名無し 2012-10-29 16:00:09 |
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「じゃぁ、行ってきます」
菜奈はそうつぶやいて家を出た。
「菜奈!!おはよ!!」雪が声をかけてきた。
「雪!おはよー」菜奈は元気よく返した。今日から中森 菜奈と原田 雪の二人は中学3年生だ。今日からまた新しいクラスで一年過ごすことになる。
「同じクラスだといいね」雪が微笑んだ。
「そうだね…。そのほうが楽しいもん!!」
菜奈と雪は幼稚園のころからの幼馴染だ。お互い何でも話せる仲である。
学校につくとすぐに二人はクラス名簿を見に行った。
「げ…。最悪…」
菜奈はつぶやいた。
「うわ…。仲いい人…いなくね…?」
雪がチラチラとこっちを見て言った。
「だねー…。じゃ…あたしこっちだから」
「そっか。ばいばーい」
菜奈は自分のクラス…3年1組に歩いて行った。
「あたし…大丈夫かな…」
教室に入ると出席番号順に席が黒板に書いてある。菜奈は真ん中の一番前…つまり教卓の前の席に着いた。荷物を整理していると、隣の席に男の子が来た。菜奈はその男の子を見て目を丸くした。(この子…たしか噂のめっちゃ頭いい子じゃない…。たしか…生徒会に入ってたような…)
菜奈は正直真面目な子は苦手だ。自分と正反対だからだ。
(最悪な一年になりそう…)
その日の帰り菜奈の彼氏…小金 正樹が声をかけてきた。
「菜奈ー…。クラス違ったねー…。」
「そうだね…。」
「一緒がよかったなー…。」
「…。」
菜奈はこんな話どうでもよかった。(どうせ飽きたら捨てる癖に…)(男なんてみんなそうよ…)
菜奈はため息をついた。そうだ。こんな時は寝よう。寝て明日にはきっと…。
薄れていく記憶の中でそう考えながら眠りについた…。
次の日。
目が覚めるとなんだか体がだるい…。
菜奈は熱を測ってみた。
「38・5…」
菜奈はその日からインフルエンザで一週間学校を休んだ。
一週間後。
菜奈が学校に行くと、班が変わっていた。
「あたしの席は…と。」
菜奈は自分の席に着いた。そして隣を見て驚いた。
あの男の子…嶋田 大樹がいた。
大樹はこっちを見て、
「大丈夫だった?」
と尋ねてきた。
「へ…?あ…あぁ…平気…。」
菜奈はびっくりしてそう答えた。
「そっか。よかったね。」
そういって微笑んできた大樹を菜奈は不思議そうに見た。
「あ!菜奈!!大丈夫だった?」
同じ班になった理奈がそういてきた。
「うん。大丈夫。」
微笑んでそう答えると、
「大ちゃんも心配してたんだよ?」
と言った。
「大ちゃん…?」
「うん。嶋田 大樹。で、大ちゃん。」
へぇ…。
そんな風に呼ばれてるんだ…。
菜奈は大樹の意外な一面を知った。
菜奈の班は、理奈、大ちゃん、加奈、玲雄の5人になった。
「じゃぁ…この班で修学旅行だね。」
菜奈はそういって微笑んだ。
楽しみだった。菜奈と玲雄は昔から仲が良く、家も近所だ。
玲雄はよく遅刻をするし、授業中も寝てばっかりだ。
菜奈はそんな玲雄と大ちゃんが仲良くしている意味がよくわからなかった。
給食の時間、菜奈はまた大ちゃんの意外な一面を知った。
大ちゃんは、
「ねぇねぇ玲雄ー。今日は何でしりとりする?」
と言った。
「じゃぁ…魚で。」
「じゃぁ俺からね。さんま。」
「ます」
「す…?」
大ちゃんは少し考えて、
「じゃスイカで。」
と言った。さすがの菜奈も笑ってしまった。
「大ちゃん…。それ…魚じゃなくね…?」
「いいじゃん。なんでも。」
大ちゃんはそういってこっちを向いて笑いかけた。
それからしばらくして、菜奈は正樹と別れた。
結局捨てられたのだ。
別に悲しいとも思わなかった。
男なんて、誰だっていいんだ。付き合えれば好きな奴じゃなくても付き合える…。
「もうすぐ修学旅行だねー。」
理奈が菜奈に向かってそう言ってきた。
「そうだね。あたし楽しみ。」
菜奈は本当に楽しみだった。
このメンバーで行けることが何よりの楽しみだった。
「京都でいっぱい思い出のこそうね。」
大ちゃんが微笑んでそう言った。
その日の帰り、菜奈は玲雄と一緒に帰った。
菜奈は玲雄に
「大ちゃんって好きな子いるのかな…。」
と聞いてみた。
「いるよー。おまえさー、嶋田のこと好きなんだろ?」
玲雄はなんでもお見通しのようだ。
菜奈は
「そう…だね。いつの間にか好きになってた…。でも…好きな子いるんだ…。」
といった。
玲雄は何も言わずにずっと隣にいてくれた。
いよいよ修学旅行だ。
菜奈はこの修学旅行で大樹に告白をするつもりだった。
東京駅で菜奈は、
「大ちゃん、おはよ。」
と微笑みかけた。すると、大樹は
「おはよー。」
と言いながらカメラを菜奈に向けた。菜奈は急いで顔を隠した。
大樹は笑った。菜奈もそれにつられるように笑顔になった。
新幹線の中、菜奈は隣に座っている理奈に、
「好きな人、教えて。」
と言った。
「じゃぁ…、菜奈から教えてよ。」
理奈はそう言っていたずらっぽく微笑んだ。
「わかったわよ…。大ちゃん…。」
菜奈は小さな声でそう言った。
「やっぱり…。実はあたしも…。」
理奈の言葉に菜奈は愕然とした。
(どうしよう…。理奈は親友だし、理奈の恋も応援したい…。でも…。)
菜奈はそのことを雪に相談した。
雪は
「大丈夫、大丈夫。」
そう言ってくれた。
でもこれで修学旅行で告白はできない、菜奈はそう確信した。
一日目は奈良だ。奈良公園では班で行動となっていた。
菜奈は加奈、玲雄と行動した。
「ねぇねぇ、理奈と大樹いい感じじゃない?この修学旅行でくっつけちゃおっか。」
加奈がそういったとき菜奈は驚いた。でも口の軽い加奈に好きな人を言いたくはなかった。
「いい…ね…。」
そう言って無理に微笑んだ菜奈を玲雄は冷たい目で見ていた。
菜奈はそれから半日、加奈と玲雄と一緒に行動した。
菜奈にとっては最悪の展開となった初日だった。
菜奈はそれでも笑って過ごした。せっかくの修学旅行だ。楽しまなければ意味がない。
宿に戻って夕飯を食べていると、大樹の友達の2人の男子が声をかけてきた。
「ねぇ、大樹の事好き?」
「へ…?」
菜奈は何て言っているか聞き取れなかった。
「あ…。いいやなんでもない。」
「え…あぁ…そっか。」
正直ドキリとした。彼らは確かに「大樹」といった。
(大ちゃんがあたしに何の用だろう…)
菜奈は鳴りやまない鼓動の中、大樹を見つめていた。
2日目は班で京都のお寺を回った。
加奈は今日も理奈と大樹をくっつけるべく張り切っていた。
正直乗り気じゃなかったけど菜奈も2人をくっつけるべく努力した。
今日も大体2人、3人に別れて行動した。
「痛…。」
菜奈は座り込んだ。外反母趾が痛い。こんなに痛いのは初めてだ。
「歩きすぎちゃったかな…。先行ってていいよ。」
菜奈は微笑んでそういった。すると、
「大丈夫?おぶろうか?」
そういって顔を覗き込んできたのは、大樹だった。
「大丈夫。ありがとう。いつもの事だもん。すぐ直るわ。」
菜奈はそういって立ち上がった。そうしてまた加奈のもとに走って行った。
そうだ。ダメなんだ。今はダメだ。理奈のところに戻らせなきゃ…。
唇を噛みしめ菜奈は自分にそう言い聞かせた。
「清水寺ってすごいね…。」
最終目的地である清水寺に着いた。
菜奈の足はほぼ限界だった。それでも心配をかけさせるわけにもいかない。
理奈にも…大樹にも…。
清水寺で5人は暗闇に入った。数珠を伝って真っ暗な道を行くらしい。
加奈、菜奈、玲雄、大樹、理奈の順番で入った。
菜奈は暗いところが苦手だ。前にいる加奈の後をついていくのがやっとだった。
少し明るいところに出たとき(とは言っても相手の顔はほとんど見えないが)やっと少し落ち着いた。
菜奈は
「え…みんなどこ…?」
と聞いた。すると大樹が
「ここにいるよ。大丈夫。」
と言って優しく手を握ってくれた。
菜奈は、この中だけと自分に言い聞かせてその手を握り返した。
真っ暗な場所を抜けた5人は地主神社に行った。
理奈は、
「あたしさっき真っ暗なとこ怖くってェ、大ちゃんの袖ずっとつかんでたんだァ。」
と菜奈に言ってきた。
(そんなこといちいち報告しなくていいよ…。)
菜奈は正直大樹は理奈とくっつくだろうと感じていた。
理奈は可愛いし…。
菜奈は大樹のもとに走っていく理奈をさみしそうに見つめた。
地主神社で恋占いをした玲雄、大樹、理奈は、結果に大喜びをしていた。
菜奈はとてもそんな気にはなれなかった。
加奈は、
「大樹と理奈、修学旅行前よりいい感じじゃない?」
と言ってくる。
「そう…だね。」
菜奈は苦しかった。大樹が理奈と居ること、加奈が何も知らずに自分を苦しめていること、そしてなによりも自分で相手にチャンスを与えてしまっていることに…。
その日菜奈は雪のもとで泣いた。
今まで男の子のことで泣くほど好きになったことはなかった。
それだけ菜奈の中で大樹の存在は大きくなっていたのだ。
会談の隅で泣いていた菜奈のもとに、タクシー代を取りに大樹がやってきた。
「あれ…?どうしたの…?大丈夫…?」
そういって大樹は菜奈の頭を撫でた。
菜奈は余計に涙が出てきて止まらなかった。
(どうしてほかの人が好きなのに優しくするの…?)
しばらくして大樹は帰って行った。
「あ…。タクシー代…。」
慰めてもらうだけ慰められて、タクシー代を渡すのを忘れてしまった。
菜奈は雪に渡してくれと頼んだ。
帰ってきた雪は、
「ねぇ…。大樹、理奈に告るのかな…。さっき話したいことがあるって…。」
菜奈はその言葉を聞いて、また泣いた。
そうして菜奈の修学旅行2日目は終わった…。
3日目はすぐに終わってもう帰る時間だ。
この3日間、菜奈にとっては屈辱的な3日間となってしまった。
でも、このメンバーで思い出を作れたことは嬉しく感じていた。
そうしてチャンスを逃した菜奈は結局大樹に告白をしなかった。
菜奈は後悔した。でもこれからは思っていくだけでもいいだろう。
そう決心した。
そうして夏休みになった。
部活もないし会える機会はほとんどない。
でも7月の終わりに七夕祭りがある。
そこで一緒に行く約束をしているから会えるだろう。
菜奈は楽しみだった。
もちろん玲雄と加奈も一緒だ。
理奈は…約束していない。
修学旅行のあと菜奈と理奈はケンカをして、事情を知った加奈が距離を置いてくれたのだ。
空は快晴だ。
太陽が熱く照らしていた。
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