Devil 2021-11-21 21:57:27 |
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そんな、僕はあなたと親しくなりたいんです。レイさんのような魅力的な方に出会えて幸運です。
…注目されているのはレイさんですよ。
(ありがとう、と微笑むと相手の皿に美味しそうなものを見つくろって取り分け始める。
しかし悪い気がすると聞けば相手に目を向けて、そんなことはないと首を振った。相手のように魅力的な人に出会えたのだから、他の参加者よりも目の前の相手と今夜は時間を過ごしたい。
こんな気持ちになるのは初めてのことだったが、キザな言葉を恥ずかしがる素振りもなくサラリと口にした。
それに注目されているのが自分とは限らない。相手は一切気づいていないようだが、着飾った女性もシャレ込んだ男性も、相手に情熱的な視線を向けている者が大勢いるのだ。
相手を狙う参加者から相手を守り、自分がパートナーなのだと示すように相手の背に手を添えて皿を手渡す。
今夜はやけに出会いに積極的な、情熱的な男女が多いように思える。例に漏れず、自分自身も今日はなぜか同じように、相手と親密な関係になりたい、という欲求に忠実に、積極的になっている気がする。
テラスの方を気にしている相手に向こうがテラスになっていることを伝えると「後で行ってみましょう」と微笑んだ。)
向こうはテラスになっているんです。裏庭も見えるんですよ。
ハハッ、なんだか照れちゃうな。
( 自分と出会えて幸運だ、なんて言われれば、そう言って笑いかける。自分が注目されているのだと訂正されるものの、其れに関してはイマイチぴんと来ず、ただ、到着時よりも人間の欲の色が強くなっているのを感じ少々背筋が伸びる。ここまで色濃くなる場だとは思わなかったなぁ、なんて考えるが、この時点ではまだ相棒である悪魔の仕業だと気づいてはないらしい。
背に手を添えられながら皿を受け取れば、テラスの話を聞いて、へぇ、と関心良く合図を打ち、誘いにも快く頷くのであった。
_それから暫く、立食の場を転々とし様々な人と簡単に交流も行うが、相手は律儀にも毎度連れ添ってエスコートしてくれる。また、新たに出会う人々の熱を帯びた視線や、声音、中には静かに互いを蹴落とさんとする女性同士の視線までも、どれもが身に覚えのあるものだった。それはきっと、普段、彼が近くに居たからだ。
…さて、どうしたものか、と脳裏で考えていると、いよいよテラスに近い奥の席までやってきた。テラスにはどうやら先客が居るようで
「 …もう、他の子に見られたら嫉妬されちゃうわ」なんて、浮かれているカップルのような会話が聞こえてくる。)
(/ 嫉妬パートでは、レイチェルやアルフレッド、他含め、動かしやすい人を好きに動かしちゃって下さいっ*)
…良いだろ、別に。見せつけてやれば良い。
(庭の見えるテラスが、このパーティーに生まれた少々歪な欲望の中心となっていた。
ワインを何杯か飲みほろ酔いの悪魔は機嫌よさそうにレイチェルの腰に腕を回し、誘惑されきった彼女は熱のこもった視線を相手に向ける。傍から見れば完全にいちゃついているカップルだ。
その片手間、近くにいる別の女性に視線を向けて力を使うものだから、誘惑を受けた女性たちは突如として悪魔に気持ちを奪われ、そのせいで急に自分の相手が色あせて見えるようになるのだ。
テラスにいたカップルたちはことごとく険悪になり始め、人々の心に嫉妬が芽を出す。
___すぐ近くに天使がいるとも知らず、そして自分がしかけた誘惑が天使の隣にいる身綺麗な紳士にも作用しているとも当然知らず、すべて自分の思惑通りにことが進み悪魔は楽しくて仕方がないようだった。)
(了解しましたっ!一旦調子にのってる悪魔(←)を動かしましたが、時々に合わせて色々動かしていきますね*)
( 向こうが気になりつつも、同じテーブルを囲う者達と当たり障りのない話をしながら酒を飲み、それなりに楽しんでいた。
しかし、更に暫くして、テラスから男性1人、大広間へと戻ってくるのを目にする。何やら不服そうに口を曲げていると思えば、目先の女性へと洒落こんで声を掛ける。その様子に堪らず
「…ちょっと、失礼しますね。」と周囲へ柔らかく会釈をすれば、手にしていた酒をテーブルへと残し、意を決してテラスの方へと歩み寄る。
欲の渦が濃く、飲み込まれている人間がすでに数人いる。欲の渦から強引に引き剥がす訳にも行かず、兎にも角にも、1番濃厚な匂いのする方へと出向き、様子を伺いたいらしい。)
……あ ッ!
…と、すみません。支えてもらっちゃっ…て。
( 此方がテラスへと一歩踏み入れた瞬間、先程の男性のように機嫌を損ねたらしい別の男性がやって来ては、肩がぶつかりよろけてしまう。幸いにも、後でテラスへ行こう と声を掛けていた相手が肩に手を添え支えてくれたので、大事ではなかった。
相手へと礼を言いながら顔をあげれば、そこには連れの男性を失ったのであろう女性が2人、そしてまさに険悪ムードなカップルと…、お互い腰に手を回し仲睦まじく身を寄せ合う男女。
その時、それはそれは綺麗なパートナーを持った赤い瞳と目が合い、渦巻く欲の原因が分かったのだった。)
( / 女性を魅力するベリアルもかっこよすぎます……←
承知致しました!
ありがとうございます! )
(この状況では女性は女性に、男性は男性に嫉妬するため、2人でいれば周囲に歪んだ感情を芽生えさせるのは容易いことだった。
彼女の長い髪を撫でてから一房手に取り軽く口づける。この欲の渦が会場全体に広がれば良いとほくそ笑みながら、周囲の人間の反応をうかがうため顔を上げるとよく知った深いブルーの瞳と目が合った。
なぜ天使がここにいるのかという驚きに目を丸くしピタリと動きを止めたものの、すぐに隣で親しげに相手の肩に手を置く男に気づき 誰だそいつは、とでも言いたげに眉をひそめる。その間も隣の彼女の腰を抱いたままだ。
同時に、相手の隣に立つ男にもかなり誘惑の影響が出ていることに気づき頭を抱えたくなった。天使にかなり好意を寄せているようだ。)
「 …アル、どうかしたの? 」
「 どうかしましたか、レイさん。 」
(その2人がそれぞれの相手に声をかけたのはほぼ同時だった。
レイさんなんて親しげに呼ばせているのかとあからさまに嫌な顔をして、男の誘惑を解くため指を鳴らそうとした。
男が天使に好意を寄せたのはそもそも誘惑のせいではなさそうだが、この感情の昂りはどうにかしたほうがいい。テラスが少し肌寒いことを理由に、今にも天使の肩を抱き寄せそうだ。
…が、ここで指を鳴らせば他の人間たちの誘惑も解けてこれまでの苦労が水の泡になる。
「いや、なんでもない。」とレイチェルに視線を戻して微笑むと、男が持っていたワイングラスに密かに指先を向けてヒョイと動かした。
ワイングラスが傾いて、驚いた男がそれを持ち直そうとするが中身の赤ワインは男のジャケットにこぼれシミを作った後だった。)
(そういっていただけて嬉しいです!自分はやりたい放題で楽しんでるくせに天使にはバッチリ嫉妬する理不尽さですが……←)
( 相棒が満足気に身を寄せる女性に加え、周囲の女性達の視線を見れば、あぁ、と事の状態が腑に落ちたような気持ちになる。ゆっくりと相棒の姿を眺めれば、此方は、案外冷静にも同時に問いかける男女の言葉を聞いていた。
「 いえ、なんでも。」と心配そうに此方を見つめるアルフレッドへ微笑めば、同じように相手へ誤魔化しの言葉と微笑みを向ける悪魔の顔をチラリと見やった。どうやら、お互いがお互い、名も同じ相手にあてがわれているようだ。といっても、大方、仕事か何かで誘惑をしかけたのは彼だろう。上手く自らにも夢中にさせて、随分と楽しそうである。)
…だ、大丈夫ですかっ?
すぐに洗わなくてはっ
( ふと、相手の持っていたワイングラスが傾けば、ジャケットへと溢れてしまい、慌てて自らの赤いスカーフを取り出して拭き取ろうとする。
原因は勿論分かっていて、もう一度彼へ視線をやれば、ムッと眉をひそめた。自分は案外冷静だと、そう思っていたが、どうやら驚きと嫉妬心が混ざり合い、ムキになりつつあるようだった。
そのまま、アルフレッドの腕を引けば「 アル、やっぱり向こうへ行きましょう 」なんていってその場から離れようとする。)
すみません、僕の不注意で。
あなたの白いスーツにかからなくてよかった……。
(相手が男をアルと呼んだことに腹をたて、それは俺の名前だろうと言いたげに悪魔は相手を睨みつけた。
一方でワインをこぼした張本人はもちろん不思議な力が働いて起こったことなどとは思いもせず、思った以上に酔っているのだろうかと首を捻って不注意でこんなことになってしまい申し訳ないと謝った。
せっかくスマートに相手をエスコートしようとしていたのに、ジャケットにワインのシミがあっては魅力も半減してしまう。いい雰囲気で相手とテラスを堪能しようと思っていたのにと肩を落としながらスカーフで拭いてくれる相手に申し訳なさそうに目尻を下げる。
よく似合っている真っ白な相手のスーツに跳ねてしまわなくてよかったと心底安堵しながらも、シミを落とすため向かい合っている自分より少し背の低い相手を見ていると、抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
それはすぐ近くに欲の中心である悪魔がいるからなのだが、そんなことはもちろん知りえない。
この身綺麗な紳士は人がよく、良くも悪くもこうした力の影響を受けやすいタイプの人間のようだ。
スカーフを手にした相手の腕を引き寄せて優しく抱き寄せると、自分の情熱的な心の内を相手に伝えるのだった。
そしてその状況を目の当たりにした悪魔は、気を紛らわせるために飲んでいたワインに思わずむせてレイチェルが慌てたように背中をさすった。)
___ああ、レイさん。こんな気持ちははじめてなんです。
あなたはとても魅力的な人だ…この夜が終わらなければいいと思ってしまいます。
そんな、魅力的だなんて…。
お気持ちは嬉しいですが、他にも素敵な人はたくさんいますよ。
( 此方を睨みつける視線に気づかない振りをしつつ、不注意だと謝るアルフレッドには気にしないで、と言いたげに首を横に振る。
さて、この混沌としている状況をどうするべきか。主に、相手に身を寄せ離れようとしない女性をどうにかしたいのだが…彼女も全て悪魔の力でほだされている訳でもなさそうだし、何より、自分の嫉妬心が相手に伝わってしまう気がしてなんだか悔しい。
なんて思っていれば、不意に腕を引き、抱き寄せられる。一瞬情けない声を上げ、突然のことに思わず頬を赤らめながら、アルフレッドの熱烈な言葉に眉尻を下げた微笑みを浮かべて返答する。
…何が1番やっかいか、それは、今自分を抱き寄せている男がどうやら欲の熱に浮かされているらしいことだ。)
「 やだ、あの方もレイって言うのね。顔を赤くしちゃって可愛いわ。今日は熱烈な人が多くてロマンチックなこと…。
私だって、貴方と今夜逢えて嬉しいのよ。アル。」
( 心配そうにむせていた相手の背をさすれば、目の前で繰り広げられる熱いアタックにフフッと目を細めて微笑んだ。横にいる悪魔と言い寄られている天使の関係を知る由もなく、また凭れるようにして、自分の身を相手の身へ預けながら上記を述べる。
未だ相手を狙っている様子の周囲の女性達へ見せつけるように、積極的に腕を組んでは艶っぽい視線を彼へ向けた。)
(謙遜するような相手の言葉に、アルフレッドはそんなことない、と尚も首を振り熱のこもった視線を相手に向ける。
こんなにも心惹かれる人に出会ったのははじめてだ、私にはあなたが必要だと、相手の肩を掴んでまっすぐに思いを伝えていた。
___少し前まではすべてがうまく行っていたはずだと、その光景を見ながら不機嫌そうに眉をひそめていた悪魔は頭をかかえる。
どこからこうなってしまったと考えれば、紛れもなくこの場所に天使が現れてからだ。こんなパーティーにまさか相棒がいるなどと思うはずもないじゃないか。
相手がいるとレイチェルを誘惑するのも少しはばかられるし、何より自分の誘惑がどういうわけか相手にも向いてしまっている。それが問題だった。)
___ああ、分かってる。…俺もだよ、レイ。
(そんなことを考えているとレイチェルもまた艶っぽい視線を向けてきて、自分が誘惑したのだから当然だと上の空で頷いたものの、すぐに気を取り直して彼女に視線を向けて優しく微笑み、手の甲にキスをした。)
…申し訳ありません、レディ。
ちょっと、この方をお借りしますね。
( 真っ直ぐに想いを伝えてくるアルフレッドに、しどろもどろになりながら笑いかけていると、彼女に微笑み、その手へとキスを落とす悪魔を見た。
その直後、肩を掴むアルファベットの手を優しく退け、無言のまま仲睦まじい2人へ近づけば、キスをされ舞い上がっているレイチェルの肩に手を触れて、にっこりと微笑みながら上記を述べた。その表情はいつものように柔らかく優しいものだったが、相手の有無も言わさず力強い手つきで、悪魔をその場から攫っていった。
テラスから離れていく2人を、アルフレッドもレイチェルも呆気にとられたように見つめるが、そんな事はお構い無しに会場の隅へと移動する。)
キミの言っていた仕事日和ってのは、この事だったんだね。
随分と、素敵な雰囲気の会場になっているようだけど。
( 移動している最中も、周囲の男女からなる視線を感じたが、にこやかにそれらもあしらいながら、なんとか静かな所へ漕ぎ着け相手へと向き合った。
ため息混じりに言うその姿には、珍しく苛立ちが混じっているようだ。)
…っおい、!
(気づけば目の届く場所で男から熱烈な口説き文句を受けていたはずの天使が目の前にいて、さらにレイチェルに話しかけてこちらの手を引っ張るものだから驚いて声をあげる。
ここでは他人を貫き通すんじゃなかったのかと思いながら、思いのほか力強い相手に着いていくよりほかない。
大勢の人で賑わっているパーティー会場のはずなのに、道を譲らざるをえない気迫があるのか、はたまた天使の力か、相手の進む先は人が開けていき注目を浴びながらもあっという間に大広間を抜けていく。
静かな場所にたどり着いてようやく相手と向き合うが、怒られるようなことはしていないと仏頂面のまま。対する天使も、口調は普段通りであるもののかなり機嫌が悪そうだ。)
___何のつもりだ、こんな所まで連れてきて。
見ての通り、俺がマジメに働いた成果だ。素敵な会場を楽しんでもらえて何よりだよ。
シミのついたジャケットの男から随分熱烈なラブコールを受けてたな、今日は恋人探しか?
(不機嫌そうな顔のまま、自分が作り上げた雰囲気を褒めてもらえて光栄だとばかりに得意げに会場に目をやる。欲や嫉妬が人から人に伝染して、地獄からも褒められる働きぶりといえるはずだ。
そもそも相手が自分に隠れてこんな場所に1人で来るなんて。その事実にかなり嫉妬したようだ。恋人探しかと棘々しく揶揄して、フンと顔を背けた。)
な、何のつもりって…
悪魔様の悪行を止めるために決まっているだろう。
( 仏頂面の相手の言葉に、一瞬面食らったように一歩引き下がる。良く考えれば、あのまま他人の振りをして気にしなければ良いものの、どうして自分は相手の手を引いてここまで来てしまったのだろう、と考えてしまう。
それは、明らかに女性と仲良くしているのが面白くなかったからだが、それを認めたくないのか、天使としての当然の行いだ、と言わんばかりに開き直り腕を組む。)
僕は、視察に来ただけだよ。
それに彼のことに関しては、少なからずキミの所為でもあるだろう。
( 自らラブコールをしているキミに言われたくはない なんて、態度で示せば、そうしている間にも、彼女の香水の香りが相手から香り、目を逸らす。
しかし、仮にも付き合っている訳でもなければ、自分が相手の素行をとやかく言う権利は無いはずだ、とどこか冷静な自分がいる。相手が仕事をしているのなら、此方もそれに便乗して仕事をすればいいだけだ。
そもそも、相手に恋人ができるのは友人として喜ぶべきこと、、のはずなのに、どうも周囲の人間に力を使うだけではなく、自らも色目を使っている様子がひっかかる。
自分は、こんなにも傲慢だったのかと、少し胸が傷んだ。)
俺は悪魔で、これがれっきとした仕事だ。
そんなの今さら言わなくたって分かりきってることだろ?
視察だなんて言ってなかった、やましいことがあるから俺に黙って来たんだろ!
(相手と面と向かって話したことで感情を抑えきれなくなったらしい。こちらにも非があるのは間違いないのだが、相手が自分に何も言わずにパーティーに参加していたことや、男に本気のアプローチを受けていたことに対する嫉妬心から語気を強める。
自分のやることを全て天使に正されてしまえばこちらは仕事の成果をあげられなくなる。そんなことは相手もとっくに分かっているはずだしこれまでもなんだかんだ折り合いをつけて、見て見ぬふりをしてもらうこともあったのだ。悪行を正すため、だなんて理由は腑に落ちない。
相手は視察だと言うが、この予定を相手はあえて自分に伝えなかった。付き合っているわけでもないのだからそれも別に相手の自由だし口出しする権利もないのだが、“自分というものがありながら”内緒でパーティーに参加してまで出会いを探しにきたのかと怒っているのだ。
「あいつが影響されやすいのが悪い」とアルフレッドのことも認めようとはしない。
嫉妬心に駆られ、相手の気持ちを考えることはできなくなっていた。相手のこととなると感情的になりやすいのがこの悪魔の悪い所だった。)
僕の用事だって、大方予想はつくだろう。
( 反論に反論を繰り返し、此方も随分と感情的になっているようだ。この時は、自分の行動が相手にどう思われるのか、いつものように冷静に考えることが出来ていなかった。
語気を強める相手に引き下がることもせずそう言えば、目線を落として 「あぁ、もう、分かったよ」とため息混じりに続けた。 )
…確かに、これは仕事で、キミがどこで誰と、何をしていようがキミの勝手さ。
僕は、恋人でもなんでもないんだ。咎めるのは、筋違いだったよ。
( 先程から心のどこかで分かっていた、この暗く厭らしい気持ちを抱くべきなのは、決して自分じゃないという事実。それを堪らず口にする事で、尚更、自分の行ったことが如何に幼稚で自分勝手だったのか身に染みる。
しかし、それも半場投げやりのような、小さく低い声で言うものだから潔いものでは無いだろう。
手元に握られたままの赤いスカーフを見詰めれば、ふと顔を上げて「 良いところを邪魔して悪かったね 」と無理やり微笑んだ。)
あの素敵なレディが、待っているだろうね。
( 彼女も、彼の言うように影響されやすい人だったのだろうか。そうであっても、仮にそうでなくても、相手は自分に魅了され誘惑される相手を好む。それがどの好意に当てはまるのかなんて、もはや今はどうでもよかった。
僕も人間で、いっその事、馬鹿みたいにキミに誘惑されたら良かったのに、なんて言えば、相手はどんなら顔をするだろうか。)
(相手の言葉に突き放されたような気がして眉間にシワを寄せたまま思わず押し黙る。恋人でもないのだから咎めるのは筋違い、だなんて言われたらこっちはどうなる。自分もまさに相手を咎めている真っ最中で、自分も同じように筋違いなことをしていると突きつけられた。
諦めたような、本心からではないことがありありと伝わる微笑みに胸がざわつくような気分だった。)
___あの男のところに戻るのか。
(相手が諦めたように自分を突き放すのはこちらが感情的に喚くせいなのだが、あの男に心惹かれているからではないかと邪推して低い声でそうひと言だけ尋ねた。
ここで険悪になったまま別れれば相手はあの男のもとに戻ってしまう。そう思うと今度はこちらが相手をここに繋ぎ止めておく必要があった。
踵を返そうとする相手の腕を掴み青い瞳を見つめる。赤い瞳に見つめられ相手は蛇に睨まれたように身体を動かすことができなくなっているはずだ。
天使を力ずくで従わせようとするのは初めてのこと。それほど感情的になっているようだった。
天使と悪魔の力は互いにとっては毒になる。長くそのままでいれば相手の身体に痛みを生じさせてしまうだろうが、ただ相手をあの男の元に返したくない一心だった。)
( 相手へ背を向けようとした時、腕を捕まれ、振り返りざまにその赤い瞳に捉えられた。ピリッと、一瞬電流が走ったような頭痛に顔をしかめれば、動かぬ身体に何が起こったのか察しがついた。
低い声で、一言、問いかけてくる相手の瞳に、僅かに期待を込めて、恐る恐る言葉を返した。)
……キミは、僕が彼と親しいのは、嫌かい?
( これまでも度々、相手は、自分が他者との距離が近いときに叱ってくることがあった。だが、それは大凡、自分の危機感の問題だとか、お人好し過ぎると言った具合で、今回も相手の仕事への理解不足というか…、とにかく、彼は自分と同じような要因で怒ることはあまりないと思っていた。正直、自分自身もこうやって感情的になるとは思っていなかった訳で。
だから、この腕を引き止めて赤い瞳で訴えかける彼に、こうなれば直接聞きたいと思ったのだ。
_天使だから故なのか、白を好み、黒や赤はあまり身につけていなかった。それでも、彼のその赤い瞳がいつも新鮮で、好きだった。だからこそ、赤く派手なドレスを身にまとい、妖艶で美しい彼女が相手に寄り添っているのを見て、お似合いだと感じ、何故だか無性に悔しかったのだ。
…再度、手にしていた赤いスカーフを握りしめて、静かに、返事を待った。 )
___嫌に決まってる。お前に色目を使う奴は好きじゃない。
(相手を捕らえて離さない赤い瞳に渦巻くのは紛れもなく、自分がこの会場で煽ったのと同じ嫉妬だ。別に自分の力に飲み込まれているわけでもなく、誘惑によって人間の欲を煽った結果として自分が嫉妬することになってしまっているだけのことだった。
不機嫌な声音はそのままに、嫌だと即答した。相手は魅力的で人当たりもよく、その優しい笑顔のもとに人が集まるのは当然だったが、中でも相手とより深い仲になることを望んでいる者特有の熱っぽいような、憧憬や恋慕の感じられる目は嫌いだった。
あの男は自分にないものを持っていて相手とお似合いだと感じたせいか、なおさら嫌悪感が募るのだ。
上品な雰囲気や物腰の柔らかい口調、上質な服を着て優しく相手をエスコートする。その上あの男は敬虔なクリスチャンだ、地上で天使の横に立つ者としては申し分ない。悪魔か紳士か、どう考えても軍配はむこうに上がる。そうなれば当然憎たらしくてしょうがない。
…自分はこれほど嫉妬しているというのに、天使が自分に嫉妬しているという考えには1ミリたりとも至らない。
悪魔は誘惑するのが仕事だと普段から豪語しているため、女性を誑かしたり自分に魅了させることを一切悪だと思っていない。
自分から甘やかな花の香りが漂っていることも何とも思っていなかった。)
……アル。
僕だって、キミに色目を使う人は、嫌だよ。
キミが、周りの欲をどう乱すか、どう利用するのかは自由だけど、でも、それが…キミに向けられるのは、嫌なんだ。
( 不機嫌なまま、即答する言葉を聞けば、グッと込み上げてくる何かを堪えた。青い瞳に熱を帯びながら、ゆっくりと、 此方を掴まえている手へ己の手を重ね、静かに言葉を募らせた。
悪魔の力に反発すると、またピリピリと痛みを伴うが、今はそれ所ではなかった。
勿論、立場上、相手の仕事ぶりは自分にとって不都合なのは確かだ。しかし、それはお互いに理解しているし、此方も、此方の仕事の仕方があるように、相手が人間にどう力を使おうが勝手だ。周囲の人間が熱に浮かされれば、そこから善の道を見つけ出し、導くだけなのだから。
だが、その欲望や熱が相手に向かれるのは、自分にとって嫌なものなのだと、この時初めてはっきりと言葉にした。
それと同時に、自分は、こんな感情をもっているのか、と改めてはっきり自覚することになった。)
僕は、天使のはずなのに…、こんなにも欲深かいんだ。
( こんなことを言って、相手にどう思われてしまうのか不安になり、合わせていた瞳を無理やり引き剥がす。
先程、こんなことを言う権利はないと思ったばかりなのに、我儘をいうなんて。様々な感情が入り交じり、瞳の熱はもっと熱くなる。 )
(嫌だ、と初めて伝えられた相手の言葉は想像していなかったもので瞳に驚きの色が混ざる。
いつも一方的に自分が天使に嫉妬しているものだとばかり思っていたのだ。相手の交友関係に口を出すのもお人好しだと怒るのも、いつも自分だったから。
相手を縛り付けていた力が弛んだが、相手がその場から動くことはなかった。
静かなトーンで語られる相手の言葉は、感情的な言い合いよりもずっとまっすぐに自分の心に届き、苛立ち昂っていた感情も少し落ち着いたようだった。)
…力を使ったりして悪かった。…俺から花の香りがするのは嫌か?
(苛立ちをぶつけるように声を荒げてしまった上に力ずくで相手の動きを封じてしまったことを謝り、相手に少し近づこうとするが、自分に魅了されるよう仕向けてあれほど近くに抱き寄せていた彼女の香りがするのはいい気がしないだろうかと足を止め訊ねた。
天使は悪魔の誘惑の影響を受けることはないのだから、相手の嫉妬は自分が誘発したものではない。
こちらを大切に思ってくれるがゆえの嫉妬、欲深さであるなら、それがうれしくないはずがなかった。)
___悪魔は欲深いのが大好物だ。
( 落ち着いたようにこちらへ謝罪をする相手に、視線は下を向けたままだったが首を横に振り、自身も「 ごめん 」と謝る。
感情的になって彼を無理に引っ張ってきたのは自分だったからだ。 )
…嫌、だけど。
遠くにいるよりもずっと良いよ。
( 続けて香りについて聞かれれば、何時もならスマートに“仕方ないよ ”なんて言って平気な顔ができるのに、今夜は随分と我儘になってしまったらしい。
これまた、嫌だ、と素直に伝えつつも、それでも、本人が傍に居てくれるのならどうってことはなかった。
近づこうとする相手の袖を引き、大好物、の言葉に 安心したように、可笑しそうに微笑みを取り戻せば、思わずその頬に触れそうになる__)
「 … アルッ!
もう、貴方達、一体何時まで待たせるつもりなのかしら。 」
( しかし、手を伸ばしたその瞬間、向こうからレイチェルがやってくる。どうやら、暫く大広間で待っていたがなかなか戻ってこないので、痺れを切らして探し回っていたらしい。
それを見て、天使は思わず伸ばした手を降ろし、黙って彼女の姿を見つめていた。彼女は相も変わらず熱い視線を相手に向け、「 早く戻りましょうよ 」と笑顔で迫ってゆく。
ふと、見れば、此方も心配になり、レイチェルの後を追ってきたのだろうか、アルフレッドも向こうから此方の様子を伺っているのがわかった。)
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