青葉 2012-01-06 22:03:27 |
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青葉:本当にピンチだ。
木山:ナイトメアは微笑しながら、こう言った。
せっかく、あたしと話をしてくれる気になったんでしょう。何で行っちゃうの?
俺は小さな声で答える。
用事があるから……家に帰らないと……。
俺は、諦めずに逃げようとしていたんだ。
青葉:君らしい。
木山:そこから、俺とナイトメアの会話がしばらく続く。
青葉:うん。
木山:ナイトメアが、
あなた、あたしが何者か解っているのね。だから、そんな顔をしてるのね。あたしが怖いんでしょう?
と問う。よほど俺の顔は強ばっていたんだろうな。それには答えず、俺は
もう帰らないと……。伯母さんとお母さんに怒られるから……。
と言った。すると、ナイトメアは、
怖いのね。でも、今は心配しなくて大丈夫よ。あたしはね、人の中に入っていない時は狩りをしないの。入ってない時に殺しても命をエネルギーには出来ないから無意味なのよ。だから殺すのは人の中に入っている間よ。それにね、起きている人の中には入れないの。
と、訊いてもいないこと話し出した。
青葉:でも、話してくれたおかげでナイトメアの特質が解るね。それに、現状は思ったよりピンチじゃないことも。少し安心出来る。
木山:そうだな。ナイトメアは、さらに訊いてないことを言い続ける。
それに、もうこの国で狩はしないわ。他の土地に行くの。故郷には帰らないけど……違うわね、帰れないけど。
青葉:帰れない?
木山:そう言った。
青葉:理由は?
木山:その理由が最初の鐘の音に繋がるんだ。
それをナイトメアは喋り始めた。
青葉:あの、事件の始まりの鐘の音だね。存在しない鐘が山に鳴り響いた。
木山:そう。鳴ると人が命が消える鐘の音。
青葉:その鐘の音と、ナイトメアが故郷に帰れない理由の関係は?話が先に行けば解るんだろうけど。
木山:そういうことだな。ナイトメアと俺の会話に話を戻そう。
ナイトメアは俺に安心するように言ったけど、俺はまだ怯えていた。その様子を感じ取ってナイトメアは言った。
本当に怖がらなくていいのよ。あなたを狩るつもりなんてないんだから。
本当に人間は臆病ね……。人間はあたし達よりずっと強いのに。
少し呆れた顔をしてかもしれない。
俺は、
人間の方が強いの?
とビックリして訊いた。
そうよ。あたしが故郷から逃げてきたのは、人に追われたからなんだから。
と、ナイトメアが答える。
魔物が人から逃げるの?嘘だ。
魔物が人間より強いなんて聞いたことがなかったから、俺は信じなかった。
それに対してナイトメアは、
嘘じゃないわよ。あたし達ナイトメアは故郷では、悪魔とも呼ばれているけど、あたしは「悪魔祓い」という、人間から逃げて来たのよ。
と苦々しい表情で言った。
青葉:悪魔祓い?エクソシストのこと?
木山:そうは言ってなかったけど、そうかもしれない。その時の俺は、エクソシストの存在を知らなかったから訊くことはしなかった。それで、
なんで人間より強い悪魔の方が逃げるの?悪魔祓いってそんなに強いの?空手家やボクサーよりも?
そんなことを訊いた。
言っておくけど、悪魔や悪魔祓いと、空手家やボクサーの強さの質が違うことは当時の俺でも概ね解っていた。ずれた質問をしていると自分でも思ったんだけど、小学生だったからな。
青葉:適切な例えがみつからなかったんだね。
それで、ナイトメアは何と?
木山:ナイトメアは、彼女なりに丁寧に説明してくれた。
殴り合いのケンカをしたら、悪魔祓いは空手家やボクサーに負けるでしょうね。でも、あたしが狩りを始めたら、空手家もボクサーも命はないわ。だけど、そのあたしを悪魔祓いは殺すことができるの。
こんな感じで。
でも俺は解らなくて、つまり誰が一番強いのか、を訊いた。
ナイトメアは、
あたしが一番怖いのは悪魔祓いよ。そして、あたし達悪魔は人間には絶対かなわない。
と、悪魔より人間の方が強いことを再度言った。
だから、
悪魔の方が強いと思うけど……。
と俺は、口ごもりながら短く反論した。
ナイトメアが自信満々に悪魔は弱いと主張するから言いづらかったが、どう考えても悪魔の方が人間より強いと思えたんだ。
青葉:実際、そう言っているナイトメア本人が過去に山村で人間5人の命を簡単に奪っているんだからね。
木山:そうなんだよ。実績があるんだからな。
でも、ナイトメアは納得していない俺の態度にため息をつき、
あたしは人間のせいで故郷を捨てざるえなくなっというのに……人間に……悪魔祓いに追い回されて殺されそうな目に何度も遭ったというのに……人間は被害者づらするのよね。勝手なものなのよ、人間て。
と、俺を咎めるような口調になっていた。
じゃあ、僕の方が強いの?
俺はそう訊いてみた。俺は、連続殺人をした悪魔を前にして、命の危険を感じて怖がっているのに、犯人であるナイトメアから、被害者づらしている、と非難された。ナイトメアの言う通り、俺に怖がる必要がないのならば、ナイトメアより俺の方が強いということしかないと思った。
青葉:間違ってない考えだと思う。
木山:ナイトメアは、
あたしより、あなたの方が強いかって訊いてるの?
と言って、そして可笑しそうに笑ったんだ。それまでに微笑は見せたけど、表情が大きく変わったのは初めてだった。しばらく笑った後、ナイトメアはこう言った。
なるほどね。あたし、自分勝手なことを言ったわ。
あたしの息の根を止められるのは、人間でも悪魔祓いだけね。あなたは悪魔祓いではないから、命のやり取りをしたら絶対あたしに勝てないわよ。
だから、勝手なのはあたしも同じね。あなたが怖がるのは正当なことだわ。
でも、あたしは本当にあなたを狩るつもりがないから危険はないわ。
あたし、子供に諭されちゃったのね。
とな。俺は、諭したつもりなんか無かったけど。
青葉:悪魔も反省するんだ。
木山:すぐに俺は、悪魔祓いについて訊いた。そんなに強いのか、ということを。
ナイトメアは、
悪魔とは、あたし達ナイトメアだけでなく、いろいろな悪魔がいるんだけど、あたしよりずっと上級で強力な悪魔でも、みんな悪魔祓いに勝てないの。それはつまり、悪魔は人間に勝てないということよ。
と自分達の不利を自嘲しながら説明した。
悪魔祓いって凄いんだね。
と、俺は心の中で悪魔祓いを称えながら、そう言っていた。
俺にとって悪魔祓いは、恐怖のナイトメアが恐れる存在で、悪魔と闘う正義の味方だからな。
その様子がナイトメアは面白くなかったらしい。
あのね、悪魔祓いだって無敵じゃないのよ。それどころか、悪魔に負けた悪魔祓いもたくさんいる。あたしに狩られた悪魔祓いだっているのよ。
少しムキになって、そう言った。
俺は、ナイトメアの言葉に間髪入れずに反応する。
え!悪魔祓いを殺したことがあるの?
俺の悪魔祓いへの羨望の気持ちが崩れていった。
ナイトメアは、
ええ、あるわ。しかも、結構な数をね。
と今度は満足そうに言った。俺がガッカリしたのが解ったんだろうな。そして、続けて話す。
あたしはね、多数の悪魔祓いを狩ったわ。悪魔祓いが嫌いだったから、奴等を狙って狩ったの。でも、お陰で目だってしまって、あたしが悪魔祓いから狙われるようになってしまったのよ。でも、その頃は悪魔祓いに連戦連勝。狙われたって負けなかった。あたしを狙って近づいてきた悪魔祓い中に入り込んで、そいつの夢の中で狩りを始めてしまえば、それで勝負あり。あたしの勝ち……。でもね、悪魔祓いも、悪魔と同じでランクがあるのね。手強い悪魔がいて、仲間が殉職しているということで、上級の悪魔祓いがあたしの故郷に派遣されたのよ。
そして、あたしは、その悪魔祓いに負けた。
と、悔しそうに言った。
青葉:ナイトメアは結構、感情豊かだね。ナイトメアは上級の悪魔祓いと、どう闘って、どう負けたの?
木山:そこまで詳しくは話さなかった。
青葉:そう。
木山:でも、とうやら、本体が見つけられてしまたらしいな。
青葉:本体?
木山:ナイトメアは狩りをする時、精神だけ人の中に入り込むと言っただろう。その間は体は精神が離れているので動けないんだ。
青葉:無防備な本体を悪魔祓いに攻撃されたんだね。
木山:まあな。でも、本体も無防備ではないんだ。悪魔祓いだけが攻撃できるらしいな。
青葉:どういうこと?
木山:ナイトメアは、狩りをするために人の中に入り込んだ時、その周りに結界を張る。それによって誰からも狩りを邪魔されない。だけど本体は精神がないけら、動けない。
青葉:大きな弱点だよね。
木山:その弱点を補うようにナイトメアの体は出来ているんだ。
ナイトメアの体は何者も干渉出来ないようになっている。
青葉:誰もナイトメアには触れることが出来ないとか、そんな感じ?
木山:誰もというか、自然界にある全ての物質がだな。全てがナイトメアに干渉出来ない。
青葉:?
木山:ナイトメアの着ている服はひどく汚れていたと話しただろう。
青葉:うん。
木山:でも、ナイトメア自身は綺麗だった。髪は洗いたてのようだったし、顔とか腕とか素肌が出ている所も全然汚れていなかった。20年以上も精神が俺のおばあさんの中にいて、体は身動き取れなかったのに。
青葉:土や埃さえ、ナイトメアに触れることが出来ないのか。
木山:いや、触れることは出来るんだ。実際、俺はナイトメアに押されて岩に座らせられたんだから。
だから、
全ての物質はナイトメアに影響を与えることは出来ない、ということさ。
精神が抜けて無防備な状態でも何ら心配がない。だから防衛能力は高いと思う。
そして、逆にナイトメアからは何かに触れて影響を与えることが出来るんだ。便利だよな。
とにかく、ナイトメアは狩り中に本体が無防備になるという弱点を体の構造でカバーしているんだ。普通の人間には精神の抜けたナイトメアを見つけても、何も出来ない。
青葉:理解するのが難しいな。でも、全ての物質がナイトメアに影響を与えることが出来ないのならば、悪魔祓いだって手も足も出ないよね。
木山:そこを出来てしまうのが、悪魔祓いの悪魔祓いたる所以なんだよ。
青葉:う~ん。
木山:悪魔祓いには悪魔を攻撃する武器がある。
青葉:十字架?
木山:それもそうだが、ナイトメアが上級の悪魔祓いに、本体を見つけられた時は聖なる水での攻撃を受けたらしい。
青葉:聖水か。
木山:ナイトメアは狩りをしている途中だったが、本体が聖水を浴びると一気に精神が体に引き戻されたそうだ。
青葉:体が危険を察知して精神を呼び戻したのかな。
木山:そうみたいだな。それも一つの防衛能力だろう。そうでなければ消滅していた、とナイトメア自身が言ってたよ。
青葉:全ての物質がナイトメアに影響を与えることが出来ないのに、聖水は効くんだ。何でだろう。
木山:それは、そういうもんなんだよ。
青葉:どういうもんなの?
木山:だから、悪魔には聖水が効く。とか、悪魔には十字架か効く。とか、そういうもんなんだよ。決まっているんだ。そして、悪魔祓いは悪魔に干渉できることも決まっている。そのカラクリはこの話の核心をついてしまう。だから、このことは後にとっておこう。
青葉:カラクリという表現を使ったかか。何だか意味深だね。
木山:意味は深いさ。だけど、もう少しだけ後だ。
何はともあれ話を戻すよ。
ナイトメアは上級の悪魔祓いに本体を攻撃された。そして、精神が体に引き戻された。
その時のことをナイトメアは、こんなふうに話していたよ。
いきなり心が体に戻って、最初は何が起きたのか解らなかったけど、体が熱かった。熱かったのは聖水が掛かったところね。
その熱さによる痛みで、自分が危険であることが察知できたわ。そして悪魔祓いが目の前にいた。人の夢の中ならば絶対に敗けないけど、現実世界では逃げ出すしかなかったの。
とね。
青葉:聖水は熱いものなんだね。
木山:悪魔にとってはそうなんだろうな。
ナイトメアは悪魔祓いから逃れようとしたが、自分の強味を最大限に活かせる人の中にいるのと違い、逃げることすらままならなかったんだ。
青葉:人の夢の中という、最強になれるフィールドではないもんね。でも、振り切ったということだね。故郷から山村に逃げて来たんだから。
木山:そうだな。命からがら何とか逃げ切った、とナイトメア話してた。でも、命は拾ったものの鈴をつけられたでしまった、とつけ加えた。
青葉:鈴を?
木山:そう、鈴。
俺も意味が解らなくて何のことか訊いたんだ。そうしたら、
知ってるでしょう。あの鐘の音。
と忌々しそうな顔でナイトメアは言った。
俺は、
鳴ると人が死ぬという鐘の音?それなら伯母さんから聞いた。
と答えると、ナイトメアは頷いて、
そう。それよ。でも、正確には、鐘が鳴った時には既に人は死んでるわ。だって鐘は、あたしが人を食べ終り、命が尽きると鳴るんだから。
まあ、発見はどうしても後になるだろうから、鐘が鳴ると人が死ぬ様に思えるかもしれないわね。
と言った。それを聞き俺は、
それは鐘でしょう?鈴の話じゃないよね。
と訊いた。
まだその頃の俺は比喩が解らなかったんだな。
ナイトメアは、
音は鐘だけど、鈴をつけられたようなものってことよ。飼い猫と一緒でね。
食事をする度に、頭にくるほどの大きな鐘が鳴るんだから。
そして。あたしの位置が直ぐに悪魔祓いに分かってしまう。最悪よ。
と答えた。その時の俺がどう理解したのかは解らないけど、次の質問は、
鐘はどこにあるの?誰が鐘をならしるの?
だった。
青葉:いい質問だよ。答えは?
読んでくれて、ありがとう。
青葉はセイチャットで、
「目的ない潜考」
というトピを立てて小説を書いたんだけど、誰も感想をくれなかった(T-T)
で、そっちで書くモチベーションがなくなったんだよ。もう深く下に沈んでいるはず。やはり読んでくれる人がいないと続ける気力が出ないね。
気が向いた時は合いの手を入れてね。
それで続きが読めるなら
喜んでコメントしますw
創作にモチベーションって必須だよなぁと常々思う。あれは、楽しいんだけど、魂が削れる行為だと思う←
続き期待してますね!
そして「目的ない潜孝」を検索し、そっちも続きが気になってしまっている件…w
気が向いたらいつかは…←
もちろん、無理にとは言わないし言えないが…w
木山:答えは、
強いていうなら、鐘はあたしの中にあるわ。鐘を鳴らすのも強いていえば、あたしかしらね。あたしが人の命を食べれば勝手に鐘が鳴るのよ。
でもね、鐘は実在しないわ。実在するのは鐘の音だけよ。
だった。
鐘はないのに音はするの?
と続けて質問すると、
そういうものなのよ。 上級の悪魔祓いは、あたしを取り逃がして悔しかったろうけど、いつでも捕らえらることができるよう、鈴をつけることは成功していた。
上級の悪魔祓いは、有りえないことができるの。悪魔に対してだけにはね。あいつらは悪魔に鈴をつけたいと思ったら出来てしまうのよ。
と、やはり忌々しそうな顔で答えた。そして一息ついてから、こうつけ加えた。
最初あたしは、鈴をつけられたことを気づいていなかったの。だから、狩りをした後に大きな鐘の音が響いた時は本当にビックリしたわ。そして、その鐘に導かれて悪魔祓い達がやってきた。あたしに鈴をつけた悪魔祓いだけでなく、他の悪魔祓い達もよ。下級なのも上級なのもね。それからは、あたしは狩りが終わると直ぐにその場所を離れなければならなくなったの。狩がしずらくなったわ。狩が命懸けになったのよ。
それを聞いて、俺は弾んだ声を出した。
悪魔祓いって凄い!そんなこと出来るんだ!
と。
俺の悪魔祓いへの羨望が復活し、悪魔祓いは正義の味方だと思った。
俺の態度が気にくわないナイトメアは、
出来るわ。重ねて言うけど、あたし達、悪魔に対してはね。上級な悪魔祓いほど、そんな無茶苦茶なことが出来る。
と、吐き捨てるように言った。
どんな訓練すれば、そんなことできるんどろう。キツイ訓練なんだろうね。
俺は空気も読まずに、そんなこと言っていた。
大したことじゃないと思うわ。
と、ナイトメアの声は俺とは対照的で冷ややかだった。
なら、僕もできるようになる?
と、無邪気に俺は訊いた。
ナイトメアは、
あなたが、バカならば出来るようになるんじゃないかしら。
と素っ気なかった。
青葉:バカなら出来る?
周辺の人に危険を知らせるため、さらに悪魔を退治する悪魔祓いを呼び寄せるため、一石二鳥を考えた鐘の音。しかも、その鐘は実在しない。実在しない鐘を悪魔の中に存在させるなんて特殊技能中の特殊技能だよね。そういうことは能力の高い人の方が出来そうだけど。
木山:俺もそう考えた。だから、
バカにはできないよ。バカはバカだもん。
と子供らしい反論を投げた。悪魔祓いに羨望を感じていた気持ちも手伝ってな。
それには、ナイトメアはこう返してきた。
そうでもないのよ。悪魔祓いはバカじゃないとなれないの。上級になるとなおさらね。まあ、人間のあなたにとっては、バカとは思えないのかもしれない……
あなたもなりたいの?悪魔祓いになりたい?
俺の反論に対してのナイトメアの言葉は、よく意味が解らなかった。そして、俺に悪魔祓いになりたいのかを訊いてきた。
青葉:どうだったの?なりたいと思った?
木山:そんなことは訊かれるまで考えもしなかった。つまり、悪魔祓いになりたいと思ったことはなかった。だけど、俺は頷いた。
青葉:何故?
木山:何と言えばいいかな。その場の雰囲気というか……。迷った時に、つい頷いてしまうことってあるだろう。そんな感じさ。
青葉:ナイトメアはどんな様子だった?自分の天敵になりたいと言う子供に対して。
木山:特に怒ったりはしなかった。
あなたは悪魔祓いになって、あたしを消滅させる権利があるものね。
でも、この国では悪魔祓いの需要があまりないんじゃないかしら。将来のことを考えたら他の職を探した方がいいと思う。もしくは、あたしの故郷で悪魔祓いをやるのね。
そんなことを言った。
青葉:けっこう真剣に考えてくれている印象だね。人間味がある。
木山:そうなんだ。人間の将来を気にするなんて、悪魔のくせに悪魔らしくない。
青葉:それより気になるのは、
消滅させる権利がある
とはどんな意味?
木山:ナイトメアは俺のおじいさんの命を食べている。だから、孫の俺には復讐する権利があると言ったんだと思う。
あの時は俺も深く考えずに聞き流したけどな。
青葉:そういうことか。
木山:俺の将来の話はそれで終わった。
その後、ナイトメアは、狩りをする毎に悪魔祓いに追われることに命の危険を感じて、故郷を捨てたことを話した。鐘が鳴っても悪魔祓いの来ないような遠くの地に行こうと決めたが、あてはなくただ遠くに遠くに逃げて、たどり着いたのが日本だったと言っていた。
肌の色も目の色も髪の色も違う人間達を見て、ずいぶん故郷から離れたことを実感したとも言った。
ナイトメアは、都会より田舎を選んで、人里離れた山の中に入った。そして、伯母や母の住む山村で狩りを始めたんだ。一人目を狩って、鐘の音が山中に響いても悪魔祓いはやって来ない。二人目、三人目と狩っても同じ。四人目、五人目になっても悪魔祓いは姿をみせない。
これはいける!と、ナイトメアは思った。この国では悪魔祓いはいないと。山村の人達を皆殺しにして、またどこか同じような山をみつけて、同じことを繰り返して、この国に根を下ろそう。そう考えた。と言った。けど、
でもね、そう簡単にはいかなかった。
とトーンを落としてナイトメアは言った。
青葉:鐘の音は五回。快進撃は続かなかったわけだからね。
木山:ああ。
そしてナイトメアは、
まさか、あんな奴がこの国にはいるなんてね。
と言った。
その言葉を聞いて、俺はピンッときた。
あんな奴とは、地下の扉から出てきた、あの丸々太った男のことだと。
そして、あの男の正体は悪魔祓いなんだと。
俺は得意気に言った。
悪魔祓いはこの国にもいたんだね!地下の扉から出てきたデブの男の人は悪魔祓いだったんだ!
と。
するとナイトメアは、
この国で、あたしは悪魔祓いには、まだ会ったことがないわ。
あなたが言ってる男が誰を指しているかは分かるけど、奴は悪魔祓いじゃない。
と薄笑いを浮かべて答えた。
青葉:悪魔祓いではないんだ。
木山:青葉は、男の正体を何だと思う?
青葉:そうだな。日本にも昔から、武士や僧侶が、もののけとか悪霊、または妖怪を退治した話はいくらでもあるからね。
日本にも悪魔祓いのような人がいるんじゃないかな。
つまり、ただ呼び名の違いだけじゃないかと思うけど……能力的には同じような感じで……。
木山:それが、全然違うんだ。
男はナイトメアに続いて、二つ目の有り得ない存在だからな。
青葉:有り得ないということは、悪魔みたいな?
木山:そう。でも悪魔ではなく、霊獣。
青葉:レイジュウ?
木山:バクだよ。
男は霊獣、貘なんだ。
青葉:貘?
あの悪夢を食べる?
木山:そう。その貘だよ。
ナイトメアと貘が俺のおばあさんの中で何十年も戦った。これは、そういう話なんだ。
青葉:悪夢を見せて人を食べるナイトメアと、悪夢を食べる貘の戦いか。そして、 君のおばあさんの命を喰おうとしたナイトメアと、守ろうとした貘との戦いとも言えるね。
で、勝ったのはどっち?ナイトメアも貘も存命していたから、勝敗は君のおばあさんが生きているかどうかなんだろうけど。
木山:貘の勝ち。辛勝だけどな。
青葉:貘が勝ったんだ。じゃあ、おばあさんは生きていたんだ。
だけど、20年以上も戦い続けるなんて考えただけで気が遠くなる。
人間にはそんな気力ないね。
木山:悪魔と霊獣の戦いだからな、人間と比べるのは無意味だろう。
でも、ナイトメアは何十年も戦い続けたくはなかった、と言っていた。できるなら早くに降参して、おばあさんの中から出てしまいたかったらしい。
青葉:そうすれば良かったのに。
木山:それが出来ないんだ。ナイトメアの自分の特性によってな。
青葉:自らの特性によって閉じ込められた、という話だったね。
木山:ナイトメアは、中に入り込んだ人間からは、狩りが終わるまで出ることがてきないんだ。狩りの成功を確実にするために結界を張るけど、狩が終わるまでは結界を自分でも解けない。だから、自分で自分を閉じ込めてしまうことになった。
ナイトメアは人の中に入り込むと、その人は眠り続けることになる。ナイトメアは寝ている人間しか狩らないからな。
眠り続けていた俺のおばあさんが夢を見ると、ナイトメアは夢に登場して命を差し出すように、おばあさんを説得する。命を出せ、といわれる夢だから、当然おばあさんにとっては悪夢だろう。そして、おばあさんが説得される前に、その悪夢を貘が喰う。そしてまた、おばあさんが夢を見る。ナイトメアが説得する。貘が喰う。その繰り返し。いつまでもナイトメアの狩りは終わらない。だから、ナイトメアは外に出ることが出来なかった。
青葉:自らの特性によって閉じ込められたとはいえ、貘の存在があってこそだね。
だけど、外に出られたんだよね?君はナイトメアと山の中で会っているんだから。でもナイトメアは負けたんでしょう?
木山:例外があるんだよ。狩が終わらなくても、夢の中から出ることができる例外が。
青葉:それは何?
木山:ナイトメアに命の危険が生じた場合は出ることができるんだ。
ほら、ナイトメアが故郷で悪魔祓いに聖水を浴びせられた時、精神が本体に引き戻された、と話しただろう。
青葉:うん。
木山:そんなふうに、命の危険があると出られるんだ。
青葉:ナイトメアは、おばあさんの中で貘と戦い、危険な状況になったということか。戦いなんだから、そんなことはあるだろうけど、何がどうなったの?
木山:単にエネルギー不足だよ。ナイトメアは狩を邪魔されて食事がずっと出来なかったから疲弊したんだ。生命維持に関わると体が判断して、精神が体に引き戻されたということだな。まあ、20年以上も食事しなくても生きていんだから、やはり悪魔だよ。とんてもない生命力だ。
青葉:一方で、貘はずっと悪夢を食べていたわけか。貘にとってはエネルギー源の中で戦いをしているんだから、話にならないほど有利だね。
木山:そんでもないさ。辛勝と言ったろう。
青葉:そういえば。
木山:男は貘だったわけだけど、おばあさんの記憶の中では、男はあばらが見える程に痩せていた。だけど、俺が見た貘は丸々と太っていた。これ以上は太れないと思えるほど太っていた印象だ。いや、印象だけでなく、実際そうだったんだ。
青葉:ナイトメアと逆で、貘はエネルギー過剰摂取だったのか。
木山:そう。貘も限界がかなり近づいている状態だったんだ。食べたくなくても、おばあさんを救うには夢を食べ続けなければならなかった。
敗けるかもしれないと思った、と貘が言ったと聞いている。
それに貘は食事がそんなに好きではなかったらしい。だから、悪夢を食べ続けるのは苦痛だったようだ。まあ、その手の苦痛を20年以上も耐えるんだから、さすがは霊獣だよな。
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