2人掛けの玉座 【〆】

な、っ……まったくお前……俺が主人なんだぞ……__あぁ、ちょうどいい。やるじゃないか。……耳を貸せ。
(からかったつもりだったがまさかそれを真正面から返されるとは思わず、言葉に詰まってしまった。追い打ちをかけるように唇が触れた指先が相手の唇に触れ一瞬時が止まる。もう何度も口付けを交わしているが改めてあんな間接キスをされると、口付けを俯瞰で見ている感覚に陥って恥ずかしくなる。2人がキスをしているという事実をまざまざと見せつけられている感じだ。あんな格好をしているせいか随分と余裕があるらしい、普段から堂々と言いたいことは言うやつだとは思うがそれが自分への独占欲やら好意となると、相手からの思いで胸が溢れて押しつぶされそうだ。幸せなことに変わりはないのだが。とりあえず落ち着くために砂糖を入れてもらった紅茶を口にする。程よい甘みが口に広がる、少なくない時を過ごしてなんとなくこちらの好みの塩梅も知られているのだろうかと思うとまたそれも嬉しい。精一杯主人の振る舞いをしようと尊大な口調で話してみるがどうも浮ついた気分になる。やはり他人に命令するなんてことは慣れていない。とはいえこのまま相手に主導権を握られたままなのも気に食わない。紅茶で落ち着いた頭で暫し作戦を練ると、カップをソーサラーへと置いた。そして次なる命令を口にした。いつもなら自分から相手へ寄るか相手を引き寄せるかの選択だか今日はご主人様らしくその場から体を動かさず指先をクイクイと動かしてこちらへ来るよう促す。耳打ちしたいことがあるらしく顔を寄せるようにと合図を送り)

ここじゃキス出来ないからね。なら良かった。何となくゲイツの好きな物とか色々分かってきたかも。 …なになに、内緒話？
（相手の表情から動揺が読み取れると悪戯が成功したとばかりにへらりと笑みを浮かべる。先程だってこれよりも深い口付けをしたはずなのにちょっとした戯れの間接キスで照れてしまうのも何とも愛おしい。あくまで自分が主人だと主張する相手に少し控えた声で口付けの代わりだと告げて。これくらいかなと思う量の砂を入れた紅茶は丁度良かったらしい。簡素な注文でも相手の好みをピタリと当てられたような気がして嬉しくなる。一緒に過ごす中で何気ない相手の嗜好や癖を知ったからこそかもしれない。こういった些細な事でも幸せを感じるのだから相手と結ばれて良かったとつぐづぐ思う。ロールプレイの為か主人っぽく偉そうな言葉を使う相手にも思わず笑みが零れる。案外乗り気なのかもしれない。紅茶を飲むところを見届けていると命令と共にこちらに来いと指先で合図された。他の人に聞かせたくない話でもあるのだろうか。瞬き一つ挟めば楽しげにニヤケつつも促されるまま相手の傍に寄り、身を屈めて顔を寄せて）

ここでしたら大事になるだろ……つまり俺たちは好みが分かるくらいに互いのことを観察して考えてる関係ということだな。あぁ……褒美だ、とっておけ__
(企みが成功したとばかりに一段と緩い笑みを浮かべる相手に呆れた返事をしながらも人懐っこいその笑みを憎む気にはなれない。むしろ先程の行為も含めて楽しい戯れとして受け入れてしまう、口には無意識に小さく笑みが浮かんでいた。こうやって相手に振り回されるのが心地良いと感じるくらいには相手に惚れているのだろう。そしてそれは相手もきっと同じ、その証拠がこの紅茶だ。互いの好みを知れるだけの時間を過ごして、その好みを覚えているだけの好意を持っている。思わず自惚れたことを言ってしまったが、それが許されると信じられるくらいには相手のことを思う自分がいるのだ。まだその関係も擽ったさはあるが、口にできるほどには体に馴染んできたようにも思う。そんな状況と真似事とはいえこの主従という関係、それらが相まって行動がやや大胆になっているようだ。こちらに近づいてきた相手の耳を片手で覆う、それこそ耳打ちと同じ格好だ。そして相手にだけ聞こえる声で主人のそれの口調で一言囁いたあと、口元を寄せていた耳に微かにリップ音が聞こえる口付けを施して)

色々ビックリされちゃうね。 そうそう、ゲイツの事なら割と一番になれるくらい色々知ってる自信あるよ。 …、っ!
（呆れた口調でありながらも行為自体は咎められていない。ツンとしているように見えてどこまでも暖かく受け止められて許されていることが嬉しくて堪らない。正直なことを言えば大事になったとしても今このまま口付けを交わすのは自分としては構わないとさえ思っている。だが、秘密の関係だと約束した訳だし、今みたいに口元に笑みを浮かべる相手に誰かが注目するのは何か惜しい。今はこっそりと2人で戯れるくらいのが丁度良いはずだ。そんな中で告げられる相手が自分を理解していて、尚且つ自分も相手を理解しているだろうと自信を含んだ言葉は擽ったくもあり幸福を感じるものだ。相手の生まれた時のことや今までの人生、周りの環境のことはこの時代の自分が本当の意味で知る事は出来ないだろう。それでも今の相手のことは誰よりも、相手の時代の仲間よりも分かっている自信はある。自惚れに便乗する形で得意げにその事告げてみて。そんな空気感に浮かれていたのか素直に耳を寄せれば片手を添えられその中でいつもと違う口調の相手の声が響く。それだけでも驚きと擽ったさにガチガチに固まってしまったのに続いて軽い口付けとリップ音が鳴れば身体がぴくりと大きく跳ねる。思わず変な声が出てしまいそうで咄嗟に口を押さえた自分を褒めて欲しい。熱の上がった顔を隠すように背けて動揺落ち着かせようとして）

お前のことを一番知っているのも俺だろうが……まだまだ知り足りないな。……クク、執事がご主人様に背を向けるとは何事だ。ちゃんとこっちを向け。
(今自分が生まれたのとは異なる時代にいる以上、ここにきて一番一緒に時を過ごしているこの恋人こそが自分を一番知る人物だろう。それに元の時代では成しえなかった経験もここにきて山ほどあって、その全ての時間に相手がいる。全ての時代を合わせたって自分のことを知る一番の人間は常磐ソウゴだ。そしてきっと相手にとっての自分もそう。今日この文化祭も含めて沢山の思い出を共有している。だが今相手にとっての一番が自分だろうとまだ満足できていない。この恋人とはまだやりたいことも行きたい場所も山ほどある。その時にどんな顔をするのか、どんなことを言うのか、そしてどんな自分の話を語るのか……例え全てを知ることができなくても、まだまだ知りたいと願い続けている。そんな相手のことをもっと知る為ならば時には不意打ちも必要だろう。大人びて冷静に振舞っていた執事は明確にこちらに反応して顔を隠してしまった。今は自分がご主人様、理不尽を言っても許される立場だ。上機嫌に口元をニヤケさせながら、またも主人の立場から命令を下し)

一緒にいるならこれから幾らでも知る機会はあるんじゃない？まだまだやらなきゃ行けないこともやりたいこともあるし！ うぅ…、楽しんでるでしょ、ぜったい。 意地悪なご主人様にはクッキーあげないよ？
（お互いの一番の理解者だとそれぞれが主張するやり取りに異議はない。寧ろそれが当たり前の前提のように進んでいくこの空気が割と好きだったりして、自然と表情は緩む。過去の思い出には干渉する事が出来なくとも今とその先の未来の思い出はこれから幾らでも積み上げることが出来る。平和を脅かすアナザーライダーやタイムジャッカーを止めるというやらなきゃ行けないことも夏祭りに行ったり一緒にトレーニングしたりと沢山あるやりたい事も相手と共にが良いと切に願っている。それをやり遂げるための時間はきっとあるはずだし、無いなら作ってしまえばいい。それはそうとして不意打ちは別の話だ。からかった仕返しとばかりに弱い耳元でリップ音を鳴らしてキスするなんて狡い。それでもこちらを向けと言われると小さく声を洩らしながら渋々仄かに赤く染まった顔を向ける。最初はあんなに気まずそうにしてたのに今では随分とノリノリにロールプレイに興じている。ニヤニヤと向けられる笑みに余計照れが出て来そうな予感にもう1枚クッキーを手に取り、口角のあがった口元に押し付けて誤魔化そうとして）

あぁ。……お前とはこれから長い時を過ごすんだ。俺はいくらでもお前のことを知りたい。そう考えると今のこの状況もいいものだろ。俺がお前を翻弄するなんてそうそうに無い。ご主人様の命令はぜった、んッ？！
(相手と共にやらなければならないことも共にやりたいこともいくらでもある。きっとその中で相手の新たな事柄をいくらでも発見することができるだろう。これから共に過ごす日々で少しでも相手に近づきたい、少しでも近くの場所にいたい。そうしていくらでも相手のことを知りたいと願っている、いつも突拍子のないことを言ったり予想外のことをする相手のことだ、一生かかってもその全てを知ることはないだろうし、だからこそいつまでも見つめ続けていたい。その一環としてこの主従関係のロールプレイがあるわけだ。ゆっくりとこちらに向けられた顔は予想通り赤い、こちらに文句まで投げてくるがいつも驚かされるのはこちら側なのだからたまにサプライズをしかけるのも許されるはずだ。これだって相手の新たな一面を知る機会でもある。適当な言い訳を言いながら視線は相手から外さない。清楚で大人っぽく仕上がった相手が顔を赤らめているのはなんとも可愛らしくて思わず意地悪を重ねたくなってしまう。所謂そそる、というものだ。ニヤニヤを遮るように口にクッキーを押し付けられると、今度はわざと意識してそのクッキーを口に入れる際に唇を指先へと当てる。瞬きの合間に再度密かに触れ合えば素知らぬ顔でクッキーを咀嚼していて)

…、なら今だけだからね。それにこういうサービスはやって、な…っ、___ぁ、…あんまりからかわないで
（相手の色んなことや反応を知りたいのは自分も同じこと。想い人に自分が知りたいから、なんて理由を言われてしまえば強くは否定する事も出来ずに迷った末にあくまでこの主従関係の時だけだと告げる。こうして自分に興味を持って色々してくる事自体は嫌ではないのだ。相手がしたいと思うならそれに付き合いたいというのが恋人としての本心ではあるが、それはそれとして熱を持っているであろう顔を観察するようにずっと見つめられるのは恥ずかしい。この服を着て、キザったらしい言葉を吐くのは大丈夫だったのに。確かに自分からしょっちゅう相手をからかったり、振り回していることが多いとは思うがとんだ薮蛇だ。当初の凛々しく振舞っていた態度は何処へやらすっかり相手のペースになってしまっている。それを遮ろうと毅然とした態度装ってクッキーを押し付けたのにまた指先が相手の唇に当たる。偶然かと思ったら再びわざとらしく指先が触れてまた身体が硬直してしまった。それだけで終われば良かったのに連想ゲーム的に先程自らが行った間接キスのことを思い出せば小さく声が漏れて一気に熱が駆け巡る。完全にただの自爆だ。反射的に手を引っ込めつつも分かりやすく目線泳ぎ弱った様に呟き零して）

クク、……たまにはこういうのも悪くないが、そろそろ勘弁してやるか。この後執事として接客出来なくなりそうだしな。
(動揺で赤くなり落ち着かない面持ちの相手を満足気に眺めながら意地悪く笑う。追い打ちをかけるような事をして意地悪をしすぎたかとも思うがこの格好でこんなに動揺する姿を見るなんてことはもう無いかもしれない思うと後悔等等は一切ない。固い敬語を使っていたのが嘘のようだ、今の姿を写真に収めたいとも思ってしまうが、そろそろ怒り出しそうだ。恥ずかしがっている姿は写真に残せなくても、またどうにかしてこの状態にしてしまえばいい。相手から目線をそらしテーブルへと向き直って紅茶のカップを手に取る。もっとこの様子を見ていたいがあまり騒ぐと周囲の生徒にこいつの恥ずかしがっている姿が見られてしまうかもしれない。執事姿で顔を赤らめるなんて姿は自分だけのものだ、自分が帰ったあとはまた清楚な執事に戻って貰わなければ。上機嫌にすまし顔で紅茶を飲んだあと、またひとつクッキーを口の中にいれて)

…、もう、ゲイツじゃなかったら許してないからね。 …ちょっと人が多くなってきたかも。 あと30分くらいしたら俺も店番終わるからまた校門の前で集まろっか。
（執事として務まらない程動揺しているのに当の本人は楽しげに笑っている。相手の思い通りになってしまっているのは悔しいがここまで掻き乱されるも相手だからこそだ。未だうるさい脈拍の中、怒ったアピールをしようとするも上機嫌そうに紅茶を口にする相手を見れば結局は簡単に許してしまう。それだけ相に惚れてしまっているし、よっぽどの事がなければ何でも受けてしまいそうだ。一息いれ、少し落ち着けるようになれば辺りを見渡す余裕も大分出てきた。どうやらまた人の波が来ているみたいでこの店も客が増えてきた。流石に客が増えてくれば相手にだけの専属の執事でいるのも難しくなりそうだ。その事を告げて店番が終わった後の事を提案して）

悪かった、やりすぎた…だが、俺なら許される訳か。……そのようだな、俺はそろそろ退店するか。あぁ、校門前だな。…ソウゴ、なかなか面白かった。
(怒った風の口調だが結局のところ相手は自分のことを許してくれているらしい。謝罪はするもあくまで軽くに留めておく。そうやってこちらを許容してくれるのが嬉しくて、そしてもっといじめたくなる衝動にさえ駆られる。その衝動を最後のクッキーと共に飲み込んでしまうと店内を見回した。注文したものも食べ終わり店も混みあってきている、そろそろ時間のようだ。相手をこのまま独占したい気持ちもあるが文化祭の思い出を作るなら1人の客を相手にするのも違うだろう。次なる待ち合わせ場所を聞き、了解と頷く。席から立ち上がり相手の方に近づくとまた相手にしか聞こえない音量で囁きかける。いつもと違う雰囲気の相手も、その格好のままいつも通りの姿も、耐えきれなくなって恥ずかしがる姿も、様々な姿を見ることができた。満足気な顔をしたままレジ係に金を払うとそのまま店を出ていって)


……
(メイド執事喫茶を後にして再び1人になったあとはまた校内を歩き回っていた。前回はステージやらを見ていたが今回は展示物を中心に足を運ぶ。特に興味深かったのは写真部の展示で、この時代の同い年の人間が切り取った日常はなかなか趣深かった。この風景がいつか全く見知らぬものではなくて共感できるものへと変わっていくのだろうか。写真の数々を思い出しながら再び校門へと足を運ぶ。文化祭はまだ賑わいを見せているがお昼も過ぎて夕方に向かう頃合、完売の看板を掲げている店もあり少しずつ文化祭の閉幕が近づいているような雰囲気だ。約束の相手を待つ間、しばらく行き交う人々を観察していて)

ゲイツだけの特別サービスだよ。 来てくれてありがと。じゃあまた後からね。…ん、行ってらっしゃいませご主人様
（こうやって落ち着いてくればさっきの行為も戯れの一つだと思うことが出来る。また相手に調子づかせてしまうかもしれないと思いつつもこの態度も相手だけだと甘い言葉吐いて。紅茶とクッキーも無くなってしまえばこの楽しい時間も終わりが見えてきた。寂しさもあるが、また店番が終わったら会えるのだから問題はないだろう。あまり得意でないあろうこの空間に来てくれたことに礼を伝えては待ち合わせの確認をする。また自分だけに聞こえる囁きに小さく反応するも最後は執事らしく何とか冷静装えばいつもの笑みと共にお決まりの台詞口にしながら見送って）


あ、いたいた。遅くなってごめんね、退屈じゃなかった？
（あれから客が多くやってくれば接客に追われ、気付けば待ち合わせの時間を少し押してしまった。その中でクラスメイト自分と仲の良さそうなゲイツのことについてずっとつきっきりで担当していた事もあって色々聞かれたりもしたが、本当のことは言えないものの悪くない気分でもあった。燕尾服からいつもの制服に着替え、セットした髪も軽く崩してから駆け足で校門へと向かう。夕方に近いこともあってか昼時よりも客は少なくなってきている。帰る客の中に混じり校門の近くまでくれば直ぐに相手を見つける事ができた。明るく声を掛けては遅れたこと謝罪しながらも自分のいなかった間暇ではなかったかと尋ねて）

いや、展示を見て回っていたがなかなか面白かった。まさに文化の祭りだったな。……文化祭の終わりも近い。行き残したところはないか？
(予定の時間を少しすぎた頃、校門へと向かってくる人々の中に相手を見つける。執事姿とは違ってすっかり元通りの格好になっている、やはりあの格好の方が見慣れていてしっくりくる。謝罪については気にするなと軽く手をあげておいた。店は繁盛していたし、忙しくて手が離せなかったのだろう。校門で立っていると帰っていく人間も多い、いよいよ文化祭は終わろうとしている。相手にとって最後の文化祭だ、思い残しのないようにと行きたい場所を尋ねてみて)

そっか、展示も色んなクラスとか部活が力入れてたみたいだからね。んー、特別ここに行きたいと思う所は無いんだけど、一通り校内を回ってみてもいい？ 空気感だけでももうちょっとだけ楽しみたいな
（相手は相手なりに文化祭を楽しんでいたらしい。何となく自分と同じ高校生の文化に積極的に触れようとしてくれている気がして、不思議と嬉しく感じた。帰っていく客や売り切れだと書かれた張り紙が貼ってある出店などから祭りの終わりの気配がしてきた。今日は色んな物を食べたりヨーヨーを釣ったり店番をしたりと十分に楽しめたとおもう。これから特別にやりたい事は浮かばなかったが、もう少しだけこの祭りの雰囲気に浸っていたい気持ちはある。それにまだ自分が見れていない展示や店も色々とある。せっかく皆が作ったものだ、時間的に全てを隅々まで訪れることは出来ないにしても傍を通れば空気感ぐらいは楽しめるだろう。明確な目的のない行為だが付き合ってくれるかと問いかけて）

この時代の文化に触れられてちょうど良い勉強になった。あぁ構わん。お前は朝から準備もあってほとんど店を回れていないだろうしな。行くぞ。
(相手の問いかけには即座に肯定の意で頷く。昼から参加したとはいえ相手と離れている間は自由に動き回ることができてそこそこ校内を回ることができた。下手すれば自分のクラスの準備や店番で忙しかった相手よりも文化祭を満喫しているかもしれない。そうとなれば相手の要望にはとうぜん答えるべきだ。こちらも適当に歩き回っていたせいで全ての場所をみたわけでもない。校内に詳しい相手と一緒に回ればまた違った楽しみができるだろう。もうすっかりこの学校の生徒の振りをすることにも慣れて、衣装のように感じていた制服は体に馴染んでいる。もしこの時代に生まれていたなら相手と3年もの間この学校で過ごすことになったのだろうか。文化祭を共につくりあげたり一緒に準備をしたり、そんな思い出も出来たのかもしれない。そこまで考えて頭を振る。叶いもしないことに思いを馳せるなんて無駄なことだ。それよりも相手とのこれからな時間を考えるべきだろう。とりあえずは校内に戻るべきだろうと合図を送ると校舎に向かって歩き始め)

ゲイツもすっかりうちの生徒みたいだね。やったー、ならサクサクと回っちゃおうか。＿ ここは、写真部の展示かな。…良い写真だね。 あ、そう言えばゲイツとあんまり写真撮った事無いよね
（一人で色々回ったということは今の格好つまり制服姿で文化祭を回ったということだ。制服デートだと強引に約束をつけたものだったが、そのままの服で文化祭を楽しんでいるのならこの学校の生徒と殆ど変わらない。今だけでも同じ文化祭を楽しむ同級生って感じだ。自分の提案が承諾されると無邪気に喜んで校舎への歩き出した相手の隣に並んで移動し始める。昼時よりも随分と人が少なくなってきた。喧騒は減ってしまったが充実感や達成感に満ちた表情の生徒が見られるようになってきて余韻の時間も割とすきだ。そうやって校内を回っていれば沢山の写真が並べられた場所に辿り着いた。綺麗な風景の写真から日常を切り取った写真まで部員が思うままに撮影した写真に思わず表情緩みつつも見ていって。ふと、今まで二人で写真を撮るという行為をあまりしていない事に気付けば相手の方に目線向けながら呟いて）

確かに、お前の監視で潜入していた時とは違って今日は楽しむことができてるしな。___あぁ、俺にとってはまだ見慣れない風景も多いが、こんな風景がこの時代の人間が見ている世界だと思うと興味深い。言われてみればそうだな……撮ってみるか？
(監視の名目で学校に潜入していた時はこの学校のことも生徒のことも気にかけることはなかったが、あらゆる状況が変わって相手が3年もの間過ごした場所を同じ制服を着て歩いてみるとすっかりここに馴染んだような気持ちにもなる。先程相手との学校生活に思いを馳せていたところだが、正しく今はその理想の学校生活を送っている瞬間なのかもしれない。しばらく歩いたあとにたどり着いたのは先程も立ち寄った写真部だ。自分と同じく相手も目をひかれたようでいつもの緩んだ表情で写真をみている。同じものに興味を引かれているのをみると好むものも似ているのかもしれないとまたひとつ共通点を見つけて心が暖かくなった。この写真に写る全ての風景を守っていくのが相手と実現したい世界だ。もう一度その写真の数々を眺めていると、ふと話を振られる。先程執事姿の写真をとりたいとは思ったが2人っきりの写真というものは確かにない。いつも一緒にいるからこそ撮るタイミングはなかった、思い出を残したいという意味なのだろうかと相手へ問いかけてみて)

ゲイツにとってもこういう景色が普通になる日も近いかもよ？ 俺が沢山連れ回す予定だし。 撮りたい！こういうのちょっと憧れてたんだよね、…こんな感じ？ もうちょっとくっついた方がいいかな
（監視されている時と今も着ている制服は一緒なのにその意味合いは大きく変わった。やっぱり遠くから見られるよりも隣に並んで過ごす方が何倍も楽しい。日常を切り取った写真は荒廃した未来から来た相手には確かに見慣れないものだろうが、これから一緒に過ごしていけば徐々に当たり前になっていくだろう。幸せそうに何気ない日常を過ごすこの写真を守るのも王の務めだ。それがいつまでも続くそんな未来を共に作り上げようと約束したのだから。その為にも相手と色んな所に行き、色々な体験をしていきたい。それは既定事項だと得意げに宣言して。それに作っていきたい思い出は今日の文化祭だって同じことで相手の問いかけに前のめりに返事をする。行事ごとなどで外部のカメラマンが撮った写真や入学式などで大叔父に撮ってもらった写真は色々あるが、誰かと二人で写真を撮ると機会はあんまりなかった。密かに憧れていた行為に上機嫌に話しながらもスマホを取り出してカメラアプリを起動して。内カメラにしてから相手との距離を詰め2人が画面に収まるように腕を伸ばす。せっかくの制服デートなのだからある程度制服姿は写しておきたい。画面を見ながら丁度良い感じにツーショットが撮れるように相手に顔を随分と近い距離まで寄せ、位置を調節して）

そうだな、この写真のような風景を懐かしいと思うようになったら俺もこの時代に馴染んだと言えるかもしれん。お前と行ける場所、楽しみにしている。な、ここでか？…、おい……これ、どこにレンズがあるんだ？
(写真のコンセプトからして恐らく何気ない日常や風景を切り取った写真ばかりだが、それでも青々と茂る木々やたくさんの人々が行き交う街はまだ自分に馴染みのあるものではない。この風景の中で相手と一緒にいることに違和感を持たなくなる時もいつかはくるだろう。そしてそれは遠い未来ではないようにも思う。今はまだ相手に連れられるままの場所へ行くがいつかは相手の知らない場所に自分がガイドで連れていく、なんてこともしてみたい。その為にも2人で一緒に様々な所へ行きたい、既定事項として述べられたこともすんなり受け入れてしまえた。そんな第一歩としてこの時代に2人で写真を撮ることは賛成だが、今すぐこの場でとは思わず目を開き驚く。相変わらず思い立ったらすぐ行動の人間だ、この2人揃っての制服姿を残すのは賛成だが。あれよあれよという間に準備は進んでカメラが向けられる。画角は案外狭いらしく密着しないと2人が画面に収まらなかった。幸い写真部の展示室は人がほとんどいなかったが急に距離を詰められるのは心臓が跳ねて体に悪い。照れを隠そうとすると必然的に力んでしまって、仏頂面になりながらカメラの方へと顔を向けて)

早くそんな日が来るといいね。ふふ、任せておいて。 文化祭の思い出にね。ここの丸い奴がレンズだからそっち向いて…、ゲイツ表情硬すぎ。もっと笑って笑って
（相手がこの時代に馴染むこと。それはきっと新しい未来を作るための大きな一歩で相手がこの時代に根付いたということだ。そんな日が来る時には今よりもずっと相手のことを知っていて沢山の思い出を重ねているだろう。この時代の物に驚いて興味深そうにする姿はあまり見れなくなってしまうかもしれないが、今度は二人で未知の物に触れる機会が増えてきそうだ。割と勝手に決めつけたような話も受け入れてくれたことが嬉しくて表情緩ませながら告げて。それに思い立ったが吉日だ。動揺している相手を他所にスマホのカメラ部分を人差し指で指して其方に視線を向けるように説明していれば漸く2人が収まる角度が定まった。いざ撮影といった所で画面に映る相手の表情が強ばった仏頂面になってしまっていることに気付く。せっかくの写真撮影ならお互い笑顔で映りたい。相手の方を向き、硬くなった頬を解すようにぷにぷに触りながら指摘すればもう1回カメラの方向いて緩い笑みを浮かべながら相手にも笑顔促して）