裕 2012-07-31 13:16:21 |
通報 |
プロローグ
ここは東京の都市部。
笹木美恵は、いつもどおり、自転車で友達の家に向かっていた。
そして、ある交差点に差し掛かった時、トラックが突っ込んできて…
「きゃぁぁぁぁぁ!」
美恵の意識は…
なくならなかった。
あたりを見回すと、美恵は見慣れた交差点の真ん中に立っていた。眼の前に人だかりが見えた。
気になってのぞきこんでみると…
恵美がいた。傷だらけになって、足や腕も骨折している。今は出血多量で気絶しているか、もしくは…あまり考えたくない。
数メートル離れた場所に、ぼろぼろになった自分の自転車が落ちていた。
「な、何で?私はここにいるのに、何で私があそこにいるの?…あぁもう!混乱してきたぁぁ!」
(でも、何でほかの人はこの私に気がついてないの?)
その時、恵美は、自分の体が透き通っていることに気がついた。
(え…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!わ、私、まさか…)
「死んじゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
(ま、まず落ち着きな!自分……えぇっと…)
「あ!真美姉ちゃんのところだ!」
美恵のいとこ、三日月真美は、幼いころから霊感があった。大学生で、美恵の家の隣のアパートに住んでいる。
(今日は日曜日だから…たぶん大学の授業はお休みのはず…)
そんなことを考えているうちにアパートについた。
真美の家のインターフォンを押そうとする。
が、腕が壁を突き抜けてしまった。
(そうだった…私、幽霊だった…)
美恵はため息をつくと、ドアを突き抜けて部屋の中に入って行った。
(そういえば、真美姉ちゃんの部屋に入るのって、初めてだっけ…)
リビングやキッチンは、とてもきれいだ。
(モデルルームみたい…)
でも、問題はそこじゃない。真美姉ちゃんがいるかどうかが問題だ。
美鈴は、まだ行っていない、真美の部屋に入ってみることにした。
(なんだか、泥棒になった気分…やだな…)
しかし、真美に逢わなければ、この問題は解決しない。
(…えぃっ!)
勢い余って部屋に入ると、美恵は固まってしまった。
「?」
目の前には、真っ黒なタンス、真っ黒な机…があった。しかし、黒は黒でも、全て少しずつ違う黒だった。
一方真美のほうは、ドアの前で立ちすくんでいる 恵美のほうを見て、「やっと来たな」という始末。っていうか…
(いつもと言葉使いが違う…?)
美恵の今の気分なんてお構いなしだ。
でも、一番驚いたのは、真ん中に立っている真美の姿だった。
スーパーモデルみたいに細く、白い体、長身で、背中まで伸ばした茶色がかった髪、薄くてつややかな唇、筋が通ったきれいな鼻、ぱっちりとした大きめな眼…姿かたちは何一つ変わっていない。
しかし、洋服や眼の色が問題だった。
いつも、オシャレには気を使っていて、「最近、やっと春になったから、明るい色の洋服、たくさんきるんだぁ。」と、この間言っていたのに、着ている洋服は真っ黒だった。
胸にドクロが描いてある長袖ワンピースと黒タイツを合わせていて、髪の毛は、結ばずにおろしている。靴は黒い低めのヒール。爪はラメ入りのマニキュアが塗ってある。そして、首には黒い石がつけられたペンダント。
そして、眼は、深い割には透明感のある、きれいな……紫色だった。
「ま、真美…姉ちゃん…?その、洋服とか、色とか、眼とか…な、何…?」
真美は、美恵の話なんか聞いていない様子で、美恵の頭から足先までゆっくりと眺めていった。
「美恵…やっぱり、死んじゃったか」
そういうと真美は苦笑いした。
(ちょ、ちょっと…)
「『やっぱり』ってどういうこと?それに、真美姉ちゃんって何者?それに真美姉ちゃん、なんでそんな言葉使いになってるの?」
「あぁ、あたし、ほんとは悪魔女なんだ」
「…悪魔女?」
「そうだ。悪魔と魔女、両方の血を受け継ぐ者のことをそういうんだ。で、あたしは悪魔女の魔魅。魔法の魔に魅力の魅って書いて、魔魅だ。それと、あたしが『やっぱりって』言ったのは、美恵が事故に会うってこと、知ってたからそういったんだ。知らなかったらこんなこといわねぇだろ、普通。あと、この言葉使いは、もともとこうなの。人間のフリしてる時に、女がこのしゃべり方だとおかしいだろ」
「ふぅん、なるほど…っていうか知ってたなら助けてくれたっていいじゃない。」
そういうと、魔魅がニヤリと笑った。
「じゃあ今、助けてあげようか?」
「ほんと!」
「ただし、一つだけ条件がある」
「?」
「恵美、悪魔女になれ」
「???」
「だぁかぁらぁ、恵美が悪魔女になってくれるなら、助けてやってもいいぞって言ってるんだよ」
「どういうことよ」
恵美が言うと、魔魅が思いっきりにらんできた。
「あぁもう!恵美は質問が多すぎる!とにかく、悪魔女になってもいいのか良くないのか言え!」
(そんな…でも生きかえりたいしなぁ………)
「いいけど…」
考えがまとまる前に、不思議と口が勝手に動いていた。
「なら契約成立だ」
そういうと魔魅はニヤリと笑うと、左手でペンダントを包み眼をとじた。
その途端、魔魅のペンダントの石が黒く光った。思わず目をつぶる。
「…?」
目を開けると魔魅と恵美は、始めと同じ場所に立っていた。
しかし、決定的に変わっているものがあった。
「みてみろ」
魔魅が、紫色の手鏡を渡してきた。
「これが私…?」
恵美はいつの間にか、着ている洋服が魔魅とそっくり同じ洋服に変わっていることに気が付いた。
洋服だけじゃない。姿かたちまでそっくり同じになっていた。
「なんで同じになってるの?」
「あぁもう…そこを質問してくるかな、普通…」
魔魅はブツブツ文句を言いながらも説明をはじめた。
「恵美は始めからその姿だったわけじゃない。だから同じ姿になってあたしと恵美が双子っていう設定にするんだ。そうすれば、ずっと恵美の近くにいられるから、魔法についてとかいろいろ教えられるだろ。」
「ちょっと待ってよ。ってことは、私と魔魅が一緒に暮らすってこと?」
「そうだけど?」
「空いてる部屋はないよ」
「ふん。悪魔女をなめんな。部屋数なんか、魔法でいくらでも増やせる。それに、同じ部屋ですごしてたほうが話す時間が増えるだろ」
「同じ部屋って…」
「なんだ。いやか?」
「いやではないけど…」
(はっきり言って、迷惑なんですけど。あぁ、あの時断ればよかった…)
「もしあの時恵美が断ってたら、ずっとあのままだったんだぜ?少しはあたしに感謝しろよ」
(え?なんでわかったの?)
「まさか…心も読めるの?」
「あのなぁ、恵美は悪魔女を何度と思ってんだよ。悪魔と魔女は使える魔法がそれぞれ違う。だから、それぞれできないことも多いんだ。でも、あたしの場合、両方の血を受け継いでいるわけだから、何でもできるようになってるんだ。恵美にはあたしの遺伝子を少しわけてやったから、悪魔女になれたんだ」
「へぇ」
「わかったなら話進めるぞ。それで、恵美のことを知っている全員の記憶を、もともとあたしと恵美が双子だったっていう記憶に書き換えるんだ。そうすればあやしまれずにすむ。っていうか、さっきの時点でもうかけておいたんだけどな。」
「………」
「…どうした?急に黙り込んで…」
「…魔魅は私よりも年上のはずなのに、なんで私と同じ高校二年生になってるの?」
「あぁ、そのことな。本当は、あたしと恵美は同い年なんだ」
魔魅が照れくさそうに苦笑いしながらいう。
「じゃあどうして大学生なんかに…」
「…いつか分かる…」
「どういうこと?」
「もうその話は終わりだ」
魔魅が思いっきりにらんできた。
(いつか分かるって…どういうことだろう…)
恵美はそんな疑問を胸に抱きながら、魔魅に話しかける。
「あのさ、家に帰るときって、どうすればいい?」
「あぁ、そっか。恵美はまだ知らないんだよな。じゃあ、今からあたしが言うこと覚えろよ」
「まず、頭の中で自分の着たい洋服を考えろ。」
恵美は、特に着たい洋服はなかったので、いつもの普段着を思い出す。
「そして、魔宝石を握って、魔宝石に魔力を送る」
(魔力を送る…って、どうすんのよ!)
なんとなく、魔宝石を握る手に力がこもったその時、
ピカッ
魔宝石と呼ばれる石が、黒く光った。また、眼をつぶってしまった。
目を開けて自分の体を見下ろすと、いつもの普段着を着た、魔魅の姿をした恵美になっていた。
黄緑のカーディガンに、白い長袖のTシャツ、濃いめの色のジーンズ。長い髪はいつもと同じように黄緑色のリボンでまとめてある。
着ている洋服は、いつもと何一つ変わらない。
「成功…したの?」
魔魅の方を振り返ると、すでに、洋服が変わっていた。
魔魅は恵美と色違いの洋服を着ていた。きれいな薄紫のカーディガンとリボン。同じ姿で同じ洋服を着ているのに、魔魅のほうが似合っているような気がする。
「初めてのわりにはよくできた…って何見てんだよ。気持ち悪い」
「ちょっと!気持ち悪いってひどすぎるよ!」
「じゃあ聞くけど、なんでこっち見てたんだよ」
魔魅が思いっきりにらんでくる。
「それは…」
(うぅ…口げんかでは勝てないよ…それに、魔魅に見とれてました、なんて言えるわけないし…)
「ほら、何でもないんじゃないか。そんなことしてあたしに口げんかなんて挑んだのが悪いんだ」
魔魅は勝ち誇った笑みを浮かべた。
(悔しいぃぃぃぃぃ!)
口にだすかわりに、思いっきりにらんでやった。
しかし、魔魅はそんなことなんてお構いなし。「さっさと帰ろうぜ」と言って部屋を出て行こうとする。
(はぁ、魔魅と暮らすなんて先が思いやられる…)
恵美はそう思いながら、魔魅のあとを追った。
1
そうして次の日、いつも通り学校に行った。魔魅が一緒なのを除いて。
朝、魔魅が制服に着替えると、(ってか、あれ着替えるっていうのかな?)制服のズボンのやつはないのかって大騒ぎした。奇跡的に、ズボンの制服を着ている子の写真を見つけて、魔魅を落ち着かせるのが大変だった。しかも、恵美までズボンの制服にさせられた。
(まぁ、ズボンの制服に、前からしたかったんだけどね)
それにしても、魔魅は何を着せてもよく似合うような気がする。でも、そんなこと言ったら、「あたしは着せ替え人形じゃねぇ!」って、めちゃくちゃ怒りそうだけど。
「ねぇ、魔魅?」
学校に行く通学路で、恵美はいくつか質問した。
「なんだよ」
「学校では笹木真美でいいんだよね。」
「あったりまえだろ。それに、もう学校始まってんだから、自己紹介する必要ないし」
「あとさ、まさか学校でもその言葉使いするつもり?」
「悪いか?」
「べ、別に悪くはないけど…」
「なら、聞くなよ」
そんな言い合いをしているうちに、学校についてしまった。
(はぁ、でもここまで来たら、やるしかないかぁ…)
恵美たちは、靴箱に靴を入れると二年二組の教室に入っていった。
「よっ!」
魔魅がみんなに向かって言う。
みんなは、「あ、真美、おはよ」などと返している。
(ちょっ、ちょっと…)
「魔魅、自分の席とか、他のこの名前とか、わかるの?」
恵美があわてて小声で聞くと、恵美に向かってニヤリと笑って見せた。
すると、近くにいた浜辺梨奈にいきなり声をかけた。
「梨奈、おはよ」
(え?)
驚きのあまり固まっている恵美をよそに、魔魅は次々と声をかけていく。恵美は取りあえず自分の席についておいた。
そして、そのまま一番窓側の一番後ろの席に座った。ちょうど恵美の真後ろの席。本当は恵美の席が一番後ろの席だったはず。その後ろにたった一つだけあるってことは…
(な、言ったろ、悪魔女をなめるなって)
頭の中に魔魅の声が聞こえてきた。
(魔魅って、心の中で会話できるの?)
(あったりまえだろ、人の心を読み取れるなら、人の心に話かけることができてもおかしくねぇだろ)
(私にもできるの?)
(さぁな、でも今の時点で出来てるじゃねぇかよ)
そういわれて見ればそうだ。
その時、教室の扉があいて、神山千華先生が入ってきた。
神山先生はとても美人で、他の先生や児童からもとっても人気がある先生。でも、逆にそれをねたんだりする子も結構いたりする。でも恵美は普通の先生として認識するようにしていた。好きか嫌いかなんてどうでもいいし、それにかかわるとそれはそれでイジメとかおこると嫌だし。
ふと後ろを振り返ると、魔魅は先生なんてどうでもいいみたいな感じでぼんやり外を見ている。
(ホントに大丈夫かなぁ)
なんだか心配になってきた恵美だった。
そのあとは変わりなく授業が進んだ。初めて知ったが、魔魅はものすごく頭がよかった。
先生が急にやったテストもクラスで一人だけ百点を取ったし、見た感じは全然先生の話を聞いてなさそうだったけど、急にあてられても普通に答えていた。
でも一番困ったのは男子三人組とのケンカ。この三人は、ケンカがものすごく強くて、色々な人に怖がられている。
男子はいつものようにケンカふっかけていた。ほとんどの女子は無視してたんだけど魔魅は違った。
男子が「お前、頭いいの鼻にかけてんじゃねぇ」って言ったら、魔魅が「は?そんなことしてねぇじゃねぇかよ」って言い返して。で、殴り合いのけんかになっちゃって、でもみんなが止められるわけないし。
この男子とケンカした人は確実に負ける。
でも魔魅は、あの三人を三人をあっという間に片づけてしまった。
みんなが呆然としている中、男子はしっぽを巻いて逃げて行った。
そして、そのあと男子三人組は何もしてこなくなった。
一方魔魅は「ざまーみろ」って笑っていた。
(その笑顔が逆に怖いんですけど…)
美恵は、魔魅と一緒に帰りながら、私の家『笹木探偵事務所』に着くまでそんなことを考えていた。
家について部屋に入った途端、疲れがどっと押し寄せてきた。ついベッドに座り込んだ。
「ねぇ、魔魅。あのケンカの強さとかって、魔法?」
恵美の隣に座っている魔魅に聞いてみた。
「いいや、魔法じゃないぜ。学校なんかで使ってアレだったらあたしが困るし…」
「『アレ』って?」
「い、いや、何でもない…」
魔魅はそういって顔をそむけた。
(魔魅ってなんか隠してる…)
恵美は直感的にそう思った。
魔魅は、恵美に会った時も、なにか隠しているようなそぶりを見せた。
『…いつか分かる…』
その一言が恵美の胸にずっと引っかかっていた。
でも、聞いたところで何も教えてはくれなさそうだけど…
「恵美、魔法のこと教えてやろうか?」
いきなり魔魅が話しかけてきた。
「あ、う、うん、教えて」
「あのな、昨日着替え魔法教えただろ」
「うん」
「魔法ってな、使い方すべて共通なんだよ」
「は?」
「思ったことを思い浮かべて首にかけてある魔宝石に集めるイメージをする。それだけで魔法はかかる。ちなみに言っとくと、魔宝石は自分の魔力をコントロールするためにあるから、それ、絶対に落とすなよ」
「でも、それって危なくない? そのやり方じゃ、人殺しだって簡単にできちゃうもん。」
「そうだ。めちゃくちゃ危ないんだ。だから、魔界警察も地獄警察も、取り締まりが厳しい。下手すりゃ、この世界でいう死刑になるかもしれねぇんだ」
怖っ
「だいたいそういうことは予想はできたけど、改めて聞くと、魔法って怖いね」
「あぁ、だから恵美も気をつけろよ」
気をつけろよ、と言われたところで、恵美は人殺しをしたいわけでもないし、強盗なんて言うものも考えるまででもなく、絶対にやらない。
でも、自分が将来、そんなことを考えてしまったら…
「うん…」
恵美は素直にうなずいた。
2
こんな毎日が続く中、笹木探偵事務所にある事件が舞い込んできた。
それは、いつもここに事件の捜査の手伝いを頼みに来る、刑事の宮内和彦からだった。細身でシルバーフレームのめがね、四十代。恵美が小さいころからの知り合いだ。
「ある遊園地から、死体が発見されました」
「遊園地に死体…」
なかなかつながりのない二つの言葉である。
推理大好きで、いままで何回も事件に連れまわされたことのある恵美は、不謹慎だと思いながらも、事件があるということにワクワクしてしまった。
隣にいる魔魅までも眼をキラキラさせて話を聞いている。
「続けてくれ」
お父さんが話の先を促す。
「はい。昨日、四月二十七日木曜日の午後三時、ジェットコースターの具合がよくなくなったらしくて、ほとんど誰も行かない倉庫の奥から男の死体が発見されました。何かにひかれたようなので、事故にあったのを誰かが隠したと思われます。身元は現在確認中です」
「わかった。身元がわかったらすぐに報告してくれ。こっちはその資料みて、いろいろしらべておくよ」
「助かります」
宮内は、恵美たちに敬礼をすると、事務所を出て行った。
「なぁ、恵美」
話が終わり、部屋に入った途端、魔魅が話しかけてきた。
「なに?」
「恵美っていつも捜査にかかわってんだよな」
「うん。そうだけど?」
「子供がかかわって大丈夫なのか?」
あぁ、その話か。
「大丈夫だよ。警察の人にも許してもらえてるし」
「じゃあ、あたしも大丈夫なんだな」
「たぶんね」
恵美がそういうと、魔魅はほっとしたような顔をした。
しかし、よく考えてみると…
(家の中でだったら魔法かけられるんなら、魔法でどうにかすればいいだろっ!)
二日後、恵美一家は現場の遊園地に行った。
あたりまえだけど、遊園地には警察の人たちぐらいしかいなかった。
現場にはすでに宮内がいた。
「宮内さん!」
お父さんが少し離れたところから宮内を呼ぶと、すぐに来た。まるで、餌を見つけた犬だ。
「身元は分かったか?」
「はい。名前は川口裕也、十年ほど前から行方不明になっていて、捜索願が出されていました。頭には出血した跡があり、解剖した結果、殺されてから、十年は経っていたかと」
(捜索願か…それに行方不明になっていた年数と、殺された後の時間が同じ…ということは、誘拐されてすぐに殺され、死体は隠された…)
恵美は一生懸命考えをめぐらす。
ふと魔魅の方を向くと、魔魅が何か考え込んでいる。
(意外と推理好きなんだなぁ)
恵美はつい、小さく笑ってしまった。面倒なことには、首を突っ込まないタイプだと思ってたのに…
(何笑ってんだ。死体が発見された場所で笑うやつがいるか)
魔魅が心の中に直接話しかけてきた。
(ごめん、ごめん…)
恵美があわてて笑いをひっこめると、急いで謝った。
(わかりゃいいんだ)
魔魅はそういうと、それっきり話しかけてこなくなった。
「死体の第一発見者は誰だったの?」
恵美は取りあえず聞いてみた。
大人の話に口出しするのはいつものこと。
「ここの従業員の中川剛志さんです。館長の知り合いだったようですね。まぁ、あまり関係はなさそうですが」
宮内は苦笑いをしながら答えてくれた。
「その人と話せますか?」
恵美が聞くと、宮内は急に難しそうな顔をした。
「それなんですが…中川さんも昨日殺されたんです」
「え…」
みんなびっくりしていたが、理由もわからなくもない。
きっと、犯人は事件解明を遅らせるために中川さんを…
「でも、中川を殺した犯人が川口家や本人を殺したとは限らないぜ」
いったのは、魔魅だった。
「真美はなんでそう思うの?」
お母さんが聞いた。
「だって、一人で十一人殺せると思うか?」
…確かにそうだ。十一人なんて、とても一人で殺せる人数なんかじゃない。
共犯がいるはず…
その後、色々聞き込みをしたけどほとんど成果は得られず。
渋々恵美たちは家に戻った。
「はぁっ…」
恵美は部屋に戻った途端、ため息をついてしまった。
ここまで何も得られないとは思ってもみなかったからだ。
「恵美、疲れてんのか?」
魔魅が、珍しく人の心配をしている。
(なんだかんだ言っても、結局魔魅って優しいんだよな)
恵美はそう思った。
そのことを聞き取ったのか、魔魅は照れくさそうにそっぽを向いていた。
『3・謎解きのカギ』
「魔魅、起きてよ。今日も現場に行くんだよ」
次の日の朝、恵美は魔魅を起こすのに必死になっていた。
これで、声をかけるのは五回目。いつになったら起きるんだろ。
昨日の夜は、事件についてずっと二人で話してたせいで寝たのが遅かった。
「うわぁ、急に声かけるなよ!」
魔魅が急に飛び起きた。
(急じゃないんですけど…)
恵美は心の中でつぶやいた。魔魅には聞こえていることは前提で。
「急じゃないなら、いつから言ってたんだよ」
「十分ぐらい前」
「嘘言うんじゃない」
はぁ、この開き直りの速さには、驚きますね。
「嘘じゃありません!」
恵美が言い返すと、魔魅はため息をついて、あきれたように首を左右に振った。
恵美は初めて魔魅にかったような気がした。
「恵美、事件のことなんだけどさ」
魔魅が、ベッドをきれいに直しながら言った。
「十年前の遊園地の様子ってわかるかなぁ」
「なんで?」
「もし、人気があったら、いろんな人が来てたわけだろ。だったら、殺人が起こってもおかしくないんじゃないかなぁって思ってさ」
「そんなの私に聞かないで、魔法で調べりゃいいじゃん」
すると、魔魅は大きくため息をついた。
「あたしは、今、いろんな事情があって外では魔法が使えないんだ」
「ふぅん…」
恵美は理由を聞こうと思ったがやめておいた。
また断られるに違いない。
「じゃあ、お父さんか宮内さんに聞いてみれば?教えてくれると思うよ?」
「あぁ、そうするか…」
そういうと、魔魅は黙ってしまった。
魔魅は、いったい何を考えているのだろうか…
「十年前の、遊園地の様子?」
魔魅は、現場についた途端、宮内を見つけて質問をぶつけていた。
「あぁ、何でもいいんだ」
「ちょっと待って…」
宮内はあわててメモ帳を取り出す。
「えぇっと…あ、ありました。十年前、ここは、あまり知られていなかったみたいです。それと、この間来ていましたが、従業員の数も少なかったみたいですね。まぁ館長の高橋健は来ていませんでしたが。連絡すらとれませんし」
「じゃあ、そのころの閉館時間とかわかるか?」
「今と変わらず、十時開館で、七時閉館だそうです。」
「ということは、ばれなかったか、見つからなかったかのどっちかだな…」
魔魅がぶつぶつ呟いている。
「なんでそう思うの?」
恵美は、疑問をそのままぶつけてみた。
すると、魔魅ににらまれた。
「な、何…」
「恵美、よくその頭で推理してきたなぁ」
「何よ、その言い方!それより質問に答えてよっ」
「わかったよ。まぁ、そんな頭のお前にわかるかどうかは知らないけどな」
魔魅はそういうと鼻で笑った。
恵美は、はっきり言ってムカついていたが、我慢した。ここでケンカなんてしたら、本当に教えてもらえなくなる。
「あのな、開館から閉館まで九時間あるんだ。しかも人が少ない。だから、倉庫の裏とかで殺しても、死体を隠すまでには十分な時間がある。だからばれなかったんだ。それに、今あたしが言った方法が正しければ、遊園地の従業員たちもかなり怪しいしな」
確かに…
「そうだね…」
「あ、あと宮内さん、館長とはまだ連絡取れてないのか?」
「あ、そのことなんですが、館長はいま違う遊園地で従業員として働いていて、そのせいで連絡が取れなかったみたいなんですよ」
「そうか…ありがとな」
その日の帰りがけに、遊園地の五十代ぐらいの男の従業員の一人にあった。
「あの…もしかして、十年前からここで働いている方ですよね」
お父さんが声をかけた。
「あぁ、そうだが…」
「私、こういうものですが…」
そういって、お父さんは男に名刺を渡した。
「探偵か…なんでしょうか」
「ちょっとお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」
「いいですけど…」
男が緊張した声を出す。まぁ、いきなり探偵に話しかけられて緊張しない人はなかなかいないだろう。
「まず、お名前を…」
お父さんがメモ帳を取り出しながら言った。
「今井敦です」
「川口裕也は知っていますよね」
「知っています」
「川口裕也について何か…」
すると、今井は顔をしかめた。
「川口ねぇ…館長とはよくケンカしていたのは見たことあるが…」
「ケンカ…ですか?」
「あぁ…川口って掃除係だったから。もみ合いになってる時もあったかなぁ。真面目にやれとかでね…でも、真面目だったとは思うんですけどねぇ」
ケンカか…でも、それが発端で殺人になるわけがない…もし、館長が犯人だったとしたら、他に理由があるはず…
『高橋武ですね…ちょっとお待ちください…』
そういって、電話の相手は高橋を呼びに行ったようだ。
魔魅は、帰ってからすぐに、宮内に教えてもらった遊園地の事務所に電話をしていた。恵美の親には承諾をもらっている。
(高橋にさえ会えれば…)
今のところ、一番怪しいのは高橋だ。魔魅はそう思っていた。
『はい、変わりました。高橋です』
そう思っている間に電話に高橋が出た。
「あの、笹木探偵事務所の者なのですが、少し会ってお話を伺いたいと思いまして…」
『何のことですか?』
「もう知っているとは思いますが、川口裕也のことです」
『あぁ、いいですよ』
(よし…ここまで来たらこっちのもんだ)
「いつ頃がよろしいでしょうか」
『いつでも構いませんが、次の週末などでも…』
確かに、魔魅たちは学生だ。週末じゃないと自由に行動できないことぐらいは分かっている。
「では、それでよろしいですね。ありがとうございます。失礼しました…」
魔魅は、そういって電話を切った。
絶対に聞き出してやる…有力な情報を…
『4・狙い』
「おい、恵美!起きろ!今日は高橋のところに行く日だぞ!」
起こし始めてから三十分。今は十時半。こいつ、いつまで寝る気だよ…
でも、前にあたしもこんなことされたような…忘れた。
高橋と電話で話してから一週間後の土曜日、魔魅はこの日が待ち遠しくて仕方がなかった。もし、魔魅の推理があっていれば、そのまま犯人逮捕につながる。
「恵美!起きろって言ってるだろ!」
魔魅は最後の手段として、恵美の頭を軽く叩いてみた。
「痛っ!」
恵美が頭を押さえて飛び起きた。
「軽くしか叩いてねぇのに大げさすぎだよ。それにいくら起こしても起きなかったお前が悪いんだよ!」
そういうと恵美が小さく笑った。
「何だよ…」
「人のこと言えないんじゃないですかぁ?自分も同じことされたくせにぃ?」
…こいつ、いつからあたしに言い返すようになったんだ?
今日は、朝からなんとなくいい気分!魔魅をまた言い負かしてやれた!
恵美はそう思いながら、すっかり機嫌を損ねて話さなくなってしまった魔魅の隣を歩いていた。
少し歩くと駅に着いた。恵美の家は駅の近くにあるのでわりと便利な方だ。
駅に入り電車に乗り込むと、恵美は魔魅に話しかけてみた。
「魔魅はどうして高橋さんが怪しいと思うの?」
「なんとなく」
魔魅はさらっと言った。
(ちょっと待ってよ!)
「何となくなの?じゃあ、犯人が高橋さんじゃなかったら、高橋さんがかわいそうじゃない!」
「別に、高橋には話聞くだけなんだから。それに、悪魔女の勘、バカにできないぞ」
そういって、魔魅はニヤリと笑った。
(魔魅なんかに探偵の手伝いさせちゃってよかったのかなぁ…)
「すいません、突然のお願いを聞いてくださって…」
「あぁ、いいですよ。どうせ暇ですし」
恵美のあいさつに、高橋は、笑顔で答えてくれた。
(優しそうな人なのになぁ…)
しかし、探偵や警察は、こういう優しそうな人物でも疑わなくてはならない。演技だったりするからだ。
「じゃあ、早速ですが、川口裕也と仲が悪かったというのは本当ですか?」
魔魅が言葉通り早速質問を始めた。
すると、高橋は苦笑いをしながら言った。
「あぁ、仲悪かったなぁ。もみ合いになったときは悪かったと思ってるよ」
「そうですか…」
よくわからない、数秒の沈黙が流れる。恵美は俯いてしまった。
ふと魔魅たちの方を見ると、魔魅と高橋がにらみ合いをしていた。
(なっ、何…?)
恵美がそんな疑問を抱いていると、魔魅が話しかけてきた。
(こんな早くにばれるんだったら、恵美に事実を話しておけばよかったな…恵美、悪いな…)
その途端、高橋が笑い始めた。
「魔魅、ようやく気が付いたようだな…だが、悪魔女の力を持っているわりには遅すぎるぞ」
魔魅や恵美の姿が、いつの間にか悪魔女の時の姿になっていた。
「ただの悪魔のお前には言われたくないな、冬鬼…」
魔魅は高橋を一層強くにらんだ。
「ねぇ、魔魅…高橋さんは悪魔だったの?」
恵美はあわてて魔魅に聞いた。
「いや、高橋は冬鬼本人じゃない。操られてるんだ。きっと、幽火もそうだろ…」
魔魅はそういうと、部屋の扉に向かって声をかけた。
「お前もいるんだろ、幽火」
すると、魔魅の視線の先に人影が現れた。
「か、神山先生…」
そこには、いつもと変わらない姿の神山先生がいた。
怪しい笑みを浮かべている。
「魔魅、やっと会えたわね」
「お前みたいな魔女には会いたくなかったな…」
神山先生も魔女に操られてるなんて…
(信じられない)
恵美はそうとしか思えなかった。
「魔魅、両親に対してその言い方はないだろう」
「お前らが親なんて思いたくもないね」
魔魅が唇をかんでいる。
この二人が魔魅の親…精神だけだけど…
「魔魅…これって…どういうこと…」
恵美は声を出してしまった。
「あら、あなたが恵美ちゃんね。あなたも悪魔女にさせられたのよね。」
「それより、どういうことか説明して!」
恵美は、自分でも驚くほどの大声を出していた。
すると、幽火が恵美に向かってほほ笑んだ。
トピック検索 |