月 2016-08-05 23:20:23 |
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「さっさと用件を言え」
ラビの言葉に苛立ちを感じながら、神田はラビがなぜここに来たのだろうと思い聞き返す。
「じゃあ、言うさ、トリックオアトリート!」
「はぁ?」
意を決して発したラビの言葉に神田は呆れた声を発した。
「今日ハロウィンだろ?だから『トリックオアトリート!おやつをくれなきゃイタズラするぞ!』って言いに来たんさ」
「俺には関係ない、菓子もないしな」
必死にアピールをするラビは、どうやら狼の仮装をして神田の部屋に遊びに来たらしい。
しかし神田には関係のない事だし、ハロウィンに興味もない。
神田の態度に何かを察したらしいラビは、唐突に神田との距離を詰める。
「おい、何のつもりだ」
迫るラビに対して一歩後退する神田の背には、もう壁が近い。
「お菓子がないなら、イタズラするしかないだろ?」
ニヤつくラビに苛立ちを覚えた神田は、ラビの鳩尾を拳で殴る。
「いきなり殴るなんて酷いさ」
力加減はしたが、それなりにダメージはあったようだ。
「気色の悪い顔をするお前が悪い」
視線を逸らす神田の顔を見つめ、ラビはわざとらしくため息をつく。
まったく、この馬鹿兎はこんなくだらない理由で、神田の部屋に訪れたのだろうか。
だとしたら、どうやら随分暇なようだ。
「用はそれだけか」
呆れた声で神田が聞くと、ラビはドアに向かい後ろで手を振る。
「うん、そんなとこさ」
ラビがドアノブに手をかける瞬間、背後からそれを遮ったのは神田の手によるものだった。
混乱し硬直するラビをよそに、神田の指先がドアの鍵をかける。
「え、と、ユウ?」
神田の行動にラビの声が裏がえる。
しかし神田にはそんな事はどうでも良い。
神田はラビの二の腕を右手で強引に掴み、自身のベッドに向かう。
「な、痛い、痛いさユウ、謝るから離して」
力の隠る右手には、神田の感覚以上の力が入っているのかもしれない。
しかしそのラビの声すらも、神田の耳には届かなかった。
「うわっ、何?何なんさ」
ベッドに乱暴にラビを倒すと、ようやく神田は声を上げる。
「俺はイタズラされるのは嫌いだが、お前に大してする側ならしても良い」
ベッドに倒れたラビの上に乗り神田は不敵な笑みを浮かべた。
その行為にラビの喉が鳴る。
しかしラビも黙って、良いようにされる趣味はない。
「ユウ、さん?落ち着くさ、それにイタズラする側って…」
引きつった笑みで、ラビは神田の行為を止めにかかるが、神田に止める様子は見えない。
「俺は落ち着いている、焦っているのはお前の方だろう?そういえば、アレを言うんだったな」
神田の言葉よりも、その距離に落ち着かないラビの耳元へ神田の低い声が囁かれる。
「トリックオアトリート」
ラビの顔が薄紅に染まり、より距離は近づく。
「イタズラって…」
「されてみれば分かる」
ラビの言葉を飲み込むように、神田の言葉が耳元で重なる。
ラビが抵抗できないのは、自身の手元にお菓子がないからと言い訳してしまう。
おとなしくなったラビの様子を了承と捉え、神田の行為は加速する。
先ほどまで耳元にあった神田の唇は、ゆっくりとなぞるようにラビの首筋に口付けを降らす。
「…っ、ぁ」
微かに触れる感覚はラビの知らないものであり、羞恥と心地よさが混ざり合っていく。
自身の声に驚きを覚えているラビを余所に、神田の指先はラビの襟元を緩める。
「…っ、ん…何…?っ…」
鎖骨に触れた神田の指先に微かに気づいたラビの口元は、すぐに神田の口付けで塞がれた。
行為についていけず悩むラビに気づいた神田は、口元が離れる瞬間小さく囁きを落とす。
「お前は、黙って感じればいい」
その言葉を聞いたラビは、心臓を掴まれたような気持ちになる。
なぜ俺はユウ相手にこんな気持ちになるのだろう。
今まで一度も同性を意識した事などないのに、なぜこんなにも鼓動が高鳴るのだろうか。
しかし神田の口元が鎖骨に触れた時、ラビの意識が少し冷静になる。
「や、駄目だ、これ以上は駄目っ…っ」
ラビの抵抗する腕に僅かな力が入ったと同時に鎖骨に微かな痛みを感じた。
すると、神田はようやく口付けを離し、最後にラビの耳元で囁きを落とす。
「今は、ここ迄にしてやる」
その後すぐにラビの上から降りた神田を呆然と見つめ、ラビ自身も起きあがり、衣服の乱れを直す。
「なあ、ユウ?今のって…って、なんなんさこの痕っ」
ラビの鎖骨の辺りにあるのは、世間で言う『キスマーク』なるものに見える。
おそらくそれは、ラビだけではなく、他の人達から見てもそう思えるだろう。
そんなラビの言葉をよそに、神田は微笑し視線を窓の月に向け言った。
「その程度にしてやったんだ、感謝しろ」
「な、こんなん他の奴にバレたら…」
先程まで熱を帯びていたラビの体は急速に冷め、冷静さを取り戻していく。
「俺は知らん」
上着を着直し、神田の指先が部屋の鍵を開ける。
「知らんって…酷いさユウ」
ラビ自身も衣服を整え終えるが、その声には哀愁が漂う。
その間も神田は何事もなかったかのようにベッドに腰を下ろし、先程の任務の書類に目を通していた。
訳がありお返事が遅れました、作者の者です。
いつもご愛読ありがとうございます。
ですが、大変申し訳ありませんが始めにご意見・ご感想等はEND後~次作のタイトル迄に載せていただくようお願いしているので、このように文面中に載せられる事はこちらとしては、話の腰が折れてしまうので好みません。
今後はENDの度にその事を提示しますが、そちら様にもご理解いただけると幸いです。
なお、この事への返答もEND後にお願いいたします。
その上でご理解いただけない場合は更新を打ち切らざるえない可能性もありますので、ご了承ください。
では、今後は続きをどうぞ
その姿にため息をつきラビはドアへと向かい言う。
「ユウが何を考えているのか、お兄さんにはさっぱり分からないさ」
その声に僅かに反応した神田は、去り際のラビに声をかけた。
「そのうち分かる、そうだな、次の任務を終えた時お前が生きていたら教えてやっても良い」
月明かりが逆光となり神田の表情はよく見えないが、その口元には僅かな笑みが見えた気がした。
「へえ、じゃあなんとか生きて帰れるよう頑張るさ、その時のためにな」
いつもの笑みを浮かべ立ち去るラビの様子は、どこか楽しげであり、その後ろ姿を見送るのは月明かりと供に佇むハロウィンの魔物、神田ユウだけであった。
その年の初雪は早かった。
黒の教団の中庭にも深々と雪は積もり、まるで黒いキャンバスに白い絵の具を落としたように思える。
しかし書物を漁り、記憶を取り続けるラビの体に冷気が触れる事はない。
それは行為による集中力からくるもどなどではなく、この室内にある暖房によるものだ。
「はぁ、ようやく終わったさ」
任務後にブックマンから渡された書物を一時間ほどで記憶し終え、ようやく休めるとラビは体をのばす。
あと数日で今年も終わる。
今年もどうにか生き延びて、教団を離れずに年を越せそうだ。
唯一の心残りは、アレンの事だけと言えるだろう。
もちろん伯爵との戦いにおいて、イノセンスと適合者の捜索も重要だが、今のラビにはアレンと自身の関係の方が優先と言える。
なぜなら、こんなふうに日に何度もアレンの事を考えていては任務に集中出来ないし、記憶する作業の速度も落ちてしまう。
解決する事に時間のかからない悩みならば、即座に解決すべきなのだろう。
「いつ言うかな…」
ソファに横になり呟く言葉は、ラビの耳に伝わり、室温に溶けていく。
アレンに伝えたい事は二つだ。
恋愛としての好きの気持ちと、それに対する返事の催促である。
たった二つの何とも簡単な事だと分かってはいるのだが、その簡単な事を実行するのは思いのほか難しい。
難しい理由もラビ自身すでに理解している。
それは結果への恐怖。
この感情は、誰もが一度は恋をすれば、理解し合えるはずだろう。
ましてや同姓への恋は、報われる事の方が少ない。
ただ振られるだけならまだ良いのだが、嫌悪の対象に思われる可能性も少なくはないし、好きな奴に嫌われるのはラビとて辛く悲しい。
そんなふうに思われるくらいなら、今のまま仲間としての日々を過ごした方が幸せなのではないかという思いが、気持ちを伝える覚悟を揺るがすのだ。
しかし、だからといってラビが現状に満足しているわけではない。
確かに今のままならば仲間として側に居る事は出来る。
だが、いつかアレンに恋人が出来た時、ラビは冷静に『仲間』として側に居られるだろうか。
自分以外の誰かが彼に触れ、寄り添い、微笑みあう姿を目にした時、平然と祝福するなどラビには出来る気がしない。
そう思うと、結果への恐怖と、時の流れへの焦りが、ラビの中にある天秤のような心を揺らしてしまうのだ。
しかしそんな思いを日々抱いても、時は流れゆくばかりで、さすがにこのままではいけないだろうと自覚したラビは『今年中に思いを告げる』と決意したのである。
ところが実行出来ないまま日々は過ぎ、今日の日付は十二月二十四日になってしまった。
リナリーや、コムイ達は今日がクリスマスイブだという事もあり、一日中楽しそうに騒いでいる。
リナリーは任務がないから良いが、コムイは溜まった仕事をすべきだろうと内心苛立ちを感じ、思ってしまうのは『今年中に思いを告げる』という心の目標を果たせていないからだろう。
大体もっと早く思いを告げていればラビだって、アレンと楽しいイブを過ごせていたかもしれないのだ。
意気地のない自分が悪いと思っていても、苛立ちは消えてくれそうもない。
「腹減ったな、食堂にでも行くか」
ソファから立ち上がり談話室をあとにしたラビは、廊下にある窓から夜空を眺めながら、ため息をついた。
冬の夜空に輝く星達はあんなにも明るいのに、ラビのアレンを思う心は、欠片ほども明かりを灯してくれない。
「アレン、どうしたらいいんさ」
思い人を思い浮かべ長い廊下を歩いていると、不意に後ろから声が聞こえた。
「あ、ラビ!帰ってきていたんですね」
「なっ、ア、アレン?」
先ほどまで思い浮かべていた人物の声に、ラビは思わず動揺してしまう。
聞かれて困るような事は言っていないが、過剰に反応したラビにアレンは疑問を感じたようだ。
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