くたびれバーテンダー 2021-05-23 21:50:03 |
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……ふーん。
(自分とは真逆の性格故に半ば彼の言うことが信じられず、訝しげに見つめながら返事をして。暫く黙ってウォッカを口にしていたが、少し経って酒が回って来たのかぽつりぽつりと愚痴の続きを零し始め)
……俺さー、正直めちゃくちゃ顔良いじゃん。
…ええ、そうですね。
(少し反応に困りつつも笑顔を保ったまま答え。「一条様は確かに綺麗なお顔をしていらっしゃるかと。」グラスを磨きながらも目線を向けて)
それは俺も知ってんだよね、百も承知なわけよ。
(カウンターに肘をつきだらしなく体重を預けて、グラスを傾ければ氷がカランと音を立て。期待通りの肯定が返ってくると満足げに頷いた後、またすぐに不機嫌な顔に戻って)
…けどさ、俺なりに役者としてのプライドってもんがあんの。顔だけで売ってないっていうか、演技を頑張りたいっていうかさ。
それは…素晴らしいお考えですね。
(二、三度首を縦に振って大きく頷いた後、「…しかし周りの方は一条様のことをお顔でしか見ていらっしゃらない、ということでしょうか。」憂いを帯びたような口調で静かに溢し)
(再度飛んできた肯定の言葉は満更でもなさそうに受け止めつつ、相手の的確な質問には少し間をおいてコクリと頷き。未だ目は合わせないまま、今日あった出来事を思い出しつつ心底悔しそうに表情を歪め)
…まぁね。今日の撮影で監督に言われたんだよ、「お前はビジュアル要員なんだから余計な事はしなくて良い」って。…俺なりに考えて芝居してんのに、余計な事扱いしやがってさ。
それは酷いですね…。
(悲しそうに瞳を細め、グラスを磨く手を止めて「私で良ければ愚痴にお付き合いしますよ。」とカウンターにもたれ掛かり)
(話を聞く体制になった相手をチラリと一瞥し、酒のせいで段々と回らなくなって来た頭で本音ばかりが零れ落ち)
俺さ、あんな事言われるためにこの仕事やってねーし、だったら辞めてやるって一瞬思ったけど。…芝居が好きだからさぁ。ほんと嫌になる、あの監督のジジイも俺も結局クソ野郎だよね、って。
……うん。
(珍しくしおらしい様子でコクリと頷いて、しかしありがとうを口にするにはどこか照れ臭いため別の刺々しい言葉で誤魔化して)
オッサン、マジで優しすぎなんじゃない?俺は善良な若者だから良いけどさ、そのうち悪い奴に漬け込まれるよ。
…は?だから子供扱い───、
(ムキになってカウンターに手をつき立ち上がると目眩がして、へたり込むようにしてその場にしゃがみ込み蹲って)
なんか気持ち悪、…酔ってきた、かも。
大丈夫ですか…!
(目を丸くし、珍しく大声を出したかと思えばカウンターから飛び出てきて。蹲る相手に駆け寄って背中を心配そうに擦り)
は、大袈裟…。
(大丈夫だと言い張りながら、急に動いたからか先程よりアルコールが回ってきて。意識を失う程ではないため自力で立ち上がろうとするが、思わず相手に寄りかかってしまい)
マジで大丈夫だから、久しぶりに飲み過ぎただけだし。
(一人暮らしの自分を迎えに来てくれる者などいない、と否定しかけたところでマネージャーの存在を思い出し)
…あー、マネージャーが車で来てくれるかも。
マネージャーさん、ですか。無理そうでしたらご連絡をしてくださいね。
(心配そうな表情のままカウンターに戻り、グラスを磨く作業に戻って)
(連絡を寄越そうかと迷ったが悪酔いした事を自ら白状するようで躊躇われ、再度カウンター席に座ると項垂れるように机に突っ伏して一息つき)
別に呼ぶ程じゃないし、もうちょい休んでから自分で帰る。
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