さすらいの旅人さん 2022-06-10 11:31:43 |
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承知した、では暫し待っているとしよう。こちらの管轄分のもあったから、礼には及ばない。あのままでは時間内には終わらなかっただろう。
(気にした風もなく浅い目礼で応じ、喫煙所の前の壁際で言葉通りに待ちながら緩く首を横に振る。変わらない語調で言葉を続けつつ、僅かに顔を伏せて掛けていた眼鏡を外すと眼鏡拭きでレンズ部に付いた汚れを拭き取って)
「…ふ、それもそうだな。…悪い、時間を取らせた。俺もそろそろ帰る。」
(いつもしかめっ面の目立つ彼にしては珍しく、微かに口元と目元を緩めて薄く微笑む。最後の白煙を名残惜しそうに口から吐き出し、吸殻を携帯灰皿に押し付けて消すと喫煙所を出て相手に軽く詫び、そのまま踵を返して相手の前を立ち去っていく)
そう時間は掛かっていないから気にしていない。私はもう一度、フロアを確認して来よう。
(レンズ部を拭き終えた眼鏡は胸ポケットに仕舞い、目は合わせることなく腕時計で時刻を見遣る。そこから最後にもう一度だけ誰も居ないことを確認してからフロアの消灯と施錠を行うと通勤鞄を手に、オフィスを出てエレベーターに乗り込むと、他のはまだ階に停まるには時間が掛かりそうだったのでひとまず暫く扉を開けさせたままにし)
「………ただいま。」
(駅に近いマンションの一室、鍵を開けて誰もいない部屋に声を掛ける。鞄を置いてスーツを脱ぎ、ラフなスウェット上下に着替えるとテレビを点けた。煙草を吸いつつニュース番組を見ていたが、顔が好みの俳優が出ているドラマに変えてぼんやりと眺めていた。)
……皆、おはよう。今日の予定を確認していくが――……
(次の日。いつも通りに着衣の乱れもなく変わりなく出社し、早出してきた者達に挨拶を述べながら自らのデスクへと着く。デスク上に退勤後に置かれたものが無いことを確認し、外へ出ている者達を除いて出そろったところでそれぞれの一日の予定を確認していき)
「……ああ、おはよう。……どうした?…ああ、なんだこの書類か…俺が渡しておくから貸してくれ。」
(次の日もいつも通り機嫌の悪そうな表情でデスクに着き、仕事をしていると部下が恐る恐るといった様子でおはようございます、と挨拶をする。彼も声は低かったが声色は柔らかく挨拶を返し、部下はちらちらと様子を窺いながら自分のデスクに座る。と、部下の一人がおずおずと彼に書類を手渡す。どうやら間違って別部署の同僚の書類を持って帰っていたらしい。)
……はい。ではまた、そのように。……さて、そうすると……。
(その日の予定確認を終え、業務を挟んで自デスクでミーティングを行う。変わらぬ表情でそれもつつがなくこなし、その間に回されていた書類に目を通して決裁や確認を行っていく間にも部署内の様子に意識を向けるが今日も皆、特に問題があるような様子もなく声を掛けられることもなく)
「……少しすまない、高橋さんはいるだろうか?…失礼、こちらで探させてもらう。」
(自分の仕事をこなし、部下から託された書類を手に別部署へと顔を覗かせる。やはりと言うべきか、別部署の社員も彼の顔を見るなり怯えたように顔を勢いよく背けた。若干面倒くさげに溜息を漏らしつつ、一言断ってから部下の言っていた同僚の姿を探し始め)
……どの高橋で、どの件の書類だ。宛先の部署名は書いてなかったとみえるが、内容は機密に関わるものなのか?
(滞りなく仕事をこなしていると響く声にフロア内には同役職の者がいなさそうだったので、自分が先んじて立ち上がって衆目を浴びすぎる前に声を掛ける。なお自分の部下の9割は上司譲りの肝の太さなので、ちっともこちらを気にする気配がなく上司としては大変頼もしいかぎりである)
「…そちらの部署の高橋さんだな。内容は…先日の取引に関する書類だ。どうやら、うちの部下が間違えてこの書類を持って帰っていたらしい…申し訳ない。」
(手にした書類を一度だけばさりと振り、悪気はないが眼光鋭く相手を見やる。そしてその後、相手に頭を下げ、穏やかな声色で謝意を述べつつ書類を差し出す。一見すると疲れ果てたような様子で溜息を漏らし、間違えた部下の方をじろりと見つめた。)
暫し待て。……ふむ、分かった。そちらが気にすることはない。内容はデータ化して持って行っているから、置き遣ったままで管理が充分でなかったこちらにも非がある。その書類は下の階の、保安課の薄井に持って行ってくれるだろうか。それから……皆、下の階に持って行く書類は。……これも頼む。
(目付きの良し悪しに一切の関心も持たずに自部署を見ると現在社内に居る方は「私じゃないぞ」とすぐに答えが返って来たので、ならば外回りの方かと社用の携帯を取り出して連絡を取る。そこから、表情を変えずに緩く首を振ると、謝罪を求めない代わりに自分も含めて自部署の下階へ持って行く書類を集めると目の前の相手へ差し出した書類は受け取らずに更にその上に重ね)
「…ああ、失礼した。…ん?利用されている、か?そうかもしれんな。」
(気に留めるでもなく増えた書類を相手から受け取り、踵を返して立ち去っていく。その足でなぜか着いてきた部下と共にエレベーターに乗り込み、階層ボタンを押して下の階へと向かう。部下の心配するような発言に首を傾げ、淡々とした声で答え、相手の言った部署へと歩を進めた。)
(失礼しました、途中で切ってしまっていました…!)
「…いや、元はと言えばうちの部下の不手際だ。すまない。」
(目当ての人物を見つけるとそのまま流れるように当初渡すはずだった書類を差し出し、部下と共に頭を下げる。そして付け加えるように増えた分の書類もさりげなく渡し、今度は部下に対して本心からの溜息を漏らす。すっかり疲れ切った様子の部下と一緒に自分の部署へ戻ると仕事を再開し)
……さて、残りを終わらせるか。
(他部署だろうと遠慮なくこき使うのは上司ばかりか部下も同じなので、自部署内は誰も気にすることなく自席に戻る。書類を届けるように頼んだ先の者には今日は在籍していると朝のミーティングで聞いている上に、別件であの部署に何か話があるようだったので社用の携帯で簡単にメッセージを送った後は完全に思考を切り替えて業務を再開し)
「…なんだ、その件か。それくらいなら俺が後でやっておく。…ふ、また休憩を挟まないとやってられないな。」
(自分の仕事を淡々とこなしつつも困っている部下や手の止まっている部下のフォローを手早くこなしていく。部下たちは恐る恐るではあったが礼を述べて仕事に戻り、次々に部下の仕事を引き受けていくものだから彼はまた山積みの仕事と時計を見比べ、思わず苦笑しつつ煙草の箱を持って喫煙所に入ると先客たちにも構わずいつもの壁際を陣取り、箱から煙草を抜き出して次々に吸っていく。疲れているのか、いつもより早くに彼の周りにはいつもの白煙の幕が浮かんだ。)
……成程、そうか。ならば明日分も前倒しで業務配分を振り分けておこう。
(各々が順調に仕事を進ませるなか、進捗具合に気楽なぼやきを漏らした部下達の言葉に静かに頷くとその流れで躊躇いなく後に振る分だった仕事を回す。それに他の者が発言主に対して余計なことをと総攻撃を受けるのを耳に流しつつも、定時の終業までには全員が問題なく終わり)
「…ああ、お疲れ様。俺はもう少し残って作業をする。」
(定時で先に上がる部下たちに挨拶をしつつ見送り、自分は淡々と残りの仕事をこなしていく。書類の細かいミスの修正など、すぐに済むような仕事を手早くこなしていくからか然程時間は掛からないが、それでも量が量ゆえに全てこなした頃には時計は既に定時を回っていた。長く深い溜息と共にパソコンの電源を落とし、鞄を手に取って帰り支度を済ませると自分の部署を後にする。)
……御疲れ様です。今日は感謝する。
(今日も目立ったトラブルも発生することなく全員定時内に業務を終え、フロアの消灯と施錠を行ってから眼鏡を仕舞った鞄を携えオフィスを出る。そうしてエレベーター前まで来たところで、相手の姿が視界に入って表情を変えずに軽く目礼を送り)
「…いや…大したことじゃない、気にしないでくれ。下に降りるついでだったしな。お疲れ様。」
(形式通り軽くお辞儀はするものの、何故か困ったように眉を下げて首を横に振る。そして穏やかに言葉を返すと鞄を持ち直し、携帯電話で誰かと通話しつつエレベーターに乗り込んでその場を後にした。)
……人事に目ェ付けられてるみてぇだから、色々と改めた方がいいぜ。んじゃ、アンタも気ぃ付けて帰んな。
(エレベーターが来ると自分もそこに乗り込み、電話中であるらしいことも含めて会話もなくネクタイを緩める中で基内は何処へ途中で止まることもなく階下へ降りていって。一階に着いて扉が開くころには整えた髪の毛も乱雑に掻き上げて、視線は向けずに伝法に言葉を投げ寄越してから自分はエレベーターからさっさと大股に出て退社していき)
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