アマツ 2015-08-19 05:25:08 |
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【Tale1】日常 ノ 終 ワリ
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___ねぇねぇ、知ってる?あと3日でここの町が滅ぶってネットで噂されてるらいしよ!
と、クラスメイトが面白そうに話をした。
それを聞いて、周りのみんなは興味津々といった顔でそれを聞く。
私は別にそういった話に興味はないので、適当に聞き流すのだけれど。
でも、自然に話を聞いてしまう。
曰く、とある情報掲示板で、私が住む町の情報が掲載されており、気になって覗いて見たところ、この町はあと3日で滅ぶなどと記載されていたらしい。
何ともおかしな記事だ。
けど、年頃の少年少女達にとっては、良い餌だ。
そんなことを思いながら、席を立つ。
これから生徒会の仕事があるのだった。
私の名前は浅霧 小鳥(あさぎり ことり)。
黒髪ロングヘアで、身長168cm。スリーサイズは……ナイショ。
17歳の高校2年生だ。
「あれ?小鳥ー、どこ行くのー?」
クラスメイトの女の子に声を掛けられる。
私はドキッとした。別に悪いことはしてない。
けれど、実は私……
「えッ?!あ、いや……そ、その!せ、生徒会、ですっ!」
「あはは!そこまできょどってると逆に何か怪しいな~?」
「え、あ……ほ、本当に、本当に生徒会です!で、では私はこれで!!失礼しますっ!」
「え?ちょ」
私はそう言って、逃げるようにして……というか、逃げた。
……実は、私は物凄く人見知りをするのだ。
1、2年一緒に居たぐらいでは、慣れることはできない。
多分、この学校で一番人間関係に悩んでいるのは、私だ……
治すことなんて出来ない。
何度も何度も治そうとしたけど、結果的に逆効果だった。
挙動不審で危なっかしい女の子、というイメージまでみんなに持たれたくらいだ。
……小鳥ファンクラブ、というものまであるらしい………
恥ずかしいことこの上ない……
早足で歩いていると、いつの間にか生徒会室の前に来ていた。
私はドアを開けて素早く室内に入る。すると
「ん?おや、浅霧さん。ずいぶん早いわね。」
「あ、会長。いらっしゃったんですね。」
一番奥に置いてあるデスクに、生徒会長の高乃 杏子(たかの きょうこ)さんがいた。
会長は、私の側まで来ると、その豊満な胸をフフン!と張る。
短いショートカットの黒髪に、赤いフレームの眼鏡を掛けていて、身長は170cmと私より高い。もちろん3年生で、私の先輩だ。
「今日はちょっとした来客がいらっしゃってね~!」
「…来客、ですか?」
「うん。もうすぐ来るはずだけど……」
ガチャリ____
ドアが開く音がして、私は瞬時に会長の後ろに隠れる。
会長は苦笑い。
会長の後ろから、入り口を盗み見ると、そこに居たのは……
「……失礼します。」
「おー、時間ピッタリ!調子はどう?綾岸 夜空(あやきし よぞら)さん?」
生徒会室には、いろんな物が置いてある。
それこそ、紅茶に緑茶にお茶菓子から、専用の器具や、終いにはかき氷を作る器具まである。
もちろん、冷蔵庫も完備されていて、中にはかき氷のシロップや、レモン、さらには何故か醤油まで置いてあるのだから、便利だけどヘンテコだ。
……醤油は別にいらないような気がする。
「ど、どうぞ……」
「いただきます。」
私は、緑茶を淹れて綾岸さんに差し出す。
綾岸さんが緑茶を口にした。
私はその様子をはらはらしながら見つめる。
綾岸さんは、綺麗な短い髪を後ろで束ねていて、花弁を模して作られた赤いヘアピンを付けている。
鋭い目に、よく似合っていた。
ある種の美の形が、そこにはある。
「………何か?」
じぃっと見つめていたら、綾岸さんが私を見てそう言った。
「えッ?あ、いや……そ、その…」
「……言いたいことがあるのでしたら、はっきりとどうぞ。」
「え、えええと……そ、その、は、はっきり?……いや………あ、あの……」
たじたじの私に、綾岸さんは鋭い視線を向けてくる。
そして、さらにたじたじになる私……
……うぅ、悪循環だ…………
そんな私に、救いが舞い降りた。
「綾岸さん、あまりその娘をいじめないでくれるかな?かなり人見知りなんだよ~」
会長、ナイスです!心の中で呟く。
「……いえ、そのようなことは……ただ、何か言いたそうだと思ったので、つい。」
「へぇ、浅霧さんがねぇ……なになに?何言おうとしてたの?言っちゃいなよ~!」
……
前言撤回。
会長、私のガラスの心をこれ以上いじめないでください~!!
会長と綾岸さんに見詰められて、震えながら縮こまる私。
顔が熱くなっていくのがわかる。
瞳をキラキラ輝かせて興味津々な視線を向ける会長と、尚も疑惑の鋭い視線を向ける綾岸さん。
二人の視線の前に、私は最早、追い詰められた鼠のような気分だ。
……実際に鼠の気持ちなんてわからないけど。
その時
コンコン___
「は、はーい!」
ドアがノックされ、私はここぞとばかりにドアまで駆け寄り、一時的に難を逃れた。
ガチャ___
「は、はぃー……どちら、しゃ~~ッ!?」
ドォン!
ペラペラペラ___
ドアを開けた瞬間、私は大量の紙に押し潰された。
「~~~~~!?ぷわぁー!!」
「ちょ!浅霧さん大丈夫!?」
「………?」
何とか紙の海から脱出した私の元に、会長と綾岸さんが駆け寄ってきた。
……死ぬかと思ったぁ~~……。
「うわー、何コレ?全部白紙じゃない?」
「何、コレ。」
「うぅー……それは私が聞きたいよぉ~……」
床には大量のA4コピー用紙と思われる白紙が、人一人余裕で埋もれるほどばらまかれていた。
私達は、恐らく元凶がいるであろう入り口を見る。
するとそこには___
「あだだだ……いやー、悪い悪い……ちょっとコケた。」
「奏(かなで)先輩?」
雉宮 奏(きじみや かなで)先輩。
3年生で、生徒会の副会長をやっている。
奏先輩は、腰まである凄く長いロングヘアと、頭のてっぺんにピョンとアホ毛が一本伸びているのが特徴だ。
奏先輩は、まるでやんちゃな子供を思わせるような笑顔で、「ごめんね~!」と軽い謝罪をする。
それ、軽すぎないですか……?
「おおぅ?どーしたよ、小鳥~?『軽すぎない?』って顔してるぞ~?」
「えっ!い、いえ……わ、私は別にそんな……」
174cmの奏先輩は、私の前で面白おかしそうに半目でじぃ~と見下ろし、見詰めてくる。
うぅ……今日はよく見詰められる日だ……
「おやおや~?何やらお楽しみ中だろうけど……床、見てみ。ゆ~か。」
「んん?床?………うわぁ!そうだ忘れてた!!」
え、こんな短時間で忘れるものなのかな……
そんな私の疑問を知るよしもなく、奏先輩は床に広がる惨状を見て「あちゃ~……」とだけ言うと、会長に助力を乞う視線を向ける。
「・・・」
しかし、会長は無視する。
それに対して、奏先輩は『ね?お願い!』と言わんばかりに手を合わせた。
「・・・」
しかしそれでも尚、会長は沈黙中。
と思ったら、不意にニヤリと嫌な笑みを浮かべて私を見た。
私はその嫌な笑みの前に、石のように固まる。
「ねーねー浅霧さ~ん!」
「は、はぃ~……?」
会長は嫌な笑みを浮かべたまま、私の前まで来ると、スッと顔を近付けてきた。
必然、後ろに一歩下がる。
「ねぇねぇ!浅霧さん浅霧さん!」
「は、はいぃ!?な、何ですか会長!?」
会長の眼鏡キラッと光る。
それが地味に怖い……
すると、会長が途端に顔を離した。
そして……
「私と副会長はこれから仕事があるのでここの片付けは浅霧さんと綾岸さんに一任したいと思いまーす!」
・・・
沈黙。
そして
「ほぇぇぇぇーーーーーーー!?!?」
絶叫。
綾岸さんも会長のな発言に目を丸くしている。
……何で!?何で二人きりで!?会長と副会長だけ呼ばれる仕事って何ですか聞いてないですよ!?それにこの紙の山をばらまいたのは奏先輩ですよ!?
あと、私が物凄い人見知りって知ってるハズですよね!?
「そいじゃ、あとよろ~!じゃね!」
「うわっ!おっとっとっとっ!!へ?何?仕事ッ!?嫌ぁーッ!仕事は嫌ぁぁーーッッッ!!」
「あぇー!?会長ーーーッ!?!?」
私の心の叫びなど知らない会長は、仕事嫌いな副会長の奏先輩の腕を引いて出ていった。
「……………」
「……………」
そして訪れた沈黙。
「えっと……」
気まずい……
そう思った時だった。
「……早く終わらせましょう。」
「え?」
私は驚いて目を見開く。
え!?私、嫌われてると思ってたんだけど……
「浅霧さん、だった?」
「え、う?……あ……は、はい…!」
「……私が拾うのであなたはそこのテーブルに均等に纏めて置いてください。」
「わ、わかりましたッ!!」
「……では」
そうして、私と綾岸さんは、せっせと片付けを始めた。
綾岸さんが拾って纏めた紙束を、私が一定の高さまでせっせと積み上げ、積み上がったらその横にまた一定の高さまで積み上げる。
それを繰り返し行い、終わったのは約20分は経った頃だった。
「……ふわぁ~……お、終わったー……」
私は、私専用のデスクに突っ伏す。
この生徒会室には、生徒会役員専用のデスクがある。
左右壁際に沿って六つと、奥にひとつ。
合計七つのデスクがあった。
生徒会室はここだけでなく、他にも部屋がある。
入り口からすぐ右側___方角は東___に、別室に続くドアがある。
しっかりした造りのドアは、どこか屋敷のような感覚を覚える。
そこ先にあるのは、まるで……いうかもう、台所だった。
窓のある南側に向かってまっすぐ細長く延びている。
けれど、横幅もそれなりにあって、二人以上居ても、立ち回りには困らないほど。
日当たりの良い南側には、シンクがあり、その左にコンロがある。
その反対側には茶箪笥と冷蔵庫が並んでおり、そこには例の紅茶やらお菓子やらが仕舞ってある。
……ちなみに茶箪笥の上、左後方に会長の私物らしきモノが仕舞ってある箱が置かれていることを、私は気付いてしまった。
……中身は……言えるようなモノじゃない、かな。うん。
何故会長のものか分かったというと、箱に名前が書いてあった。
それはさておき、逆に入り口から右側にもドアがあり、そこは襖になっていた。
奥のは和室で、テレビにテーブルに、何故か刀が壁の上の方に飾られている。多分模擬刀、かな?
和室の壁は薄黄緑色で、上約50cmのところからベージュに変わっている。
刀はそのベージュの部分に飾ってあった。
その真下には掛軸があり、『生徒会魂!!』と墨で大きく書かれていて、やっぱり生徒会室なんだな~、と改めて認識させられる。
西側を見れば、襖が南北に一つずつ存在し、南にはシャワールームがあり、北にはトイレと、何だか人が住めそうだと思えた。
つまりこの生徒会室は、ほぼ何でも揃っているのです!
……というのを今から綾岸さんに説明しなければならない。
実は綾岸さん、生徒会に入るらしいのだから。
「うぅ……疲れる……」
コト___
「……えっ?」
突然、目の前に湯飲みに入った緑茶が置かれる。
誰が用意してくれたのかと、後ろを振り返り、そして、丸いお盆を持った綾岸さんと目が合った。
私は驚いたまま固まる。
「……え、ええっと……そ、その……」
「……失礼。勝手ながら、室内を探索しました。構造は把握したので。説明する手間が省けたでしょう?」
お茶は私が独断で茶葉を使ってしまいましたが……いけなかったですか?
何だか、凄い人をみ目の前にいる気がする。
一応同級生なのだけれど、まるで年上を前にしているような“緊張感”があ私を包み込んだ。
そして、当然の如く___
「え?……あッ……え?……あっと……そ、その……!」
綾岸さんの凛とした顔が、視線が、私と向かい合う。
私は再びたじたじになった。
もちろん、綾岸さんも再び不可解なものを見るような、不思議そうな目を私に向ける。
そして更にたじたじになる私。
あぁ……またこの悪循環だぁ……!
……と、その時___
バァンッ___!!
「え!?なに!?」
「?」
私達は音がした方、入り口へ目を向けた。
そこには、使い捨てカメラとメモ帳を持った女子生徒が仁王立ちしていて、鋭い目を室内に巡らせた後、私達の方を見る。
……え、な、何……?私、何かした!?
私が、自分が何かしたのかとあれこれ考えて狼狽えてると、いつの間にかその人は私達の……というか私の目の前に立つ。
あれ、確かこの人、3年生の天野 飛鳥(あまの あすか)先輩?
新聞部の部長だったはず……
そういえばつい最近、とある男性教師のセクハラ行為を撮った証拠写真を表沙汰にして、ヒーロー的存在になってたっけ。
ちなみに、その男性教師はしっかり警察のお世話になっているそうで。
そんな天野先輩が、私の前にだって見下ろしてくる。
うぅ……威圧感が凄まじい……
「あなたは……浅霧さん、でいいのかしら?2年の。」
「は、はい…!」
呼ばれて反射的に背筋を伸ばす。
……今すぐに誰かの後ろ……というか近くに居るのは綾岸さんだけだけど……とにかくもう、綾岸さんでもいいから後ろに隠れたいっ……
「悪いのだけれど、少し取材に協力してもらえるかしら?と言っても、生徒会全体に対しての取材なんだけれど。」
「せ、生徒会……全体?」
私は綾岸さんを横目で盗み見る。
すると、そこにあったのはさっきまでの普通の無表情ではなくて、まるで氷の彫像のようなひんやりとした綾岸さんの無表情だった。
他人を寄せ付けないオーラを出すその横顔から、私は慌てて目を反らす。
「あ、あの……せ、生徒会全体のお話でしたら……その……会長か副会長に……」
と、そこまで言って思い出す。
ここには今、私と、新しく生徒会に入ることになった綾岸さんしか居ないんだ。
「その会長と副会長が居ないから、生徒会の人間であるあなたに言ったんだけど……」
「す、すみません……」
そうだった……
居ないんだった……
うぅ……状況を把握しきれてないだなんて……生徒会失格だ……
「……会長と副会長なら、多分校舎内を走り回っていると思いますよ。」
ひんやりとした、声が響く。
綾岸さんは、天野先輩をじぃっと見つめたまま動かない。
どうして、そうだと分かるんだろう?
「……会長は仕事があると言って副会長を引っ張って行きました。けれど、副会長のあの仕事に対する拒絶反応を見る限り、逃げ出すのは必然でしょう。それに、あの大量の紙束を一人で運ぶくらいの力はあるようなので会長の腕を振りきるのも容易かと。」
な、なるほど。
確かにあの仕事嫌いな副会長のことだから、きっと逃げ出すだろう。
それに、あの紙束を一人で運べるんだし、会長の腕を振りきる程度は出来そうだ。
……綾岸さん、凄い観察力だなぁ……
「なるほど……なかなかいい観察力ね……新聞部に欲しいわ……」
どうかしら?うちの部に入らない?
と、天野先輩は今までの鋭い目と表情を和らげて言う。
……まさか、それが本当の目的じゃないですよね?
綾岸さんは、氷の彫像のようなひんやり顔のまま、「いえ。私は生徒会に入るので。」と伝えて断った。
「あ、あのぅ……」
「ん?何かした?」
微笑みというか、興味津々そうな笑みと言って過言じゃないような、好意的な笑みを向けられる。
……え?何、このギャップの違い……
…………………
あ、分かった!
「……少し厳しくて近寄り難い雰囲気を見せた後に人懐っこい雰囲気を出すことで相手に良い印象を持たせる、ですよね?」
そう。
そうすることで相手は話をしやすい心理状況になるその技術は、情報を集める上で“一定の人には”、効果的だ。
綾岸さんは相変わらずのひんやり顔。
私は、ちょっとだけ『あ、本当はいい人なんだな』って思ったから、多分ホッとした顔とかになってるはず。
この差は歴然で、つまりは……
「この方法は素直で分かりやすい人に一番有効で、それプラス素直で分かりやすい人を……つまり扱い易い人を見分けられるわ。」
そう言って天野先輩はニッと笑った。
あぁ……やっぱりそうなんだ……
「ふふ、妙なところで鋭いのね。どう?あなた、生徒会辞めて、うちの部に来ない?」
「えっ?い、いや……あの……そ、そんなこと言われても……その……ええっと、私……」
突然の勧誘に私があたふたする。
すると
ガチャ___
「……あまり苛めないでくださいよ。天野 飛鳥先輩。」
___救世主が降臨した。
「し……し、シドぉ~……ッ!」
私、全力疾走。
ドアの前に佇む男子生徒の後ろへ即座に隠れ、肩越しに前を覗く。
今私が隠れている人は、浅霧 獅兎(あさぎり しど)。
一応親戚ということになっているけど、小学校5年生の頃から一緒に暮らしてて、もう家族と言っていいくらいだ。
「ちょ、小鳥っ……ボクを盾にするのはやめろっていつも言ってるじゃんか……!」
「だ、だって……」
「だってじゃないよ」
うぅ……言い訳じゃないけど、私がシドの後ろに隠れるのは必然必至の必要事項で、シドの後ろが私のポジションみたいなモノなんだよ?
でも、シドもあんなこと言いながら私を無理矢理離すようなことをしないからとっても優しい。
よって私は常にシドの後ろにくっつき続ける。
きっとシドはもう慣れただろうから、受け流してくれる…………はず。
「……はぁ……まぁ、いいか」
ほらね!
「良くないよー?さっさとそこ退いてくれないと私達が入れないよー?」
「ひえぇッッ!?!?」
後ろから声がしたかと思ったら、会長がドアをちょこっと開けて顔を出していた。
私はびっくりしてシドに抱き付く形になる。
「うわぁっ!!」
「ふぇぇぇ!?」
すると、勢い余って二人とも倒れる形になる。
ゴンッ___
鈍い音が響く。
額に痛みを感じたと同時に、私は気を失ったのだった。
◇ ◇ ◇
【Tale2】夜 ノ 始マリ
_________________
『かぁーごめかごめ______』
___……真っ暗で、何も見えない。
『かぁーごのなーかのとーりぃーはぁ______』
私は目を瞑って、みんなが終わるまで待つ。
『いーつーいーつーでーやぁーるぅー______』
私は、じぃっとその時を待ち続ける。
『よぉーあーけぇーのーばーんにぃー______』
・・・。
『つーるとかーめがすぅーべったぁー______』
そして___
『後ろの正面だぁーあれ!!』
『___シド!!』
私は、迷いなく叫ぶ。
目を覆う手を離し、目を開けて後ろを見った。
が、そこはシドは居ない。
『あっはは!お前いっつもシドばっかだなぁ~!』
『シドならそっちだよー!』
言われた通りに、指指す方向を見ると、シドが居た。
シドは苦笑いしながら、私に手を振ってくる。
シドは、やや後長い髪を後ろで結んでいて、黒いシャツに茶色い半ズボンを着ていおり、ジリジリと照りつける日射しの下、何だか疲れているようだった。
……いつも、ああだ。
どれだけ疲れているとしても、私の前じゃあ平常を装っていて、決して疲れを表に出そうとしない。
私はずっとそれが心配だった。
日頃から迷惑を掛けてる分の負い目だってある。
なのに、ああやって私には無理をしてでも笑顔を向けてくるのだ。
心配しない方が、おかしい。
そして、目の前のシドは、まるで睡魔に耐えられなかったかのように倒れ伏した。
◇ ◇ ◇
___夢が、終わった。
まだ寝ていたいという欲求を無視して目を開くと、白い簡素な天井が目に入る。
「ん……むぅ……?」
「……ん?ああ、やっと起きたよ。」
……声がした。
一拍遅れ、右を見て左を見ると、シドと目が合う。
シドは、椅子に座って本を広げていて、相変わらず髪は後ろに束ねてあり、小さい頃と変わらない。
私の中で、ずっと変わらない存在だ。
「ふふっ……」
「どう、したんだ?何かあるのか?」
「……ううん。変わらないなぁ、って思って……」
シドは『はぁ?』とでも言いたそうな顔で首をかしげる。
「そんなことより、大丈夫?頭。」
「む!し、失礼な……!!」
乙女に向かってそんなこと言うなんて酷い!
そんなふうにそっぽ向いていると、シトは「ごめんごめん」と謝ってくる。
「その……あれだよ。小鳥、ボクと頭ぶつけて気絶したんだよ?だから、頭痛とかしてないかな、って思って……」
「あ……そ、そう……なんだ………」
嬉しいような……恥ずかしいような……
でも、やっぱり嬉しい、かも……
シド、やっぱり優しいなぁ。
ずっと私に優しくしてくれるシド。
今までもそうだったし、これからも一緒に仲良くしていきたい。っていうかそうしていく。
………幸せ、かも………
「……小鳥?」
「……え?!な、何……?」
気付けば、シドがじぃ~っと私のことを見詰めている。
な、なんか恥ずかしいなぁ……
「ど、どうしたの……?」
「いや……顔赤いからさ。熱でもあるのかなって……」
「うーん……大丈夫だとは思うけれど……」
特に体調悪くないし……
でもちょっと体が怠いかも……
そんな風にうんうん唸っていると……
ぴと___
「んぇ……?」
突然、シドが私のおでこに手を置いて、自分のおでこと比べて始めた。
……シドの手、ちょっと冷たくて気持ちいいかも……
「んー……熱あるかも……」
あっ……手が……
ちょっと名残惜しいなぁ……
引かれて行く手を物欲しそうに見ていると、シドが「ん?どうかした?」と不思議そうに聞いてきたので、慌てて「何でもない!」と笑って答えた。
………顔が火照ってるけど大丈夫かな……?
でも、自分を自分で『物欲しそうに』なんて感じてる時点で何かおかしいような……
うーん……
「へぇ?なになに?何か面白そうじゃない?」
「ひゃぁッ!?!?」
えッ!?誰ッ!?なにッ!?
と、とにかく……シドの後ろに……
「やぁ☆」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
「ぐぇぇぇッ!?!?」
なにッ!?本ッ当に何なの!?!?何が起きたのぉーーッ!?!?
状況説明
謎の声
↓
私、ビックリ
↓
シドの後ろへ後退しようとする
↓
目の前に女の人
↓
女の人「やぁ☆」
↓
私「いやぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」
↓
シドに抱きつく
↓
シド「ぐぇぇぇッ!?!?」
↓
今
うーん……
長い。
じゃなくて!!
「だっ、だだだだ誰ぇッ!?」
「あらごめんなさい。面白そうな感じだったからつい。」
「っとと……小鳥、ちょっと落ち着いて……」
そこに立っていたのは、完璧に染めているとわかるくらい栗色の髪をした女の人だ。
パッと見た感じ、身長は175以上だと思う。
白衣着てるけど、この人誰だろ……
こんな先生見たことないし、新しい先生が転任してくるだなんて話も聞いてないし……
でも私には事情等を問う勇気なんてない。
「あの……一体何方でしょう?新しい先生が来たという話は聞いてないですし……お客さんというわけでもなさそうですし……」
シド、ナイス。
シドの問いに、白衣の女の人は「ああそう言えば。」と言い、佇まいを正した。
「コホン……初めまして。今週から新任となる予定の篠田 秋姫(しのだ あきひめ)です。よろしく~!」
「え?聞いてませんけど……」
「ふふん。当たり前よ!何でも私は極……」
ガラガラ___
「居た。」
篠田 秋姫と名乗ったその人が、何やら自慢げに言おうとした途端、保健室の戸が開いた。
そこには、綾岸さんが立っていて___
「___遅いから迎えに来た。」
薄暗い階段を、シドの後ろに隠れながら上がる。
あの後、綾岸さんは私達を否応なくつれ出した。
ちなみに、先頭に綾岸さん、右隣に篠田先生、そのまた斜め右隣にシド、そしてその後ろに私と、階段の幅を贅沢に占領した感じに並んでいる。
……関係ないと思うけど……いや関係あるかもだけど……篠田“先生”でいいのかな……?
でも、一応先生?だから?いいのかな……??
う、うーん………………
「___浅霧さん」
「ひゃいっ!?!?」
ふぁ!?な、何!?
無意識に悩んでたら、綾岸さんに呼ばれて思考が(マイ・ワールドから)戻ってきた。
どうやらいつの間にか生徒会室に到着したらしい。
「小鳥、また考え事でマイ・ワールド行き?」
「そ、そんなことないよ!!」
(訳:よ、よくわかったね……)
「昔から変わらないからね。」
そ、そう……かなぁ……?
シド、そう思ってくれてるんだ……
何か、嬉しいなぁ……
「……小さい頃も考え事してた時に頭に蝶がくっついてることに気が付いてなくて、ボクが教えたらビックリしてボクに突撃してきたっけ……危なっかしいったらありゃしないよね……」
「………」
「いてっ!!ちょっ!!足踏まないでよ!!」
当然の報いです。
正攻法です。
攻撃権利は私にあります。
よって、追撃します。
「~~~~ッ!!!」
「や、やめ……!!うぁーー!!」
「ま、待てーーーッ!!!!」
グイ___
「!? あわわわわわッ!?」
突然、襟を捕まれた。
走り出した瞬間だから勿論後ろにのけぞる。
襟が引っ張られて必然的に後ろに下がることになり、背中に何やら柔らか~いモノがモニッと……
「はいはい。喧嘩は後にしてねー」
後ろを見る。
けれど、体が無意識に拒絶反応を示して、首が上手く回らない。
そして、無意識の拒絶と闘いながらやっと後ろに居る人と目が合う。
「ほーい。確保確保っと。……ん?どうしたの、浅霧さん?」
生徒会長が居た。
いつから、見てたの………?
っていうかよく考えると綾岸さんも篠田先生も見て………
「~~~~~ッ!!!」
【フリーズ】
全力疾走します。
目標、シド。
……GO!
「おっとっと。行かせないよ。」
「あぅぅぅぅぅぅ!!!!」
襟を引っ張られて必然的に以下略
綾岸さんと篠田先生は唖然っていう顔してるし、シドは呆れてるし……!!
もう、泣きそうッ……!!
「ほら泣いちゃだめだよー。なんなら会長たるこの私の後ろに隠れる権利を………って、早ッ!?」
それにいつの間に、どうやって手から抜け出したの!?
会長の問に答えることなく会長の後ろに隠れる。
っていうか答える勇気すらない。
シドや会長はいいとして、いや良くないけど、綾岸さんと篠田先生に変な風に思われてないよね!?
会長の肩越しに二人の方を見やる。
「……」
「~♪」
綾岸さんは未だ氷の彫像が如く無表情。
篠田先生に至っては腰に手を当てて、珍しい物を見てる感じ。
うぅ……恥ずかしい……
「………はいじゃあ行こうかー。ささ、皆さんお早く~」
会長はそういうと私の腕を引いてドアを開けた。
途端、会長が私を強制先行させる。
詳しくは、会長が俊足で私の後ろへ回り込み、私が最初に生徒会室へ突っ込んだようです。
…………………え
パパパパァンッ___
「ひぃッ……!?」
【フリーズ】
部屋の隅に瞬時後退。
しゃがんで目を閉じて耳を塞ぐ。
鼻孔を火薬の匂いが満たす。
ここは戦場なのだろうか。
なら早く逃げよう。いや、逃げなければ。
シ ド の 後 ろ に 。
「「「「「生徒会へようこそ!!!」」」」
「…………ふぇぇ?」
「……んん?小鳥ぃ~?」
顔を上げると、目の前に奏先輩の顔があった。
奏先輩はジト目で私をじぃっと見た後、ドアの方へ視線を向ける。
「あ、夜空はそっちかぁー!なぁーんだよぅ!約束が違うじゃんか!!」
本当なら夜空が先だろー!?
そんな事を言ってる奏先輩を見て、私は理解した。
これ、綾岸さんの関係パーティーだよね……
会長のイタズラとはいっても、やっぱり私がみんなの演出を台無しにしてしまったので申し訳ない。
「ぷっ……くふふふふふっ……!!」
「何笑ってんだよアホ会長!」
「あだっ!?」
「………」
……でも結局、綾岸さんはずっと氷の彫像のような整った綺麗な真顔だった。
◇ ◇ ◇
……13……14………15……。
生徒会室の中で最もスペースが広く使える和室で、綾岸さんの歓迎パーティーは行われている。まぁ、普通の学校では考えられないような感じだけど。
ここの学校は設備が豊富すぎるような気がするけど、先生たちの話では
「市長さんが多額の金をうちの高校につぎ込んでるみたいなんだけど、どうせ女子高生に好かれたいからやってる裕福な人の投資遊びだよ。」
と言われた。
……ここの市長さん、どんな人なの……?
そんなこんなで存在している生徒会室の和室では、生徒会役員や各部の部長、数人の先生らが合計17人くらい大騒ぎしている。
隣のメインルームにも5、6人は居たはずで、そのまた隣のキッチンルームでは3人くらいがおつまみや軽めの料理を作っている。
主役の綾岸さんは冷めた氷の彫像顔で話掛けて来る人を軽くあしらっているようだった。
で、私はというと……
「16…………17……………………」
私は隅っこに座り、カーテンを捲って窓の外を眺めながら数を数えている。
というのも、何故かさっきから緑色のコンテナを運ぶ大型トラックが大量に走っているのが見えたからだ。
……もう17台も来てるよ。一体何があるの……?
ハッ!もしかして、あのコンテナに市長の財産が大量に積んで…………
「…………あるわけないよね。うん…………………あ、18。」
つまらない妄想をしていると、18台目がやってきた。
ちなみに、コンテナを運ぶトラックは、ここの学校から200mくらい離れた大通を走っていてる。
と、18台目がこちら側に進む道に曲がった。
本当に一体あのコンテナの中身は何なのかな……?
「小鳥。」
「わぁうッ!?」
「あ、ごめんごめん。ビックリさせちゃったね。」
「うぅ……シド……」
もう……本当にビックリしたよぅ………
シドは私の隣に座って、壁に背中を預けた。
「そういえば、キッチンの手伝いは終わったの?何か、忙しそうだったけど……」
私がそう問うと、シドは小さく苦笑いして、「ああうん。今は休憩だよ。」って言う。
『今は』だから、どうせ直ぐにお呼びが掛かる。
だってシドは、私と違って人付き合い上手いし、料理でも家事でも何でもできるオールラウンダーだし、愛想良いし……みんな(主に女の子)の人気者だもん。
「ははは、そんないじけた顔しなくても良いだろ?別に小鳥をずっと一人にしようってわけじゃないし……」
「い、いじけてなんかないよ!……ただちょっと……その……周りの視線遮るものがなくて落ち着かなかっただけだし……」
「…………ボクの存在って一体……」
「はわわわわわ!!え、えええええっ!?そうじゃなくて!!その!!ほ、本当はシドが側に居ないとやっぱり落ち着かなかなくて!!他の人に取られてないかなーとか!!他の人にくっ付かれてないかなーとか!!いろいろ心配だったりするんだよ!?!?………って私何言ってるのっ!?!?な、なななななな何言わせるのーーーっ!!!!!!!!」
は、恥ずかしすぎる!!
今すぐにでもどこかに隠れたい。
けれど何もない。
もう、恥ずかし過ぎて死にそう……
「へぇ~?なになに?独占欲ってやつぅ~?」
「はぅ!?」
篠田先生!?
一体どこから!?
いつの間にか、篠田先生の顔が目の前あった。右手に焼き鳥、左手に焼酎の瓶を持っている。
っていうか、教師が学校で焼酎なんか飲んでていいんですか!?
でもその前に……
「な、何でシドの上に座ってるんですかっ!?」
「そこに人が居たから座った。」
「そ、その……理由になってない、ですよ!!」
「うん。何で、遠慮がちになるの?うん。きみ何も間違ってないよ。うん。」
だって間違ってんの私なんだし。うん。
そう言って篠田先生はシドの上から退いた。
……悪いことだって分かってて、何でやるの?
「ぐはーーー………お、重かっ………ぐぇぇぇ!!?」
「うふふ。乙女にそんなこと言っちゃダ・メ・よ?」
「し、しししししし篠田先生ーッ!?何でシドを踏みつけるんてすかぁーーッッ!?!?」
◇ ◇ ◇
…………思えば、この時が最後の……
いや、それ以前からだったのだと思う。
あんなことは、誰にだって予期できない。
「で、だ。」
篠田先生が私達を見据えながら、焼き鳥を頬張る。お酒が入ったからか、男の人みたいにワイルドな雰囲気を感じる。
「お前ら、一体何なわけ?」
「何、とは?」
「ふん。そうだなぁ………獅兎。」
「は、はい。」
真剣な顔で呼ばれて、シドも背筋をピンとせざるを得ないみたいだ。
何故か私まで背筋をピンとしてしまう。
「お前、ちょっとキャラ定まってないぞ。」
「は、はぁ……キャラ、ですか?」
「そう。キャラだ。お前は小鳥の何だ?弟か?兄か?同級生の友達か?ハッキリしてない!」
ビシッ!と効果音が付きそうな勢いで、人差し指をシドに向ける篠田先生。
それに何の反応もせず、キョトンとするシド。
「……」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
けれど、それを破ったのは誰でもなかった。
………そう。誰でも………。
ドォォォンッ___!!
「!? なに!?」
爆発音がした。
それも、かなり近い場所らしく、衝撃波が伝わってくる。
私は慌てて窓を開けて外へ身を乗り出す。
思ったより風があるらしく、カーテンがふわりと広がった。
「………あそこだ……」
そして、煙が出ている場所を発見する。
すぐ近くの住宅街の一郭。
交通事故かな?と考えていると、何かが道の街灯の下を横切った。
「……?何あれ……犬?」
「どうした?小鳥、何が見える?事故?」
シドが私の隣から外を見る。
「うん。あそこの家がいっぱいあるところ。」
「ん……交通事故、かな?」
「はいはい虫入るから窓閉てねー。事故でしょ?」
そう言って、篠田先生はカーテンをバッと掴んで帯で纏める。
私とシドは膝立ちをしてて、先生は私達の上から顔を覗かせた。
閉めろとか言いながら、自分も窓から顔を出しているのだから意味がない。
………
…………
……………
「………………………………………」
「篠田先生?」
しばらく動かない先生に、声を掛ける。けど、返事はない。代わりに目を細めて、鋭い視線を住宅街に向けている。
「あ、あの……先生……?」
シドも気づいたみたいで、先生を呼ぶ。
けど、やっぱり反応しない。
と、その時
「綾岸夜空さーん、至急職員室へGO!」
「………わかりました。」
そう言うや否や、二人はその場を離れて靴を履く。
「え?あの、先生?」
「ごめんなさいねー、ちょっと用事があったの忘れてたから。それじゃ、またあとでね!」
「……失礼します。」
そして、二人は生徒会室を去った。
◇ ◇ ◇
………どれほど時間が経っただろう?
多分、10分も経ってないと思う。
そうすぐには戻って来ないだろうけど、用事って何だろう?何かの報告とか、係とか、仕事の残りとか?
でも、それには篠田先生だけで充分なはず。
綾岸さん絡みだから…………
………何だろう?
「小鳥」
「んー?なに?」
「はいこれ。」
エプロン姿のシドが、何やら皿を持っていた。
シドはついさっき、キッチンに連行されて行ったばかりなのだけれど、思ったより早く仕事が片付いたらしい。
皿を見てみると、小さなカップケーキが2つあった。
少し焦げ目が付いていて、ザ・手作りって感じがする。
「わぁ」
「熱いから、気をつけ……」
「あちっ!」
「……ほら言わんこっちゃない」
「むぅ……」
私はちょっとむくれる。
あっついのは苦手だ。むしろ嫌い。
「あはは、火傷してない?」
「ん……まぁ……でも、熱い。」
「それは仕方ないから我慢するしかない。もう少ししたら食べよう。」
こくりと頷いて、私は窓の外を見る。
相変わらず、煙がもくもくと上がっている。
あんな事故、起きたことなかったのだけど……やっぱり交通事故はナメちゃいけない。
ここでふと、私はある事に気付く。
黒い煙は高々と上がっている。なのに、どうして
「どうして、警察も消防も、居ない、の?」
見れば、すぐに気付きそうなことだった。
夜で暗いとはいえ、街灯や建物の明かりで煙は案外よく見える。そして何より、あんな爆発があったのだ。流石に通報しないなんてあり得ない。なのに……
「どうして………」
サイレンも何も聞こえない。聞こえるのは、室内にいる人の声だけ。
もしかして、窓を開ければ遠くでパトカーのサイレンでも聞こえるかも知れない。
そう思って、窓を開ける。
「小鳥、あれ!」
「え…?」
突然、シドが声を上げる。
指差す方をみると、そこには幾つかの黒々とした煙と、ゆらゆらと揺れる赤い光が見えた。
◇ ◇ ◇
そこからは、大混乱だった。
窓を開けると、風と一緒にモノが燃えている臭いがして、遠くを見れば黒い煙と赤い炎が点々と存在していた。
私とシドは早急に生徒会室内にいる先生にその事を伝えると、先生方は全員大急ぎで出て行った。
残った生徒達は皆、外の様子を好奇心丸出しの目で見ている。
「うわー」だの、「マジかよ」だの言っている人もいれば、ケータイで写真や動画を撮っていたりする人もいた。
「一体何があったんだろ……」
「分からない。分からないけど……何か、おかしい」
「うん」
外で一体何が起こっているかなど、私達には到底予測など出来なかった。
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