とくめい 2014-04-13 23:00:06 |
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──冬月のくせに…、紛らわしいことするな。(流石に折れたのかエレベーターの中でそっと手を握られると計算されていたようで腹立たしいような焦れったいようななんとも言えない感情でもやもやする。その後、重ねられた唇に己の扱いが巧い奴だと敗者の屈辱のような気分になるも抱き寄せられれば、彼の逞しい胸板が心地良く目を瞑り、エレベーターを後にする。薄暗いエントランスを通り抜けて外に出ては、夜ともあってか昼間よりひんやりとしていて涼しい。「あのさ、タクシーで帰らねえ?」会社のビル付近に乗り場があるのを思い出して、疲れたからと満員の酒と汗の臭いが漂う電車内に閉じ込められたくないからという理由で提案して。)
―すいません。つい相手が宝川さんだと…。
(彼に対して何故か意地悪したくなってしまう己がいるみたいで自分でも困っていると言うように苦笑いが零れる。己からの口付けや抱擁に素直になっている彼を見れば嬉しくて離さないというように握った手に指を絡ます様にしては握りしめて。タクシーで帰ろうという提案に納得するように頷いては「もうすぐにいちゃつけますね。」などと冗談を零す。近くに見えるタクシー乗り場へと彼の手を引きながら足を進めて)
──またそうやって。俺らだけ乗ってるんじゃないんだからな。(彼には他人に対する羞恥というものが無いのだろうか。ましてや一般人に同性愛のいちゃいちゃと触れ合う姿を見せること事態問題で、会社付近のタクシーならば尚更のことだ。冗談だろうけど、己と違って余裕というか、この瞬間瞬間を楽しんでいるようで此方は一人ではらはらとするだけだ。指が絡められた手を見下ろせば溜息混じりに「手だけだぞ。他は家まで触れない。…破ったらペナルティー設けるからな。」と釘を指して丁度通りかかったタクシーに鞄を持つ方の手を振りかざして停めると、彼の手を引いてそれに乗り込み。“○○まで”と運転手に告げて。)
―でも運転手は前見てないといけないからそんなに気にする事ないですよ。
(何度も念を押されて注意を受ければ頭がかちこちなんだからと笑みを零す。もう時間が時間だし周りには誰もいない。万が一社内に同性愛者がいると知れたら彼はきっと困るだろう。そんなことはとっくに理解していてこれでも気を付けてるつもりだが、実際目の前に触れる範囲に彼がいるとどうもコントロール出来ない時がある。「…手、だけならいいんですね?」他に触るとどんなペナルティが設けられるのか。然しよく考えてみれば案外いけないわけではない。タクシーに乗り込み荷物を座席に置いて彼へと寄る。「荷物多いんでもう少しそっちいってください。」ましてや全く荷物など多くないが彼にくっつく為前記を述べる。少したってタクシーが走り出し彼の家へと向かっていれば繋いだ手を口元へと近づけ指先に触れるだけの口付けを落とし。)
──嗚呼、確かに…。 ま、まあな。手だけだ。(彼の言葉に共感の意を見せて、再度事項を確認されると念を押すように復唱する。タクシーに乗り込み扉が閉まるや否や、何時もの鞄一つのくせに詰めろと言われぴったり肩を付けられるとあまりに見え過ぎた手口で口端を片方上げて曇った表情。小さいことでいちいち彼に文句を垂れていたら飽きられてしまうし、そんな自分は面倒で嫌悪してしまうので言われたとおり鞄を己の方の扉の内側にぴったりと付けてシートを詰める。未だに繋がれた手はいつしか彼の口元に寄せられ唇をあてがわれるとそのよく知っている柔らかな感触にピクリと指が動いてしまう。)
―ん、可愛い。
(己の言う通りに端へと詰める彼。ぴたっとくっついた肩から微かに彼の温もりが伝われば笑みが零れる。指先に触れただけでぴくりと反応する彼。思わず本音が出てしまえば今すぐ押し倒したい衝動に駆られる。でもそこは流石に抑えないといけない。我慢我慢と言い聞かせては彼の指を再び口許へ運んで舌を這わせる。「宝川さんの味がする…。」なんて態と低声で囁くようにして。)
──馬鹿、指なんてしゃぶるな。(タクシーの中で己と彼と運転手と三人だけの空間なのにも関わらず、彼は自重することを知らない。堂々と“可愛い”や指を舐めて己の味がするだとか此方の気も知らないで好き放題。お陰で小声でこそこそと此方が注意を促す羽目になり、運転手の方(前)が向けずに、言葉を添えてから窓の外を眺めて気を紛らせる。“早く着いてくれ”そればかり思っていて、帰宅したらいっそのこと彼に目を充てず持ち帰った仕事に専念してやろうかなど秘かな嫌がらせを思いつく始末でどうも此方だけ翻弄されているのが気に食わない。)
―…はーい。
(何となく彼の言うことを聞いてみようと思ってはぱたりと今迄の動きを止める。指を舐める仕草も手を繋ぐことも肩を触れさせる事もやめては急に大人しくなったように己も窓の外を見遣る。「運転手さん、あとどれくらいで着きますか?」なんて今度は運転手に声を掛ける。ただ今になって冷静になってみると彼に困ることばかりしていたと反省する。その空気が重かったのか紛らわす様に隣にいる彼を他所に運転手との会話を弾ませて。)
──……。(ぱたりとあるタイミングから己に触れることをやめた彼は突然運転手に声を掛ける。急降下に此方へ焦点を当てなくなったため吃驚して窓と真逆にある彼の横顔を見て目を丸くする。“さっきまでのあれは何だったんだ”と胸がもやもやと曇り、無意識に触れられていた方の手を己の膝の上できゅっと握る。一体どういう心境の変化なのかただ己だけ除外された空間に機嫌は悪く、自分から言い出したことなのにいざそうされると心が着いていかず寂しさを覚え目を閉じ眠ったフリをして座席に身体を委ねた。)
―…着きましたよ。
(彼はどう思っただろうか。運転手との会話しているにも関わらずちら、と彼の方を見遣れば拗ねたのか寝ている。少し意地悪し過ぎたか。そっと彼の膝の上に握っている手に重ねる。暫くして目的の彼の家に着けば寝ている様子の彼を起こす。起きて下さい、と彼の耳元で囁いては唇に口付けを落とす。目覚めのキスとでもいう様に彼が起きるのを待って。彼が目を覚ます間にお会計や荷物をまとめる。)
──ん、あ、着いたのか。(暫く狸寝入りをしていたせいか、瞼を閉じていたため本当に眠りに落ちてしまったらしく、耳元で己が一番好きな声が微かに聞こえ、唇に何かか触れて意識が戻り目を開ける。タクシーは見覚えのあるマンションの前に停まっていて隣の彼が荷物を持ち、車のドアが開いているのを見れば到着したことが伺える。「冬月…、ごめん。寝てた、んだよな俺。」と己の前髪をくしゃりと指の間に絡めて流すとぞろぞろとタクシーか降りようと腰を上げて。)
―…やっぱり、お疲れですね。
(己からの口付けなどに直ぐに目を覚まさなかった事から余程疲れが溜まっていたのだろう。今日はゆっくりと寝かせてあげたいなんて親心みたいな感情になる。目が覚めたのか申し訳なさそうにする彼に「大丈夫ですよ。寝顔、癒されましたから。」同時に隠撮した彼の寝顔の写メを見せてやる。きっと怒るだろうな、と笑みを零すも直ぐに携帯をしまって。全ての荷物を持ってタクシーを降りれば早速彼の家に入りたいのか彼の背中を押して進み。)
──人の寝顔なんて撮るな。お金取るからな。(一体いつ撮ったのか分からないが己がうたた寝している姿が液晶に写っているのを見せられると呆れたようにあしらう。己は気付いていないだけで他にももっと撮っているかもしれないなと眉を下げれば溜息が自然と出て。荷物を持って己の背を押すようにマンションのエントランスに入れば郵便受けをチェックし、エレベーターの上がるボタンを押し暫し待つ。その間「…荷物くらい持てる。」と彼が持つ荷物を代わると彼の手の甲に己の手を乗せてみれば見上げるように首を反らせて。)
―けち。
(寝顔の写メだけでお金を取るなんて言う彼に文句をつけるよう呟く。然しきっとこれは彼なりの照れ隠しなのだろうとくすりと笑って。エレベーターを待っている間、映された数字が少しずつ減っていくのを見ていれば不意に荷物を持たれ己の手の甲に重なる手。「別にそんなくらい持ちますよ俺が。……手、繋ぎたかったんですか?」荷物を持って己の手を空けさせたのは手を繋ぎたかったからなのだろうか。なんて思っては重なる彼の手を握り指を絡ませる。エレベーターが着けば中に入り彼の部屋がある階の釦を押すと扉を閉める。それと同時に彼を壁へと追い込み唇に口付けを落とすとまた彼を求めるように舌を捩じ込ませて。)
──いや、自分の荷物くらい持てる。(己の荷物を片手に納めては繋がれた手に視線を落とし、何に解釈したのか指を絡めてくる彼を咎めることもせず好きにさせていて。到着したエレベーターに乗り込むと突然己の背後を壁に追い込み唇を寄せる彼。瞬時の出来事でまたもや頭は追い付いては来なくて舌を唇の間から入れられた時やっと把握出来て彼の胸元を押しやる。己の頭に浮かんだのはマンションのエレベーターの監視カメラのことで焦ったように首を捻って彼から離れると「お前はどうしていつも…。部屋に着くまで待ってろ。」と浮いた手で彼の唇を覆い隠す。その時既に己の部屋があるフロアに到着していたのかタイミング良く扉が開いて。)
―少しは甘えてくださいよ。
(自分の事に関してはきっちりとしている彼。これだから無理をして体調を崩すのだ。少しは己に頼ってくれてもいい。仕事に関してもプライベートに関しても。口付けをすれば嫌がる彼。攻め過ぎてしまった事を反省しては嫌われるかな、なんて呆れ笑って。己の唇を覆う彼の手を掴み外せば「部屋でゆっくりしましょう。」とエレベーターを降りる。何回もお邪魔している彼の部屋。既に場所を把握している為すたすたと歩いて向かう。然し鍵は持っていないため彼が開けるのを待って。)
──甘えるって…、いい歳した男が。(よくよく考えてみると己も彼もいい具合の大人だ。甘えたいだなんて口が裂けても言えないが内心はすがりつきたくて堪らない。会社で嫌なことがあったら愚痴を聞いて貰い、一人で家にこもるのが退屈なら側にいて相手をして欲しい。そう思ってもそれを伝えられず、縛り付けることしか出来ない己の頑固さは直らない。手を取りエレベーターから降りるとすたすた部屋の前まで己を引っ張って行く彼。内ポケットの中から部屋の鍵を取ると鍵穴にそれをさして音を立てる。「はい、入って。」と扉を開けると一人暮らしには少し広めの我が家に案内して。)
―…相変わらず広い。
(扉が開けば目の前には見慣れた部屋。然し見慣れていてもやはり広いと苦笑いを零してしまう。中へ入っては靴を脱いで奥へと進む。「うん。宝川さんの匂い。」部屋をうろうろまわり鼻を掠める。いい匂いなのか己の大好きな匂いで頬が緩みスーツのジャケットを脱いではソファの背に掛け、腰掛ける。「此処、来て。」気が緩まったのか不意に告げる言葉に敬語なんてなくてそんなことすら気付かずに彼に手招きして隣をぽんぽんと叩く。)
──変態みたいなこと言うなよ。(己の部屋に着くや中へと招くと鼻を鳴らして“己の匂いがする”だの、しないだの。呆れた物言いで彼の背を追いかけると、上着をハンガーに掛けて。リビングに置かれたソファに掛ける彼が隣を叩いて此方に来いと呼び寄せる。己の部屋なのに彼が主のようなシチュエーションに肩眉を上げつつも言われた通り隣に掛けると「…いつからそんなに偉そうになったんだよ、冬月。」と背もたれに身体を投げ出して一息吐き、天井を仰ぐ。何処か拗ねているところを明らか態度に出せば横目で彼を見て。)
―変態ですから。
(彼の匂いがすると言っただけなのに変態扱いされては厳しいなんて声も零しつつ上記を呟く。そんな彼は案外素直に己の隣に座れば頬緩み肩を抱き寄せる。「すいません。やっと2人っきりになれたので調子乗りました。」彼に少し重くならない程度に凭れ掛かっては先程と同じように手を握る。指を自然と絡ませては嬉しそうに彼を見つめて。)
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