悲しき鬼 2017-09-03 18:02:37 |
通報 |
ふふ、じゃあきっと私達気が合うのね!きっともっと仲良くなれるわ!
(相手の言葉に思わずくすりと嬉しそうな笑顔を零せば好きなものが被っている自分たちは気が合うんだと楽しそうに告げて。もうすっかりと空の青さはなくなり、茜色のカーテンが鈴たちの頭上を覆って当たりを赤く染めており。「もうすっかり夕方ね、」と小さな声で呟けばこれからの生活のことをふと考えて不安が走り。もう帰る家も、家で出迎えてくれる人も何も無い。もういっそのこと野宿でもしようかと思考を走らせればザァッ、という大きな風の音に思考の波から我に返ったように意識を浮かばせて。)
…そうだね、そろそろ戻ろう。
(相手の言葉に微笑むも空の色を見ればもう帰る時間だとばかりに再び相手の手を取って来た道を戻っていき。来た時よりも幾らか足早に道を進んでは茜色が濃く日もだいぶ傾き、白銀の髪を淡い夕日色に輝かせていた光は辺り一面を包み込んでいて。屋敷の庭に戻ってきた頃にはその茜色にも濃紺が混ざりつつあり、相手の手を離し空を見上げる彼の瞳が一瞬、すっと冷たさを帯びて)
わ、もう暗くなってきた。
(夕焼けも一瞬だ、とぼんやり思いながら茜色と藍色のコントラストを描く空を見上げて少し驚いたように呟いて。静かに離された手は、たった少しの間繋いでいただけなのに何か物足りないように感じて鈴は握ったり開いたりを数回繰り返したあとに静かに手を下ろし。ふ、と相手を見上げると優しげな青色の瞳には冷たい氷のような何かを帯びているような気がして「碧?」と思わず相手の名前を呼んで。もうお別れしなくちゃいけないのだろうか、と眉を下げては不安げな瞳で相手を見上げて。)
…ごめんね、鈴。
だけどきっと…良い夢になる。
(不安げに見上げて来る相手に視線を移すとそうとだけ言い、そっと相手の目の前に翳された白い掌。相手の視界を遮断する前、相手が最後に見た自分は上手く、優しく、微笑むことが出来ていただろうか。お別れだとも、君は記憶をなくすとも告げる事はなく翳した掌にふわりと淡い光が浮かび、この光が消える頃には相手は眠りに落ちている筈だ。全てを忘れて、ただ心地の良い夢を見ていたようなそんな気持ちだけを残して、彼女はまた一人で生きていくことになるのだろう。そんなことを考えているうちに灯っていた光は静かに消え、茜色はどんどん闇に支配されていく。相手を外の世界まで送り届けねばと翳した手を下ろし、力を失うであろう彼女の身体を抱き上げようとして)
!──……
(視界が閉ざされる前。最後に見た彼の笑顔は、まるで散ることを恐れる桜のように。とてもきれいで、儚げで、それでいて寂しげだった。鈴が何か言葉を発しかけたその時、自分の眼前にかざされている彼の白い掌がやんわりと光を発して、その光が強くなっていくと同時に鈴の意識もそのまま光とどこかへいってしまうような感覚。ふわふわとして、暖かくて、そのまま眠ってしまいそうになったけれど、鈴の意識は体から離れることなくそのまま小さなその身体に滞在し続け。だが体の力はふっ、と抜けて彼の腕に抱かれるようにそのまま倒れ込み、「……碧、?」という小さな声と共に瞳を開けば不思議そうな黒瑪瑙が彼の事を見つめていて。)
──っ、!
(抱き留めた彼女の身体、その黒瑪瑙の瞳は閉じていなければならないはずなのに。全ていつも通りで、このやり方でこれまで幾人もの記憶を奪ってきたはずなのに今回に限って何故。何度自分に問い掛けて見ても答えなどわかる筈もばく、ただ相手を此処に置いておいては不味いということだけははっきりと分かっている。「今日はもう戻るんだ、今は此処に居てはいけない。」相手を見つめその肩を掴んで言い聞かせるように紡いだ言葉は焦りを含んだもの、青い瞳が日の沈みかけた濃紺の中相手をじっと見つめて)
え?
(自分の両肩をしっかりと掴んで、まるで何かに追われているかのような焦燥感の含んだ声色でこちらへ言葉を投げかける彼に、ただただ鈴は困惑していて。此処に居てはいけない、という言葉の意味も先ほどの彼の行動の意味も何一つ理解が追いついておらず、鈴は「ま、待って!どういうこと?」と目の前の藍色の空の色を映した真青な瞳へ疑問を投げかけて。日が落ちたからといって突然なにか起こるわけでもあるまい、とあたりを見渡してみるもそこには変わらず豊かな自然と濃紺に照らされて妖しく咲く花々があるだけで。)
鈴、良い子だから、早く──!
(何とか相手をこの敷地の外に出さねばとそう言いかけるも日が沈みきってしまった事を感じて不自然に言葉を途切れさせて。日が沈んだ途端に自分の意識を乗っ取ろうと鬼が暴れ出し、身体を襲う鋭い痛みにその青い瞳がぐらりと揺れて。もう結界は朝まで開かない、夜は側にいてやることも出来ない、その状況にただ相手をどうやって守るかばかりを頭の中で考えれば彼女を抱いたまま足早に屋敷の奥へと。白い肌に汗が滲み、様子が可笑しいのは一目瞭然だが一晩相手を守り抜くことだけは胸に誓い、奥の部屋に着くと相手を座らせて先程したように小指を相手に差し出しながら言い聞かせるように)
…明日の朝まで、何があっても此処を出てはいけないよ。怖いかもしれないけど、灯りも点けないで…っ、朝になったらすぐに迎えに来るから。
っ、……碧?
(ぱたぱたと慌ただしく屋敷の奥へと自分を連れていく少し苦しげな表情を浮かべる彼に、不安よりも心配の大きな声色で問いかけるも屋敷の奥深くの部屋に到着してしまい鈴は辺りを見回して。差し出された彼の小指と、明日の朝までここを出てはいけない。そして電気をつけてはいけないという言葉の意図が理解出来ず鈴の頭は混乱するばかりで。まさか本当にここには妖が出る?と一瞬脳内を過ぎった考えを慌てて捨てると「分かった。でも、碧、一人で大丈夫なの…?とっても苦しそう…」と苦しげに揺れる相手の瞳を見つめて。)
私は大丈夫、…っ良いね、約束だよ。
(相手の目を見つめてそう言うと絡めていた白い指はするりと離れ、そのまま立ち上がると部屋の襖を閉めて部屋を後にし。闇に沈んだ屋敷、1人になってしまえば風の音以外なんの物音も聞こえない空間。自室に戻り襖を閉めきってしまうと益々苦しそうに畳の上に蹲り、なんとか鬼を押し留めようと。如何してこんなことになってしまったのか、せめて今日だけは相手に正体を知られてはならない、その一心で必死に耐えていたもののどれくらいの時間が経ったのだろうか。その青い瞳の奥に真紅が燃える炎のようにちらつき始めると意識が引きずり込まれてしまいそうで一層呼吸は浅くなり)
……っ、ひ。
(彼と絡めた小指を立てたままそれを空き手でそれをお守りのように包めばへたりとその場に座り込んで。真っ暗な闇に包まれた視界は、この部屋の構造などももうほとんど落ちきってしまった太陽の代わりに顔を出した月明かりでしか認識できずに恐怖感がじわりと漂い。稀に吹く風の音や風で襖の揺れる音さえもいつもの何倍も大きく聞こえ、鈴はその度にびくりと体をこわばらせて。『明日の朝まで此処を出てはいけない。』そうは言われたものの、彼はどこにいるのだろうか。自分はなぜこの部屋から出てはいけないのだろうか。様々な疑問が頭の中をぐるりと回る中で「碧……?」と小さな声で彼の名前を呼んでみても、ただそれは畳の上に落ちるのみで。)
……っ、ひ。
(彼と絡めた小指を立てたままそれを空き手でそれをお守りのように包めばへたりとその場に座り込んで。真っ暗な闇に包まれた視界は、この部屋の構造などももうほとんど落ちきってしまった太陽の代わりに顔を出した月明かりでしか認識できずに恐怖感がじわりと漂い。稀に吹く風の音や風で襖の揺れる音さえもいつもの何倍も大きく聞こえ、鈴はその度にびくりと体をこわばらせて。『明日の朝まで此処を出てはいけない。』そうは言われたものの、彼はどこにいるのだろうか。自分はなぜこの部屋から出てはいけないのだろうか。様々な疑問が頭の中をぐるりと回る中で「碧……?」と小さな声で彼の名前を呼んでみても、ただそれは畳の上に落ちるのみで。)
(今日は普段よりもきつい、それはきっと抑え込んでいる筈の鬼が人間の香りを感じ取って暴れているからだろう。苦しくて、誰にともなく伸ばした手が小さな箪笥の足元に触れてはその衝撃で落ちた花瓶が畳に打ち付けられて激しい音と共に割れ。投げ出された青い花、月明かり差し込む部屋の中その額に現れた一本の角、意識が途切れる間際すず、と確かに紡いだ名前は声にもならずに、痛みに揺らいでいた瞳がふっと紅に覆われるのと同時に彼の意識は引きずり込まれ苦痛は落ちついたようで荒い呼吸だけが響き。やがて緩慢な動作で身体を起こしたその姿は、容姿こそ彼に変わりないが明らかに鬼そのもので。飢えに渇いた鬼が求めるのは悲しみの心、虚ろげで氷の刺すような冷たさを孕んだ紅い瞳で室内を一度見回すとこの屋敷の何処かにいるはずの人間を求めて立ち上がり部屋を出て)
!……碧!?
(何処か遠くで大きな音が鳴り、また鈴はびくりと肩を弾ませて。これは風で何かが揺れた音ではなく、何かが割れたような…そんな音。思わず大きな声で彼の名前を呼んで立ち上がり、襖に手を掛けかけたものの『此処から出てはいけない』という彼の言葉が脳裏をよぎり寸前でその襖が開くことはなく。「どうしよう、」と不安げな声で小さく呟けば、鈴の手元についた鈴がリン、とその不安を表すように静かに鳴いて。)
(廊下を歩む鬼の影を月が照らし、小さく響いた鈴の音に一瞬足を止めて。その音を頼りに静かに歩みを進めれば一番奥の部屋まで来てしまい此処だと確信を持てばこれまでの彼のものとは違う荒々しさで襖を開けて。月を背負う形で目の前の少女を見下ろすその影は明らかに異形のもの。闇に光る瞳は深く紅い、その紅が一層周りの白を引き立て雪の中に落ちた椿にも似て。しかし相手を見つめるその眼差しに先ほどまでの優しさも微笑みもなく、無機質な表情で冷たく冷え切った眼差しを向ける鬼が居るばかりで。)
きゃっ!?
(鈴が襖から手を離した刹那、その襖はかなりの勢いで自動で開き──たのではなく、襖の向こう側に居た人物が襖を突然開けたようで鈴は思わず小さな悲鳴をあげて1歩2歩あとずさり。そこに居たのは柔らかな月の光を背中に背負った、紅い瞳の鬼。額からは1つの角が生えており、見た目こそ先程まで隣にいた碧に似ているが、その瞳の冷たさは全く異なる。「あか、い目。」と思った事が自然と口から零れ落ちては、ただその成熟した椿のごとく紅色に輝くその瞳から視線を逸らすことは出来ず、冷たい夜風に吹かれて腕についた鈴が1度鳴るのみで。)
……泣け、
(相手を見下ろす紅い瞳は冷たいまま、不意に相手を組み敷くかのように地面に引き倒して。そうとだけ言うと片手で相手が逃げられないように手首を掴んだまま夕暮れ時に碧がしたように相手に手を翳し。しかしその手は相手の眼の前ではなく胸元に翳され、淡い灯りが灯るのと同時に相手の心に強い悲しみと恐怖、絶望が織り混ざったような感情が吹き荒れて。心を操り悲しみを得る、それが本来の鬼であり、それを一切しない碧によって押しとどめられている別人格に近い鬼は直ぐにでもその悲しみを得たいようで)
……ぇ、
(気がついた時には、自分の背は何故か床についていて。先程まで月を背負っていた目の前の鬼の後ろにあるのは月ではなく暗い闇がかかった部屋の天井で。何、と言う暇もなく、胸元にかざされた彼の白くてしなやかな手から発せられた光を見た途端強烈な『哀しみ』が鈴を取り巻いて。父と母が死んだ日のこと、友人と喧嘩をした日のこと、転んで大怪我をした日のこと。様々な悲しみの記憶が、そして得体の知れない恐怖がぞわぞわと湧き上がってくれば、鈴の瞳にはいつの間にか涙が溢れてきており。ただ、その涙が目の淵を超えることはなく、鈴はギュッとさくらんぼ色の唇を横一文字に結ぶと必死にその涙が零れてしまうのをこらえて。)
…まだ足りない、泣け!
(相手の瞳に浮かぶ涙、零れ落ちそうなそれが頰を伝うことはなく、ただ相手の心から生み出される悲しみの感情が自分の中に吸収されていくようで。しかしそれでも渇きを癒すには足らず、もっと深く悲しみ絶望しろとばかりに光を強めて相手を揺さぶり。きっと相手が涙を流せば悲しそうな表情をしてその涙を拭うであろう青い瞳は影を潜め、今はただ冷たく刺すような紅ばかりが相手を射抜いていて)
あお、い……碧でしょう…?
(固く結んだ唇をそろそろと開いて、瞬きをすれば大きな瞳からもう涙が零れ落ちてしまうのではないかというほど潤んだ黒瑪瑙はただただ自分を刺すように見つめる椿色の瞳を見つめながら鈴が転がるような凛とした声で、か細いが、しっかりと相手の名前を呼んで。恐怖と絶望、そして悲しみの渦巻く体の中でも相手のことは認識ができるようで「大丈夫…?」と的外れな質問をしては、1度瞬きをして、大きな瞳から一筋だけ透明な涙を零して微笑み。)
トピック検索 |