杏 2013-05-04 19:47:46 |
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走る、走る。
息が切れるのも汗の滴る鬱陶しさもおかまいなしに
私はただひたすらに海岸沿いの舗装道路を駆け抜ける。
まるで、鬱憤を振り払うように。
(あーーもーーー!!!)
(「ごめんね、君のことあんまり知らないんだ。てか寧ろ誰?」、だぁ!?)
そんなの、そんなのって…
「ふざけんなよっ、ばっきゃろおぉおおぉぉおおお!!!!!」
ダンッ、と勢いをつけて堤防の上へと登り、思いっきり叫ぶ。
もっとマシな文句はなかったのか!とかせめてちょっとは考えろよ!!とか
思わないでもないけれどとりあえず一番腹が立っているのは…
「私の<記念すべき☆初恋>がものの数秒で終わるってどういうことなの!!?」
信じられます!?そこのお姉さん!!
思わず声に出てしまっていたのか、
たまたまそこを通りかかった犬連れの主婦の人に痛い目で見られた。
(なんでだろう、目から汗がとまらないよ。)
…ほんとにもう、今日は朝から散々だ。
てかこれも全部あの人のせいでしょっ!!
ふんっ!と最早八つ当たり気味にそう思ったらまた急激に体温が上昇した。
(…むかつく。)
「この私が大切に14年間守ってきた初恋を直々に捧げたのに…!!
思い立ったが吉日なんて言うから一目惚れしてすぐに告白したのに…!
なにが誰?よ!!私だって知らんわ、ばっきゃろおぉおおぉぉおおおっ!!!」
(マジ、世の中くそ!!)
本日二度目。また全力で咆哮を上げたら息が切れた。
乱れた鼓動が収まらない。
(…まぁ無理もないか。)
学校行ったら格好良さ気な人がいて即刻告白。で、ものの10秒で振られる。
それにより心に大きなダメージを負ったか弱き私は始業のチャイムを聞く前に学校から逃走。そっから全力ダッシュ。で今に至る訳だ。
(いやぁ、久々に走ったわぁー)
叫んだおかげで幾ばくか荒んだ波風が治まった私の心に、少し余裕が生まれた。
(……ってちょっと待てよ?)
(学校…がっこう…学校?)
「あぁぁあああっ!学校っっっ!!!!!!!!」
急いで携帯のディスプレイを確認すると時間はもう一時間目半ばを指していた。
(やばい、単位死ぬ…!!)
ま、でもさぼっちゃったものは仕方ないか!
と気分を一転させた私は久しぶりにテトラポッドの上で潮風に吹かれる。
(制服で風に吹かれながら海を見下ろすなんて青春だなぁ…)
「これで、男の子でも隣に居たら申し分ないんだけどね」
なんて自嘲気味に笑う。
きっと今の私はすごい悪人面だろう___
「ねぇ、なにしてんの?」
ふいに真横から声がしてはっと顔を上げるとそこには
ニコニコと端正な顔に人畜無害そうな微笑みを浮かべた高校生?らしき美青年がいた。
格好いいけど誰だろう。
(てかよりにもよって悪人面のときに話し掛けちゃうのか。タイミングわるぅ…)
はぁ、と大袈裟な溜め息がひとつこぼれた。
すると謎の美少年は
「あ、今幸せ1つ逃げたー」
なんて今となっては生きた化石となった迷信を口にした。
「そんなこと言ったら私は今までに一万個以上の幸せを逃してきたことになります。
そんなの嫌なんで私、その迷信信じてないんですよね。」
「へぇー。意外に現実主義者なんだ。」
「意外ってなんですか、意外って!てか私達初対面ですよね?」
「ん?そうだよ。けどほら、俺ずっと君のばかやろーを聞いてたからさ!」
「・・・。」
屈託なく笑われてしまうと何を返せばいいのか分からない。
というか、
「見られてたんですね、はい。もういっそ笑ってください!死ぬまで!!」
「死ぬまで!!?」
羞恥のせいで意味の分からないことを口走ってしまったが、
やっべ、この子面白いwwwww
なんて大爆笑されてしまった。
シュールか?シュールか。
____________
「ふぅん、じゃあ君は一目惚れ?して告白して10秒で振られたわけだ。しかも相手の学年も名前も部活もなんも知らない、と。」
「そうなんです…」
改めて他の人に聞かされるとまたさっきまでの不快感が襲ってくる。
「何も知らないのに告白するなんて凄い勇気だね」
「若気の至りだったんです…だからもうほんと傷口に塩塗り込むの止めて貰えませんか…」「あぁ、ごめんごめんwwてか若気の至りとかwww」
「…どうでもいいですけどあなたツボ浅いですよね」
「あなた、は止めてよー。俺、木更津深弦!だから深弦って呼んで?」
「分かりました、深弦さん。私はAでいいです」
「ぶはっ、A!?wwなにそれ!?www」
「いや、知らない人にそう易々と名乗りたくないんで。」
「うわぁ、言うねwwwてかもうお互い知ってるのに冷たいなぁ…」
言うや否や深弦たん悲しいっなんて泣き真似をする年上男性を初めて目にして
私はどこか冷めた目で彼を見つめた___
「で、傷心はどうよ?収まった?w」
「おかげさまで。全くです。」
「なんだよ、つれないなぁww」
「すいません。」
「見事に棒読みだねwwwウケるwww」
「もぅ、なんなんですか…」
「?何が?」
「だから、なんでそんな構うんですか…」
「え?あれ、気付いてない?」
「は?何にですか。」
「______だ」
「……………は?」
「ってことで、これからよろしくね」
「え、いやちょ、待っ!?」
言うやいなや彼はニッと微笑むとテトラポッドから飛び降りた。
そして私に向かってまるで飛び込んできなよ、とでも言うように
両手を広げて見せる。
…キザか?キザか。
あぁもう、彼は大概大バカ者だなぁ。
そう思うと同時に突然笑いがこみ上げてきた。
…なんでだろう、おかしくてたまらない。
それからどうしてかわからないけれどこの腕に飛び込んでみたいと思ってしまった。
(これも若気の至りだろうか。)
勢いよくダンッ、と蹴り上げたテトラポッドのコンクリートの感触を感じながら
私も大概大バカだな、と体にかかる重力を感じながらそう思った。
「俺、君に一目惚れしちゃったみたいなんだ」
(これからよろしくね、Aさん)
(私はAじゃなくて佳衣です。淺日佳衣。彼女の名前くらい覚えてくださいね)
(了解、佳衣ちゃん)
(……!!(不覚にもときめいた、なんて絶対言ってやらないんだから!!))
____こんにちは、王子様。
その素直な性格で、楽しく自分の世界観の小説をずっと書き続けたら色々と自分のものを増やせるでしょうね。
発想力や文章力、継続力。きっと自信も。
青葉さん>深いお言葉、ありがとうございます。
そうですね。積み重ねあるのみ、です!!
もうちょっと色々工夫してみます。
貴重なご意見、ありがとうございました!
夏、午前0時。
日中はギャーギャー騒ぎ立てる蝉も寝静まったそんな中、
僕はママチャリをギコギコいわせながら彼女との待ち合わせ場所へ急いだ。
待ち合わせは1時だけれど、
君がいつも待ち合わせより遅れてくることも知ってたけれど。
それでも僕は一秒でも早く彼女に逢いたくて、
待ち合わせの時計台の元へと力一杯ペダルを漕いだ。
辿り着いた時計台には案のよう誰もいなかった。
こんな時間だし、電灯すら碌にないしで
まるでなんだか闇に飲み込まれてしまいそうな心細い感覚に陥る。
そんな寂しい空間での怖さを紛らわすように僕は手元の携帯を開いた。
a.m.0:17
あと43分で待ち合わせの時間になる。
とはいっても彼女はいつも5分遅れてくるから実質48分。
あと48分で君に____
ぼけーっと待ちぼうけてたら遠くからタッタッとリズミカルな足音が聞こえてきた。
にやける顔を押さえて携帯を開く。
a.m.1:04
そこから丁度最後尾の数字が変わるとき、
「お待たせーっ!」
なんて笑顔で彼女がやってきた。
大きなリュックに大袈裟な荷物を背負って。
別にそんな遠出する訳じゃないし、ましてや日帰りなのに吃驚するほどの大荷物だ。
超、重そう。
とてもじゃないがこのママチャリの籠には入りそうもない。
やれやれだなぁ、なんて思わず苦い笑みがもれるけど、
それども彼女が僕との時間を考えてその大きな鞄を用意してくれたのかと思うと、
夏の暑さとは別の熱さがぐっとこみあげてきた。
「じゃ、行こう!出発しんこーうっ!!」
キャッキャッと楽しそうに笑う彼女を荷台に乗せて僕はまたペダルを漕ぎ出す。
ギーコ、ギーコ。
(こんな暑いのに、背中から伝わってくる彼女の体温は不思議と心地良かった。)
全力でチャリを漕ぐこと30分、
やっと着いたそこは海。
夜光虫の観測ができるとこの地方では軽く有名な海岸だ。
今日は、彼女とこの夜光虫を見に来た。
……僕らがお別れする前に。
僕は明後日父さんの転勤のせいで引っ越さなければならないから、
だから、お別れなんだ。
この故郷とも、そして、彼女とも。
この話をしたとき彼女は俯いてただ「そっか」とだけ小さく零した。
もしかしたら泣いていたのかもしれない。
君には笑ってて欲しいから、と宥めようとした。
…けれど、僕にはそんな資格はない気がして、烏滸がましい気がして。
目の前にいるのに結局彼女に触れなかった。
(その時の痛みを僕ははきっとずっと、これから先も、忘れられないだろう。)
「ねぇ、×××!あれ、見てっ!!」
ふわふわとフェードアウトしかけてた意識が
彼女の普段より幾ばくかはしゃいだ声で呼び戻される。
「ん、なに?」
「なに?じゃないよ!ほら、あれ!!」
彼女はすっかり興奮した様子で前方を指さす。
だから僕もつられるようにしてその指先を辿った。
「………わぁ…」
絶句。
人は感動すると声が出なくなるってのは本当だったんだな…
まるで波打ち際を縁取るように揺らめく光が
ぼぉ、っと頼りなさげにただよう。
そんなこの光景は、間違いなく綺麗だった。
「ちょ、やばーい!すごいねぇ、×××!!」
儚げな光の前だからだろうか。
その時何故か、満面の笑みを浮かべる彼女まで、儚く見えてしまった。
(そして、そんな彼女も凄く。すごく、綺麗だった。)
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