪い癖だと溜め息が零れる。ごろん、と横に寝転んでは現当主の一族の血を無駄に大切にする女─名を、菫─が近寄ってくれば見下ろされ、あれこれと愚痴を零されるも欠伸の返事で返しては聞き捨てならない言葉に耳がぴくりと動いては眉間へ深く皺を寄せ、上体を起こしては量の眼を透き通るような黄金色に染め上げては、立てた膝に手を置きながら鋭い犬歯を覗かせては怒気を孕んでみせるも仮面のように表情ひとつ変えない女には効かないようで、『躾の中に、儀のための修行も入れます』と一言残して去って行く背を見送れば持っていた扇子を軽く握るとそのまま折り、床に放り投げては揺れる尾のたびに苛立ちが込み上げてくるもひとつ吐息を零しては立ち上がり、部屋を後にすると縁側へと出向くと足袋を脱ぎ捨てて腰を下ろし片膝をたててはそこに両手をを乗せて顔を埋め)
……、短命になるのは修行のせいか私の嗜好故か、些か怪しいものだな。
( / とんでもありません。お返事できる時で構いませんのでのんびり進められたらなと思います。
現当主の名前を出しましたが、個々で動かしてくれても構いませんし、他にもモブキャラなど出して頂いても構いません。思考や感情が絡まり蠢いて波乱もある、そんな物語に出来たらなと思いますのでよろしくお願い致します。 )
…………やっと午前のお稽古が終わった…。
えっと…これからの予定は、ご飯食べて…学校で学ぶ勉強、その後にお琴のお稽古。
………お稽古ばっかり。早く稽古が無くなる日が来れば良いなぁ…。
(朝食を食べ終わり、自分の教育係になった例の女性の後について部屋を移動すれば、この屋敷の造りがそう思わせるのか部屋の入口はどれも同じでまるで狐に化かされているかのように同じ道を歩いているのではないかと錯覚する程、似たような景色と部屋の入口を盗み見ると、ただでさえ広い御屋敷なのにこうも同じような景色ばかりで部屋の前に○○の間みたいな形でこの部屋が何の部屋なのかの表記も無い以上覚えるしかないが、少しの恐怖感も覚える。本当なら前を歩く女性の着物を握って恐怖感を和らげたいが、この人は自分の教育係であって母親では無い。服を握ればはしたない等で怒られるのは目に見えているため恐怖感を抑えようとグッと手を握って我慢する。そして部屋へと付けば、着物は朝に着替えた物をそのままで舞のお稽古が始まり、お手本として先に舞う彼女の動きの一挙一動を目に焼き付けんと見つめ、舞ってみるが腕の上げる高さが違うと扇子で手を叩かれ、動きは合っていても着物の裾を踏んでよろければきちんと舞えばそんな風にはならないと厳しい叱責を受ける。そんな事を数時間休憩も入れつつもしていれば、自然と息も上がり汗もかく。数時間後やっと納得のいく舞で今日のノルマ分の踊りの部分まで終えた事で舞のお稽古は終わったが、さっさと部屋を出る教育係の女の人を見送って赤くなった手の甲や足を見れば小さな声で「痛い……。」と呟き、赤い手足を見ていればその景色が水の中に入ったように歪み始めた為急いで顔を上げれば零れかけた涙をゴシゴシと手の甲で強引に拭うと、立ち上がって部屋を出て縁側から見える太陽の位置を確認すれば、太陽は屋敷の真上近くにあり、その事からもうお昼の時間とやっと気付けば上記をポツリと零して。こんな家に引き取られなければと悲観しても現実は変わらない。それなら稽古が一日でも早く無くなる日が来るように反復練習をして、稽古の物全てを習得する他無いだろう。一体いつになるのかなとため息が零れるが、頭を1つ振れば手を使って午後の予定を指折り確認すれば、稽古開始初日とは思えない……と言うか、同い年の子でもここまで稽古、マナー、座学と言った教養も含めて勉強させられている子は居ないだろうなと思いながら、朝ごはんを食べた間まで人に聞きながら何とか戻って来ると、縁側にちょこんと座り念の為縁側から室内へ向けて自分が来たことと入室する事を一声掛ければ、障子に手をかけてスッと音をさせないように気をつけながら障子を開けて室内へと視線をやり)
(/ ありがとうございます。
こちらもモブキャラを出して御言様に絡んだり、菖蒲を疎ましく思う人が居たり、かと思えば歓迎する人も居たりと様々な感情や思考の違い等を描写して、濃密なやり取りになればと思っております。後ほどこちらからもモブキャラを出させて頂きますね。
これからもよろしくお願い致します。)
(ぼんやりと閉じていた意識が段々と鮮明になったのは人間には到底理解出来ない─ましてや現代では特に─頭の上に生えた耳へとあの幼子の聲が聴こえた為。ハッと我に返るように顔を上げては鼻に燻る“微かな血の香り”に腹の底から湧き出る憤怒の色を隠す事は出来ずに、普段は鈍い黄金色の瞳も煌めくものへと色を宿してはざわりざわりと血が騒ぐのがよく理解出来て。眉根を深く寄せて顔に現れたのは不機嫌と怒りの色、立ち上がり瞼を伏せては微かに聴こえる心の音に音も立てずにその場から姿を消しては気がつけば相手の座っている縁側の前へと姿を表すと室内へと顔を覗かせている相手の元へ大股で近づくとようやく気が付いた様子の相手だが声を掛ける前に棒切れのような細い手首へと腕を伸ばしては掴んで立ち上がらせては半ば引き摺るような形でその場を後にして、無言のままざわつく胸に届く相手の早鐘のような心の音を無視して邸の奥の更に奥にある己の部屋まで着くとかたてで乱暴に襖を開けては、相手を押し込むように中へと腕を強く引いて放り込んでは己も入り後ろ手で襖を閉めると日が当たりにくくやや暗い室内は丸窓からの光が頼りで。煌めく金を動かして、相手の手の甲にある“小さな赤み”、普通ならば血の滲みなど分からないがよく効く鼻には噎せ返るほど分かるもので、身をかがめてては相手の腕を掴んで引き寄せてその甲をじっと見つめてはやっと言葉を発して)
───誰にやられた。
あ、えっと……これは、その。
私が上手にお稽古が出来なかったからなので、誰も悪くありません。強いて言うなら上手く出来なかった私が悪いので怒らないで下さい。
(グイッと手首を取られ引っ張られれば、そこには隠しきれない赤みと叩かれすぎて皮膚が少々裂けたのか僅かに滲んでいる血を見れば、バレてしまったと罰の悪そうな表情を見せ。そして目の前にいる御言様から隠しきれない怒気を肌で感じれば、背筋が凍るようなヒヤリとした感覚がして、ゾワゾワとしていて、畏れかはたまた恐れからか肌が泡立ち怒気を顕にしている彼に正直に誰がやったと言ったが最後、その口から見え隠れする鋭い犬歯でお稽古をしてくれたあの人の喉元に噛み付いて亡き者にしてしまうのではないかと考えると、それが起こったら自分はどんな扱いを受けるのかわかったものでは無い。それだけは避けようと彼が望んだ答えでは無いと頭では理解しながら、あの女の人を庇い自分を自虐するようなそんな言葉を口にすると、この言葉を受けて更に怒り狂うだろうかと震えそうになる体を気力で抑えつけ、無駄に力が入った体で彼の反応を見守り)
【女中】
……失礼致します。
昼餉を用意致し………いかがされましたか、御言様。
(品数はだいぶ揃っていたが、これだけは出来たてを食べてもらわねばその味を損ねてしまうという事で、暖かく湯気を燻らせて出来たてで暖かな料理である事を示し、匂いも食欲が唆るようなそんな汁物を広間にと言われてお盆でそれを運び一旦縁側の板へと置いて入室する事を告げた後にやや視線を下へと向けながら障子を音もなく開けて用件と汁物を手に1歩入室した後に、いつもなら入室に対して答えがあるのにと不思議に思って視線を上げれば、花嫁の手首を引いて怒りを顕にしている御言様が目に入れば、どうしたのかと問いかけて)
そうか──お前は、狐に嘘をつくか。いいか私は………、嗚呼──、“お前”か。菖蒲よ、この女だな…?同じ“香り”がするなァ……私の鼻は誤魔化せんよ。
(じっと見つめた小さな手の甲、微かに滲む血の香りはとても芳醇でまるで薬物のように魅惑的で刺激的。“印”をつけたその日から、毛髪の1本に至るまで自分のモノましてや花嫁となった者の血などに惑わされないわけが無い。しかしこのまだまだ赤子も同然な娘は優しさで嘘をつく。見ていなければ気が付かないとでも考えているのか否かは今知る由もないが、自分を守るためではなく他人を守るためにつく嘘のなんとも醜いことだろうか、この家の者が今回の花嫁として選んだ娘を良いとする者もいれば反対の意見を持つ者も多いのは知っているしそれが使用人にも広がっているのは理解していた。平気で嘘をつく娘にも腹が立つが“自分の”嫁に対する態度もとてつもなく気に入らない。僅かに細めた瞳をさらに煌めく黄金色へと変化させると、少しだけ口の端を持ち上げて意地の悪い笑みをひとつ浮かべては鋭い犬歯がちらりと覗く。ほんの少しだけ叱ってやろうかと口を開きかけたが静かに横へと動いた障子に其方へ視線を向けると、昼はどうせひとりだから要らぬと何度も言っているのにわざわざ飯を用意して持ってくる健気な使用人の姿、顔をあげて視線がかち合うと微かに鼻に香るそれに眉を酷く寄せては今まで掴んでいた娘の手を離し、部屋と廊下の境目のそこへ片膝をついて座ると扇子の先で使用人の顎を持ち上げさせては緩やかに小首を傾げた後に、立ち尽くす娘へと問いかけて)
【菖蒲】
ご、ごめんなさい……。
………えっと…そうです、でも……私がもっと上手く舞が出来れば良かったので……怒るのは程々に…。
(しまった、自分はどうやら受け答えを間違えたらしい。それは自分の発した言葉の後の御言様から発せられる冷たい─背筋に氷を入れられたような冷たく静かな、それでいて苛烈な怒気を身に浴びればすぐに分かる。どうしよう、目の前の彼の機嫌を更に損ねるのは良く無いのは明確。焦っているのかいつもよりも回らない思考を張り巡らせて言葉を考える。考えに考えて出た言葉はいつもよりも弱々しい声音で御言様に謝罪をし。次いで問われた言葉には肯定を示すも、嘘は付きたくない。嘘と化かしは昔から狐と狸の領分。狐である彼の領分を人である自分が踏み潰してもいけないし、何より人と彼とでは言葉通り格が違うのだ。ここは素直になろうと、言葉を連ねるが彼がその気になったら人なんてそれこそ火を息で吹き消すようにその命も散らせるだろう。流石にそんな事はしないと思いたいが、自分も悪かったのだと一応のフォローを入れて)
【女中】
御言様?
…………あぁ、「それ」は確かに私がやりました。
ですが、私は本家より仰せつかった花嫁様の教育係でございます。
花嫁様は御言様の隣に立っても恥じることの無い美しい立ち振る舞いや言葉遣い、知識。
それらを身につけて頂くための通過儀礼にございません。
(ただ食事を運ぶだけで終わる筈だったのだが、扇の先で顎を上げられ半ば強制的に顔を上げれば、目に入るのは月と見紛うばかりに美しい黄金の瞳にどこか激昂している表情の御言様。何かあったかと思い、視線を巡らせれば青い畳が何畳も敷かれた大きな広間にその中央に置かれた大きな食事机、その上に置かれた栄養バランスも取れた和食でいて、品数も豊富な豪勢な食事。その部屋でどこか居心地悪そうにしている花嫁として選ばれた、施設から引き取ったあの少女。御言様から匂いと言われ、少し小首を傾げて考えた後、何を示しているのか察すれば、なんの悪びれも無くむしろ必要な事であり、それは回り回って御言様の品を下げない為だと顔色も変えず、どこか淡々とした口調で説明をして)
菖蒲、お前は口を噤んでおれ。──良いか、女よ。この娘はまだ年端もいかぬ赤子同然。これから義務教育の小学校にも通うことになる…学校に家でも躾ばかりでは息も詰まる。それに──こんな幼子が傷を作って外に出てみろ、“我が一族も堕ちたもの”だと思われると考えぬか………もうよい、下がれ。菖蒲、お前も昼を食べてきなさい。
(顎の先に触れた相手の体温、鼓動、纏う気でさえ手に取るように伝わってきて愉快なもの。後ろで必死に女を庇う健気な娘、確かに最初は誰でも完璧にこなせはしないし覚えることも出来ない。無駄に位やしきたり、名を重んじるこの一族したら早く一人前になってもらいたいという気持ちも分からなくはないがそれはあくまでもこちらの一方的考えであり押し付けである。普通ならば引き取られることもなかった娘が、箱を開けてみればこんな普通とはかけ離れた世界に放り出されて不安に押し潰されそうになりながら必死に食らいついていこうとしている娘の心も露知らずとは、無礼にも程がある。わたわたと言葉を口にする娘にピシャリと言い放てば黄金の瞳をすうっと細め僅かに歪んだ口元から覗いた犬歯、そっと耳打ちするように顔を近付けては鼻で笑うように小さく鳴らしては直ぐに離して扇子も離すと軽く手を振り下がれと)
【女中】
しかし………いえ、なんでも御座いません。
花嫁様、午後の稽古に遅れる事が無いようにご注意下さいませ。
では、失礼します。
(人外故か目の前の彼から放たれる怒気は苛烈で冷たい炎のようにも感じる。だが、自分とてこの家で生まれ育ち巫家の者に相応しいと思われるだけの──それこそ、花嫁として選ばれたあの少女と同様に稽古や座学を血の滲むような努力をして今こうしてその結果が認められて、花嫁様の教育指導係にまでなれた。それなのに目の前の彼女には自分の時と違って「味方」がいる。たったそれだけの違いなのにザワザワとした胸のムカつき、思考は負の螺旋へと落ちていく。そして何より彼が放った【学校】と言う単語。学校なんて行かないに決まっている。いくら義務教育期間とはいえ、あの少女は既に巫家の者。義務教育で受けられる以上の教育をここなら受けられるし、そもそも稽古で忙しくなる彼女にそんな時間を取らせるなら稽古を1つ増やした方がマシと言うもの。それを口に出そうとして1度口を開いたが、唇は何の音も出さずに再度閉じる。これ以上は不毛な言い合いと言うやつだろう。ここは引き下がろうと頭を恭しくさげ、黒い髪が肩を伝って音もなく滑り落ちるのを視界の隅で認めながら最後にチクリと釘だけ刺して広間の外へと出ていけばスっと障子を滑らせて閉めると、背筋を伸ばし綺麗な所作で立ち上がれば広間を後にし)
【巫 菖蒲】
えっと……あ、ありがとうございます。
それと嘘をついてしまって申し訳ありませんでした。ご気分を害されたと思います……次からは御言様に嘘を付かないように心に留めておきます。
(女中が広間を去って再度御言様と2人きりになれば、しばらくはモジモジとして何処か居心地悪そうに視線を泳がせていたが、覚悟を決めたのか作法も何も感じられない─ただ、謝らなければと言う気持ちが急いてしまいガバッとだいぶ勢いのある仕草で頭を下げれば、所作とは裏腹に言葉はツラツラと出てくるが心の中にあるのは「嫌われたらどうしよう。出ていけって言われたらどうしよう。」である。自分のどこか艶を取り戻しつつもまだまだパサついた髪が重力に従って下へと流れるのも気にせず、御言様の次の言葉はどんなものかと緊張と焦りとで肩に余計な力が入っていると気付きながらも頭を下げたまま反応を待ち)
……もうよい。私は暫く寝ると使用人に出会ったら伝えておいてくれ。夕餉も要らぬと。風呂の時間に起こせともな。
(部屋から出ていく様子を目元を細めて見送れば鼓膜へ届く人の話し声や物音が些か今の状態では余計に苛立ちを覚えてしまい、尾が素直に揺れている。しかし細く聞こえた声に其方へと視線を向けると、小さな頭を下げる姿が見て取れて。空気から伝わる感情は手に取るようによく分かり、今までの嫁だった者たちとは違うのだなと呑気に考えているが軽く頭を撫でてやればそれでもどこかまだぶっきらぼうな言い方は拭い去ることは出来ずに、口早に説明すると「ではな」と短く言葉を掛けてはふわりと風が吹けばその場から姿を消していて。邸の奥のさらに奥にある小さな小さな中庭を望める縁側へと音もなく着地しては定位置に置いてある煙管と灰皿を引き寄せてはごろりと横になり、右手で頭を支えながら横向き縁側を見つめ、左手に持った煙管は火を付けなくとも吸い込めばいつの間にか灯火が。ふぅ、と紫煙を中庭へ吹き込んでやれば微かに虹色に輝くそれが包み込んで何も無いそこに花々が咲き誇り、それをぼんやり眺めると大人気ない態度であったかと先程までのやり取りを思い返してはいつもはピンッと立っている両耳も力なく項垂れ。ひとつ溜息を零すとカンッ、と灰皿に灰を落としてはそのまま置いて、仰向けに体勢を直しては近くにあった座布団を引き寄せてふたつに折ると枕替わりに。木目の天井を見上げながら気にもせず襲ってくる睡魔には適うこともなく、そのまま眠りに落ちていき)
(御言様を見送って自分ももぐもぐとお昼ご飯を食べ、施設よりも豪華で使っている食材達もきっと比べ物にならない位良いものなのだろうが、味の違いなど分かる訳もなく、本来なら美味しいと笑みを浮かべて食べれる筈なのに、広いこの空間にポツンと1人で、部屋に響く物音も自分が立てる食器を置くものだけと言う心寂しいこの時間。施設では必ず皆が揃ってからご飯だったし、ここに来てからも食べる必要は無いとはいえ御言様が一緒だったから、こうして完全に1人でのご飯は初となる。昨日はきちんと美味しいと感じた筈なのに、今では味がわからない。と言うよりも美味しいという気持ちよりも時間に置き去りにされたかのようなこの静か過ぎる空間に対して、寂しいという気持ちが勝ってしまっている。しばらくはご飯を食べていたが、昨日よりも量が少ないご飯の量でお腹がいっぱいになってしまい、大半を残したそれらを見て勿体ないと思いつつも箸を置いて、手を合わせ「ご馳走様でした」と挨拶をする。そうして立ち上がり、部屋から出れば稽古の時間がと言ってまた稽古部屋へと移動をし、今度は学校で習うような座学を中心とした時間。食後なのもあり、うっつらうっつらとして眠気と戦いながら午後の稽古を終えれば、あとは夕食とお風呂で一日は終わり。縁側で足をプラプラさせながら、真っ赤な彼岸花に青紫色が美しい紫陽花が織り成す、色彩豊かな美しい庭園に響くのは水音。池の水は透明に透き通り、中で泳ぐ錦鯉達は悠々気ままに泳いでは跳ね、たまにポチャンと言う音をさせているのをじっと見つめており。しばらく縁側を眺めていたが、ふと御言様は眠りにつくと言っていた。昨日来たばかりなので当然ではあるが、自分は御言様について知らない事が多すぎる。あのお狐様はよく寝るのだろうか?どんな風に寝ているのか、あの狐耳は柔らかいのかな?と気になってしまえば頭の中を占めるのはその事ばかりになってしまった。すこしソワソワして悩むも、あのモフモフしていそうな狐耳は大変魅力的である。寝ているならその間にほんの、ほんの少しだけ触る事が出来ないかな?と考えれば、女中の人達に御言様の寝ている部屋の場所を聞けば、その部屋へと足を進め、そっと障子を開けて足音を立てないように部屋の中に入れば、畳の上で寝ている御言様を見つめ。そして畳の上に広がる綺麗な髪の毛を見るとむずむずとちょっとした好奇心と悪戯心がわき、その髪をそっと触れてみればサラサラとした手触りにやや興奮気味になりながらもう一度だけ髪に触れると、次は起こさないようにと気をつけながら髪の毛を三つ編みやら編み込みやらで編み出し、髪の毛で遊び出してはちょこちょこ御言様が起きる気配は無いか確認しながら編み込み作業を続けて)
──寝込みを襲うとは、なかなかにやるものだな。…、何を悪戯していんだ?
(縁側では体を痛めるために中庭を眺められる何も無い空き部屋の畳に寝転んで天井の木目を見つめていたがいつの間にか眠っていたようで、ふと無意識の闇の底から引き揚げられるような感覚に意識が少しづつ覚醒しているのだと気付くもまだ眠っていたいと思う葛藤があるせいか、瞼が重い。正直睡眠も食事もさして必要はないのだが全く眠らないとそれはそれで精神的に疲れを感じるため時々こうして眠るのだが、ここ云十年としっかり眠ったことがなく久々にこうして眠ったものだと考えながらさて散歩でもしてこようかと思っていた矢先、近付いてくる小さな足音が耳へと届いて。何だろうかと起きて出迎えようかと思ったが少しばかりの悪戯心が働くとそのまま眠っているように装い、襖が開いた音と近付く息遣いは間違えようのない小さな小さな花嫁。起こしに来たのだろうかそれとも、と考えていると不意に髪に触れる相手の温度に珍しいものなのかただ触れたいだけなのだろうか暫くの間好きにさせてやろうかと、何やら毛先の辺りが時折引っ張られる感覚に驚かせてやろうかなんてパッと目を開けては呟いて。飛び上がるかもしれない相手を片腕で軽々しく抱き寄せては、横向きに寝転んでそのまま両手で小さな相手を包みこむと眼下に埋まる顔へ視線を落としては全てを知っているにも関わらず優しい声色で問い掛けて)
ひゃ!
え、えっと………か…髪がお綺麗だったので編み込みしたりして遊んでました…。
(ほんの少しだけ髪で遊ぶつもりが、編み込めば編み込むほど髪型が綺麗になっていくその様が男の人に言うのには相応しく無いだろうが、綺麗になっていくのが楽しくてついつい夢中になってしまった。ここには無いので無理だが、人外特有の美しさとどこか精悍な面差しのお狐様だ。本で見たラプンツェルのように花を所々に編み込んでみてもきっとまた表情を変えてその美しさを魅せるだろうと髪を編み込みながら考える。自分の髪はここに来てからバランスの取れた食事と質のいいケア用品、睡眠時間の確保によりパサパサして指通りの悪いゴワゴワした髪だったが徐々に改善されてきて少し艶が出て指通りも少しだけ良くなったが御言様にはまだまだ及ばない。と言うか比べるだけ烏滸がましいと言うやつだろう。鼻歌でも歌いそうな程楽しそうに編んでいたらいつの間にやら御言様が起きられて声をかけられる。初めは驚いてビクッとぴょんと飛び跳ねそうになる体を支えて横にさせ、隣で顔を合わせるように横になっている御言様の優しげな様子に、起こしてしまった!と慌てるが怒っては居なさそう。ここは正直に言おうと髪を編んで居たと答えるも声をかけられたのもあってその髪結い作業は中断され、畳には中途半端に綺麗に編み込みの成された御言様の髪が広がっており)
はははっ。怒りやしない、お前さんのお気に召したようで光栄だよ。──先程すまなかったな、怖い思いをさせただろう。だが、お前はこれから、お作法や学校で習うような勉学とは程遠いものを身に付けるための“修行”がある……辛い時はいつでも私に言いなさい。厭だと感じたらいつでも私を喚びなさい。
(紙風船のような軽さを覚える相手は簡単にすっぽりと大きな体と腕の中に収まってしまう。片手で自身の頭を支えながら、空いている片腕の力を少しだけ緩めてやれば、素直に話す相手に思わず笑いが溢れてしまい。機嫌を損ねぬようにと教わったのかどこか恭しい相手の態度はまだまだ致し方ないがこうして遊び心があるのだから、今との頃は問題ないかと考えられる。少しでも息抜きの時間を提供が出来たのならば万々歳で年相応の言動が見れたのもこれまた嬉しい限り。横目で散らばる髪のうちの少しだけの束が確かに編み込まれており、しかし途中で止まっていて今でも解けてしまいそうだがまたいつかの楽しみにとっておくとしよう。満足気にうんうん、と頷いたところで不意に緩めていた目元を元に戻してはどこか真剣でそれでいて悲しそうに目尻をほんの少しだけ下げると、そっと相手の後頭部を背中へと回していた片手で撫でて。何も聞かされずただきっと最初は新しい生活を夢見て引き取られて来たかもしれないのに、蓋を開けてみれば嫁だのお作法だのと言われ普通からはかけ離れた世界に放り込まれ、受け入れてくれる者とそうでない者の間に挟まれて、どれだけ心細いことだろうか。しかしそれでも迫り来るそれらから逃げることを許されないのならばと何度も思ってきたこと。ひとつだけ吐息を吐き出しては困ったような笑みを最後に浮かべ、再度軽く頭を撫でては「さて、意外と寝てしまっていたようだ。そろそろ夕餉の支度が出来たと人が呼びに来るだろう…私も食べるとしよう。久方ぶりに怒ったからな、腹が減った」よっこいせ、と片腕で相手を抱きながら起き上がれば、相手を床へと立たせてやり名残惜しそうに散らばった髪を方指で梳いたところで襖の向こうから声がかかり)
【巫 菖蒲】
いえ、私の事を思ってだと理解してますし
少し…驚きましたけど、怒ってくれてありがとうございます。
(申し訳なさそうに昼間の事を謝罪する御言様に、確かに初めは答えを間違えたと思って焦ったし彼の一言で処遇なんてあっという間に、それこそ弁明も無く決まってしまうだろう。だが、彼は永く生きている狐の化身。狐の本分である化かしや知恵、悪戯好きといったものはあるのかどうかまだ分からない。でも永く生きているという事はそれだけ余裕というものがある筈。本当にしでかさない限りはこちらの言い分を聞いてくれる人だと今日のやり取りで学んだ。勿論そんな事が無いのが1番ではあるが。
それに昼間の事は自分を思っての発言だ、この家で自分の為に言葉を尽くしたり、心を砕いてくれる人はほぼ居ないと言っても良い。そんな中家の中でも上位の立場に君臨する御言様は自分を今の所気に入ってくれている様子で、それに胡座をかくつもりも無いし、彼の迷惑になるような事はしたくない。嫁としてこの家に選ばれた以上は1日も精神的安寧の為に教育や教養を身に付ける事だろう。それでも御言様の言葉は嬉しかった、本当に味方なのかもしれないと思った。ここに来てまだ数日、完全に心を許すのはまだ早いが、今日あったことはきちんと覚えておこうと思う。
そのまま抱き上げられるように床へと立たされれば、少しだけ着崩れた着物を見苦しくないように整える。今日の着物は薄い水色の絵画風の花々があしらわれた手触りの良い着物である。皺になったらいけないとも思うが、自分が持つ紫色の瞳もあって何だか紫陽花みたいだなと感想を抱く。
畳の井草の匂いがして、これと言って特に物も置いていない殺風景な部屋。物が無いこともそうだが、部屋が広いのもあって余計に広く感じるのだろう。そんな部屋がこの屋敷には多い。広く、美しい日本屋敷で使われている部屋はきっと片手で収まる程であとの部屋は空き室に近い特に用というものは無い、見栄と繁栄を目に見える形で見せたい。そんな気持ちの表れだろう。
そんな事を考えていれば、声がした方へ振り向き)
【女中】
御言様、花嫁様。
夕餉の支度が出来ましたので、ご連絡致します。
広間へといらしてお食事を。
(縁側へと座り、誰にもその姿は見えないし部屋の中にいる2人との間には白い障子があるのみで見えるのはこちらの体勢の影だけだろう。それでも指を床へと付き、正座をして背筋を伸ばし綺麗な所作で礼の体勢を取り、視線は床へと注がれている。そしていつものように、淡々とした抑揚の少ない声で業務連絡をしては御言様と花嫁様は今は一緒だと別の女中から聞いている。仲睦まじいのは良い事だが、案内役は自分にと割り振られた為、スっと立ち上がると2人が部屋を出てきても邪魔にならず尚且つ案内をする際にすぐに動ける場所へと移動すれば、2人が出てくるのを待ち、出てきたのを確認すれば「こちらです」と御言様にとってはいつものウンザリした業務で、花嫁様にとってはまだ数回の案内を無表情で失礼のないようにしずしずと言った歩き方で2人を先導するように広間へと歩き出して)
なに、気にするな。些か戯れの一種にも過ぎん──目の色と着物が似合っているな。着物ばかりでは窮屈だろう、洋服を頼ませよう。後で付き人の柊にでも頼みなさい。
(無駄に広く使わない部屋の多いこの家は昔こそ大人数の人々が居たもののそれも今はもう過ぎた話。無駄に広いのに嫌なほど息が詰まるような感覚に陥るのは、この箱の中にある重い思いが塵に積もっているからこそなのだろう。重くまとわりついて誰かの思いは次第に念へと変わり、時折“その姿”を現すこともあるが新しい花嫁がやってくるとその人々の念はさらに重くのしかかり余計に息が詰まるがこればかりはもうどうしようもなく致し方ない。しかしその念が、花嫁にまとわりついて気が触れてしまわないかだけか心配の種。それでも今はまだ大丈夫なのだから余計な心配というものは良くないものだと雑念を振り払ったところで相手の着物姿に手を伸ばして軽く皺を直してやりながら、こうも堅苦しいものばかりでは体が疲れてしまうかと考えて少し天を見上げながら提案をひとつした所で、襖の向こうで感じていた気配がひとつ動く。掛けられた声に短く返事をしては立ち上がり固まった体を伸ばしては眼下にいる小さな相手の片手を引いて部屋を後にすると数歩前を歩く使用人の後ろをついて行き。向かった広間へと入れば庭が眺められるように開け放たれた襖と窓、テーブルに並ぶ料理はこれまた無駄に豪勢で量も多いが幾分腹が減った今の状態ならば全て平らげてしまえる程に少なく思えてしまうのだから不思議なもので。いつもの定位置に腰を下ろしては胡座をかいて、軽く手招きをして相手を引き寄せると左足の上に乗せる形ですっぽりとそこに収めてしまえばどうやらこの体勢が気に入ったようで満足気に頷き相手を軽く支えていた左手を離しては顔の前で両手を合わせて、ぽつと言の霊に載せてそれを呟いては箸に手を伸ばして)
では頂こうか。──いただきます。
…ありがとう、ございます。
御言様のおかげで綺麗に直りました。
(着物を直すのを手伝ってくれれば、自分で直すよりもやはり着物に触れる機会が多いからか幾分か早く着物の着崩れを直すことが出来、見栄えも自分1人でやるよりも綺麗な気がする。自分でもどこか着崩れていないか見下ろしてみても自分では苦手意識があったお端折りが自然な形で出来ており、女中の人が支度してくれたと言っても納得されそうだ。手伝ってくれた事にお礼を言い、自分でやるよりも綺麗だと手を広げて振袖部分を見せながら御言様の器用さを凄いと尊敬し。
そしてそのまま声がかかった事で御言様に手を引かれながら部屋を移動する。大人と子供なので当然なのだが、手の大きさが全く違う。自分の手なんてすっぽり隠れているし、このまま御言様が少し力を込めれば骨なんて簡単に折れるし、爪でも肌を切り裂けるだろうが不思議と恐怖心は出てこない。この家では堅苦しい躾や礼儀作法、座学と息の詰まる事ばかりだが、今包んでくれているこの温もりはほんの少しだけ気持ちが楽になる魔法の手だ。と繋がれた手を見つめてそう感じると、少しだけ力を込めて握られた手を握り返してみる。そんな風に歩いていれば、いくらこの屋敷が広いとはいえ案内役の人も居るからか広間へと辿り着く。
用意された紫色の座布団に座ろうとすれば、手招きされた為、近寄ればお気に入りの人形を常に持った子供の人形のように何故か御言様の左膝に座る体勢に。始めはえっ?となり、少し固まると我に返って手を合わせて挨拶をすると箸を手に取る。御言様の食事に邪魔にならないように気をつけてご飯を食べ出し)
…………ご飯、美味しいです。
お昼よりも美味しく感じます。
(昼間はちょっとしたゴタゴタで1人で摂ることになったが、その時よりも味も質も量も何も変わっていない筈なのに昼よりも美味しく感じる。心細いと言う気持ちが無いだけでここまで違うんだと思いながらも少し表情を和らげてモグモグと食事を食べ進めていき)
ははは。美味いか、それは良い事だ。お前が美味いと云えばここの料理は充実していくだろうよ。言は魂だ…大事におし。
(怒りを覚えたあとはやたらと腹が減るのは何故だろうかと考えたことがあった。別に大して力を使ったわけでもなければ、激昂したのだって片指数える程度、少量の怒りでさえ何故か普段は幾らだって我慢の効く空腹が言うことを効かなくなるのはきっと、精神的な面なのだろうと。あまりこの娘の前で怒るのは控えようと少しだけ肝に銘じたところで、美味しいという言葉に意識をそちらへと向けてひとつ人あたりの良さそうな笑みを浮かべてはうん、と頷き手前にあった里芋の煮物を器用に箸先でつまみ上げては口へと運んで。味の程度はやはり理解は出来ないが今の飢えを凌ぐのにはちょうどよく、箸置きにそれを戻しては相手の小さな頭をひとつふたつと撫でてやり。人の膝の上では食べにくいかと軽く抱えては胡座をかいた足の間に座らせてやり、先程と違い後頭部は拝めるが顔が見えないのは少しばかり残念さを覚えるものの小さな頭が食事をする度にほんの少し揺れるのは後ろから見ていてもとても愛いく思えてくるのだから、歳をとったものだと理解する。空いた皿や茶を持ってきている使用人に声を掛けて神酒を持ってきて貰えば、小さめの赤い盃に注いで飲み干していき。あっという間に空になってしまえば縁側に面した開け放たれた大きな雨戸の向こう、しんといつの間にか降り始めた雪に目元を細めては揺らりゆらりと尾を揺らして)
(/ いつもお相手下さりありがとうございます!
連絡が遅くなり、申し訳ありません。
現在、背後が少しバタバタしているせいでお返事が遅れてしまっております。
今月中には必ずお返し致しますので、今暫くお待ち下さいませ。)
言葉は魂…………昔の、平安時代にあるとされていた言霊野事でしょうか?
陰陽師やお坊さんが妖怪退治に大切にしてた中に、見鬼の才と真言に霊力を乗せる言霊だと本で読んだ事があります。
(モグモグと食事を見苦しくない程度に程よく咀嚼して飲み込んでいけば、和食がメインの為粒の立った白米に出汁が美味しい白味噌のお味噌汁、そして御言様も口にした里芋の煮物、ほうれん草の胡麻和え、魚の塩焼き等他にもたくさんの料理があるがこの料理を作る人はよくこんなに沢山の料理が作れるな。と思うと同時に大変じゃないのかなと少しだけ心配になる。これだけの料理が机を埋め尽くさんばかりに並んでいるのに一つとして同じ料理は無いし、同じ食材を使っていることも無い。施設に居た時にこの食事を見ていたら、きっと自分は羨ましく思っただろう。あの時は食うにも困るという程では無かったが、他の子達に回す為に自分のようなある程度の年齢の子達は満腹までは食べずに居たのだから、これらはきっとお宝を見つけたように黄金に輝いて見てただろうと考える。そして、ここにいる人達の服も施設に居た時とは比べ物にならないくらい肌触りが良く、質が良いものだとわかる。まさに格が──敷居が高いと言うのが正しいだろう。まさかそんな家に狐の嫁として引き取られるだなんて1年前の自分では考えもしなかっただろうし、過去に戻れて過去の自分にそれを言っても、何を言っているのかと鼻で笑うに違いない。ここでの暮らしはきっと息が詰まる事だらけで我慢の日々が続くだろう。それはもう嘆いても悔やんでも変わることの無い確定した事項だ。ならば少しでも息を抜ける時間が早く来るように稽古に精を出して身につける他無い。幸いな事にここでも格段の影響力と発言力を持つお狐様の御言様は自分を気に入り、それなりに心を砕いてくれるのが分かるのが本当に不幸中の幸いだ。彼は狐なので、まだ心の全てを開くのには勇気も信用も足りないが、これからの生活でそれらは観察して決めればいい事。そんな事を考えながら食べていれば、御言様の言葉が耳に入る。男性らしい低くて聞き心地の良い声が発した言葉を少し考えれば、口の中の物を飲み込むと、以前暇つぶしで読んでいた本にも似た様な言葉の1文があったことを思い出し、古くから生きているお狐様だ。そんなような特別な妖力と言われるような、神通力とも言うべき力があるのかもしれないと興味が出てきて。自分を抱えて後ろに座る御言様を見ようと振り返って顔を見上げて質問すれば、視界の隅にチラつく綺麗な尻尾。その尻尾がふわふわとしていて如何にも手触りの良さそうなそんなフサフサ加減に気を取られ、目線が御言様の双眸から尻尾へと移り)
( / お返事遅れてすみません。
リアルがバタバタとしておりなかなか時間が取れず…
今週中にはお返しできるように致しますので、申し訳ありませんがもう暫くお待ち頂けると幸いです。 )
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