No title（〆）

──ココちゃーん…俺が鈍感過ぎて大事な友達傷付けてたみたい…どうしよう、謝っても謝り切れない…。誰よりも面白くて、性格が真っ直ぐで、明るくて、魅力的な奴で…ずっと幸せを祈ってたのに、俺が勘違いでそれを壊しちゃったなんてさ。それでも応援しててくれて…久々に堪えそうだ。今となってはアイツの幸せを祈ってあげる事しかできないのが、本当に申し訳ない…。…聞いてくれてありがと。盗み聞きしたのは内緒にしててネ。（出先から帰宅を果たすと、俯き加減でのろのろと手洗いとうがいを果たしリビングの猫の元へと。不思議そうに見上げる眼に見守られつつ嗚咽をし懺悔しては、猫の額に口付けてからメイクを落とし先刻までの寝巻きへと着替え寝具へと。『今起きました』と恋人に送信し、窓の外の風景をぼんやりと眺め）

(喫煙所を後にして重い足取りで自宅へと向かえば目前に差し迫った所で恋人からの連絡を知らせる短い通知音が聞こえては内容を確認し、いつになく簡素なメッセージに些か違和感を覚えながらも返信はせずに帰宅して。手洗いうがいを済ませてから顔に滲んだ心痛の色を隠すべく大きく深呼吸すると、常時の如く軽薄な笑顔を心掛けつつ寝室を覗き。明るい調子で掛けた声は目元の充血に自ずと低い響きに変わり)ただいまぁ。んでおは──…何、泣いてたの？

おはよーございまーす。…えへっ、泣いてる訳ないじゃないですか。寝起きだから目が腫れてるんですかね？（扉が開けば平生通りの恋人の笑顔があり、安堵を覚えつつ笑顔を刻み挨拶を告げるも、目敏く己の盲点に気付かれてしまえば双眸を細め笑みを深めて誤魔化して。相手の体温を欲する衝動に駆られれば、表情はその儘に諸手を広げて）こっち来てください。ちょっとイチャイチャしましょ。

…ん、そっか。いやぁ、寝起きに浩二クンが居なくて寂しかったのかなぁと思ってさぁ。(笑顔の恋人からの返答に暫しその表情を見据えるも僅かに下げた眉を元に戻せば冗談めかして言葉を紡ぎ。伸ばされた手に緩く頷きながら歩み寄り、相手の背中に両手を回しては先刻の事を思い出して痛みを告げてくる鼻奥を隠す様に身体を寄せ肩口へと額を預けて)ハハ、甘ったれモード？いーよ、仰せの儘に。…今日は一緒にゆっくりしよっか。

そっすね。起きた時に浩二さんが居ないのは毎日っすけど、やっぱ寂しいです。寝坊助は孤独なモンですよ。──そ、今日は無性に甘えたい気分なんです。甘やかしたい気分でもありますし。（一見普段通りの相手の様子ながらも、相手の胸中を察して労わるべく片手は肩口に預けられた頭へと添え、もう片手は背中へと回し緩やかなリズムで撫でて。己よりも心苦しいであろう相手を目の前にするとすっと心が冷静になる感覚を覚え、暫しの逡巡の後に重い口を開き）…なーんて、白々しいですよね。見ちゃいました。ごめんなさい。

あらやだ、可愛い。んじゃ連休中は何日かお前が起きるまでベッドで待っててやろっか。仕事ある時はどーしても1人にさせちまうし。──お、どーした。大抵いつも甘えるか甘やかすかしてんのに…。(腕の中の温もりと背中を撫でる手に濡れそうになる瞳をキツく閉じては涙を奥へと追い遣り鼻から深く息を吸ってから顔を上げへらりと笑みを浮かべるも、迷いがちに相手が口にした言葉に苦渋に満ちた表情に変わり。簡素なメッセージも充血した目も全て納得がいけば、深く息を吐いてから相手の頬を軽く撫でて)…あぁ、そうか。んじゃ全部知ってる訳だ。…まぁ、多分悠チャンに知られたく無かったのは俺じゃなくてアイツだろ。だからそれを謝る相手は俺じゃねぇや。お前にも会いたがってたよ。

駄目駄目、俺に合わせてたら１日が無駄になっちゃいますよ。寧ろ俺が早く起きる努力をすれって話なんで。──うん、全部って訳じゃないかもしれないですけど、知ってます。…まあ俺からアイツに謝るなんて野暮な事はしないっすよ。望まれてない事しても只のお節介でしょうし。謝りたい気持ちは山程ですけど、見た事は墓まで持って行きます。…俺の目が充血してるのは、俺がアイツに背中押されたって勘違いして、必要以上に傷付けちゃったからなんです。大事なダチだからこそ遣る瀬なくて。…でもって浩二さんには、俺を選んでくれてありがとうございますって伝えたいんです。もしも…なんて話をしてもしゃーないですけど、もっと幸せな道があったかもしれないのに、今こうしてくれているのは奇跡だなって。…俺が胸張って誰よりも浩二さんに相応しいって言える様に、大事にしますね。愛してますよ。（触れた肌から相手の眼元が熱くなるのを感じれば、切なく眉を下げ唇を結び。苦しい感情を押し殺す様な表情を見れば済まなそうに双眸を細め、再び相手を肩口へと引き寄せて穏やかな声色で胸中を溢し、愛しげに抱き締める手に力を込め）

いーよ、お前はゆっくり寝てて。俺の生活リズムに合わせたらマジで身体壊すし。──そーね、多分俺らが普通にしててやんのが1番だと思う。…俺にはアイツの気持ちなんか分かんねぇし、悠チャンにどーゆー気持ちで言葉掛けたのかとかどーゆー気持ちで俺らの事見守ってくれてたのかなんて想像するしかねぇけど。少なくともさ、俺らが付き合う事になったって伝えた時喜んでくれたあの顔も、今日応援したくてしてたって言ってくれたのもアイツの本心だと思ってるよ。仮にその裏にどんな感情があったとしてもアイツはそれを俺らに見せてねぇんだから、見せてくれたモン信じてやんのがダチだろ。…んで、俺が悠チャンを選んだのも俺の意思だ。他にも誰かを傷つけてたかも知れねぇ…これからも傷つけるかも。それでも俺の選択は間違って無かったと思ってるし、俺は酷ぇ奴だから、他の誰の気持ちを蔑ろにしたとしても自分の為にしか生きられねぇ。だから、お前はそれに関して自分を責めたりすんのはやめてくれな。俺が選んだんだから俺に責任がある。…相応しいだとかそんな出来た人間じゃねぇよ、俺。でも俺らがちゃんと幸せだって胸張れるのが何よりの義理立てだと思うわ。…愛してるよ、悠チャン。(再び肩口へと頭を預け横目で相手を見遣れば痛ましいその表情を遮る様に目を伏せ、笑顔を見るべく些か乱暴な手つきで相手の頭を撫でては迷いのないしっかりとした口調で)

…そっすね、やっぱり浩二さんとは考え方が似てるなって改めて思いましたわ。まああれこれ話すのも忍びないんで割愛しますけど、今日の事を見たとて、俺にとっては2人共大事な事には変わりないって事だけは伝えておきたいです。──うん、浩二さんが俺を好きで付き合ってくれたのは知ってます。それはもう日々の甘ったるい言葉で重々承知してるんで、付き合った事に対しては自分を責めるなんて真似はしてないですよ。上手い事言葉にしてくれましたけど、俺達が幸せになる事が義理立てってのは俺も正に考えてた事なんで、仲良くやっていきましょ。──…ほーんと、モテる人を彼氏にすると困っちゃいますよ。（頭を撫でられれば小さく吹き出し、沈痛な面持ちを崩し微笑を浮かべ冗句を述べ。相手を巻き込み寝具へと背中を倒すと、端正な顔立ちへと掌を滑らせながら再度薄く眼に涙を滲ませ）…あーでも、コウくんが揺るぎなく俺を愛してくれてるのは嬉しいです。…軽ーく泣けるくらいには。目痛くなるし泣かないですけど。

──…ふ、面食いの宿命だわなぁ。(相手の表情がいつもの明るく、柔らかい笑みに変わればつられた様に小さく口角を上げ、引かれる儘に寝具へと横たわり。潤んだ瞳を視界に留めては頭を胸に抱く様に腕を回し直し、緩く頭を撫でつつ穏やかな口調で)…そーね。まぁ今日はもう出掛けたりしないだろーし泣いても良いんじゃねぇのとは思うけど。でも泣くと体力使うしなぁ。お前がちゃあんと消化出来んならなんでもいーよ。

面食いはいけねーって天誅でも下されてるんすかねぇ。辛えなー…別に顔だけで選んでる訳じゃねーのに。（自重気味に肩を揺らすも、ふと視界が暗くなれば瞼を伏せ一粒の涙が相手の衣服に吸収されるのを自覚し。撫で受けつつ小さく鼻を啜り上げると、徐に顔を上げ一方の口角を吊り上げ悪戯に笑んで見せ）…つかコウくんが泣いて良いっすよ。さっきちょっと潤んでたでしょ。胸なら幾らでも貸しますんで。

ん、それは俺が1番知ってる。つか、俺が知ってりゃあそれで充分だろ。(胸元で相手の肩が震えるのを静かに頭を撫でながら、穏やかな心中で受け入れて。程なくして掛けられた言葉に苦笑で返せば小生意気な笑みを浮かべた頬を軽く摘み)…泣かねぇよ。自分の選択に後悔なんか持ちたくねぇし、全部俺のせいだから泣いてお前に慰められんのは違うだろ。1番泣きてぇのは俺じゃねぇだろうし。…俺の涙は簡単に見せてやる程安くねぇんだわ。

あはっ、まあそれもそっすね。…ん、じゃあこの話はお終いにしておきましょうか。気分転換に喫煙所行ってこようかなって思うんですけど、コウくんはいかがですか？（頬を摘まれれば肩を揺らし、徐に上体を起こし伸びをして。視線を相手に向けつつ問い掛けると寝具を降り、衣服を着替え始め）

気持ちだけ貰っとくな、あんがと。あー…そんじゃあ俺も行こうかなぁ。ちょいシャワー浴びてから行くから先行っといて。(温もりが離れていけば名残を感じながら1度緩く目を閉じて。緩慢に立ち上がると笑みを浮かべながら服を脱ぎながら浴室へと向かい)

了解っす。んじゃ、先に行ってますね。待ってますから、ゆっくり来てくださいね。（手を振り寝室を出る恋人を見送っては、首元の痕をファンデーションで隠し猫に挨拶をしてから家を後にし）

(屋外へと出れば些か冷えた外気に無意識の内に恋人と繋いだ手へと力を込めて。自分のスマホで改めて時刻を確認し、小さく笑みを溢し)…俺らがこんな時間まで居るのも最近じゃ珍しいよなぁ。つか、門限決めてたんだな。あの時間に行くっつーから朝まで居る気なのかと思ってたわ。前に比べりゃまだ人間らしい時間に帰ってんなぁ。

（肌に外気が触れると共に恋人の身体が強張るのを感じれば、肩に掛けたジャケットを相手の肩へと移し腕がぴったりと密着する様に身を寄せ。相手に釣られ一笑しては）門限は当然。だってコウくんと2人でイチャイチャしなきゃいけないんで。…ねー、まあ家に帰ってからは相変わらず吸血鬼みたいな時間帯で過ごす予定ですけど。

…あらやだ、随分イケメンな事してくれんじゃねぇの。(肩にかけられたジャケットに思わず破顔し、恋人の香りに包まれる心地よさに寒さが和らぎ。手を引きつつ帰路を進めば目を細めながら薄明かりの下の相手の顔を横目で見つめ)ハハ、マジでブレねぇなぁ。でもお陰で少し頭切り替えられたわ、あんがと。…ふ、マジで夕方に起きたりするもんなぁ。まぁそーゆーのは出来る時限られてるし、最高の贅沢だし良いじゃん。

ははっ、更に惚れましたか。いや参っちゃうな。（想定外の褒め言葉を貰えば、空の手で己の後頭部を掻き照れる仕草をし戯れて見せ。ふと相手の方を見遣ると此方へと向けられた視線と目が合い、にっこり笑った後に頬へと口付けを贈り、何事もなかったかの様な顔で歩みを進め）あんまりコウくんを人目に晒すとモテちゃうんで、ちょっと遊ぶくらいがベストなんすよ。俺もスッキリしましたー、付き合ってくれてありがとうございます。…そ、日の光を浴びると眠くなるヤベー体質なんすよ。でもコウくんにもっと構って欲しいんで、残りの連休はちゃんと起きます。

フハ、そーね。俺の彼氏が一段と男前で惚れ直したわ。(普段自分が癖の様にする所作を相手がしているのを見ては思わず吹き出して愉快気にくつくつと喉を鳴らし。不意に頬に相手の唇が触れれば愛おしさが込み上げて、眉を下げ照れ笑いに似た笑みを浮かべ一瞬視線を外してから戻し、空いた手で相手の頬を撫ぜてつつ自宅マンションへと進み)ん、悠チャンも気分転換出来たなら何よりだわ。…あー、分かるわ。なんで明け方の光ってすげぇ眠くなる。ふ、今もドチャクソに構ってんのに構ってチャンだなぁ。まぁマジで体調第一にしてくれな。それが約束出来んなら悠チャンが満足するまで構ってやんよ。