YUKI 2015-08-22 21:53:42 |
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※ プロローグ ※
いつからだろう。この駕籠の中にいるのは。
ご主人様の好きな真っ白なワンピースを着て、ご主人様に言われた物だけを口にし、ご主人様のためだけに歌う。
もうずいぶんと長く此処にいるせいか、それが当たり前になっていた。
あの日貴方に逢うまでは。
※ 第一章 光と小鳥 ※
「おはようございます。白薔薇様、ご朝食のお時間です」二人のメイドがオートロック付きの3重ドアを開け温室の中に入ってきた。
私は白薔薇に囲まれた温室の奥にあるベッドから立ち上がり、中央にあるテーブルとイスのある場所へ向かった。
引かれたイスに座り白薔薇のローズティーを口にし簡単な朝食をいただくと「まもなくご主人様がいらっしゃいます。御着替えを」とメイド達は、持ってきた真っ白なドレスを私に着せ、髪を整えてくれた。
「それでは我々はこれで失礼させていただきます」とメイド達は早々に立ち去り、私はイスに座りながらローズティーを口にした。
私はもうずいぶん前から此処に閉じこめられていた。
此処には食事も、お風呂も、トイレも、ベッドもある。みんな親切にもしてくれる。人身売買のオークションに出されてたときとは違う。
ご主人様にはとても感謝しているし、ご恩も返したい。
でもなぜだろう。時々あの空が恋しくなる。叶わないことなのに。
【ピー、カチャン。ピー、カチャン。ピー、カチャン。】オートロックの開く音がして、私は我に返った。
「おはようございます。ご主人様」と私はドアから入ってきた。「おはよう、僕の美しい白薔薇。今日もきれいに咲いていてくれて嬉しいよ」ご主人様は私の右手の薬指に口付けを落とし、微笑んだ。
「さぁ、今日も歌っておくれ白薔薇。綺麗な声を聞かせておくれ」私はご主人様の好きな歌心を込めて歌った。
10数分歌うとご主人様は満足したらしく、ドアのそばのベルを鳴らす。するとドアからメイドが入ってきて「お待たせいたしました。ご入り用は何でしょうか?」とご主人様に訪ねてきた。
「紅茶と茶菓子を用意してくれ」とご主人様が一言いうと「かしこまりました。少々お待ち下さい」とメイドは温室の外へ出ていった。
「さぁ、来なさい。膝に御乗り」ご主人様はイスに座り私を見つめ誘った。
私は言われたとおりご主人様の膝に乗り、メイドが運んできたローズティーを一口口にする。
その様子を満足げにご主人様は見つめたわいもない話をした。
午後からはご主人様自ら私をお風呂に入れてくれた。白薔薇の花びらを浴槽が埋まるほど入っている中に、私は素肌をさらして入る。
噎せ返るほどの薔薇の香りが私の白い肌に染み込む。
ご主人様が優しく洗ってくれる髪には薔薇の香りのシャンプーが絡まる。
丁寧に全身を洗われ体を拭いてもらい、用意されていた真っ白なドレスに着替えると、ご主人様は「さぁ、歌っておくれ綺麗な君の声は白薔薇のように純粋で美しい」と中央のテーブルとイスのそばに行くと、私の髪にキスを落としながら言った。
「はい、かしこまりました」と一言言うとすぅっと息をしてご主人様のために歌った。
夕暮れが見えてくると「ありがとう。今日も美しかったよ。また明日くるからね」と優しい笑顔で言ってご主人様は温室を出ていった。
私はメイドの用意した夕飯を口にし、ベッドに横になった。
すっと目を閉じようとした時、【ガサガサ】という音がした。「え?何?誰かいるの?」とベッドから体を起こし音のしたベッド側の温室の外を覗いた。「あっ、ごめんなさい。僕最近ここの使用人になったもので前からこの温室が気になっていたんです」と使用人の格好をした年は15~18くらいの若者はあせったように謝った。
「ここはご主人様以外男性は立ち入り禁止なのよ?」私がクスリと笑い心配そうに言うと「わかってます。ただとても美しい真っ白な薔薇の温室だと聞いてどうしても見てみたくなって」と真面目な顔した若者は申し訳なさそうに言った。
「しかたないわね。ご主人様には内緒にしてあげる。貴方名前は?」と小さくため息をついて微笑みながら白薔薇が聞くと「ありがとうございます。僕は黒葉【クロハ】といいます。貴方は?」ぺこりと頭を下げ嬉しそうに名を名乗り白薔薇に訊ねた。
「私?私は白薔薇。ご主人様にいただいた名前よ。黒葉次からここに来る時はもう少し暗くなってから来た方がいいわ。警備が手薄になるし、夜の闇に紛れて見つかりにくくなるから」私はなお名乗り、黒葉にアドバイスを与えてやった。
「では貴方がご主人様の薔薇?わかりました、次からはもう少し暗くなってから来ますね」と黒葉が言うと「えぇ、そうしたほうがいいわ。また明日ね黒葉」と私は言った。
「はいっ、必ずまた明日来ます。では、おやすみなさい」と黒葉は言って温室を後にした。
「黒葉、黒葉、変わった人。いままで男性はご主人様以外誰も近寄らなかったのに、またお話してみたい。でも、ご主人様には内緒にしなきゃ」私は一人呟きながら、ベッドに横になり瞳を閉じて眠りについた。
※ 第二章 空の色と私 ※
次の日の朝。目を覚ました私はベッドから起きあがり温室の外に目をやり、昨日のことを思い出した。
黒葉、黒葉、昨日の夜の出来事がもし夢ではないのなら今夜また逢えるのだろうか。
そんなことを考えながらメイドの用意した朝食を食べ、真っ白なドレスに着替え、ご主人様を待った。
【ピー、カチャン】という音が3回程鳴ると、「おはよう、僕の美しい白薔薇。今日も綺麗に咲いてくれて嬉しいよ」と言いながらご主人様が温室の中に入ってきた。
「おはようございます。ご主人様」私は内心ドキリとしながらも冷静を装ってご主人様に挨拶をした。
ご主人様には気付かれずにすんだようで、歌を歌い、お茶をし、お風呂に入れてもらい、また歌を歌って一日が終わった。
「ありがとう。今日も美しかったよ。また明日来るからね」とご主人様はいつもと変わらない様子で温室を後にした。
私はその様子を見ながら、隠し事をしていることを申し訳なく思ってしまう。
けれど、もし黒葉のことがばれてしまったらきっとご主人様はとても御怒りになるだろう。
ご主人様は普段はとても穏やかだけれど、ご執着していることに誰かが意見したり、勝手な行動をすると普段とはぜんぜん違う激怒した表情になる。
そのため、メイドも、使用人も、私自身も決して逆らうことはないのだ。
依然、私がここから逃げようとしたときはベッドに縛り付け、栄養点滴を打ち、目を隠し、口に細い布を巻き喋れないようにされた。
そうして、何日も何週間も耳元で「君は僕から逃げられないんだよ、ずっと僕だけの物だ」と囁かれた。
思い出すと鳥肌がたった。必ず隠しとうさなければと私は温室の外を見つめた。
【コツン、コツン】とベッドの側から何か音がして私は我にかえり、急いでベッドに向かった。
「こんばんは、白薔薇また会いに来たよ」と温室の外には黒葉が隠れながらいた。
「黒葉、よかったまた逢えて」不安にかられていた私は黒葉に逢えたことで、心が安らいだ気がした。
「ねぇ、白薔薇は何でこの温室の中にいるの?」と黒葉は不思議そうな顔をして聞いてきた。
「もう何年も昔に人身売買のオークションで売られていたとき、ご主人様は私を買ってくれたの。それ以来私はこの温室の中で暮らしているのよ」と少し苦々しく話しながら「あっ、でもご主人様には感謝しているのよ?おいしい食事も、素敵なドレスも、お風呂も、トイレも綺麗だし」と私は少し焦ったように続けていった。
その様子を見ていた黒葉は「そっか、そんなことがあったんだ」と少し心配そうに笑った。
そして「ねぇ、白薔薇はこの温室から連れてこられてからは出たことないの?」と明るい声で笑いながら聞いてきた。
「この温室の外に出ることはご主人様に禁止されているの。一度こっそり出ようとしたときは酷く怒られたわ」と私は首を横に振り悲しそうに答えた。
すると黒葉はそんな私を見て「なるほどね。まさに駕籠の鳥ってわけだ」と寂しげに笑う。
「駕籠の鳥?」と疑問系で私が呟くと「だってこの温室の作りって鳥駕籠みたいだし、君はその中に捕らわれているだろう?だから駕籠の鳥」と温室の屋根を指さしながら私を見つめ黒葉は笑いながら説明してくれた。
「でも私は捕らわれているわけではないわ。ご主人様は外は危険がたくさんあるから私を守るためにここから出さないんだと言っていたわ」と私はムキになりながら黒葉に言った。
それに対して黒葉は呆れたように「なるほど。君は鳥と言うよりはご主人様の都合の良いお人形のようだ。まぁ、また明日くるよお人形さん」と言って温室を後にした。
「なっ、なんなのよ失礼しちゃう。私のどこが人形だというの?」と私は怒りながら温室の外に背を向けベッドに横になり目を閉じた。
でも、たしかに私は理由はどうあれこの温室から出れない小鳥なのかもしれないわと思いながら眠りに落ちた。
目を覚まし朝食を口にしながら、昨日の黒葉の言葉が頭に浮かんだ。
しかし、違う私は捕らわれてなんかいない。現にご主人様は私を大切にしてくれているじゃないと、自問自答してしまう。
着替えを終え、ご主人様が来て歌を歌い終わり、ご主人様の膝の上に乗りながらお茶をしていると「どうしたんだい、白薔薇?」とご主人様は私に心配そうに聞いてきた。
やっぱりご主人様は優しいわ。ちゃんと私の心配をしてくれる。
でも、やっぱり気になる私は「あのっ・・聞きたいことがあるんです」と申し訳なさそうにご主人様に聞いてみた。
「聞きたいこと?いいよ、僕にわかることなら」と優しい声で答えてくれた。
「ご主人様は外は危険だから私を守るためにここから出ることを禁じているのですよね?」と私は縋るように訊ねてみた。
一瞬冷たい目をしたような気がしたが優しい笑みで「そうだよ。君が傷つくことのないように守っているんだ」とご主人様は答えた。
私は安心したかのような顔し続けざまに「そうですよね。変なことを聞いてすいませんでした」と言い微笑んだ。
「急にどうしたの?何かあったのかい?」とご主人様に聞かれ「いえ、ただ朝目を覚ましたとき青空があまりにも綺麗で不意に思っただけです」と私は温室の外の空を見て寂しげに笑った。
「白薔薇・・・」ご主人様はそんな私をただ見つめていた。
その後お風呂に入り、歌をもう一度歌い終わるとご主人様は去り際に「君がそんなにも望むなら近々メイドたちに言って庭だけなら出れるよう頼んでみよう」と言ってくれた。
私はパアァと笑い「ありがとうございます」と嬉しそうに言った。
その後ご主人様は立ち去り温室を後にした。
ほらやっぱり、ご主人様は私のことを思ってくれているわ。
その証拠に私を近々庭に出してくれると言ってくれたじゃない。
私はご機嫌でローズティーを飲みながら幸せそうに笑い、カップをかたずけさせベッドに向かった。
温室の外を見ると草むらから黒葉が現れたところだった。黒葉は私の顔を見ると「あれ?今日はずいぶんご機嫌なようだねお人形さん」と言い皮肉めいた笑みを浮かべた。
「私はお人形なんかじゃないわ。失礼なことを言わないで」私は少し怒ったように黒葉にむかい厳しい口調で答えた。
黒葉は怯むこともなく「そんな怒ることないだろう?駕籠の中のお人形さん」とこ馬鹿にしたような口調で笑いながら言う。
「ふん、そう言っていられるのも今のうちよ。私、近々庭に出れることになったの。いつまでも駕籠の中って言うわけじゃないわ」と私は自慢げに話した。
そう、私だってご主人様にお願いすれば外に出るくらいたやすいことだったのよ。
勝手に出ていこうとしなければご主人様は怒ったりなんかしないわ。
そんな私を見て「へー。あのご主人様が君をこの温室から出すなんて以外だな。でも所詮庭だけだろう?この屋敷の外に出られるわけじゃない」と黒葉は一瞬目を丸くするも、しょせんは駕籠の鳥と少しからかうように笑いながら言った。
それに対して「なによ。私が頼めばきっとご主人様はお屋敷の外にだって出してくれるわ」と怒ったように告げた。
「またご主人様か。まぁいいさ、僕は、君がどれだけ頼んでもお屋敷の外に出してはもらえないと思うけどね」と黒葉は少し苛立ったように、そして少し馬鹿にしたように笑いそのまま立ち去っていった。
なによ、私のなにがおかしいというの。私がお願いすればきっと屋敷の外に出るくらいたやすいはずよ。
絶対屋敷の外に出て黒葉のことを驚かせてみせるわ。
そんな風に考えながら私は眠りについた。
次の日の午後、ご主人様にお風呂にいれていいただきながら「あの、ご主人様」と私は戸惑いながらご主人様に話しかけた。
「何、どうしたの?」とご主人様は私の髪を洗いながら優しい声で聞いてきた。
ほら、やっぱり優しい、きっと大丈夫と私は「実は私、ご主人様にお願いがあるの」と早速お願いしてみた。
「何?僕に出来ることなら出来る範囲で叶えてあげるよ」とご主人様は優しく私の髪をすすいでくれた。
その言葉を聞いて私は笑顔で「本当ですか?では私、ぜひお外に出てみたいんです」と明るい声でお願いしてみた。
「外?近々庭に出してあげると昨日言っただろう?」とご主人様は少し不思議そうな顔をしながら私を浴そうからあげてくれた。
しかし私は「庭も素敵ですけど、お屋敷の外にも出てみたいんです。お願いします」と首を横に振り、ご主人様にすがりつくようにお願いしてみた。
それに対して「それはいくら君のお願いでも聞けない。言っただろう?外は危険なんだ良い子だから僕を困らせないで」と少し冷たい声でご主人様は答えた。
その言葉に私は背筋が凍るような気持ちになり「ごめんなさい、もう言わないから、良い子にするから、お願い怒らないで」と焦ったように目に涙を浮かべ謝った。
「僕は別に怒ってはいないよ?でも、出来れば同じ事を何度も言わせられるのはあまり良い気はしないな」と冷たい笑みで私の耳元にささやいた。
それからのご主人様との会話は気が重く、緊張感が途絶えなかった。
やはり外には出られないのだろうか。なぜご主人様は私を外に出してくれないのだろうか。何がいったい外にあるというのだろう。
ご主人様が立ち去った後、私はずっと考えを巡らせていた。わからないことばかりの中確かな気持ちが一つ生まれた。
(お屋敷の外に出てみたい。ご主人様の言う危険なものが何か確かめてみたい)という強い意志が私の中に生まれたのだ。
きっとご主人様にバレたらひどく怒られるだろう。しかしなぜそこまで怒られるのか、いったい何があるのかそれを確かめたいという気持ちもある。
帰ってきたときちゃんと謝ればそんなに怒られないかもしれないし、きっと大丈夫だろう。
もしやるなら庭に出してもらったとき隙をつくしかない。そのためには協力者がいるだろう。
そんなふうにベッドの上で考えていると温室の外の草むらが揺れた。
「やぁ、お人形さん、お願い事は聞いてもらえたかい?」と草むらから黒葉が出てきてからかうように聞いてくる。
それに対して私は何も言葉を返せないでいた。なぜなら黒葉の言ったとおりご主人様に反対されてしまったからだ。
その様子をみて「やっぱりな、だから言っただろう」とからかうのをやめ、黒葉は私を慰めるように優しく言った。
「ねぇ、ご主人様はなぜ私をお屋敷の外に出してくれないのかしら?お屋敷の外はそんなに危険なの?」とようやくの思いで黒葉に絞り出したような言葉を告げた。
「屋敷の外は別にそんなに危険なことはないよ?むしろ僕には君の今のご主人様との関係の方が危険だと思うけど」と首を傾げ不思議そうに答えた。
「そうなのかしら、だとしたらなおのことお屋敷の外に出てみたいわ」私はより強く外に出る意志を固め、黒葉に「ねぇ、私あなたにお願いがあるの。私がお屋敷の外へ出るためのお手伝いをしてくれない?」と両手をあわせお願いしてみた。
黒葉はそんな私を見つめ少し考えたような顔をすると「協力するのは良いけど、協力者はもう少しいないと厳しいと思うよ?」と答えてくれた。
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