みみかき 2018-10-13 23:06:20 |
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なーんてね。最初はそう思ってたんだけどね。
何か違うよね。
何か可笑しいよね!
だってさ、あれから千年は経ってるんだけど、私…あの時から姿が変わってないのよね…。
髪の毛や爪は伸びるのよ。
でも、身体の老朽化が無いの。
あの時のまま。
私の体は十七歳の頃のままをキープしてる。
もうね、「永遠の十七歳 ヒャッホー!」なんて 飽きたわ!
何がいけなかったの?
私なにか悪い事でもした?
ちゃんと言われたとおりに人類の進歩に貢献したのにさ、寿命が無いってどういう事?!
永遠に貢献しろって事なの?
そんなの嫌だあああああああああ!
私だってソロソロ楽隠居したいんだよ。
老化をしないが為に、十年に一度住居を変えるなんてしたくないんだよ。
一ヶ所に落ち着いて暮らしたいんだよ。
そのせいで結婚どころか恋人も作れなかった…。
私が老化をしない化け物だってバレちゃうから。
はぁ~…。もう嫌だこんな生活…。
千年も経てば色々と変化があるのは当たり前なんだけど、この世界もか成り変わったわよ。
例えば、【火】を使う魔法使いがいるとするじゃない。【火】の使い方がマッチやライターのように本当に火を起こすためだけに使われていたとか、【水】ならコップ一杯分の水を出すために使われていたとかその程度だったのよ。
魔力コントロールという概念なんか無いし、訓練もしないから魔力量だって増えない。
宝の持ち腐れよね。
だから私は魔力の本当の使い方を教えて回ったのよ。
【火】は火種程度の魔法から風魔法を加えるとより強力な魔法になり、牛一頭を丸焼きに出来る威力がある事とか、【水魔法】も物質の変化やスピードを加える事によって、弾丸のように飛んだり刃物のような切れ味を放つ事をね。
でもなかなか言葉の意味を理解してくれなくって、理論を丸暗記させて暗唱させると魔法が発動する事が分かったの。
まあ、これが俗に言う【詠唱】ってやつかしら。
頑張って各地で教え広めて、今じゃ魔法学院なんて言う物も出来てるくらいに広まってくれて一安心よね。
千年前には存在しなかった魔法戦士や賢者なんて職業の人も現れたくらいだもん。これで私もお役御免だと思いたい。
この世界では死ぬ事が出来なくても、元の世界に戻ったらまた違うかもしれない。そんな事を考えて私は黄金の光の神様(?)に願ったわけよ。
「私を元の世界に帰して下さい」と。
教会や神殿に行って祈りを捧げると、時々交信できる時がある。多分そこが聖域に近い場所だったんでしょう。
だから今回は一度交信が出来た場所に行ってみたわけよ。
「神様仏様黄金の光様。私はもう十分にこの世界に貢献したと思います。そして私も十分に人生を楽しみました。有り難う御座いました」
取り敢えず自分が知っている神様関係(?)死後の世界の偉い人(?)っぽい呼び名を掲げて交信をチャレンジ。
しかし無反応の時間が三十秒程経った時、衛星中継のように懐かしい光の人の声が聞こえてきた。
「ふむ。そなたには世話になったな。本当に元の世界に帰して良いのか?」
「はい。私は長い時を悔いなく楽しく過ごさせていただきました。もう十分です」
「そうか。ならば元の世界に戻ると同時にお前の生涯はそこで終わりになるが良いのだな」
「はい。誰も経験できないような事を経験させていただき、有り難う御座いました。私は世界一の幸せ者だと思っております」
神様の質問と質問の感覚が三十秒もあるから、何とも間の抜けたやり取りのように感じたけど、私は淡々と答え丁寧に御礼を述べた。
これで永遠のように長かった時間とお別れをして、新たな生に向けての第一歩を踏み出した。そう思っていたのよ。この時まではね。
目を瞑って、神様から送られて来ている暖かい日差しの様な【気】に包まれて、このまま昇天出来るんだな…って思って気持ちは凄く満ち足りていたの。
だけど、なんやねん!
ここは何処だっちゅーの!
暖かな日差しの様な【気】がスーッと足下から抜けていったかと思うと、いきなりのどしゃ降りってってどういう事よ!?
おまけに地面はドロドロの土が剥き出しで、ビルなんて一つも無くあっても精々二階建ての古民家ばっかり。
チラホラ見える人は着物を着て蛇の目傘を差している時代劇に出てくる人そのもの。
そして私の格好は、異世界仕様の洋服で、現代社会ならコスプレで通るかも知れないけど、目の前で見えている世界では異邦人か、はたまた妖怪かってレベルの異質さ。
私は一体何処に飛ばされたんでしょうね…。
このまま濡れ鼠になりながら考えていてもしょうが無いので、トボトボと雨宿りでも出来そうなところを探しながら歩き出す。
暖簾が掛かっていてお店らしき所は店の人に睨まれて雨宿りが出来ず、トボトボ歩く事五分。やっと見つけた小さな神社の軒下にお邪魔した。
「うっは~、冷た~い」
ずぶ濡れで肌にまとわりつく服に乾燥魔法を掛ける。
掛けてから気が付いたんだけど、この世界でも魔法って使えたのね。って事は、この世界って私がいた元の世界じゃ無いって事で良いのかな。
でも風景的には時代劇とかに出てくる昔風の風景なんだよね。
神様、送り返す座標間違った?
まっ、いっか。
リアル歴史のライブ中継みたいで面白いかも…って!そんな事あるかーい!!
よし!再度光の神様と交信じゃあああ!
どうしてくれようか。
あのポンコツ神様め。
◆ 異空間常識の落とし穴 うっかり忘れてた異世界の神 ◆
幸いにも今いる場所は神社である。
神社と言えば神に近い聖域と言うのが私の中での常識。
と言う事で、Let's.try神様交信スタート。
「神様仏様黄金の光様。ちょっとお話良いですか?」
安定の三十秒間無言の後に、「ザー ザー」と言うノイズが走った。
ノイズに混じりながら微かに聞こえるいつもの声。
かなり聞き取りづらいけど耳をこらせば何とか聞き取れるレベルの言葉が聞こえてきた。
「ん?お主何故生きておるのだ!? その波動は霊界では無く地上からのもので有ろう」
「何故生きているのかをこっちが聞きたいくらいなんですが」
「今どこにおるのだ」
「それが分かれば苦労しませんよ。 ただ、この景色は大昔の日本に良く似ている景色ですよ」
「ふむ。そうか…。」
そうかじゃ無いわよ。
こっちは見知らぬ土地に送られてパニックになりかけてるのに、何のんびり構えちゃってくれてるのかしらね…。
ほんとポンコツだわこの神様は…。
私があんたの上司なら減給、いいえ、降格ものね。
少しイライラとしながらポンコツ神様の返答を待っている。
たっぷり一分程の間があり、その間にブツブツと何かを言っている様だったが、何を言っているのかは聞き取れなかった。
そしていきなり。
「あっ!そうであった。忘れておったわ」
何を忘れていたというのだこの神様は。
多分とても重要な事だと言う事だけは分かる。
「異世界転移の基本としてな。異世界に何年居ても元の世界での時間は止まったままだという事を忘れておったわ。これはすまない事をしたな」
「すまない」じゃねーわよ。一体どうすんのよ、この状況を。もう一回転移というか時間移動でもしてくれんの!?
このままだと正規の死ぬ瞬間まで後何百年も生きなきゃいけなそうじゃない。
勘弁してよ~…。
「あー…言いにくいのだがな」
げっ。嫌な予感がするわ…。
「お主を転移させたり時空移動させたりは、今は出来んのだ」
やっぱりね…。
「その力は千年に一度しか使えなくてな。申し訳ないが第三の人生だと思って楽しんでおくれ」
………何言ってんの、この人。
話を要約するとさ、元の世界の、元の時間に戻すつもりが、時間が止まっている事をうっかり忘れて、千年前に戻れとかやっちゃったわけよね。
って事は、元の世界より千年昔に戻っちゃった…みたいな?
うん。それなら納得だわ。
この風景、ここの人達の格好。納得ですよ、神様。
でもね。一言言いたい。
「ふざけんな! このポンコツ神様めええええ!!」
「待て待て、そんなに怒るでない」
これが怒らずにいられようか。
「まさか生きて戻るとは儂も予想しておらんでな。お主の体を元の状態に戻しておらなかったのだ」
ん?それはどう言う事?
「つまりだな。異世界仕様のままなのだ」
それはつまり…あれですか。
「お主が今まで培ってきた魔法がこの世界でも使えるという事だな」
………それは大変素晴らしい事です、神様。ポンコツなんて言ってゴメンナサイ。
「今まで通り、【破壊】と【再生】の力が使えるはずなので、その力を使って何とか乗り切って欲しい」
「……分かりました。そこまで仰るのなら何とかやってみます」
「すまないの…」
ふっふっふ。また一文無しからの出発だけど、伊達に千年も異世界で過ごしてないわよ。
お金を稼ぐノウハウなら誰にも負けないわ。
見てなさい。この時代でも逞しく生きてやるんだから。
神様との交信も終わり、それと同時に雨も上がったみたい。
人通りもさっきより多くなったみたいだし、千年前という事は平安時代辺りかしらね。
歴史なんて苦手だったからあんまり良くは覚えていないけど、戦国時代っぽいよね。
取り敢えず先立つ物が無いと困るから…お金でも稼ごうかな。
何時の時代でも、どこの世界でも共通の職があるのよね。
そうよ。大道芸という元手要らずのお仕事があるのよ。
私の強みはハッキリ言って、魔法を使った手品の様な奇天烈な芸が売りなのよ。
今着ている異世界仕様の洋服も逆に考えれば目立って丁度良いと思うのよ。
そして今までに見た事のない魔法を使って芸っぽく見せれば大儲けでウハウハなのは間違いないわ。
そうと決まったら一丁やってみますか。
今晩の宿代のためにね。
今いる神社の入口の前が少し広めの空き地になっているので、そこに陣取ってパフォーマンスをする事にした。
BGMとかが有れば人も呼び込みやすいんだけど、そんなもん有るわけないし。しょうが無いから大声で呼び込むしか無いわよね。
「さーてお立ち会い。どなた様も足を止めて、ちょーっとだけ見ていって下さい」
異世界仕様の服装がかなり珍しかったのか、チラチラと歩きながら見る人、足を止めて見詰める人に別れた。
そのタイミングを逃さずに、私は片手ずつ上下にお手玉をする様に上げる。お手玉の代わりに掌から出るのは火炎爆弾。
勢い良く空に上がって行き、天高く爆音を上げて火花が飛び散る。まるで花火の様に。
規模を最小限にしたからそこまで危険じゃ無いけど、何も無い所から花火の様な物が上がるから驚いてるわ。
五・六回火炎爆弾を上げてから皆の視線を此方に注目っと。
「皆様こんにちは。私は旅の芸人で御座います」
深々と頭を下げ、一礼をする。
「私は南の方からやって参りました奇術師でござーい」
奇術師とはなんぞや?と言う顔をして人々は近くにいる人と顔を見合わせている。
「まずは挨拶代わりにそこのお兄さん、咥えている爪楊枝を頂けませんか?」
「なんだネェーチャン。俺に惚れたか」
ガハハと下品に笑いながら口から爪楊枝を指でつまみ近寄ってきた。
そのまま私に手渡そうとしたけど、私はそれを拒否。
途中で止まったお兄さんの爪楊枝を摘まんだ手を私の身長より少し高い位置で固定して、その真下に私が掌を上にして準備完了。
「お兄さん。そのまま私の合図と共に爪楊枝を放して下さいな」
何々。何が始まるんだと、見物人は興味津々である。
「さてお立ち会い! このお兄さんが持っている爪楊枝、私に触れる事無く消して見せましょう!」
意味が分からないのかザワザワと隣の人と話し始める。
爪楊枝兄さんも「そんな事出来るわけないだろ」と言うような呆れ顔で私を見ている。
「それではどちら様も、よーく見ていて下さいよ。爪楊枝が落下した瞬間に、燃え尽きて消えてしまいますからね。消し炭さえも残っていませんよ」
「そんな分けあるかい」「あの子頭大丈夫かね」そんな声もチラホラと聞こえてきた。
「瞬きしてると見逃しますよ-! では、3・2・1、はい!」
……お兄さん微動だにせず。
そりゃそうだわ。
この時代にカウントダウンなんて概念なんて無かったわ…。
失敗失敗。
「あー、お兄さん。私が「はい!」って言ったら放して下さい」
「あ、ああ、わかった」
「ではもう一度。3・2・1、はい!」
お兄さんが爪楊枝から手を放し、掌上空五センチの位置で、初歩の初歩、炎魔法を発動。
爪楊枝はあっという間に炎に呑まれ瞬時に跡形も無く消え去った。
辺りからは響めきが起こり、一体何が起こったのかとざわめき出す。
「これが奇術で御座います!」
物珍しかったのか大喝采を浴び、他には無いのかと奇術芸をリクエストされ、折り紙で作った鶴を空中浮遊させたり、湯飲みを借りて指先から水を出してみたり、一文銭を二文、三文と増やし、最後に一文に戻して借りた本人に返したりと、思い付く限りの手品をやって見せた。
そのおかげで二百文程貯まり、安い宿屋なら泊まれそうだ。
近くにいる人に一番安い宿屋は何処かと聞いてみると、裏手にある【美鈴屋】という所が安いという。
親切にも案内をしてくれて連れて行って貰ったんだけど、確かに安いだけの事はあるわ。ボロイ。
長屋にちょっと毛の生えた感じで、歩く度に床がギシギシ鳴るんだもん。大丈夫かな、ここ。
二階に登っていく階段の端っこが、人の上り下りで擦れたのだろうか少し削れているし、廊下の床板も木と木の繋ぎ目が擦れて擦り減っているのが目立つ。
狭く薄暗い階段に明かり取りの窓が障子で出来てる小さな窓のような物が転々とある廊下。
部屋の中から人の声が聞こえてきていないとマジで怖いよ、本当に。廃墟かお化け屋敷かって感じだもん。
案内されて入った部屋は、四畳半くらいの広さで、ちゃんと床の間も付いていた。
他に物は何も無し。
押し入れの中に布団が二組あっただけ。
「夕食は酉の刻で良いかい」
「酉の刻? ああ、五時って事ね。 良いですよ」
なんと、時刻が十二支だったことにビックリ。
って言うか、大体予想はしてたけど実際に体験すると少し戸惑うわね。
案内された部屋で少し休む事にしたけど、何だか落ち着かないわ。
現代ではソファーや椅子、ベッドなどに腰掛けて寛いでいたし、異世界でも椅子かベッドが基本寛ぎタイムだったじゃない。
此処に来ていきなり畳の上とか落ち着かないわよ。
「これって…寝転ばって寛げば良いのかな…」
「…………………………………………………」
「………い…痛い…。」
体からギシギシと音がするくらい痛い…。
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