ショコラ 2015-10-06 16:09:50 |
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中に入った瞬間に3匹のモンスターが現れた。
狼の様な姿をしたウルフル。ウルフルは素早いが、攻撃は物理攻撃しかしてこない。噛みつくかひっかくかだ。
しかしウルフルの牙と爪には毒がある。
喰らえばかなりのダメージを受ける。
鳥の姿をした雷鳥。こいつはやっかいだ。
空を飛び回り【ボルト】という雷の様な球を投下してくる。
当たれば体がしびれてしばらく動けなくなる。
それに、こいつを倒すには弓使いか魔法使いが必要だ。だが、メンバーにはいない。
木の姿をし、根を足の様に使い移動する風樹。
動きは遅いが、ツタを自由自在に扱い、ツタに囚われればロープで縛られた様に身動きが取れなくなる。
モンスターの中でも下級の方だが、初心者冒険者にとっては、この3体が同時に現れる事で苦戦するだろう。
「来やがったな…。俺はウルフルをやるぜ!」ロックはそう叫び、勢いよく飛び出していった。
「おい!勝手な行動はするなよ!」ベルが制止するのも聞かずにロックはウルフルに勢いよく剣を振りかざした。
しかしロックの剣さばきよりウルフルの素早さの方が勝っていた。
ひらりと身をかわすウルフル。
勢いのまま地面に剣を振り下ろすロック。衝撃で手がしびれる。
「痛ってぇ…、逃げんじゃねぇよ!」
いや、普通逃げるだろ・・・・。
ロックがウルフルを相手に苦戦している時、ベルとクラドは風樹の相手をしていた。
全長3mはある大きめのモンスターだ。
根は足の様に動き、小枝全体に広がる葉は、まるでアフロヘア―の様に見える。
幹から生えてる無数の小枝も、何本もある手の様に動き、その先からは触手の様なツタが伸び縮していた。
「ベル、これじゃあ迂闊に近づけませんよ」クラドは情けない声を出しベルの判断を仰いだ。
「風樹の性質は草系だ!草系には火が有効だっての忘れたのか!?お前出来るよな?!その隙に俺はツタの生えてる触手を切り落とす!!」
「ハイ!」
「大気に宿る火の粒子よ 我の元へ集い その力を宿したまへ」
呪文のような言葉を唱えると、空気中に散らばっていた小さな火の粒子が光り輝きはじめ、クラドの掌に赤い炎の個体として集結した。
クラドは手元に集まった火の個体を風樹めがけて投げつける。
「ファイヤーボォォォル!」
見事に命中したファイヤーボールだったが、風樹には大したダメージにはなっていなかったようだ。
何度も何度もクラドは火を放ったが、風樹のツタが上手く弾き返してしまう。
ロックの方も相変わらず苦戦を強いられているようで、ウルフルの動きが素早過ぎて中々致命傷を与えられていなかった。
息を切らしながら戦っているロックとウルフル。
その時ウルフルがこちらの方を見た。
ロックの一瞬の隙をついて、ロックにひっかき傷を負わせベルたちの方へと向かってきた。
勢いよく突進してくるウルフルに、背を向ける様にして風樹と闘っているクラドはその事に気が付いていない。
「クラド!!」
ベルは、クラドを狙って突進してくるウルフルに対し、つい力を使ってしまった。
瞬時の移動。そして剣で一撃での快進撃だった。
呆気にとられる二人を尻目にすぐさま風樹と向き合い、何か有効な手立てはないかと考えた。
「す…凄い・・・、ウルフルを一撃で倒すなんて…」クラドは尊敬のまなざしでベルを見た。
「クラド!ぼけッとしてないでお前もなんか考えろよ!」
「は・・・ハイ!」
「僕がもっと強力な炎の魔法を使えたらよかったんですけど…大きな魔法を使うには精霊の力を借りなきゃいけないんです。僕にはまだ・・・・」
「精霊の力か…やってみるか…」
ベルは、剣の腕前だけはシルビー仕込みなのでかなり強かった。しかしシルビーはベルに魔法術を教えていなかったのである。
ベルもまた、剣士は剣の腕前さえ良ければいいものだと思っていたが、シルビー無しの実戦となると多少は使えないと不便だと言う事に気が付いた。
これまで魔術系の魔法は全てシルビーがやってくれていたが、これからは自分も使えないと一人前とは認めて貰えないだろうと。
「大気に宿る炎の粒子 我の元へつどへ 炎の精霊サラマンダー 俺に力を貸してくれ!」
呪文としてはかなり出来損ないだが、精霊サラマンダーが姿を現した。
― 我を呼ぶのは汝か・・・ 我は汝とは契約をしておらぬ ―
「そこを何とか頼むよ!サラマンダー!」
― ・・・・お主は・・・、あの時の子供か? そうか・・・、シルバニアの養い子…その契約引き受けた ―
精霊の力を受けた火の粒子はより一層赤みを増し、それを風樹に向かって投げつけた。
「ファイヤーブレェェェェド!」
巨大な炎は風樹を包み込み、あっという間に風樹は燃え尽きてしまった。
残るは雷鳥のみだ。
未だ空中を飛び回っている雷鳥。下に降りる様子はない。
異次元空間の隅に置かれている弓を見つけたベルはそれを手に取り構えた。
「当ったれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
しかし弓矢は雷鳥の羽をかすっただった。
「くっそ・・・・・」
クラドはその隙にロックの傷の手当てをしていた。
毒が回ってしまう前に治癒しないと試験放棄とみなされるからだ。
その時だった。地面が急に揺れ出し、異次元空間に違和感の様な歪を感じた。と、同時に、光の結集隊が無数に現れ、その姿を新たなモンスターへと変えていった。
「これは一体・・・・・」
*** 訓練用モンスター監視塔 ***
― ビィーッ ビィーッ ビィーッ ―
監視塔のコンピュータールームの中で、モンスターを調整する制御パネルの画面上が赤く点滅している。コンピューターの画面には【ERROR】の文字。それもすべての機械に表示されている。けたたましい警戒音。赤く点滅する画面。何かが起こっているのは間違いない。
職員達も急に起こった異変に大慌てで、原因が何なのかさえ分からない今は、なす術もなかった。
「これは一体どうしたって言うんだ!原因を早く調べろ!」
「は、はい!」
いくら調べても故障の原因は見つからなかったが、1つだけ、今出てるモンスターを表示するパネルだけが元に戻った。
それを確認した職員達は固唾を飲み冷汗をかく事となる。
今は前期の試験中だ。異次元訓練場内に生徒達が取り残されている。というか、その異次元空間さえもがコンピューターの故障で3次元である元の世界と繋がってしまっていた。
異次元空間であれば、どんなに暴れ物を壊したとしても、我々が住んでいる3次元に影響はないが、その防壁が無くなった今となっては、その被害は甚大なものになるだろう。何せ今出現しているモンスターはドラゴンなのだから…。
ドラゴンを倒すには、上級者の冒険者が3人以上でなければ倒せない。
この学校に6か所あった異次元訓練場に応援を呼んだとしても、最低18人は必要になる。無理だった。
たとえ来てくれたとしても、時間がかかるだろう。
それまで何とか持ちこたえなければならない。
これは訓練ではない。
したがって、怪我をすれば現実の痛みにもなり、万が一死亡などしてしまうと生き返る事などできないのだ。
教官たちが先陣を切って対戦していたが、力が及ばず次々にと倒れていった。
部屋でのんびり昼寝をしていたシルビーの耳にも、この騒ぎの音が耳に入り、何が起こったのかと窓から外を覗いてみると、学校を囲むようにドラゴンがその姿を現している。
「なぜここにドラゴンが・・・・」
ふと脳裏を過ぎったのはベルセルクの事だった。
今は試験中でドラゴンが居る場所に居るはずだと。
いくらベルが強いと言っても、ドラゴン相手に1人では倒せないのはシルビーも知っていた。
慌てたシルビーは変化を解き元の姿に戻った。
が・・・、髪の色を変え忘れていた。
ベルの姿を確認したシルビーは側に駆け寄り「ベル!怪我はない!?」と言ったが、当のベルはキョトンとした顔でシルビーを見ていた。そして、「あっ…貴女は・・・!!」
その発言でシルビーは気が付いた。『……髪の色…、忘れた…」と。
髪の色とか正体とか、今はそんな事を言ってる場合ではない。
なかば強引に「そんな事はどうでもいいのよ!ここに居るドラゴン全部倒すわよ!」そう言い切った。
「えっ?ちょっ、待ってください!無理ですよ!」
「無理でも何でもやるのよ!!男でしょ!?」
この場合、男とか女とかは関係ないと思うが・・・・。
明らかに実力の違うモンスター相手に戦えと?死・ねと言ってるのかこの人は…。
ベルは心の中でそう思っていたのだった。
呆気に取られているベルを尻目に、シルビーは呪文を唱えた。
― 天と地の精霊王 光と闇の精霊王よ 我が元へ集い その力を見せよ! ―
天の精霊王は天から現れ、地の精霊王は地から。
光の精霊王は眩い光と共に姿を現し、闇の精霊王が現れる時は、辺り一面が漆黒の闇に一瞬包まれたかと思った瞬間、その闇がはれた時にはそこに居た。
「この学園内に居るドラゴンを退治する。お前達は結界を張り動きを止めよ」
「承知しました、シルバニア様」
精霊王たちが答えると、頭上高く巨大な魔法陣が幾層にもなって現れ、6か所に居るドラゴン達を檻にでも入れたかのように囲い込み、漆黒の帯がその躰に巻き付く。
その姿は、獣が檻に入れられ縄で縛られているようだ。
ドラゴンは身動きが出来ないでいた。
しかし、唯一動かせる尾を上下左右に激しく振り、誰も近づかせないようにしていた。
「ドラゴンの動きは止めたは。これなら何とかできるでしょ?皆で力を合わせて倒しなさい。私は他の場所を見てくるから」
そう言ってその場を去ろうとした時、シルビーは後ろを振り返りベルに言った。
「そうそう。言い忘れてたけどその魔法、10分しかもたないから。10分以内に倒すのよ。いいわね」
そう言い終わるか終わらないかのうちにシルビーの姿は消えてしまい、文句を言いたくても言えなかった。
『やるしかないのかよ!?』半ば諦め気味のベルであったのだ。
「みんな!あの人が言ってだろ!? 先生たちが居ない今、俺達でどうにかしなきゃいけないんだ。
10分はドラゴンが動かないって言ってたから、俺達だけでもなんとか出来るかもしれないぜ?!
手を貸してくれるやつはこっちに来てくれ!」
先ほど、教官たちが赤子の手を捻られるように倒されていった光景を見ていた生徒たちは、怖さでドラゴンには近づけないでいた。
「時間が無いんだ!早く!!」
ベルの掛け声で何人かの勇士が前に進み出てきて「俺達も闘う」「私もやるわ」と、総勢15名の生徒達が名乗りを上げた。
他の生徒は怖気づいて震えている。
「よし!弓隊は後方支援で後ろに回ってくれ。狙いはドラゴンの目だ!首から上を集中的に頼む!」
「任せとけ!」
「魔術師は補助系呪文を頼む。素早さと防御はMAXで頼む。あと、回復もこまめにやってくれ!」
「それなら僕たちの得意分野だ。任せといてよ」
「槍と剣士。一ヵ所を集中攻撃するぞ。ドラゴンの皮は厚いからバラバラに攻撃してちゃだめだ!
一ヵ所集中!穴が開いたらそこに一斉にスキルを叩き込む!いいな!
時間が無いから3班に別れて行くぞ!」
「おう!!」
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